第28話『魔血破』
皆様こんにちはです、第28話目更新でございます。
今回はグランヴァニアでの前哨戦その2であり、この章の敵であるアギラの『趣味』が最大限に発揮される回であります。
その過程を見てアギラと言うキャラを理解して頂けたら幸いです。
では、本編へどうぞ。
第1収容所群前、真夜中に魔族達は魔物を操り防御陣形を取り千里眼を使い連合軍の動きを見ていた。
連合軍は作戦通りに2つの勢力に分かれ、片方ら正面の馬でも真っ直ぐ降りれる緩やかな丘ともう片方は転移してから側面の平地から突撃していた。
魔族達の表情は正に獲物を前に欲を丸出しにした飢えた獣だった。
[へっへっへ、さあ来やがれ地上界の弱者共が!
誰が1番お前達を殺すか勝負してるんだからな!]
[数で此処を押し切れると思ったら大間違いだぜ、全員あの丘と平地で殺してやる‼︎]
[さあ来やがれ、そして無様に死にやがれ!]
アギラ派の魔族達は念話で互いに誰が多く地上界の者達、連合軍を殺せるかを競い合い、アギラに取り入ろうとする魔族が数多く居り、その制御下に入った魔物達もまた咆哮を上げ連合軍が来るのを今か今かと待ち侘びていた。
「敵は既にこちらを感知して迎撃準備を整えてます‼︎
陛下、丘を登り切る前に魔法を使える皆で結界魔法Vの用意を‼︎」
「うむ、では皆結界の用意をせよ‼︎
正面突破せんが為に我らの盾を作り上げよ‼︎」
その一方念話傍受をしたエミルはランパルドに結界魔法Vを全体で使用する様に進言し、ランパルドもそれに頷き魔法を使える者全員に結界を張る様に命じ、ロマンにルル、レオナ、ランパルドやエミルも含めたセレスティアの軍勢が馬を駆りながら結界魔法を何重にも張り丘の上に到達し、そしてそのまま緩やかな丘を下り始める。
「今だやれ、灼熱雨‼︎」
「超重孔‼︎」
「魔物達もやれぇ‼︎」
魔族達は灼熱雨を初めとした最上級魔法を使用し、遠距離攻撃を持つ魔物達も攻撃を開始、近距離しか攻撃手段が無い魔物は突撃を開始する。
「くっ、敵魔族の魔法が…重い…‼︎」
「怯まないで騎士団の魔法使い達‼︎
臆すれば死ぬわよ‼︎」
「エミルの言う通りよ、このまま結界を張り続けなさい、我等が王国騎士団達‼︎」
魔族達の攻撃が直撃し、何重にも張られた結界の内2枚が砕け、1枚がヒビ割れ始める。
騎士団の魔法使い達も魔族達の攻撃に冷や汗を流し今にも結界が割れるのかと思い始めた。
しかし、エミルとレオナが騎士団達に呼び掛け移動しながらの結界維持に力を入れさせる。
「はっ、中々固い結界らしいな‼︎
おらぁお前達どんどんやるぞ〜‼︎」
「させると思う⁉︎
大地震‼︎」
魔族達か人間側の固い結界に殺し甲斐があると思い、更に攻撃を加えようとする。
しかし、そこにエミル、更にレオナやランパルドの妨害の為の大地震が魔族達の足を取らせバランスを崩させる。
それにより魔族からの攻撃が止み、ドラゴン種のブレスやゴブリン種の弓矢等魔物達の攻撃に収まり始める。
「陛下、王女様、魔物や一部魔族と接敵します‼︎」
「前衛達は武器構えよ、敵の鎧や身体を斬り裂け‼︎
魔法使いや弓兵達は丘を背後に後衛を陣取り魔法と弓を絶やすな‼︎」
騎士団の1人がいよいよ魔族達と接敵する事になり声掛けをし、ランパルドは騎士団達の前衛には武器を構える様に、後衛には魔法使いと弓兵達を配置しそれぞれの役割を果たす様に命令し自身も魔法使いであるが故後衛の先頭に陣取り始め結界魔法Vを前衛と後衛に張り、同時に攻撃魔法を用意し始める。
