第36話『彼方なる者、現る』
皆様こんにちはです、第36話目更新でございます。
今回でハーメルン側に投稿した分に追い付きましたので、今後は彼方側と歩調を合わせて投稿して行きます。
今後ともよろしくお願い致します。
では、本編へどうぞ。
遠き日の『彼』の記憶、其処には9歳になり少しだけ元気になり家の中だけなら歩ける様になったティアの姿があった。
そのティアは兄である『彼』が作った料理を共に食べていた。
「ティア、美味しいか?」
「うん、美味しいよ。
ありがとうね、お兄ちゃん」
ティアは自分の手でスプーンやフォークを使いながら包帯だらけの『彼』の料理を摂り、その中で兄妹の会話で微笑ましい空気を醸し出しながら少し咳をしながらも料理を全て自力で食べ終えていた。
「ご馳走様でした。
…あのねお兄ちゃん、お願いがあるの」
「何だい、ティア?」
ティアはご馳走様と手を合わせて挨拶をすると『彼』は頷きながら食器を手に取り、重ねて台所に持って行こうとした。
するとティアが何か『彼』にお願いと言って少し悲しげな表情を向けて話を掛け始める。
「あのね、もう闘技場でお金を稼がなくても大丈夫だよ?
お家にはもう沢山のお金の蓄えがあるから、お兄ちゃんが怪我をしてまでお金を手に入れなくてももう良いよ?
それに闘技場だともしかしたらお兄ちゃんが死んじゃうかも知れないから、だからもう…」
「ティア…心配するなって!
お兄ちゃんはティアが居る限り無敵なんだ!
だから闘技場で死ぬ事は無いさ‼︎
それにもしもティアに何かあったらお医者様に診て貰うのにお金が必要だからもうちょっと蓄えなきゃいけないから、闘技場引退はもう少し待っててくれって、な?」
ティアは兄が闘技場で荒稼ぎをして金の備蓄が沢山あり、更に生き死にすら賭ける闘技場でもしもがあればと話す。
しかし『彼』は医者に診て貰う為にもっと蓄えが必要と話し、ガッツポーズをしながら妹が居る限り無敵だとも豪語して死なないと話し、闘技場引退はまだ先になると言って食器を置きティアの手を取りながら優しく微笑んでいた。
「お兄ちゃん………うん、分かったよ。
でも無理は禁物だからね、危なくなったら降参もしてね!
絶対だからね!」
「ああ、約束するよ。
だからティア、心配はしないでもうベッドに行こうな?」
「うん…ゴホ、ゴホ!」
ティアは何を言っても『彼』は折れる事が無いと悟り、ならばと無理はしない様に話すと『彼』も約束を交わしベッドに向かわせて始める。
その過程でティアが咳き込んだ為背中を摩りながら2人で歩きベッドに寝かせる。
「(…ああ、俺はティアが居る限り無敵なんだ、だから絶対死ぬもんか‼︎
そしてティアを絶対に守るんだ‼︎)」
それから妹を寝かし付けた『彼』はティアの存在が自分を強く保っている事を再認識した後に再度妹を絶対に守ると決意しながら回復魔法を使用して怪我を治し、戸を開けて再び闘技場へと向かう。
愛しき唯一の家族を守る為に。
だが『彼』は知らない、ティアはこの僅か半年後に身体を壊し病に罹り、そのまま死ぬ運命が待つ事を…。
エミル達が地上界でリョウを仲間にし、ヒノモトに見回りを始めてから1週間後の魔界にて。
魔王の玉座は戦闘痕が各所に残り、その場に居たシエル、ダイズ、アザフィールは所々にダメージを負いながらもティターン達の回復魔法IVを受けており、騒ぎが終わった玉座に瓦礫撤去の為に魔族が集まっていた。
しかし、その場にソーティスの姿は既になかった。
「不覚…まさか奴をあの場で逃してしまうとは…」
「ふん、1週間も継続戦闘をし我やシエル達の攻撃を凌いだのだ。
余り気にするなアザフィール、奴が相当力を溜め込んでいただけの事よ」
アザフィールはソーティスをあの場で逃してしまった事を不覚と言い放つも、魔王は敵対者が力を溜めていた為として自身が振る剣を鞘にしまうと再び玉座へと座る。
そうして魔王やシエル達の回復をティターン達は終えると直ぐに跪き始める。
「それでティターン、ティターニア、お前達は何故玉座に来た?
