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転生魔法女王、2度目の人生で魔王討伐を目指す。  作者: ”蒼龍”
第3章『時空改竄編』
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第44話『誓いの翼達、苦悩する』

皆様こんにちはです、第44話目更新でございます。

今回は誓いの翼(オースウイングズ)達の話、その前編となります。

エミル達に降り掛かる試練と苦悩をお楽しみ下さいませ。

では、本編へどうぞ。

 エミル達が復活させられたアギラからリストアップした彼が引き起こした事件を辿って行き、セレスティア国内で起きたものに変化が無い為ミスリラント領のアイアン村………つまりロマンの両親の死に変化が無いかを確かめ始めるべく街道を歩きながら向かっていた。


「それにしても今の所何も変化は無ぇな。

 アギラが復活した事がソーティスの野朗共のブラフって可能性もあんじゃねぇか?」


「有り得る話だね〜。

 私達を混乱させて自分は他の時間軸で悠々自適に歴史改竄をしちゃったりとか、そっちの線も考えて置くべきだよね」


 そんな中アルはエミルがチェックして線を引いたリストを見て何も変化が無い事からアギラが復活した事自体がブラフであり、サラもその線の可能性を考え出しソーティスはその間に他の改竄を進めてるかと言葉に出し周りにも有り得ると考えていた。


「で、ですが…アギラが特異点(シンギュラリティ)化した所為で、今彼を………殺すと、今までの事件が、無かった事になる…んですよね………?」


「ええ、しかもアギラが起こした暗殺事件はリストアップした様に多い上に中には歴史の転換点となるべき事件すら起こしてます。

 それが無くなれば、時空の乱れが更に大きくなり、修正力が余計な働きを起こす可能性があります。

 そしてこの事件内の物の何れかを改竄した可能性すらある…それを確かめるまでは奴は殺せませんよ」


 しかしフード付きのルルがアギラが時間跳躍魔法(タイムジャンプ)を覚え今生きてしまっている時間改変現象(タイムパラドックス)が発生した為、今のアギラを殺すと特異点(シンギュラリティ)の特性で全ての時間軸のアギラが死ぬ為これらの事件が無かった事にすらなると話す。

 それをアイリスが神の次長く生きた者としての知識で世界の修正力が余計な作用を起こし、更に事件の改竄点を知るまでは殺せないとしてアイリスすら悩ませていた。


「…えっと、それにしてもルルって面白いよね! 

 フードを掛けたら喋り方が変わるんだから凄く個性的だよね!」


「ふふ、それは多分今地上界の者に化けている私の様に世を忍ぶ仮の姿、と言う物でしょうね。

 だから人格が変わったかの様にスイッチが切り替わるのでしょうね」


 そんな重い空気を如何にかしようとしてティアがルルの事でフードの有無で話し方が変わる事が個性的だと話すと、エリスに化けたシエルが自身の様にスイッチが切り替わり世を忍ぶ仮の姿になると話しながら手を繋いでいた。


「…ふふ、確かにルルの切り替わりって劇的よね。

 余り慣れが無い子が見るとこんな新鮮な反応になるのね」


「エ、エミル〜…!」


「世を忍ぶ姿…カッコいい…‼︎」


 そんな他愛の無い、しかしティアの思い遣りの言動にエミル達も頬を緩め、慣れてしまったが改めて考えるとルルの切り替わりは面白いと考えていた。

 その話題を口にしたエミルに対しルルはフードを半脱ぎし、顔を赤くしながら彼女にムスッとした表情を見せていた。

 それ等を見たティアは世を忍ぶ姿と言う言葉に反応して目を輝かせていた、まるで物語の主人公の様だと。


「さて、空気も緩んだ事だからアイアン村前に転移して早く確かめる事を確かめてしまいましょっか。

 皆集まって!」


 それからエミルは空気が少しは軽くなったので周りの皆を1箇所に集め、転移魔法ディメンションマジックを使いアイアン村前に転移して行った。

 …しかし、それを彼女達の視界外、否、時空の狭間から聞いている者がその場に居た。

 その者はエミル達が転移したのを見て嘲笑っていた。


「ふふふ、束の間の安らぎをたっぷり味わうと良いよ。

 これからはボクが用意する遊戯に君達は踊る事になるんだからねぇ…ふ、ふふふふ…」


【カチカチカチ、ビュン‼︎】


 その時空の狭間から覗き込んだ者、780年前に現魔王から悪辣な遊戯を何度も行った大罪人として、魔王とその右腕のアザフィールと共にこれから魔界に必要無いとして討滅された女魔族、ナイアがエミル達の安らぐ場面を見届けた後時間跳躍魔法(タイムジャンプ)で別の時間軸に跳んで行った。