「ヒノモトもセレスティアに続け、妾達の力を見せつけてやるのじゃ‼︎」
『はっ‼︎』
其処にサツキの命令が加わりヒノモト全軍がセレスティアの前衛に加わり、刀や薙刀等を引き抜き突撃をし騎士団前衛と共に悪逆なる者達に刃を向ける。
「ちい、足を取られた‼︎
おい、魔法で迎撃を」
「おい、9時の方向からもうエルフとドワーフの連中が来やがったぞぉ‼︎」
エミル達に足を取られた魔族達は再び魔法を使おうとした瞬間、1人の魔族がフィールウッドとミスリラントの軍勢が時間差で現れ、セレスティアとヒノモト全軍が今にも魔物達の前衛に接触しそうになりながら未だ迫り来る。
「ガッハッハッハッハ‼︎
ワシ等の足が遅いと思ったら大間違いだぜ、魔族共ぉ‼︎」
「弓隊、魔法使いはドラゴン種を中心に矢と魔法を放て‼︎」
更にゴッフの声が上がるとドワーフ達は勢いを増しながら突撃を始め、ロックは自身が率いる弓隊と魔法使いにエンシェントドラゴンや地上界で確認されたドラゴン種の最上位、『アークドラゴン』を中心に魔族ごと射抜き始め、他の前衛達はミスリラントの軍勢と共に並列し始める。
「クソ、予想以上に攻撃が早い⁉︎
アギラ様に援軍を」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎』
魔族達は連合軍の足の速さに焦り始め、攻撃していたドラゴン種も矢の雨に晒され自分達を守ろうする事で必死になりながらも何とかしようとアギラに念話を送ろうとした瞬間、セレスティアとヒノモトの前衛がゴブリン種や様々な魔物と魔族に接敵し、戦闘開始となる。
更にサツキ、ロマン、アル、ルルの3人が戦闘となり突撃し名無し魔族を次々に葬り去って行く。
「うおぉぉ、正義の刃を受けろぉ‼︎」
其処に続々とフィールウッド、ミスリラントの軍勢が到着し、その最前列にはゴッフ、更にはネイル、ガム、ムリアが続きロマン達と合流し敵を次々と葬り去って行く。
[な、何だこいつら強過ぎて止まらない⁉︎
アギラ様、援軍を、援軍をお願い致します‼︎]
[ぐわぁぁ、アギラ様ァァァァ‼︎]
その間に魔族達は念話でアギラに助けを求め、援軍を頼むがその間にも戦線は崩れ去って行き、ドラゴン種を含む魔物、魔族達は次々に地上界の軍勢により斃れ死に伏して行く。
この間も魔族達はアギラに助けを求めるが向こうからの返事は一切無かった。
「今だ、アル、ルル、収容所内に突入しよう‼︎」
「我等正義の鉄剣、収容所に囚われし弱き民達を救わん‼︎
我等に続く者は来れ、罪無き者達を救おう‼︎」
更にはロマン、アル、ルル、ネイル、ガム、ムリアを中心に収容所への突撃部隊がその場で結成され、決死隊としてグランヴァニアの民を救うべく馬を駆り始めた。
それに魔族達も気付き、ロマン達に視線を向ける。
「おい、収容所へ向かってる奴らが居るぞ‼︎
あいつらを早く殺せ」
『極光破』
『ギャァァァァァァァァァァ‼︎』
それから魔族、アークドラゴンがロマン達に向かおうとした瞬間、エミル、レオナ、キャシー、シャラ達を中心とした魔法使い部隊がその魔族達に極光破を放ち、真夜中を照らす極光となり空に居る魔族とドラゴンを薙ぎ払う。
それらを見た魔族の指揮官は更に命令を飛ばし始める。
「ええいなら地上だ、地上部隊は収容所に向かう愚か者共を」
『暴風弓‼︎』
『ウアギャッ⁉︎』
指揮官が地上部隊に命令を下そうとした瞬間、暴風弓を使用したサラやロック、更に弓兵部隊にゴブリンやゴーレム、魔族も全て撃ち抜かれ戦線が完全に崩壊する。