時空の腕輪を持って来るのは如何した?」
「そ、それがシエル様、魔王様…」
【スッ】
シエルもオリハルコンソードを鞘に収めるとティターン兄妹に時空の腕輪を持って来る念話を魔王との謁見中に送っていたのに何故玉座に向かって来たかと問うと、ティターンは恐る恐る懐から何かを出した。
それはダイズやアザフィールも見間違える筈の無い時空の腕輪だった。
それが割られており、最早宿っていた力も無くなっていた。
「これは…2人共、詳しく説明しろ」
「はい、俺達はシエル様からの念話で時空の腕輪の保管庫から3個持って来ようとしてました、しかし…」
「私達が腕輪を取ると時空が揺らいで全ての腕輪が破壊された後でした…。
それでシエル様達が危ないと玉座に…」
ダイズが2人に何があったかを問うとティターン兄妹はシエルの指示通りに時空の腕輪を持って来ようとしたが、時空の揺らぎが起きたと感じた次の瞬間には全ての腕輪が壊れた状態になりシエル達の危機を感じ玉座に向かって来たと報告していた。
「ふむ、時間操作系魔法をある程度会得していれば時間改変現象にも耐性が付き、何が変わったか一部分かるであるからその判断は正しいと言えよう。
ふん、ソーティスめ今度は余計な邪魔が入らぬ様に魔界の時空の腕輪は我が身に付けた1個以外は全て破壊したか…これでは我以外は何も出来ぬのよう」
魔王は冷静に時間操作系魔法使いは時間改変現象への耐性がある事を語り、ティターン兄妹の行動は正しかったと語りつつソーティスの今回の行動を分析し、自身が左腕に装備した時空の腕輪以外が破壊された為、ソーティス討滅に自由に動けるのは自分しか居ない、しかし魔王は地上界に行けぬ為に不敵に笑いしてやられたと言った仕草を見せた。
「それで『魔王』様、時空の腕輪無き今ソーティス討滅は如何に?」
「何も変わらん、お前達3名が事に当たり時空の腕輪を天界経由で手に入れろ。
ソーティスめも神の領域には手を出せぬ、故に天使共から腕輪を手に入れるのだ。
幸いにしてお前達も時間改変現象への耐性はある、ならば奴が貴様達に直接干渉をする前に手に入る可能性はある。
さあ行け、そして奴を殺せ」
シエルはこの後を如何にすると尋ねると魔王は何も変わらずソーティス殺害を命じる。
シエル達3名が時間操作系魔法を使える事で時間改変現象に耐性がある為天界経由で時空の腕輪を入手すれば良いとさえ言い放ちシエル達3名にそのまま行く様に魔王の名の下に無茶な要求をするのだった。
「…はい、『魔王』様」
するとシエルが率先して命令を受諾すると、立ち上がり踵を返して魔王の玉座から離れ、更に門の前まで転移しその前まで立っていた。
するとティターン達まで転移しシエル達を追い掛けて来ていた。
「シエル様、ダイズさん、アザフィールの旦那、あんな命令無理ですよ‼︎
ソーティスに直接干渉される前って、奴がシエル様達に干渉しない訳が無いですよ‼︎」
「そうです、奴はシエル様達を今からでも時間改変現象で…‼︎」
ティターン達は魔王の命令は無茶苦茶であり、時間改変現象で干渉されない訳が無いと断言し2人でシエル達3人の身を案じていた。
するとシエルは2人の頭を撫で始め、3人で笑みを浮かべながらアザフィールから口を開き始めた。
「ふっ、ティターン達。
ソーティスは我々3人に干渉しない自信はある。
何故なら奴は根からの探究家、障害が無ければ何も燃えないと昔から息巻いていた。