 更なる遊戯を広げる為、全てを弄びたいが為に。




【ビュン‼︎】


 一方エミル達はアイアン村前に転移し、門まで進んで行くと見張り番がロマンやエミル達を見て直ぐ様門を開け、全員を中へと入れ始めた。


「おお〜い、ロマンやエミル王妹殿下達が来たぞぉ‼︎」


「えっ、ロマン⁉︎

 本当だ、皆ロマンが帰って来たぞ〜‼︎」


 すると見張り番がロマン達が来た事を叫ぶと、エヌが真っ先に反応して全員に村が誇る勇者が帰って来た事を叫ぶと、村の者達全員が集まりだし、周りは人盛りで埋め尽くされていた。


「ロマンおにいちゃんおかえり〜‼︎」


「うわっ、新しい客人はヒノモトの人にお嬢様、それと…ルルさんみたいにフードを被った人にちびっ子? 

 兎に角、ヒノモトの人やロマン達はレベル550、フードの人はレベル400台とかもうすっげえレベルじゃんか‼︎

 流石アギラの動乱を収めた俺達の勇者と王妹殿下達だぜ‼︎

 よし皆、ロマンを胴上げだぁ‼︎」


「え、ちょ、うわっ‼︎」


 村の子供はロマンの帰還を純粋に喜び、エヌはエミルやロマン達のレベルを見て最早自分が及び付かない域にまで辿り着いた彼等やこれでも力を制限しているアイリスに目を輝かせ、村の誇る勇者とエミル達だと褒め称えて胴上げをしようとしていた。

 無論ロマンは抵抗する間も無く胴上げされ、全員でそれを見ていた。


「ふむ、此処がアイアン村。

 カボチャの名産地であり村も他所者大歓迎と聞く…音に伝え聞いた通りの地だな。

 そして、ロマンの過去から此処がやや歪だとも、な…」


「…みたいですね、人間は特に都合の良い部分しか見ず、汚い物に蓋をしたがる癖がある様で少し幻滅ですよ」


 それを遠巻きで見ていたエミル達にしか聞こえない様にリョウが旅で伝え聞いたロマンの過去と、音に聞くアイアン村の評判を比較して歪だと断じるとシエルも人間の悪い癖が出ていると口にし、エミルがかつて初めてロマンから過去を聞いてから此処に訪れた時と変化が無い事に嬉しさ3割、寂しさ7割の感情を抱きながら表情に出さずに居た。


「あ、そうだロマン‼︎

 お前に1番会いたがっている人達がそろそろ来るぜ‼︎」


「えっ、僕に一番会いたい人…?」


 するとエヌが思い出したかの様に胴上げを一旦中止し、ロマンに彼に会いたがっている人達が居てそろそろ来ると話すと、ロマンは誰なのか想像が付かずに頭の中に疑問を浮かべていた。


「…嘘でしょ…」


 だが察しの良いエミルはリストを取り出し、それを見たサラ達もまさかと考えてその衝撃が襲う時を覚悟して待ち構えた。

 そして………村の者達が波を割る様に道を開けると、2人の人物が人の間を通りロマンの前に立ち、ロマンも目を見開きながらその2人を見ていた。


「やあロマン、久し振りだなぁ! 

 前にあった時はアルさんに譲って貰った剣を打ち直しに来た時だったな!」


「それからまた大きくなって…本当に、私達の誇りで愛すべき息子ね、ロマン」


 その2人の人物は男性はロマンに外見が似た筋肉質で身長が大きく、女性は目元や笑顔がロマンにそっくりであり2人共質素な格好をしてるが、佇まいはかつて冒険者だった事を思わせる物があった。