これ等を見た指揮官は青褪めながら周りを見渡し、次々と斃される同胞と魔物を見て絶望していた。
「そ、そんな、アギラ様からはこの戦力なら迎え撃てると聞いていたのに…何故…⁉︎」
『やぁぁぁぁぁぁ‼︎』
指揮官はアギラに2時間前にこの戦力なら質で勝てると説明を受けた事を思い出していたが、質も量も完全に負けておりアギラが嘘を吐いたのかと後退りした瞬間、アルクとカルロが指揮官の首を跳ね飛ばし、更に魔血晶も砕き魔族の指揮官は斃され、そしてそれを皮切りに全ての魔族、魔物が斃され始めたのであった。
一方収容所群に到達したロマン達は其処にも居た魔族達に見つかり案の定魔族達は収容所群を背に戦闘を始めていた。
「う、動くな‼︎
動いたらこの収容所群を火の海に」
「爆炎弓‼︎」
魔族達が如何にも悪役の台詞を吐いていた瞬間、ロマン達の背後にサラ、キャシー、シャラ、そしてエミルが転移し、魔族の魔血晶をサラが全て的確に撃ち抜き、意識が飛んだ瞬間ロマンやネイル達が防衛中の魔族達の首を刎ねる。
「人質を使う悪辣な者達に正義無し‼︎」
「エミル、サラ、キャシーにシャラさんナイスタイミングだよ!
さあ、中に入るよ‼︎」
ネイルは収容所内の人々を人質に使おうとした魔族達を悪と断じながら青い血を払い落とし、ロマンはエミル達が絶好のタイミングで転移し、援護して来た事に親指を立てるとそのまま収容所群の1つの扉の鍵を剣で破壊して開ける。
その間にエミルやキャシーにシャラ、ムリア達は透視を使い中の様子を見て敵は居ないと確認し合っていた。
「あれ…魔族…じゃない、人だ!
おーい皆、人が来たぞー‼︎」
するとその内部は幾つもの大きな牢獄が存在し、その中の1つからロマンを見た者が人が来たと叫ぶと周りの牢屋から声が騒つき始め牢屋の中から手を伸ばす者達で溢れ返った。
それ等はガリガリに痩せこけており、ロマンは魔族の行いに怒りが込み上がり手を握りしめていた。
「ロマン君、気持ちは分かるが今は人々の解放を優先しよう。
皆下がってくれ、牢の鍵を破壊する‼︎」
「ロマン君、行きましょう。
人々を解放したらお父様やお兄様達と合流、1度ヴァレルニア港に帰る必要があるから大規模転移魔法2回と体内魔力回復用ポーションを用意してて」
「…分かったよ、エミル」
ネイルはロマンの気持ちを汲みながらも今は人々解放が優先としてガム、ムリアや付いて来た部隊と共に牢屋の鍵を破壊して回り、更にエミルが大規模な転移魔法で連合軍と収容所の人々を合流、更にヴァレルニア港に戻る事を伝えロマンもエミルの言葉に頷くと収容所群を回り、牢屋の鍵を破壊して行き中に居た総勢13万人の人々を解放する。
「あの、収容所に居る人々はたったこれだけですか?」
「はい、この収容所はこれだけです。
でも他の収容所は更に大きく、其処に収監された人々はこの比じゃないです。
…けれど、皇帝陛下達が殺されたあの日に一緒に殺された者も多く…」
「そう、ですか…」
そうしてエミルが全ての人々を解放すると、中に居たエルフに話を聞くとこの収容所群にはこれだけしか囚われて居らず、他の収容所群の方が数が多いと話され、その上であの4国会議の日に殺された人々も多いと話され、エミルは目を伏せ死んだ者達の冥福を祈ると同時に大規模転移をキャシーやロマン達と協力し、戦闘が終わった連合軍の前に転移する。
「収容所に囚われし者達はこれだけか、エミル?」
「はい、他の人々は彼処以外の収容所に囚われてる模様!