そして魔界側の時空の腕輪を破壊したのは挑戦状だとも私や魔王様は考えた。
そう、魔界以外で時空の腕輪を手に入れられるならばそうしろ、と言うな」
アザフィールは自身の中にあるソーティスの人物像を振り返り、障害が無いと火が付かない探究家だと話した。
その上で魔界での時空の腕輪破壊は挑戦状と受け取り魔王も同じ考えだとも口にし、大剣の柄を握り締め始めていた。
「ならばその挑戦状、受けない訳が無い。
玉座で相対して見た奴の力…必ずや上回り俺の拳で砕く!」
それにダイズも反応し、拳を握り締めて顔の前に立てると彼の狂戦士の側面が全体的に現れ、ソーティスに完全に狙いを定めて砕くとすら豪語していた。
これを見たティターンとティターニアはダイズも止められないと悟り、最後の主たるシエルを見ていた。
「そんな子犬が甘えたい様な顔を見せるな、2人共。
心配は要らんさ、ソーティスは我々やこれから利用するエミル達の手で斃される。
その予感があるから私達は安心して征ける………それにアザフィールは間違った事は言わない。
だからこそ私はそれを信じ剣を振るいに行く、それだけさ」
最後のシエルは2人を子犬に例えつつソーティスは必ず討たれると話し、更にはエミル達と言うカードがある為笑みを崩さずに頭を撫で続けた。
そしてアザフィールの言は間違わないと断言し、それを信じて剣を振るうとして2人から手を離し振り返り門へと歩み寄る。
「お待ち下さいダイズ様」
「…アリアか。
止めようとしても無駄だぞ?」
そんな3人、その中のダイズに転移して話し掛ける者が居た。
それはアリアだった。
ダイズは彼女に止めても無駄と話し彼女の顔を見ようとしていなかった。
「いいえ止めませんよ。
ただ一言、ご武運を」
「…武運か、なら受け取っておこう」
しかしアリアは止める所か見送りに来た者としての言葉を贈り彼の背中を押していた。
それをダイズは受け取ると言うと門を潜り地上界へ転移し始める。
それを見たアザフィールやシエルも門を潜り始め、シエルに至ってはティターン達に背を向けながら手を上げて見送りに来た事を労う仕草を見せた。
【ビュン、ビュン、ビュン‼︎】
そしてソーティス討伐の任を帯びた3人は地上界に向けて転移して行き、見送り組の3人はそれを見届けながらそれぞれの主やアザフィールが無事に帰還する事を祈りながら、魔界側の荒野に佇む門の前で少し立ち尽くした後自身に出来る事をしに転移して去るのであった。
一方地上界では、リョウを仲間に加えてヒノモトの見回りを終えたエミル達は船でグランヴァニアに向かい、この大地に魔族が潜伏していないかを見回り始めた。
因みにグランヴァニアは国交正常化後に冒険者ギルドの宿屋も立ち並ぶ様になり、ヴァレルニア港街も慰霊碑が建てられ、その他の街も徐々に復興の兆しが見えていた。
そして今は2台の馬車でグランヴァニアの街道を見回っていた。
「グランヴァニア…あれから復興されつつあって良かったね」
「ええ、でもまだそれは始まったばかり。
私達がこの聖戦の儀を終わらせないと全て解決した事にはならない。
だから何としても魔王を斃して全てに決着をつけなきゃいけないわ」
ロマンは復興され行くグランヴァニアに良い印象を抱き、エミルもそれは変わらないが矢張り聖戦の儀が終わらない限りアギラの様な理不尽な死を齎す者は現れ続ける為、魔王を斃すと口にし遠い空を見上げていた。
ロマンもそれを聞き気を引き締め前を向き始めた。
