出会い
私はチケットを見た。行き先はブザンソンだった。ブザンソンは小さい時に一度両親と行ったことある街だった。私はカフェでコーヒーも飲みながら、携帯でブザンソンについて調べた。書いてあることはどこも同じだった。きっと私が最後に行ったときと変わりないだろう。
そのまま列車でブザンソンまで行った。車内はそれほど人が多いわけではなかった。
私はブザンソン・ヴィオット駅を降りると空気がとても心地良く感じた。少し進んでいくと目の前に綺麗な公園が広がっていた。子供達が楽しそうにはしゃいでいた。特に2人の女の子が楽しく遊んでいた。
「ドミニック、こっちだよ。」
「シャルロット、待ってよ。もっとゆっくり走ってよ。」
「シャルロット、ドミニック、もう今日はそこまで。買い物して家に帰るからね。帰ったら一緒に昨日皆で作ったクッキー食べようね。」
子供達の母親は笑顔で二人の娘と手を繋いでいた。娘二人もお母さんと一緒で幸せそうだった。
「今日もお母さんの夕飯楽しみだね。」
「私もだよ、シャルロット。」
「ドミニック、ドミニック、ドミニック…」
誰かを呼びかける声が私の耳から体全体に響き渡る。身体全体で声を感じる。
お父さんもやって来て、家族4人で賑わっていた。私は双眼鏡でその様子をじっと見ていた。特に私は笑うことも無かった。
「シャルロット、シャルロット、シャルロット…」
また呼びかける声が身体中に響く。
私は双眼鏡をしまい、香水を取り出して自分にふりかけた。
私はシタデルを歩いた。日が強く私を照らす。当たりを見回すと街全体が小さく見えて、川や山も私の目に入った。
「あのガキ、リヨンにいたガキじゃない?私のカメラを壊すなんて、いきったガキね。法律なんて無かったら、とっくにこの城壁からあのガキを落としていたわ。」
「おい、またトラブルを起こすのはやめろよ!大人なのに言ってること大人げないぞ。良いか?これが本当の大人の女性なのか?」
リヨンで写真を撮れと言ってきたアメリカ人カップルがたまたまシタデルにいた。私は彼らがくだらないし本当にどうでも良かったので、彼らを放置した。
城壁にはトカゲが素早く走っていた。私は目で追うが何回追っても視界から消える。しばらくすると全て見終わったので、大型スーパーによりミネラルウォーターを買った。ペットボトルのキャップにペンでCの文字を書いた。それを飲みながら街を歩いた。そうするといつの前にか時間博物館の目の前にいた。中に入るとそれほど人がいるような感じでは無かった。受付を済ませ、すぐに作品を見た。上に上がるとたくさんの時計が展示されていた。時計がこんなにたくさんあるのに時間がどうでも良かった。全ての時計の動きが私の視界をぐるぐる周り、音が身体中に響き出す。気がつくと私は同じ場所にずっと1時間いた。
「ずっと同じ所に立っているけど、そんなにこの時計が好きなの?」
ある一人の男性が私に声をかける。
「いえ、特に何もすることが無いのでずっとここにいるだけです。」
いっそのことここで一生暮らそうが、死のうがどうでも良かった。
「この博物館はもっと素敵なものがあるんだ。ここにいても他の作品見れないだろ?」
「そうですか。一応見ておきます。」
そのまま色んな所を見たが、館内はずっと静かなまま時計の音ばかりが響いていた。
「俺の産まれはここブザンソンなんだ。ここの博物館は一番古い宮殿、グランヴェル宮殿の中にあるんだ。時計産業はスイスの時計職人が18世紀に移住してから盛んになるね。」
「私もブザンソンに親に連れてもらったことあるけど、そこまで知らないです。」
しばらく話していると、男はトイレに行った。私はその間にCと書かれているペットボトルキャップを誰にも見つからない場所に置いた。誰かに見つかるまではずっとそこにあるだろう。
「お待たせ。フーコーの振り子時計見に行こうか。」
時間博物館にある振り子時計はかなり大きな時計だ。私達はそれを見に階段に登った。ガラス越しだからそこの空気は感じられなかった。振り子時計の玉は色んな所に動く。振り幅は大きくて思ったより速く動いていた。
「そう言えば、君の名前は?」
「何だと思いますか?」
「フランソワーズ?レア?カトリーヌ?ミシェル?」
「どれも外れですね。あってないわ。」
「からかっているのか?」
「別に。」
男は苦笑いしていた。
「シャルロットですよ。男の子だったらシャルルって名前つけられていたかもしれないですね。」
「良い名前だね。俺はアルノだ。」
「アルノね。どこかで聞いたことある名前だわ。」
「フランスで生きてれば誰でも聞く名前だろうな。」
何だか知らないけど懐かしさを感じる名前だった。何故懐かしさを感じるのかは分からない。その時、3歳ほどの女の子が目の前を通った。
「それにしてもどうしてブザンソンに来たの?」
「特に理由はないし、行くあてもない。これからどうなろうがどうでも良い。たださまよっているだけ。」
心配そうにアルノは黙って私を見つめた。
「女の子一人で行くあてもない旅なんて危険だ。早く両親の元やら何やらに戻れよ。」
「あそこは戻る価値も無い。もうあの家にもパリにも私を必要とする人なんて一人もいない。これからずっと同じ。一つ目的があるとしたら探しものをしているの。」
「大切なもの?」
「多分ね。」
「小さい時にブザンソン来たって言ったけど、その時に落としたものか?」
「違う。」
「何をそんな探してるんだ?」
「分からない。ただ明確じゃない何かを探してる。」
「それじゃあ、見つからないな。」
「きっと見つかる。」
可能性もないけど、不明瞭な探しものが見つかると思っていた。
私はアルノと時間博物館を出て、街を歩いた。