なので陛下、此処は1度ヴァレルニア港に戻り収容所群内の人々をヒノモトに移す様にしなくてはならないと進言致します‼︎」
合流してランパルドはエミルに13万の民しか居なかったかと問い掛け、エミルは間違い無いとして答えこの収容所の民達をヒノモトに移す様にする事を進言し、他の3国の王がサツキを見遣ると、サツキもそれで良いと無言で頷き、ランパルドはそれを確認すると号令を掛け始める。
「よし、魔法使い達は私と共に大規模転移の用意をせよ‼︎
ヴァレルニア港へ戻り、グランヴァニアの民達を避難させるぞ‼︎」
『はっ‼︎』
そうしてランパルドは杖を持ちながら大規模な転移魔法を使用を開始し、更にエミルや勇者の血を引くロマンとルル、魔族のムリア達も含めた各国の魔法使い達一同も同様に魔法を使い、真夜中の魔族と魔物の血で汚れた荒地に眩い光が集まる。
そして光が消えると同時に連合軍とグランヴァニアの民を含めた全ての人々が消え去り、戦いの後の冷たい風が吹き荒ぶのであった。
一方その頃、千里眼で戦場や収容所群の一連の動きを見ていたアギラはチェス盤を用意し、自身のポーンを一個のみ取り除くと不敵な笑みを浮かべていた。
「ふふふ、祝印を与えなかったあの者共を餌に収容所群の者共を『予定通り』救ったな、地上界の者達。
さあ、後はそのまま………ふふふふふふ」
アギラはポーンの駒を投げ捨てるとフィロ達を餌に使い収容所群のグランヴァニアの民が連合軍の、そして自身の『予定通り』に救われた事に悦びその後の展開も予想する。
そして右手は親指を中指に触れさせ、何時でもパチンと音を鳴らす用意をしながら自分の策が上手く行く事を嗤っていた。
「(…その後に何が起きるか、未だ分からないか…)」
一方アリアは別の可能性が発生し得る事を予想し、兄が図る策がそのまま綺麗に決まると思い切って居らず、その後の身の振り方も考え始め戦力図式を逐次頭の中で更新するのであった。
収容所群から人々を救い出してから20分が経過し、船に続々とグランヴァニアの民が乗り込みだしそれを外から見ていたフィロとリヨンはその光景を見て笑顔を浮かべていた。
「ああ、我が国の民達が…ありがとうございます、4国の勇気ある皆々様…‼︎」
「その礼は全ての民達を救うまで取って置いて下され、フィロ皇貴妃、リヨン第3皇子」
フィロとリヨンが涙を流しながら民達が船の中に入る光景を見て4国の王達に礼を述べていたが、ロックがそれは全てが終わってからにしようと話しながらグランヴァニアの民達を見ていた。
一方エミルとロマン達、ネイル達は少し離れた場所でそれを見ており、更にはレオナ達も民達の誘導や今直ぐに食事が必要な者達に簡単な料理を食べさせてから船に乗せる様にしていた。
「…」
「如何したの、エミル?」
「少し『上手く行き過ぎてる』、そんな気がしてならないのよロマン君。
何か胸騒ぎがするのよ…」
だがエミルは前世の経験から今の何もかもが上手く行き過ぎている事に胸騒ぎを覚え、険しい表情をしながらアギラが次に打つ手が何なのかを考察し始めそれに付随した言葉が無かったか今までの会話から思い返していた。
「あ、お前はロマン‼︎」
「えっ、その声は…ギャラン⁉︎」
その時、ロマンに声を掛ける者が居りエミル達は視線を移すと其処にはギャラン、更にはベヘルット元侯爵に夫人の3人が居り、 エミルやルル達も意外な人物とグランヴァニアで再会した事に驚きそちらに視線を向ける。