 そしてロマンとアルはこの2人に見覚えがあった、見間違える訳が無かった。

 何故ならその2人は『本来なら既に他界した人物』達である…アルの客であり、ロマンの両親であるケイとテニアであるのだ。


「………父さん………母さん………‼︎」


「ああ、お前の父さん達だぞロマン!」


「…何か辛い事があったのね、家でゆっくり聞くから泣いて良いのよ、ロマン」


 ロマンはもう2度と会う事が無い、それもアレスターの様な天使化した様な事が無い、明らかに生きているのが不自然である両親を前にして悲痛な表情を覗かせると、2人は何かあったのかと思いながら安心させる様に声掛けをして、更に辛い事を隠さない様にと話して彼を2人で抱きしめていた。

 この事態にロマンは涙を、それも時間改変現象(タイムパラドックス)で2人が生きていた歴史に改竄された事を知り泣き始めていた。


「…そんな、こんな事って…」


「だから言ったのです、生きた者を死んだ事に、『死んだ者を生きてる事』に変えると。

 これが時間改変現象(タイムパラドックス)の恐ろしい所、そして貴女達が超えるべき試練、修正すべき箇所ですよ…」


 サラはこんな残酷で酷い仕打ちがあるのかと嘆き始めていると、アイリスが前に出て時間改変現象(タイムパラドックス)の恐るべき点を改めて話し、そしてこれこそが変え直す部分であり超えるべき試練と話しながらエミル達を見ていた。

 まるで、否、この一見普通な親子団欒を壊してあるべき形に直すのか、と………。




「…そうか、あのグランヴァニアでの戦いはそんなに酷い物だったんだな。

 ロマン、その重荷を背負わせる道を選ばせてすまない…」


「ごめんなさいロマン、私達も貴方が勇者だと浮かれ立ってたばかりに…」


 その後泣き続けたロマンはエミル達と共に生家に上がらせて貰い、取り敢えずグランヴァニアで起きた戦いの顛末…かつて共に旅した事のあったギャランやグランヴァニアの民13万人の人々を救えなかった事を話し、それを聞いた2人はそんな重圧を、重荷を背負わせた事を謝罪しながらかぼちゃパイや紅茶を全員分出していた。


「おいケイ、テニア、こいつはそんなに弱い人間じゃねぇ。

 ロマンはな、俺様達や他の連中を守る為に戦って戦って戦い抜いた強い奴だ。

 だからそんな強い奴の生き様を否定するんじゃねぇよ…」


 するとアルがロマンは弱くない、強い奴だと話し、そのロマンが刻んだ道を否定する謝罪を止める様に、しかし今まで死んでいたケイやテニアに視線を合わせるのも覚悟が要る事らしくアルらしく無い語気が弱い物になってしまっていた。


「アルさん………そうですね、ロマンはロマンなりに必死に頑張ったんです。

 だからそれを我々親が否定する訳には行きませんよね…」


「でもねロマン、何か辛い事があったら私達やエミル王妹殿下達に相談するのよ? 

 私達は親で、エミル殿下は仲間なんですから」


 ケイはアルに諭され、ロマンなりに必死に頑張って今があると理解し、それを親である自分達が否定してはならないと考え直していた。

 更にテニアもロマンに辛い事があれば仲間や自分達に相談する様にと話していた。

 それは自分達の人生経験から来るアドバイスであった…が、その辛い事の象徴たる2人にそれを言われ、ロマンは余計に萎縮し始めていた。


「………かぼちゃパイ、美味しいですね。

 今年1番の出来栄えでしょうか?」


「はい、そうですね皆様! 

 今年のかぼちゃは村のコンテストで優勝を狙える位良い出来でして! 

 皆様もどんどん食べて下さい、お代わりは沢山ありますから!」


 エミルはそんな様子のロマンを見兼ねて話題を切り替え、カボチャの出来を聞くと如何やらコンテストに出品する予定と聞き、確かにこの美味さなら前に食べたかぼちゃパイ以上の旨味がある為村1番を狙えると考え、サラ達もそれは食べて違いが分かる程の味だった為静かに食べていた。


「…所で皆様、そのフードの女の子。

 その子は魔族ですよね? 

