写真
私は母の書斎でドミニックと写ってる写真を見ていた。しばらく母の机をあさってみると、別の写真が出て来た。顔がかなりぶれていて、誰か分からない写真だった。男の人と女の人二人写ってたがよく見えなかった。その写真も何故か香水の入ったポケットにしまった。写真をあさり続けていると、最後に家族3人で撮った写真が出て来た。父は笑ってるのに、私と母は対象的に笑っていなかった。写真は思い出を残すものだけではなく、その時の状況を映し出すものだ。
何故か小5の時に描いた美術作品が何故か母の所にあった。絵の具を使う絵なのに、黒と灰色ばかりで一枚の絵が埋め尽くされていた。ドミニックと疎遠になってから私はクラスメートとの距離がどんどん出来てしまった。ドミニックは私を照らす光だった。彼女と一緒にいると自然と光になれた。今は光もない影が家の中をさまよっている。絵の中に描いてある少女はこの世に存在しない少女。彼女の顔はぼやけていてよく見えない。ぼやけているので、表情も分からない。周りの背景は黒をたくさん使ってもっとぼやけていた。全てが暗くて不明瞭だった。そんな絵がまさか母の書斎にあるだなんて思ってなかった。
窓から外を見ると天気が悪かった。光がさしていなかった。
私は部屋に戻ると写真に香水をかけて、それを顔の前に近づけてあおいだ。ゼラニウムとカモミールの香りが漂う。写真に香りがついてるのも心地良い。特別、この誰か分からない写真に香水をかけるのが快感だった。私は写真を顔に乗せたままうたた寝した。起きると、香水と一緒にポケットにしまった。
夕飯の時間、私は珍しくダイニングキッチンに行って両親と夕飯を食べた。しかし私は自分から二人に話しかけなかった。
「シャルロット、今度3人でアルザス行こうな。もし嫌だったら、ドイツなり、イタリアなり連れてってやる。」
両親はどちらもそこそこ収入がある。小さい頃はよくヴァカンスで旅行に行ってたが、中学生になってから行ってもあまり楽しくなかった。
「行かないって言ってるじゃん。どうせまた私みたいな娘を持って恥ずかしいって2人で思ってるんでしょ?違う?」
「誰もそんなこと言ってないわよ。シャルロット。」
母は鋭い目でこっちを見て言ってきた。
「目で分かるわ。私みたいな引きこもり娘が一人がいて恥ずかしいってね。」
「被害妄想も良いところね。」
母は不機嫌になって、空になった皿を下げて洗い始めて、私のことを見なかった。父も気まずさから、私とは目を合わせようとしなかった。父は仲の良い家族を目指そうとしてたが、その思いは私達には響かなかった。
私はご飯を食べ終わると、ポケットから写真を取り出した。父はタバコを吸いに外に出た。洗い物をする母に話しかけた。
「お母さん、聞きたいことがある。」
「どうしたの?」
「これ何?ここに写っている人誰なの?どうしてこの写真二人の顔が誰だか分からないくらいぼやけているの?」
写真を母の顔の前に思いきり近づけた。
「シャルロットには関係ないわ。この写真について詮索するのやめて。」
「ただ聞いてるだけなのに。どうせその時やましいことしてたんでしょ?男遊びとかで知り合った相手なんでしょ?」
母は勢いよく私の頬を振りはたいた。
「いい加減にしなさい。人の部屋に入って勝手に入って写真あさるなんて最低ね。」
「ねえ話してよ。その男の人とどんな関係だったのか?」
「言っておくけど、写真の女は私じゃないから。」
「私にはそんなの信じられない。だってそんなに怒るの変だよ。」
「今度は何?私のこと信用してないのね。こんなに詮索癖があるだなんて思って無かったわ。恐れ多い娘だわ。」
私は私の持っている写真を自分のポケットに入れた。そして私は母の一言に苛ついて、速歩きで自分の部屋に向かい、部屋中に響き渡るくらい大きな音でドアを力強く閉めた。
「シャルロット、待ちなさい。」
「私のことは放っといてよ。早く私の部屋のドアの前から消えてよ。」
私は大きな声で怒鳴った。母は何も言い返さず、険しい顔で寝室で横たわった。
私は一人でずっと泣いていた。
「普通の家庭で産まれたかった。私の居場所なんてどこにもないんだ。」
そんな一言をぼそりと言って布団に潜った。
次の日の朝、母の書斎に行こうとしたが、鍵かけられていたので諦めた。どうしてか分からないが、母の書斎を開けようとしていたが、どんなに試しても鍵が無ければドアは開かなかった。
私は部屋にある一冊の本を手に取った。本を開くと、一枚のフランスの地図があった。パリ以外に私はまだ暮らしたことない。地図に書いてあった都市はまだ行ったことない都市が多かった。小さい頃、親に色んな所に連れてかれたが、まだ足を踏み入れたことない所があると思うと驚く。この世界で私のように孤独をさまよう人間がどれくらいいるか考えたが、考えた所で何も解決するわけではない。
夜中になると自然と目が覚めた。そしてゆっくりと起き上がる。部屋を出ると真っ暗だった。両親の寝室が密かに空いていた。開いてるところから覗くと、母と父が二人で抱き合って夜の情事を楽しんでいた。私はそれを見ても何も思わなかった。覗くことが悪いとも思わないし、彼らを見ても何も感情が出ない。ただ無表情で見続ける。しばらくすると両親は眠りについた。そうしてる間に静かに部屋に入った。机を見ると母の書斎の鍵があった。それを手に取り、何事も無かったかのように、ポケットに入れた。私が引きこもりだから、彼は油断してすきだらけだ。そのまま私は寝室を出た。
書斎の鍵を開けた。ドアの向こう側は真っ暗だった。引き出しをくまなく開くとお金が保管してあった。銀行以外にも現金を保管をしてるとは思ってなかった。500ユーロ程を手に取って、それもポケットに入れた。別にお金が欲しいわけではなかったが、そうする必要があった。必要なものを全部入手したら、鍵を閉めて、再び両親の寝室に行き、鍵を元に戻し、自分の部屋に戻った。気がつくと眠りについていて、朝になった。日差しが強かった。そして外をずっと見た。