するとキャシーは未だギャランがトラウマなのかロマンとネイルの陰に隠れてしまう。
それを見たネイル達はキャシーを庇い、ロマンが話し始める
「ギャラン、それにそのご両親も…何でグランヴァニアに?」
「お前や其処の王女サマ、それに其処の月下の華達に親の方共々悪事をバラされまくってどの国でも白い目で見られるからグランヴァニアに行くしかないって話になったんだよ‼︎
お前等には恨みしか無いぞこの野郎‼︎」
如何やらギャラン達は親もルル達に悪事をバラされ、元侯爵家と言う身分が足枷になり最早4国の何処に行こうとも白い目で見られるしか無くなりグランヴァニアへと渡って来ていたらしかった。
その証拠に身形や鎧等が手入れされておらずボロボロになっており、ロマンに剣を向けるがその剣すらボロボロであり、見るに堪えなくなっていた。
「あん時の恨み、全部此処で晴らしてやる‼︎
うぉらぁ‼︎」
「ふんっ‼︎」
【カン、バキィィン‼︎】
ギャランはリリアーデでの恨みを晴らすべく剣で斬り掛かって来るが、ロマンはそれをミスリルシールドで防ぐとギャランの剣は折れてしまいその刀身は地面に刺さる。
そしてギャランは折れた剣に視線を向け、ロマンの方にも視線を向けるが最早恨みも今の1撃で折れてしまいへたり込んでしまう。
するとロマンは近付きギャランに再び話し掛け始める。
「ギャラン、君は今みたいに何度も何度も間違って此処まで来ちゃった。
その果てがその剣だって、僕は………そう思ったんだ。
だから上手くは言えないし安易にやり直そうとかは言えない、だけど…」
するとロマンはギャランの目線に立ちながら折れた剣と彼の目を見て話し始める。
其処には呆れも何も無く、しかし今の彼は最早見るに堪えない落ちぶれた果てだった。
その彼に安易にやり直そうと口にせずただただ話し続け、だけどと付け加えると…ギャランに手を差し伸べていた。
それも極自然に。
「…もしも困った事があるなら、この手を伸ばして君を助けるよ。
それが、僕が君にしてあげる唯一の事だと思うから…」
「ロ、ロマン…」
ロマンはお人好しとも呼ぶべき優しさからギャランを助けると話し、それが自分に出来る唯一の事と言い切り彼に手を伸ばしたままだった。
それを見聞きしたギャランはロマンの優しさに恨みも何もかも折れた為その手を泣きながら取り、そして彼に手を引かれながら立ち上がり折られた心を優しさで包まれていた。
「…一件落着、か?」
アルはこの光景を見て2人の間にあった何かが崩れて漸く対等な人間同士になったのかと思い、それを口にすると陰に隠れていたキャシーも顔を出してそれを見ていた。
当事者のエミルも涙で顔を濡らすギャランはこれからも苦難があるだろうと感じ、しかしその度にロマンが手助けする関係になるだろう。
そう思いながらロマンの優しさを改めて実感した瞬間だった。
「今だ」
【パチンッ‼︎】
同時刻、ロマンとギャランのお涙頂戴の茶番劇を目撃していたアギラはこのタイミングだと感じ、魔力を手に集中しながら指を鳴らした。
その音は冥府から聞こえる冷たい音であり、アリアも目を閉じ始まったかと思い始めていた。
「うっ、うっ、ロマン…」
ギャランはロマンに泣き付き自身が彼にした数々の蛮行の末でも未だ自分を見捨てないロマンの優しさを改めて感じ取り、漸くロマンと言う勇者の大きさを知った。
これからも彼に救われて行くだろう…そうギャラン自身すら思っていた瞬間、彼とベヘルット元侯爵達の胸が光り始めていた。
「?