 額の魔血晶(デモンズクリスタル)が見えました」


【ビクッ、カラン‼︎】


 するとケイがティアを見ながら魔族と見抜き、更に額の魔血晶(デモンズクリスタル)が見えたとまで口にするとフードを被りながら食事していたティアが驚き、フォークを落としながらフードを更に深々と被りアイリスとシエル、エミルが庇う様に近くに立ちサラが事情説明の為に話をしようとしていた。


「あ、あのですねロマン君のお父様達、この子はちょっと特殊な子供でして、私達が責任を持って面倒を見てこの子のお兄様の所に送り帰さなきゃいけないって言うか、何と言うか‼︎」


「良いんですよ、ロマンが連れて来る人に根からの悪人も居ないと私達は存じてますから。

 だからその子の事、責任を持って家族の下へ送りなさいねロマン?」


 サラがティアは特殊な事情を抱え込んでいる事を説明しようとした所で、テニアがロマンが連れて来たならと信じる様子を見せる。

 しかし母親として責任を持ってと少し厳しめに話すとケイも「うむ」と頷きながらロマンを見ながらティアを守り家族に会わせよと誓いを立てさせようとしていた。


「わ、分かってるよ母さん、父さん。

 この子…ティアは必ず家族に会わせる、そう約束したから絶対にエミル達と一緒に守るよ…」


「はい、良く出来ました! 

 もうオドオドして弱気なロマンは居ないわね………本当に、成長したわね…」


 ロマンはティアをエミル達と共に守り抜き、彼女を唯一の家族である『兄』の下に送ると話すとテニアは両手を叩き、ロマンが昔の様に弱気であった様子は見られない事を見届けて大きく成長したと認めて頭を撫でていた。


「…あ………」


 するとロマンは涙をまた流し始め、聞きたかった言葉を聞けた事とこれからの事で思考が滅茶苦茶と化し、表情が固まってしまっていた。

 これにはもうアルも、付き合いがまだ短いリョウも視線を外さざるを得なくなりエミル達もロマンの背中を見ていた。


「如何したのロマン、さっきから泣いてばかりよ? 

 まだ何か辛い事があったの?」


「っ‼︎

 な、何でもないよ、ただ目に埃が入っただけだから…モグモグ、それじゃあご馳走様でした‼︎」


 するとテニアはロマンの様子からまだ何か辛い事があるのかと問い掛けると、ロマンは現状が辛い事を誤魔化し、目に埃が入ったから涙が出たと話した後自分のカボチャパイを食べてご馳走様と挨拶をして、自身の皿を洗って片付けるとその手を拭いて上にある自身の部屋に駆け上がって行った。


「ロマンの奴、如何したんだ? 

 何かあったかエミル殿下達は分かりますか?」


「いえ………分かりません」


 ケイはそんなロマンの様子から何かあったかは分かるがその何かが分からないと言った親特有の勘を見せ、エミル達に何かが分かるかと問うとエミルは表情筋から嘘を見つけられない様にしながら分からないと答えた。

 それを聞き2人は疑問符を浮かべるが、ロマンが話すまでは深く切り込まない様にしようと視線で会話をしていた。


「………では殿下、また殿下とロマンの出会いや冒険譚を聞かせて下さい。

 今はどんな冒険をしているかも含めて」


「…分かりました。

 ではお話します、私がロマン君と出会ったのはリリアーデ港街で、其処で…」


 するとケイ達は手暇になった為、食事を囲みながらロマンとエミルの出会いから現在の冒険譚を聞きたいと提案する。

 それを了承したエミルは少し暈しを入れながら今までの話、更に今巻き込まれた事件の話をし始め、その話は矢張りケイやテニアの理解が追い付かない程大きく、そしてロマンを成長させるのに十分なものだと改めて感じるのであった。




 それから話は長く続き、夜中まで続いた為エミル達は生家で一夜を過ごす事になったロマンを置いて一旦かぼちゃ亭に泊まり、女性陣と男性陣で分かれて今日はエミルがティアと共に寝る番となっていた。

 そんなエミルはまだ寝付く事が出来ず、それからベッドから起き上がり窓の外………ロマンの家の方を見ていた。


「ううん…エミル………?」


「あ、ごめんティアちゃん。

 起こしちゃったね」


 すると不意にティアが起きてしまい、自分がベッドから出た為に起こしたと思い謝っていた。

 するとティアは目を擦りながら起き上がり、エミルの横に立ち彼女の視線を追い、その先にはロマンの家が方角的にあった。


「…ロマンの事、心配なの?」


「ええ、とっても。

 私は…あれこれ言って混乱させたくないからこの可能性を言わなかったの。

 でもそれが今マイナスに働いて…彼を苦しめている。

 親が生きてる間違いを正せば歴史は元に戻る、でもそれをするって事はロマン君は親を………」


 ティアは多感な為エミルがロマンの事を心配していると察し、エミルもこの可能性について話す事を避けてしまった、その為にロマンが苦しんでいると話した。

 何より擬似特異点(セミシンギュラリティ)の使命を果たせば、歴史は元に戻ってもロマンは親を見殺しにする選択を取る事になる、それをティアには最後まで言わなかったが彼女も察し悲しい表情を浮かべ始めた。