「…成る程、アギラの目的は魔王の降臨。
この戦いは天界側の想定から大きく外れている為天使があの時介入するに至ったのか」
「そう…それで、天界の対応の遅さに幻滅したかしら?」
「いや天使アイリス、天界も狙われたとなれば最高神様も慎重にならざるを得なくなっただろう。
しかしそれでも力を貸してくれた、それが答えだろう」
一方荷台ではアイリスやサラ達がリョウにこの戦いの裏側、聖戦の儀についてを話しており、アイリスは天界の対応に幻滅したかと自虐的な発言をする。
しかしリョウは神の考えについて一定の理解を示し、更にアイリス達が力を貸した事こそが答えと言い放ち必要以上に気にする様子は見られなかった。
「じゃあ次の街、『シリンダーツ』に早く向かいましょうか。
其処でいつも通り見回りをしましょう」
するとエミルは手綱を強く握り馬の走るスピードを少し上げて目的地のシリンダーツに続く街道を進み出した。
しかし空が暗雲が立ち込め始め、これは雨になると思ったエミルとネイルは馬に走る様に指示を出し馬車が走り始めた。
「見つけたぞ、時空の腕輪を身に付けた者達。
そして天使アイリスにリコリス、良い実験台になってくれよ?」
その暗雲の先に黒いズボンのポケットに手を入れた銀髪の魔族、ソーティスが浮いておりエミル達を視界に捉えて実験台と呼称して直立不動のまま地面に向かって落ち始めた。
その瞳に邪悪な意志を映し、全てを実験台にしか見ない魔族がエミル達に狙いを定め彼女達の前に現れようとしていた。
「………っ、止まりなさい‼︎」
『ヒヒーン‼︎』
エミルは暗雲が立ち込める空を見上げながらシリンダーツに早く辿り着こうと馬に走る様に指示を出しながらも偶然にも千里眼の発動を止めていなかった。
その為なのかエミルは視界に直立不動で空から落ちて来る魔族を目撃する。
それに伴い馬に止まる指示を出すと馬は急に止まり、それに伴い荷台が揺れネイル達の馬車も急停止を余儀なくされる。
「イッテェ‼︎」
「エミル殿、何があった⁉︎」
「空から魔族が来る‼︎」
荷台が急に揺れた為アルは頭を打ち、他の面々もバランスを崩す中後方のネイルから何かあったか大声を出して確認するとエミルは空から魔族が来ると簡潔に伝え、全員がその言葉で頭を戦闘状態に切り替え馬車から降りようとした。
しかしルルは頭を押さえて苦しみ始め、1ヶ月前の様な危険予知が発動をしていた。
「ルル、大丈夫⁉︎」
「うぅ…来る…彼方なる者が…来る…‼︎」
『っ‼︎』
サラはルルの状態を気遣い背中を摩ってると、ルルはその口から彼方なる者が来ると苦しみながら口にした。
その瞬間誓いの翼全員とアイリス、更に魔族と天使故に耳が良いムリアやリコリスが驚愕した表情を浮かべた。
その次の瞬間、エミル達の馬車の5メートル先に勢い良く魔族が直立不動で落ち、地面に着く30センチ手前で浮かびそのまま静かに大地に足をつけた。
「あ、あれが…彼方なる者…ソーティス…‼︎」
エミルやロマンは馬車の運転席からその魔族、ソーティスの姿を目撃するとそのシエル達と同等以上の威圧感に汗を流すも、ネイル達を含めて全員で馬車から降りて武器や杖を構え、アイリス達も本気を出した事で暗雲の空が黄昏に染まり2人から白い翼が生えた。
「ふむふむ、如何やら時空の腕輪を身に付けた者は天使アイリス達を含めて13名。
実験台となるには十分な数だな。