ギャラン、その胸の光は?」
「え、あ、これ魔族達に祝印って言われて胸に押し込まれた赤い鉱石が…」
ロマンはギャラン達の胸の光に注目すると、彼は魔族から祝印と言われ、胸に押し込まれたと言う赤い鉱石が光り始めたとギャランは口にする。
「赤い…鉱石…まさか⁉︎」
するとそれを聞いた魔族であるムリアは透視を使用し、胸の鉱石を確認した上で魂の色も視て慌ててロマンとギャランを引き剥がし、ギャランを押し退かせロマンをまるで庇う様に間に割って入る。
「ちょ、ムリアさん⁉︎」
「結界魔法V‼︎」
その突然の行動にロマンは抗議の声を上げるが、ムリアは結界魔法Vを使いギャランが近付けない様に行動を取る。
ネイル達はムリアが無意味にこんな事はしないと知る為、ギャラン達に何かあるのかと凝視し始める。
「な、なあロマンこれ如何なって──」
【ドォォォォォォォン‼︎】
『………えっ…?』
ギャランは何が如何なっているのかロマンに問い掛けた………次の瞬間、ギャランとベヘルット夫妻は突如として爆発し、それ等を見ていたエミル達は乾いた声しか喉から出て来ず、何が起きたのか理解が追い付かずに居た。
「何だ、今の爆音は一体何なんだ⁉︎」
「皆〜、収容所の人達から離れろ〜‼︎
爆発するぞ〜‼︎」
その爆音に驚き様子を見に来たカルロの前でムリアはハッキリと『収容所の者達が爆発する』と驚愕の内容を叫び、しかしムリアは今まで正義の鉄剣として戦い、4国会議でも王達を守る為に戦った正義の者の為その言葉を聞いた者達は収容所群の者達から離れ始め、ランパルドは結界を最大強度で張り始める。
すると収容所群に居た者達の胸が一様に赤く光り始める。
「ちょっ、何なんだこのひか──」
【ドォォォォォォォン‼︎】
「きゃあっ‼︎」
すると収容所群に居たエミル達に情報を与えたエルフが何の光なのか慌て始めた瞬間爆発し、更に爆発はあちこちで起こり、船までも爆発し更に食事を運んでいたレオナ達も爆風で吹き飛ばされ地面に倒れ伏した。
そして直ぐに視線を戻し、エミル達も周りを見ると…其処には地獄と呼ぶに相応しき光景が目に映る。
「ぎゃぁぁぁ、腕がぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「あ、足が…ぐぅぅああああ‼︎」
「ゴフッ…‼︎」
ある者は腕が、またある者は足が爆発により吹き飛び地面に落ち踠き苦しみ、またある者は爆発をまともに受けてしまい全身を裂傷し絶命すると言う先程までの和やかな空気は一変してしまっていた。
そして船からは全身を焼かれ苦しみながら海に飛び込む兵士等が次々と海に落ちていた。
その爆発により連合軍の負傷者、死者は有に1万を一気に超えてしまっていた
そして、絶望感が港街に満ち始める。
「あーはっはっはっはっは‼︎
そうだ、この地上界のゴミ共の絶望する様は心地良い‼︎
あーはっはっはっはっは‼︎」
一方グランヴァニア宮殿跡でアギラは連合軍が完全に訳が分からず絶望する様を見て興奮しながら笑い上げ、アリアの前で愉悦に浸っていた。
それを見ていたアリアは内心で悪趣味と思い良い顔はしなかった。
「──っ、魔法使いは爆発で捥がれた部位を持ちながら負傷者を回復魔法で治療‼︎
他の兵はこの騒ぎに乗じて魔族が来ないか警戒せよ‼︎
レオナお姉様、カルロお兄様も自らに出来る事をなさって下さい下さい‼︎」
『っ、わ、分かった‼︎』
エミルは祝印の正体がこの惨劇を生み出したと悟り、カルロとレオナに自らに出来る事をする様に叱咤しながら魔法使い達には負傷者達に回復魔法を使用し、他の兵には魔族達を警戒する様にと叫び自身もキャシーやシャラを連れて負傷者の治療に当たり始めた。
「そ、そんな…私の…国の民達が…」
「は、母上…!」