「だからアイリスが言っただろう、これは試練だと。

 貴様も、ロマンも、それぞれ正しい選択をしなければならない。

 例えそれが親殺しであっても」


「シエル………ならアンタはその選択が取れるの? 

 同じ立場になったらその正しい選択とやらが出来るって言いたいの⁉︎」


 するとシエルも起きていた為エミルに話し掛け、アイリスの言葉を復唱しながら正しい選択を取らなければならないと主張する。

 そんなシエルにエミルは眉を潜ませ、彼女に対してその正しい選択が出来るのかと水掛け論になりながらシエルに叫び、その声でサラやルルも起きてしまいティアも叫び声でびくついてしまう。


「エミル、出来る出来ないの問題じゃない、やらねばならないんだ。

 貴様だってそれは理解して後は如何ロマンを説得するか考えていたんだろう? 

 私が貴様ならそうしていたぞ」


「だったら何よ、アンタは平気でロマン君に親を殺しに行くって言いに行く訳⁉︎

 例えばアンタを救ったアザフィールが死んでて、それを正しに行く時にアンタはそんな顔で平然と、淡々と歴史を直しに行く訳なの⁉︎」


「ちょ、エミルストップ‼︎

 ティアちゃんが怖がってるしもう止めて‼︎

 シエルも油注がないで‼︎」


 しかしシエルは相変わらず表情を変えずにエミルに対し正論をぶつけ、エミル自身もそれを理解していると話して自身がエミルの立場なら説得していたと話す。

 だがエミルは此処で感情的になり、アザフィールがもしも本当は死んでいたらと話しながら首根っこを掴み、今の様な平然な顔で歴史を直すのかと更にヒートアップしてしまう。

 それを見たサラが2人を引き剥がし、ルルが背後からエミルを羽交締めにして押さえ付ける。


「…平然、淡々、だと? 

 ………そうか、お前は私はそんな超然的な者に見ていたと言う訳だ、だからこうして水掛け論になる。

 だったら言ってやる………平気な訳が無いだろ‼︎

 だがそうしなければならない、それが迫られていると、そう話してるんだよ私は‼︎」


 するとシエルはエミルの平然と言う言葉に眉をひくつかせ、そこから笑みを浮かべながらエミルの自身に対し超然的、何にも囚われない様に見ていた事を此処で理解し、其処からシエルもエミルに詰め寄り平気な訳が無いと叫び、だがそうするしか無いと今度はシエルがヒートアップしていた。


【バタン‼︎】


「何だ何だ、夜中に騒ぎやがって‼︎

 っておいお前ら何掴み合いになってやがる⁉︎

 おいリョウ、お前はエミルを押さえろ‼︎」


「ちっ、何となく爆弾を抱えてると思った所でこれか…!」


 すると隣の部屋からアル、リョウが突入し始めエミルとシエルが掴み合いになってた場面を目撃し、2人でそれぞれを取り押さえ始めた。

 しかし2人はそれでも互いに掴み掛かろうとし、その表情は2人、特にシエルは今まで見た事の無い表情をしており両者共に感情的になっていた。


「アンタはロマン君の事が心配じゃないようね、ああそうねアンタと私達は初めから敵同士だから心配のしの字も無い訳ね‼︎

 だからそうやって正論しか言わない訳よ‼︎

 他人の、地上界の人の苦悩を知らないから‼︎」


「心配してない訳が無いだろ、奴はソーティスに傷を付けた、間違い無くお前達の中で強い奴だ‼︎

 そんな者がこんな苛立ちしか覚えない状況に置かれて潰れないか心配してるわ‼︎

 それに、こんなの正論しか言えないだろうが‼︎

 下手に同情して逃げ道を作ったら奴が更に傷付くだけだろうが‼︎」


 エミルとシエルは互いにロマンの事で感情的な言葉の殴り合いに発展し、エミル側はロマンの心を只管心配し、シエル側は戦力とその精神が潰れないかの心配をしており、更に此処で安易な逃げ道を作ったら更に傷付くと互いにロマンと言う少年の心配をしながら意見を違え、大の男とサラとルルに取り押さえられながらもまだ掴み掛かろうとしていた。