後はこの実験に付き合うに相応しい実力を持つか検証が必要だな」
「お前が彼方なる者ソーティスね‼︎
私達の前に立ちはだかる災厄なら何であろうと払うのみよ‼︎
焔震撃、瀑風流、雷光破‼︎」
ソーティスはエミルやネイル達を値踏みしながら数は十分とし、それに見合う実力があるかを検証…つまりは確認する必要があると話してポケットから手を出した。
そんな中エミルはソーティスを災厄と断じて払うと宣言した瞬間、複合属性魔法を3種同時に発射し戦闘が開始された。
ソーティスはそれをジャンプで躱すと次にシャラ、キャシーに視線を移した。
「っ、燋風束‼︎」
「大震波、闇氷束‼︎」
「ふっ」
視線から悪意を感じたシャラ、キャシーはそれぞれ複合属性魔法を空中のソーティスに向けて発射し、その動きを止めようとした。
が、ソーティスは突如信じられない速度で降下、エミルの目の前に立ちその顎に手を添えていた。
「っ‼︎」
「ふむ、魔法使い達は合格、実験台として申し分無いな………では勇者達は如何かな?」
「馬鹿に、するな‼︎」
【ブンッ‼︎】
ソーティスは魔法使い3人を合格と話し、次は隣に居る勇者達の実力を推し量ろうと思考を移すが、顎に手を触れられたエミルは馬鹿にされたと感じ杖でソーティスに殴り掛かり、更に隣のロマンも剣で斬り掛かると再び超スピードで後退しそれ等を避ける。
するとサラが隙ありと矢を放つとソーティスはそれを受け止めて折ると、次にロマン、アル、ルルが突撃し始めた。
『はぁぁぁぁ‼︎』
「ふむ、弓使いの矢を放つタイミングにそれに合わせた前衛の突撃も間違い無く正しい。
しかし正しいだけが良いのかな?
それを確かめさせてくれ」
サラの矢を手放したソーティスはロマン達が突撃するタイミングを正しいとしながら、それだけで良いのかと哲学的な問いをしながら腕を後方に直立させ、上半身を微動だにさせない特殊な走り方でロマン達に迫り始めた。
「喰らいやがれ‼︎」
「ふふ」
【ガァン‼︎】
まず最初にアルがジャンプし、ミスリルアックスに複合属性を纏わせてソーティスに斬り掛かる。
しかしソーティスはそれを躱さず急に立ち止まると右手を斧に向かって振るい、何と手刀でアルの一撃を止めてしまった。
「ふっ!」
【ドンッ‼︎】
「ぐぇっ…‼︎」
更にソーティスは左手で魔力を纏わせた掌底を軽く、しかし鋭くアルの鎧の上に押し込まれた瞬間アルはカエルが潰れたかの様な声を上げながら後方に倒れてしまう。
「アル‼︎
やぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「はっ!」
【ガキィィィ‼︎】
それを見たルルはミスリルダガー2本でソーティスの急所を突こうとした。
対するソーティスもダガーに対し手刀の突きを繰り出し、明らかに生身なのに金属同士が衝突したかの様な音が響きダガーが1ミリも動かない拮抗状態にもつれ込んでしまう。
「何、だ、これ…⁉︎」
「すぅ、はぁ!」
【ドガァ‼︎】
「ルル‼︎」
ルルは生身で刃に対抗する上に微動だにしない拮抗状態に困惑し何とか押し込もうとした。
その瞬間ソーティスはルルを引き込む様に手刀を後退させ、少々呼吸をすると今度は蹴りをルルに浴びせて吹き飛ばす。
それを見たサラはルルの体を抱き止めながら地面に背中を擦らせ、しかしルルへの地面への衝突のダメージを和らげた。
「む、今のは内臓を潰すつもりで蹴ったがその感触は無かった…?