そんな中ランパルドの結界で守られながら目の前で自国の民が爆発し塵も残さず死ぬ光景を間近で見たフィロは絶望に項垂れ涙を流し、リヨンはそんな母を支える様に肩に手をやりエミル達より子供なのに気丈に振る舞おうとしていた。
「何なんのだ…何故こんな事が起きた⁉︎」
「おいムリア、お前何か知ってんだろ⁉︎
何があったのか説明してくれよ‼︎」
ランパルドやロック達各王、女王は目の前の惨劇を受け止めきれず憤りを隠せずに居た。
そんな中ガムがムリアに何が起きたのか説明する様に言い寄り、当のムリアは目の前でギャラン達が爆死したのを見てしまった放心状態だったロマンの頬を叩き、無理矢理意識を向かせると重い口を開き始める。
「…『魔血破』、魔界で採掘出来る爆発性の赤い鉱石で、他の生命体の身体にも埋め込む事が出来て魔族の特定の波長の魔力を送られると爆発する物なんだ…。
本来の使い方は鏃に爆発性を付けて撃つ物か手投げ爆弾として使うか何だけど………こんな…こんな…‼︎」
ムリアはその口から爆発性鉱石、魔血破の名前を口にし、特性や本来の使い方を説明し始める。
それ等は矢に魔法を頼らず爆発する物理的な爆裂鏃や手投げ爆弾として使われると話すが、他の生命体の身体にも埋め込められる特性まである事を話してた上でこの惨状にムリアは怒りで手を震わせていた。
「…ギャラン………くっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
それ等を聞きロマンは折角その手を取れたギャランが目の前で爆死した現実を漸く理解し、その手を地面に何度も叩きながら直前に何もしてやれなかった事を悔いながら様々な感情から泣き叫んでいた。
「ムリア、なら救う方法は無かったのか⁉︎
魔族のお前ならその方法が…‼︎」
「………魔血破は天使の魔力を受けないと無力化しないって魔界で言われてるんだ………実際そうなのか分からない………ごめん、ネイルの兄貴…‼︎」
ネイルはムリアに救う手立ては無かったのかと叫ぶが、ムリアは実際にそうなのか不明だが天使なら無力化出来た事を口にすると謝罪し始めた。
そしてその謝罪は救う手立ては無かった事を彼の口から言わせる物であった為、ネイルもやり切れぬ怒りを抱いていた。
「ひゃっはぁぁぁぁ‼︎
流石ギャラン様、馬鹿な地上界の連中が慌てふためいているぜぇ‼︎」
その時、爆煙が浮かびながらエミル達が奔走するヴァレルニア港の街の地上と空中に魔族の軍団が現れ、その数は8万を有に超えておりガムやアル、サラ達は嫌でもこれが本命だったのだと悟りながら魔族達を見ていた。
「くっ、レオナお姉様、私やキャシーちゃん、シャラさんは魔族と戦います‼︎
お姉様達は何とか負傷者達を救って下さい‼︎」
「分かったわエミル、この私の全ての体内魔力が枯れ果てるまで、負傷者達を守り治癒するわ‼︎」
エミルはその魔族の軍団を目撃するとキャシーとシャラを引き連れて戦う事を選択し、レオナはエミルに言われ他の魔法使い達と共に負傷者達の治癒と防衛をすると宣言する。
すると無事だったアルクやカルロ、リン達は無事な兵達と共に魔族達と既に戦闘を開始し、戦闘音が港街に鳴り響き渡っていた。
「ぎゃははははは、さあ足掻け足掻け塵芥共‼︎
どうせ抵抗しても此処でお前達が死ぬ事は決まってるんだからなぁ‼︎」
すると魔族の1人が嘲笑いながら戦場全体を見渡し、混乱し切る中で抵抗する連合軍を尻目に自身の獲物を見定めようとしていた。
その言葉を聞いたロマンはフラッと立ち上がり、剣を構えてその魔族の前に立ち、更にネイルも剣と槍を構えながらロマンの横に立っていた。
「おお勇者様に英雄さんの子孫だぜ、お前等集まれ‼︎」
『ギャハハハハハハ‼︎』
するとその魔族はロマンとネイルに狙いを定め、他の魔族も呼び周りを囲み何時でも襲い掛かれる様にロマンやネイル、アル達の前立ち塞がっていた。
「貴様達に問う、これが貴様達の正義か?」
「ああん?