「エミル、シエル、もう喧嘩は止めてよ‼︎

 何でロマンを心配している2人が喧嘩するの⁉︎

 もう止めてよ、こんなの可笑しいよ‼︎」


「っ、ティアちゃん…‼︎」


「ティア…」


 其処にティアがロマンを心配し合ってる筈の2人が喧嘩をするのが可笑しく映り、喧嘩を止める様に叫びながら泣いていた。

 それを見聞きしたエミル、シエルは感情的になり過ぎた、互いにロマンが心配だと幼い子供の叫びにより漸く気付き喧嘩が収まり出していた。


「喧嘩中失礼しますが、ロマンが家を飛び出し墓地へ向かってますよエミル、シエル達」


「…えっ⁉︎

 ロマン君…‼︎」


【バッ‼︎】


 すると開いていたドアからアイリスが現れ、ロマンが生家から飛び出て墓地に向かったと知らせる。

 それを聞いたエミルは驚き、羽交い締めにしていたルルやリョウを振り払い魔法使い帽子を被り杖を持って外へ走って出てしまう。


「あ、エミル‼︎」


「チッ、仕方無い…ティア、舌を噛まない様にしっかり口を閉じてろ!」


「えっ、きゃっ!」


 ルルが窓の外を見ながらエミルの名を叫ぶが全く止まらず共同墓地まで走って行ってしまう。

 喧嘩中に相手側が急に冷静になった為、シエルも冷静になりながら窓を開け、ティアを抱き抱えて飛び降りてそのまま後を追って行った。


「俺様達も早く行くぞ、ルル身体強化(ボディバフ)‼︎」


「ええ‼︎」


【ジュゥゥン、バッ‼︎】


 アル達も2人とティアの後を追う為身体強化(ボディバフ)を受けて窓から飛び降り、そのまま走り出しアイリスは窓から空を飛びエミル達の後を追い村の共同墓地へと向かった。

 其処にロマン、仲間が居る場所に。




 ロマンは夜中、父と母が生きている、その目の前の光景と記憶の中でミスリルゴーレムの襲撃で記憶が飛び、最後は自分1人だけが立っていた記憶との摩擦が生まれ、それらを受け入れられず吐き気と眩暈に襲われながら家を飛び出し共同墓地へ向かった。

 自分の記憶にあるエミルと共に見た2人の墓を確認する為に。


「…ない…ない、ない、ない…‼︎」


 だが、其処にはケイとテニアの墓は無く、それが有った場所はまだ誰の墓も作られていない、土の平地が広がっているだけであった。


「………夢なんかじゃない…それじゃあ、僕は………うっ、っっっっっ‼︎

 オェ、オェェ…‼︎」


【ビチャビチャ‼︎】


 ロマンは頬も引っ張り、更に持ち出した剣の先を左手で握り、血が滴り鋭い痛みが走る中これは夢なんかでは無い、自分は世界の安定の為に今生きている父と母をこの手で殺さねばならないと考え、墓地から離れて近くの野原で胃液を吐いていた。

 そうしてロマンはあの笑顔を奪わねばならない現実を直視し、更に思考がグチャグチャになり如何すれば良いのか分からなくなっていた。


「…ロマン君…」


 すると左手の傷が回復し、その背後から自身が良く知る人物の声が聞こえた。

 そうしてロマンは藁に縋る思いで後ろにに居る自分が1番信頼する人物…エミルの姿を見た。

 そのエミルの背後からシエルとティア、更にアル達の順でエミルの側に集まり最後にアイリスが地に降り立った。


「エミル………皆………僕、僕は如何したら良いの…⁉︎

 今いる父さんと母さんはちゃんと『生きてる』、でも本当は『死んでいなきゃ』いけない人達なんだ‼︎

 ねぇ、僕は如何したら良いの、誰か答えてよ‼︎」


 ロマンは泣きながらエミルやアル、サラにルル、リョウ、更にはアイリスとシエル、幼いティアにすら時間改変現象(タイムパラドックス)で生きている両親は死んでいなきゃならない事実は認識してるが、両親に生きて欲しい感情が邪魔をして何を如何すれば良いか分からず叫びながら問いていた。


