少女
アルノの死から2年の月日が経った。私は19歳になった。それまでの間、私は色んな街を転々としていた。現在私はフランスのどこかも分からない山奥で家を立てて自給自足の生活をした。義父のジェラールは日曜大工が趣味でよくそれを手伝っていた。最初はおんぼろな家だったが、だんだん手を加えやっと住めるようなレベルになった。
私は盗んだ車で再びフランスの色んな都市を旅した。しかし今回の旅の目的は楽しむための旅では無かった。マルセイユでの旅の途中、ある家の様子を見た。自分の存在がバレないように、幽霊のようにじっと家を見た。リヨンやランスでも同じようなことをした。そしてそれぞれの都市で女の子を3人誘拐した。3人とも不安そうにこっちを見る。
「お姉さん、これからどこに行くの?楽しいところなの?」
一人の少女は私を警戒していない感じだった。他の二人は私を怖がっていた。
「楽しいところ。あなた達が本来いるべき所よ。」
「私、車から出たいよ。これじゃあ、ママやパパとも会えないし、学校の友達とも会えない。アステリックスも見れないよ。」
「そうね。でもこれから恐ろしい災難があなた達の街を襲うわ。」
少女達は私の言ってることがよく分からないので、呆然としていた。
「私はあなた達を救うために存在してるの。」
ぐったりしてる少女達を一人一人山奥の家まで連れて行った。
少女達が目を覚ますと私は話し始めた。
「私の名前、まだ言ってなかったわ。私はシャルロットよ。」
「お姉さん、帰らないと。」
「私も。」
「私も。ここ、怖いよ。」
「今、ここから動いたら怖い生き物に襲われるわ。足とか手をかんできたり、尖った爪で引っかいてくる奴らもいるわ。もうあなた達は帰れない。」
「楽しい所じゃないじゃん。ひどいよ、お姉さん。どうしよう。」
少女の一人が泣いた。
「大丈夫よ。ここにいれば学校の先生に怒られることもない。家に帰ったら、両親はあなた達を愛してくれないわ。ここにいればぶたれたり、殴られることもない。」
優しく少女をなでた。そして私はひたすら少女達に白黒の絵をたくさん見せた。背景が暗く、怖いものが描いてある絵だった。ひっきりなしに見せた。もちろん彼女たちは震えていた。
「これが何か分かる?」
少女達は首を横に振った。
「この絵はあなた達の未来よ。これはパパがあなたを殺す様子よ。今は殴られるだけで済むかもしれない。でもいつかは殺される。」
「そうなの?」
「そうよ。この絵も、あなた達を襲う変な人達だわ。特にあなたの街はこんなの多いわ。戻ったらすぐに襲われて、殺されるわ。」
もう一枚絵を見せた。
「この絵もお母さんがあなたをたくさん殴って、死なせる絵だわ。もちろん死にたくないわよね?」
他に怪物が襲ってくる絵や家が火事になる絵などもたくさん見せて、次第に少女達は帰るのを怖がった。
「やっぱり怖い。ここにいたいよ。死にたくないよ。」
そんな言葉を発すると少女達の縄を解いた。少女達の中には、虐待を受けている子、教師からセクハラを受けてて親にもネグレクトされてる子、学校でいじめられていて親も信じてくれない子がいた。3人とも両親に愛されず、幸せとは言えない生活を送っていた。7歳から8歳の子達だった。
その夜少女達をぬいぐるみのいっぱいある部屋に寝かせた。動物の写真や可愛い絵も貼っていた。絵も何冊か置いてあった。
あれから1ヶ月後、少女達は自分のことをシャルロットと名乗るようになった。自らの名前を捨て、シャルロットになった。たくさん遊ぶ様子は前のときとは変わっていなかった。ここはシャルロット国だ。シャルロット達の集う国だ。彼女達は狭い鳥かごの中から開放された小鳥達。いるべき居場所に導いた。
「シャルロット国には慣れたかしら?随分なれたようね。もうここにいれば、嫌な学校や家にいなくていい。」
私は少女達に国語や数学なども教えていた。そんな時にある一人の女性がこっちに来た。
「助けてください。今借金をしていて、闇組織から追われでるんです。」
私はただ無表情で答えた。
「助かる保証はありませんが、しばらく私の所に泊まってください。」
私は彼女を不気味な絵がたくさん飾ってある部屋に連れて行った。
「この絵はなんですか?」
女性は不安そうに質問した。
「この絵はあなた自身ですよ。最初は疑うかもしれませんが、この絵を自分の鏡もしくは人生を照らすだと思って見てください。」
女性を部屋に閉じ込めた。
「開けてください。ここから出してくだい。」
私はボイスレコーダーでとった私の声をひたすら部屋中に流した。
「この絵はあなた自身ですよ。最初は疑うかもしれませんが、この絵を自分の鏡もしくは人生を照らす鏡だと思って見てください。」
「あなたの名前は今日からシャルロットよ。あなたはこれからシャルロットになる為にここに来たんですよ。」
録音テープの声が繰り返し彼女の耳に響く。機械の充電がきれても彼女の耳に響く。ご飯を与える時以外は部屋を施錠した。3週間ほど彼女を閉じ込めた。
「目が覚めた、シャルロット。今日は皆でご飯にするわ。」
私は女性をシャルロットと呼び、一緒にご飯にした。
「私以外のシャルロットは後ろに何か単語をつけるわ。見分けがつかないわ。お嬢ちゃん達にはシャルロットリューン、シャルロットエトワール、シャルロットポワールって名付けるわ。」
「私だけ洋梨だよ。」
シャルロットポワールは不満そうだった。
「あなたはシャルロットネージュよ。」
シャルロットネージュは特に不満そうな顔もしなかった。彼女の表情が私のように無表情に変わった。アルノの死から私はまた無表情に戻った。
「シャルロットネージュ、あなた裁縫や編み物得意なのよね?あの子達に服を作って。」
「分かった、シャルロット。」
シャルロットネージュは少女達に裁縫を教えがてら簡素な服を作った。
次第にシャルロット国に自ら足をのばす人も来た。しかし人が増えたため、遠くのスーパーで買い物する要員も出来た。見知らぬ土地に見知らぬ人達が集まっても私は全く驚くことは無かった。
 