地上界の連中を爆弾にしたから頭沸いてるのかコイツ?」
「もう一度問う、これが貴様達の正義か?」
そんな囲まれたロマン達を救おうとアル達も武器を構え始めると不意にネイルがこの行いが魔族達の正義かと問い始め、仲間を呼んだ魔族は頭が可笑しくなったのかと嘲るが何度も問い掛ける勢いで正義であるかを問いた。
すると周りの魔族達も笑いながらそれに応え始めた。
「そうさこれが正義さ‼︎
お前達塵芥の地上界の連中には分からない高等な生命である魔族、特にアギラ様の正義なんだよ‼︎
如何だ、これで満足したか?」
問い掛けられた魔族はあくまでも自分達こそ高等な生命であるとしながらこの惨状を自分達のトップであるアギラの正義と語り指を指しながら笑い、そして周りの魔族共々武器を構え始める。
すると………その問い掛けられた魔族の首が無言のまま距離を詰めたネイルの剣で刎ねられた。
『…なっ⁉︎』
「こんなのが…こんなのが正義であって堪るか‼︎
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」
『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』
周りの魔族達はそのスピードに驚愕した瞬間、ネイルはこの行いが正義であって堪るかと慟哭の叫びを上げながら魔族達に剣と槍で乱舞を始め、それを皮切りにアルやガム達も魔族達に突撃したり矢を放ち始めた。
「…ギャランの、ギャランの仇だ………うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
そしてロマンも今までに無い怒りを胸に抱き魔族達の群れの中に飛び込み始め剣で次々と魔族を斬り始める。
そしてヴァレルニア港街は混沌を極める戦場と化し、魔族も次々と転移して来るのだった。
此処までの閲覧ありがとうございました。
アギラの『趣味』、それは地上界の人々が絶望して泣き叫ぶ姿を見る事でした。
その為の魔血破でした。
そしてアギラの策はまだ終わりではありません。
では今回は再会後のギャラン、魔血破、フィロ親子に魔血破が無かった訳を書きます。
ギャラン:ベヘルット侯爵家が取り潰しになり、冒険者ギルドから永久追放された彼は家族共々後ろ指を指されない様に直ぐにグランヴァニアに逃亡していた。
その為この国で極貧生活を送り、碌に剣の手入れも出来ない上に周りからは他国から来た者と白い目で見られていた。
それ等を全てロマン達の所為だと逆恨みしながら生きて来たが、ロマンとはレベルも人間性も絶対的な差が生まれ復讐は失敗に終わった。
しかしロマンのお人好しとも言える優しさから復讐心も折れ、一から彼と関係がやり直される…筈だった。
しかしアギラの策略により親共々死亡してしまった。
魔血破:魔界で採れる爆発性がある鉱石で、魔族の魔力を注がれると手頃な爆弾になる。
本来の用途は手投げ爆弾や矢を爆発性の鏃にして遠距離狙撃で爆破するのが本来の用途だが、この鉱石には他の生命体の肉体に埋め込める特性が存在する。
今回はアギラの趣味の策略の為にギャランやグランヴァニアの民達の身体に祝印と呼び国を挙げて埋め込ませ、この時が来るまで爆破しない様に扱われていた。
そしてその悪逆な策は遂に炸裂してしまった。
これを無力化するには天使の魔力を送られる必要がある。
フィロ親子に魔血破が無い訳:ドゥナパルド4世に魔族の祝印を受け取る資格無しと言い渡されて埋め込まれなかった為である。
更に千里眼で逃げようとする2人をアギラは見つけ、この2人をデコイにしグランヴァニアの国民達を普通に助けられると油断させる為に泳がされていた為でもある。
次回もよろしくお願い致します。