「ロマン君………ごめんなさい、こうなると思って黙っていたのが返って余計に重圧を与えてしまったわ………ごめんなさい、ごめんなさい…」


 エミルもこうなる未来が容易に予想出来た為黙っていたが、それがロマンと言う少年に余計な重圧を与えた事を泣きながら、目を逸らさずに謝り続けていた。

 エミルの横に立ったシエルはこうなっても目を逸らさない彼女は生命を奪う覚悟は出来ていて向き合い、だが答えを出せないで居ると悟り、目を閉じてからロマンを見据えた。


「…ならば勇者、いやケイとテニアの子ロマン、お前がこの状況を如何したいんだ? 

 良く考えろ、お前はたった今『両親は死んでいなきゃならない』と叫んだんだ。

 ならば、そうするには如何すれば良いかお前自身が決めるんだ。

 …如何にも、エミルにも安易な答えを出す事が出来ないからな…」


『ロマン…』


 するとシエルはロマンに対しこの状況を如何したいのかと問い掛けて、更には自分自身が答えとなる言葉を発した事を指摘した上で自分の中で答えを、道を決めろと話した。

 エミルにも出せない答えを、この場で出させようと敢えて試す問い掛けをシエルはした。

 それ等を聞いたサラ達やティアは泣きながら、アルやリョウ、アイリスも悲しげにロマンの名をただ呼ぶ事しか出来なかった。

 そのロマンは幼い頃に一緒にかぼちゃを耕した事、勇者と判明しても変わらぬ愛情を注がれた事、そして世界樹で稽古した等の思い出が流れ出し、その中で必死に答えを探していた。


「………僕は………僕は、この歴史を、正さなきゃいけない…例え父さん達の生命をまた奪う事になっても…。

 そうしなきゃ、父さん達が生きてた過去が…無意味になるっ…!」


 そして、20分以上肩を震わせながら立ち上がり、考えに考え抜き泣きながら全員を見てこの間違った歴史を正す事を選んだ。

 それは過去に生きた両親の証が無意味にしない為の決意であった。

 それを聞きシエルもロマンの心の痛みを理解してその姿を見届けていた。

 するとロマンはエミルに抱き着き、全員突然の事に驚いていた。


「ロ、ロマン君…⁉︎」


「ごめんねエミル、こんなに重い事を独りで背負わせようとして………本当にごめん…。

 これからは、僕も一緒に背負うから…‼︎」


 如何やらロマンはこんな重圧をエミルの小さな肩に背負わせようとした事に負い目を感じ、これからは自分も一緒に背負うと決意を口にしながら涙で頬が濡れていた。

 対するエミルは………そのロマンの傷を負う決意を無言で受け取りながら同じ様に泣いていた。


「ロマン達だけじゃないよ、私達だって…グス…」


「ああ、俺様達は仲間なんだから同じ痛みを背負ってやるぜ…」


「私も、私もロマンやエミルの心が痛いのを背負うよ‼︎

 私を助けてくれたんだから、同じ様に助けたいよ‼︎」


 其処にサラやルルも泣きながら、アルとリョウも決心した表情で近付きこの理不尽な痛みを背負い合う事を誓い合った。

 其処にエミルとロマンに救われたティアも同じ様に背負うと泣きながら叫び、アイリスがその頭を撫でて多感な小さな子の決意を讃えていた。


「…ならもう寝るぞ、そして明日実行に移す。

 時間を掛ければ掛ける程、決意が揺らぐからな…」


 最後にシエルがこの歪んだ現実の修正の決行日を明日に定める。

 その理由も決意が揺らがない内にこの歴史を正す為であった。

 それを聞いたロマンとエミルは抱き合うのを止め、泣いていた者達は涙を拭き取り宿屋や実家の寝室に戻ろうとするのだった。


『………』


 しかしエミル達はその会話を聴いていた者の存在に気が付かぬまま就寝に入り、そしてロマンの両親をあるべき形に戻そうとするのであった。




 それから朝を迎え、ロマンは階段を降りた後後ろ髪を引かれそうな気分になりながらも昨日の決意を込めて1歩足を踏み出し玄関を開けようとした。


「おはようロマン、朝ご飯が出来てるから食べなさい」


「あ、おはよう父さん母さん…えっと、これから直ぐに行かなきゃいけない場所があるんだ。

 だから、ご飯は…」


「だからよ、ご飯を食べて力を付けなきゃ何も出来ないわよ!」


 だがそれをケイ達に見られ、ロマンは急いでエミル達の下に向かう為に振り返らず行こうとしたが、両親に向かう場所があるならと朝ご飯を食べる様に言われ、肩を引かれて居間に連れて行かれ、其処でかぼちゃパイがテーブルに置かれており2人から目を離して抜け出せないと諦めたロマンは大人しく両手を胸の前で合わせた。


