進行
私は部屋を出て母の書斎に入った。母の書斎の片隅には香水がたくさん置いてあった。母は気分によって、つける香水をよく変える。私は香水を一つ自分のポケットの中に入れた。それを自分の部屋に持って行った。私はノートの切れ端に香水をかけた。
「悪くないわ。一応これ使ってみるか。」
別に香水が欲しいわけでもなかった。でも何となく必要だと思った。
香水をもう一回ポケットにしまって、また母の書斎に戻った。机の中を興味本位でのぞいた。そこには私の小さな頃の写真があった。私の横に立っている女の子はドミニックと言う子だった。彼女は母の2人目の再婚相手の子供。そんな写真を見て彼女との時間を思い出す。
「ねえ、シャルロット何描いてるの?」
「飛んでる蝶々だよ。」
「私も描きたい。クレヨン貸して。」
「良いよ。描き終わったら私に返して。」
「ねえ、シャルロット。」
「何?」
「このままずっとここにいたいね。家にいても楽しくないもん。」
「ドミニック、それは出来ないよ。私達のパパとママに怒られるよ。おやつもなしにされるかも。」
「そうか。」
ドミニックは残念そうな顔をして落ち込んでいた。
よくドミニックとは絵を川辺で一緒に絵を描いたり、歌ったり、草を集めたりした。子供ながら血のつながりとか気にせず、良い姉妹になれた。その時もお互い両親にあまり愛されて無かったので、お互いが心の支えで、一緒にいるのが本当に楽しかった。親の目を盗んで、色んな所を冒険したりもしたし、美しい景色も一緒に見た。
「どうして二人ともいつも遠くに出かけるの?子供だけで出かけるのは危険なの。シャルロット、聞いてるの?」
「家にいるのつまらないんだもん。」
「今度ヴァカンスでスキーに行くのよ。そんな馬鹿なこと二度としないで。本当に困った娘を持ったわ。」
「嫌だ。ドミニックとずっと一緒だもん。」
私はお母さんから逃げるように離れた。
ドミニックの方に行くとキッチンの方で彼女はお父さんに怒られていた。
「ドミニック、どうしていつも馬鹿な真似をするんだ。いつもお父さんとお母さんにどれだけ迷惑かけてるのか分かってるのか?」
「だって家にいても楽しくないもん。」
私と同じようなことを言っていた。
「お前は一応シャルロットのお姉ちゃんなんだぞ。長女なんだからしっかりしろ。これ以上シャルロットを馬鹿なことに巻き込むな分かったか?」
「一応じゃなくて、私の可愛い妹だもん。シャルロットだって私と楽しんでたもん。」
彼女のお父さんは彼女の頬を引っぱたいた。
「この馬鹿娘。」
そんな一言を言って、彼女は暗いキッチンで取り残され一人で泣いていた。
「ドミニック。」
「シャルロット。」
お互いの名前を呼び合い、私達は優しくハグをした。
「私達ずっと一緒だよね?」
「うん。」
私も涙を流した。涙が床に静かに落ちて、広がっていく。
その頃、お母さんとお義父さんは私達のことを話していた。
「ねえ、ピエール。ドミニックのせいでいつもシャルロットが問題ばかり起こすし、馬鹿なことするし、生意気なの。あなたからも何とか言ってよ。」
「言っててもああなんだよ。本当は子供なんて欲しくなかったんだよ。君が美人だから再婚したんだよ。」
「とにかく何とか言って。あなたの娘の面倒まで見るの大変なの。」
母も子供を望んでいなかった。母には私を産む前に付き合っていた彼氏がいた。私は母とその男の間に出来た子供だ。母はその時の彼氏と大恋愛をしていた。
ある夜、母は避妊をせずにその男と夜を楽しんだ。それで彼女は妊娠してしまった。彼女は子供など育てたく無かったので、中絶をしようとした。しかし彼女の家はかなり保守的で両親から大反対されて、結局望まない形で私を産んだ。その後、彼氏は父親になりたくないと言う理由で彼女の前から姿を消した。
「あんたのせいよ。あんたなんか産まなければあの人と別れることなんて無かったの。」
あの男を凄い愛してるがあまりに、泣きわめく私を責めた。だからしばらく母の両親、つまり祖父母が私の面倒を見た。私よりあの男を愛していた。物心ついた時にその事実を私は知った。それを知ったあと私は自分は親に必要とされてないと気がついた。要するに私は彼らの楽しい夜の行為で産まれたおまけだと自分で思うようになった。母がメインで、私は本当になくても良いような存在だとも思っていた。
そんなこともありお互いの関係は良くなかった。
しばらく月日は流れ私は小学4年生になった。
ある日、家で留守番をしていた。私はドミニックと料理やお菓子を作っていた。
「クッキー焼けたね!」
「美味しそう。ドミニックのように料理作れるようになりたい。」
「私といつも一緒なら簡単よ。」
そんなことを言ってお互い笑いあった。
私達は野菜を切ったり、パスタを茹でていた。窓に何かがぶつかった。私達はそのまま外に出るとカササギが怪我をしていた。可愛そうだから、近くのおばあさんに手当てして貰った。
「ありがとうございます。」
「私が手当てして良かったのかね。自然のまま何も手を加えない方が良いけどな。」
カササギは飛べないが、おばあさんの家で休んでいた。私達は家に戻ろうとした。家に戻ろうとすると両親が慌てた様子だった。近くまで行くとキッチンが炎上していた。すぐに両親が消防車を呼んだので、大事にはならなかった。
「ピエール、ドミニック問題ばかりでもう面倒見きれないわ。あなたにいつも言ってるのに、何も変わってないじゃないの。あと少しで家が火事になって、家ごとなくなるところだったのよ。」
「君だって、育児丸投げだったんじゃないか?俺だけ責めるのは間違ってる。ドミニックのこともシャルロットのことも俺に全て投げようとしてたじゃないか。そうやって一人で悲劇のヒロイン気取りかよ。何歳なんだよ。」
「私が丸投げした?言っておくけど、まともに面倒を見れてからそう言うセリフ言って。今のあなたに値しないセリフだわ。」
「一言余計だな。」
両親は私達が不意に起こした火事でかなり口論していた。1時間も言い合っていた。数日すると両親は離婚の手続きをした。ドミニックはもちろん彼女の父が見ることになる。私達の姉妹関係は引き裂かれてしまった。
「ドミニックいつも一緒だよね?」
ドミニックは何も言わず、彼女の父と遠くへ行ってしまった。彼女の後ろ姿は悲しそうだった。そんな中突然雨が降る。
私は写真を見てドミニックとの思い出を思い出した。まるで私が写真の中に入ったかのように、回想した。彼女は今無事に生きてるのだろうか?しかしもう二度と会うことが出来ないと自分の中で悟った。