…そうか、避けられないと知りダガーを蹴りの衝撃が来る直前に此方から離れる様に突きながら体を逸らして威力を和らげたか。
成る程、聡いな」
「よくもアルとルルを‼︎
許さない、やぁぁぁぁ‼︎」
【ガンガンガンギンギンギン‼︎】
ソーティスはルルの内臓を潰す攻撃を繰り出したつもりが思った様な感触が無く考察すると、ルルがダメージを余り負わない様に工夫したと結論付け、それらを総評して聡いと口にしていた。
その瞬間ロマンがソーティスの前に踏み込み剣で斬り付け、手刀と拳を盾で防ぎながら何度も接近戦を繰り返していた。
「ふむ、仲間が危機に陥った瞬間力を発揮するタイプか。
完全な勇者気質だな」
「ロマンばかりに目を向けるな‼︎」
【ガンガンガンガンガンガンガンガンガン‼︎】
ソーティスは先程見ていたロマンよりも今の彼の方が力強く感じ取り勇者気質と笑みを浮かべながらその力が何処まで伸びるか検証する気で居た。
が、その瞬間リョウまでロマンの隣に立ち刀で斬り掛かり2人掛かりでソーティスの相手をしていた。
しかしソーティスはそれらを手刀で防ぎ斬りながら未だ期待の笑みを浮かべ未だ確かめる側に立っていた。
「くっ、テメェふざけんじゃねぇ‼︎」
「ぐっ、はぁぁぁぁ‼︎」
「アル、ルル‼︎」
其処にアル、ルルが復帰して再びソーティスに向かい武器を振るい4人で連携しながら連撃を浴びせようとする…が、ソーティスのスピードが上がりそれら全てを捌き切り4人同時であっても全然拮抗が取れずにいた。
「ガム、ムリア、我等も行くぞ‼︎」
『はい‼︎』
其処にネイル達も加わり7人、ルルとネイルがダガーと剣、槍の二刀流になってる為実質9人分の攻撃をソーティスへと浴びせロマンとルル、ムリアは魔法まで加えて攻撃していた…だが、ソーティスは更に加速してそれら全てを魔力を纏わせた手刀で振り払いダメージを負わせられずにいた。
「くっ、また速くなった‼︎
まさか自分に時間を加速させる魔法を掛けてるの⁉︎」
「ご明察さ勇者ロマン、時間加速魔法はこれが普通の使い方なのさ。
そして君達の連携も素晴らしい、そちらは時間操作は抜きで此方に時間加速魔法を5割5分使わせるとは実験台に相応しい!
合格だ、おめでとう諸君、君達は我が時間改変現象の行く末を見るに相応しいと評価しよう‼︎」
ソーティスの異常なスピードにロマンは時間加速魔法を自らに使いそのスピードを発揮してるのかとティターン兄妹達に似た感覚から口にするとソーティスは肯定した上でこれが55%の速さと言い放ち全員を弾いて一定の距離を保たせると全員に対し合格と宣告し、自身の実験の末を見る権利があると評価していた。
するとロマン達の背後からアイリス、リコリスがソーティスに向かい出し光の矛とブレード付きの籠手を構えて突撃をしていた。
「ソーティス、時空を乱す者‼︎
お前の存在は在ってはならない、神様に代わり我等姉妹がお前を消す‼︎」
「漸く来たかいアイリスにリコリス、実験台達の身定めは終わったからこれから君達とも戦おうと思っていた所さ。
さあ、君達も実験台に相応しいか見せておくれよ‼︎」
アイリスは光の矛を何度もリコリスのブレードと共に振るいながらソーティスはこの世界に在ってはならないと叫び、神の代わりとして戦いを始める。
そのソーティスも手刀でそれらを弾きながらアイリス達が漸く戦いに来た事を喜び、エミル達同様に実験台に相応しいかを彼女達の様に判断しようとしていた。