「…頂きます」


「はい、召し上がれ」


 ロマンは頂きますの挨拶をしてかぼちゃパイを食べ始めた。

 その味は昔、良く自分の為に作ってくれた優しさがこもった味だった。

 それを一口食べる度に泣きそうになるが、ロマンはそれを堪えながら静かに味を噛み締め、そして最後の一口を頬張り、しっかりと咀嚼して飲み込み食べ切った。


「…ご馳走様でした」


「ああ、ご馳走様。

 それじゃあもう行くのか?」


「…うん、行って来ます」


 ロマンはご馳走様の挨拶をするとケイ達も丁度食べ終え、もう目的地に向かうのかと口にされるとロマンは行って来ますと挨拶を交わしながら席を立った。


「そうか…なら、これでもう俺達とはお別れだな」


「…えっ⁉︎」


「昨夜の話、聴いていたわよ。

 行きなさいロマン、貴方が正しく思う事をして来なさい。

 それが貴方のやるべき事なんでしょう? 

 なら、私達はそれを応援するわ…」


 するとケイはこれでお別れだと口にし、ロマンは何故と思いながら振り返るとテニアが昨夜の話を聞いていたと明かした。

 つまりこの食事は成長した我が子を送り出す為の最後の家族の団欒の時だったのだ。

 ロマンはそれを聞き涙を再び流し始めそうになるが、テニアが肩に手をかけながら笑顔で正しく思う事…つまり歴史修正を行なって来る様に言い聞かせていた。

 この別れを惜しませない、その一心で。


「────っ、父さん、母さん、行って来ますっ‼︎」


【バッ、バタン‼︎】


 ロマンは本当に『最後』の別れの挨拶をしてエミル達の下に走って行った。

 もうこれ以上振り返らない為、2人の愛と温もりを背負いながら。


「ロマンは、大きくなりましたね…」


「ああ、そうだなぁ…」


 その後ろ姿を見ていた2人は、本当に最愛の息子が大きくなったと理解しながら自分達はあるべき形に戻る時が来たと思いながら、2人で抱き合いロマンの行く末に幸があらん事を祈りながら一筋の涙を流しながら瞳を閉じた。

 そして………2人の耳から、外に出ていったロマンの足音が聞こえなくなったのだった。

此処までの閲覧ありがとうございました。

エミルとシエルの意見の衝突、ティアの叫び、ロマンの苦悩と両親が最後の後押しになる等描きたい物を詰めました。

そして次回はこの続き、後編になります。

ロマン、そしてエミル達が如何に解決するかお楽しみ下さいませ。

では今回はエミルから見たシエルとシエルから見たエミルとそれぞれの印象を書きます。


エミルから見たシエル:自身よりレベルが高く何者にも囚われない超然的な人物、魔剣に選ばれた魔界側の勇者とエミルは見ていた。

更にエミルは彼女の地の部分を殆ど見ていない為そんな印象により拍車が掛かり今回の意見衝突となった。

更に何方もロマンを心配している共通点があるのに衝突したが、ティアのそれを指摘する叫び声が無ければ更にヒートアップし止まらなかっただろう。


シエルから見たエミル:自身よりレベルが低くとも重い使命を背負い、仲間と共に1歩を歩む魔剣に選ばれてしまった自身と違う強さを持っていると認識している。

しかしエミルは暗い部分や秘密を独りで背負おうとする部分がある事を認識出来ていなかった。

故にシエルが正論を言うとエミルから見たシエルと言う魔族の印象の為水掛け論が発生してしまう。

シエルはこのエミルが自身に抱く認識を漸く理解し、地の部分での衝突を選んだ。

しかしティアの叫びでそれを一旦止める事になった。


次回もよろしくお願い致します。

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