「アイリス、僕等も行くよ‼︎
はぁっ‼︎」
「アイリスや今のロマン君達なら巻き込まれる心配は無い、焔震撃‼︎」
すると其処に再びロマン達が乱入し、更に今のロマン達ならもう攻撃魔法に巻き込まれる心配は無いとしてエミル達も魔法を全力で放ち、サラも矢を乱れ撃っていた。
そのエミルの予想通りロマン達は攻撃魔法を避けるソーティスをそれ等を掻い潜りアイリス達と共に9対1の状態に持ち込み乱戦が始まる。
「せい、はっ、とう!」
しかしソーティスは時間加速魔法込みの手刀で全てを捌き、更にアルやルルにやった様な掌底や蹴り技を放ち、ロマンは盾でそれを防ぐと掌の跡が盾に残りながら押し出され、他のアイリス達以外のメンバーはギリギリで回避したり蹴りが直撃する前にバックステップで衝撃を和らげたりをし、その度にエミル達から回復魔法や身体強化の掛け直しがあったりと正に入り乱れると言う言葉が正しかった。
「くっ、はぁ‼︎」
対するアイリス達は攻撃を受けても我慢し、ソーティスに何とか1撃を浴びせようと躍起になり自身等も時間加速魔法を掛けてソーティスに追い付き攻撃を加えていた。
それを受けたソーティスは青い血を流すが、笑みを浮かべロマン達と同様にアイリス達も実験台に相応しいと感じ始めていた。
「はぁぁぁぁ‼︎」
【スパッ‼︎】
その間もロマン達も果敢に攻め続け、アイリスが攻撃した直後にロマンも攻撃した瞬間その剣がソーティスの二の腕を捉え斬り付ける。
その結果斬られた箇所から青い血が流れ始め、初めてエミル達側の攻撃でソーティスに僅かだがダメージを与える事に成功する。
「…ほう、アイリス達の対処への隙に俺にダメージを与えるとは…お前達の評価を上げなければならないな。
ふっ‼︎」
「え、うわっ、うっぐぅぅぅ…‼︎」
【グググググググ‼︎】
アイリス達の攻撃後に連携と隙を狙いソーティスへの攻撃に成功させたロマン達に、ソーティスは不敵な笑みを浮かべた後ロマンに時間加速魔法による超スピードで接近し、首を締め上げ片手でロマンを持ち上げ始めた。
『ロマン君‼︎』
『ロマン‼︎』
「さあ次は如何する?
次は如何やって俺の予想を超えてくれる?」
エミル達ははロマンが締め上げられる中で何とか救おうと武器を振るうがその度にソーティスに蹴り上げられてしまい前衛は近寄れず、後衛はロマンを盾に使われてしまい攻撃出来ずにいた。
その中でソーティスは嘲笑い、次なる1手を見る為にその手に収まる首に力が込められ、ロマンも意識を失い掛け、剣に込める力も薄れ始めてしまった。
「ふふふ」
【ビュゥン、ドドドン‼︎】
「っぐ⁉︎」
その邪悪な笑みを浮かべたソーティスの斜め上の背後から魔法が直撃し、ソーティスは態勢を崩しながらやや吹き飛ばされロマンは拘束を解除されて咽せながら息を吸い始めていた。
「ゲホッ、ゲホッ、い、今のは…?」
【ビュゥゥゥゥ、スゥゥゥ】
ロマンやエミル達は今の魔法が放たれた方角の空を見ると、その空から3人の魔族が降り立ち地に足を付けた。
その魔族達はエミル達も良く知る、見間違える筈の無い彼女達を助ける行動を取るのに予想外な者達だった。
「見つけたぞソーティス‼︎」
「魔王様の命の下、貴様を討滅する…かつての我が友よ‼︎」
「…ほう、勇者ロマン。
ソーティスに傷を付けたのか?
剣に青い血が付いてるぞ…ふっ、全く想像を超える者達だよ本当に…。
聞け地上界の戦士と天使達、現時刻を以て聖戦の儀は一旦停戦させて貰う、これは『魔王』様のご意向である‼︎」
その魔族達はソーティスを見るや否や戦闘態勢に入りつつ、魔族の少女はロマンの手を持ち立たせ、その剣に付着した青い血を見て魔界側にとっても目の上の瘤でしか無いソーティスに一矢報いた事を讃え不敵の笑みを浮かべた。
そしてその少女、シエルはダイズとアザフィールと共に魔王も聖戦の儀を停戦させる意向を叫び、エミル達に視線を送っていた。
「…魔界もソーティスが邪魔者だと、そう言いたいの?」
「その通りだよエミル、よってお前達から何かして来なければ攻撃はしないと誓う。
さて、1週間戦い続けてオリハルコンソードが決定打にならないと知れたんだ…故に初めから全力で、此方を抜かせて貰うぞソーティス‼︎」
【ビュン、キィィィィィン‼︎】
エミルの確認に対しシエルは此方から何かしなければ彼方も何もしないと誓いを立てられ、ならば目下対策すべきはソーティスと頭を切り替えていた。
そんな中シエルは1週間の戦いで自身の愛剣が有効打にならない事を結論付けていた為異次元に保管していたある剣を目の前に召喚し、鞘から引き抜き、更にこの武器を十全に扱う為に鎧も魔法でミスリル製の物からオリハルコン製に換装させる。
そしてその後に鞘を再び異次元に収めた。
「その剣は…形はライブグリッターと同じ。
でもまるで気配が逆…まさかそれが、魔剣ベルグランド⁉︎」
「ふっ…」
その剣に形こそライブグリッターと同じだが、ライブグリッターは緑色の魔法元素が刀身を覆い強度自体もオリハルコンを超えているとされていた。
対する此方は赤い魔法元素が刀身を覆い禍々しさすら感じさせる物だった。
エミルは記憶に残る神剣のそれと照らし合わせて直感する、これが魔剣ベルグランドだと。
それを聞きシエルは不敵な笑みを浮かべていた。
「矢張りベルグランドを抜く事になりましたね、魔族シエル…!」
そのベルグランドを抜いたシエルに対し、魔界に剣を授け誰が担い手になるかを見ていたリコリスはソーティス相手ならば致し方無しと考え、光の籠手を再び構えてその敵を眼前に捉えていた。
「…あんた達が何もしないなら私達も何もしない、だからしっかりその分アイツを斃すのに貢献なさい‼︎
回復魔法IV、身体強化IV‼︎」
「…私達にも支援魔法を。
ふっ、決断が早いなエミル」
更にエミルはシエルの言葉を1ヶ月前の賭けから信用し、ソーティスを斃す事に貢献せよと言い放ちながらダメージを負った者に回復、そしてシエル達を含めて身体強化を掛ける即決を見せてシエルに再び笑みを浮かばせ、そのシエル達はロマンやアイリスの近くに立ち共通の敵であるソーティスに対して武器を構え睨み付ける様にその姿を見据えていた。
「地上界、天界、そして魔界…中でもアザフィールとその弟子、更にはベルグランドの担い手と現代で戦えるか!
これだからこの魔法に手を出したと言う物、障害が大きく無ければ『時の果て』を見れない‼︎
さあ来い、少しの間戦ってやろう‼︎」
それ等を見ていたソーティスはベルグランドを抜いたシエルや天界の最強天使アイリス、更には現代の勇者一行達と戦う事自体を喜んでおり、時の果てと呼ばれる物を見たい彼は目の前に立つ3界の勇士達に戦ってやると宣告し魔力を解き放つ。
そのレベルはエミル達の鑑定眼で見るとレベルがバラバラに映り測定自体が出来なかった。
そうして戦いは第2ラウンドに突入し始めるのだった。
此処までの閲覧ありがとうございました。
遂にエミル達の前に現れたソーティス、それを追って更に現れたシエル達。
3界の実力者が1人を相手に入り乱れて戦う事になります。
その結果は次回に。
では、今回は時の果て、シエルが鎧を換装した理由について書きます。
時の果て:ソーティスが目指す時空を乱し崩壊した世界の先にあるとされるモノ。
ソーティスは探究心によりこれを見る為だけに時間跳躍魔法を会得し、650年前に魔界で最後の内戦ソーティスの乱を起こした。
シエルが鎧を換装した理由:魔剣ベルグランドの力を十全に引き出し戦闘する為にはオリハルコン製の鎧でなければならず、ミスリル以下の鎧では例えエミルの二重魔法祝印で鎧に付加された強度アップが二重に掛かろうとも内部から融解し、鎧は使い物にならなくなる。
その為ベルグランドを使用する時はオリハルコン製の鎧を装備するのである。
次回もよろしくお願い致します。




