第19話『誓いの翼、決心する』
皆様こんにちはです、第19話目更新でございます。
今回はまったりとした回になると思います。
では、本編へどうぞ。
ロックとリリアナに警告をした後、エミルは早速アレスターの遺した書籍から日記に至る全てを宿屋の一室に移して貰ってる事から、近衛兵に頼み宿屋に移動してその部屋に入って行く。
すると其処には100冊を超える論文書籍から日記までが置かれ、ベッドの間を縫う様に置かれそれにロマン達が机やベッドの裏で齧り付いて見ている光景が目に入る。
「あ、皆寝てなかったんだね」
「当たり前よ!
このアル様があんな風にボロ負けさせられて黙ってる訳には行かないからな、読書は苦手だが限界レベル突破とやらの糸口を探してるぜ!」
「それにしてもアレスターは本当に論文纏めが万人向けって感じがするね。
ほら、この『魔法、絶技の熟練度等による効力の差分』って書籍。
体内魔力の強度に自身のレベル、魔法等の熟練度が及ぼす威力、効力の差を分かり易く纏めてくれてるよ。
本当に、あの子は天才だったんだよね…」
エミルが話し掛けるとアルが天井に本を掲げながらパラパラとアレスターの本を読み、他の皆もルルに至ってはフードを取り齧り付く様に集中し、更にロマンも『武器の質が齎す魔法、絶技への影響』と言う論文を読みサラは少し悲しげに弟が遺した数多くの論文を見てそれらを全て1人で纏められる天才だったのだと思いながら頁を捲っていた。
「…うん、アレスター先生は本当に天才なんだよ。
もしも今も生きていたらライラ様を超える程の………。
さて、私も読むわね…基本の『魔力一体論:アレスター著書版』から当たってみようかな?」
エミルはサラの話を聞き、アレスターを自身と比べても存命していれば間違い無く伝説を塗り替える逸材、真の天才だったと結論付けており、その生きた年齢差や才能の差から尊敬の念を込めて彼を常に『先生』と読んでいるのである。
「(…先生、貴方が一体何を掴みそうになって魔族に消されたのか、確かめさせて頂きます)」
そんなアレスターが何を掴み掛けたのかを確かめるべくまずは基本の本から手に取り、少しの間畏敬の念と遺品漁りをする事への謝罪をしながら本を開き、この次には日記に何か残していないかを確かめるべく全員による夜通しの閲覧作業が5人で行われるのであった。
ミスリラント本国、ゴッフェニアの玉座兼作業台において、今は火を灯していないが炉の手入れは欠かさないゴッフは今日も4国会議を控えながらも作業台や鍛治道具、自身の武器の手入れを欠かさず行なっていた。
「親父様、フィールウッド国より賢王ロック様と予言者リリアナ様の名で親父様への書簡が転送魔法で送られて来ましたぜ!」
「あんだと、アイツ等から書簡っつうか手紙が送られただぁ?
ふん、4国会議前に何かあったか?
どれ、見てやるからさっさと持って来やがれ!」
そんな時に番兵の1人が玉座に入り、転送魔法でロック、リリアナの2人から書簡が送られて来た事を伝えられそれを見せる様にと番兵に持って来させる。
なおこの書簡にはゴッフが直に触れて魔力を検知しないと封が切れない封印魔法が掛けられており、更に封には何と久方振りに見る誓いの剣の印が使われており、ゴッフは驚きながら書簡を食い入る様に見入っていた。
「…ふむ、ふむふむ………。
成る程な、通りでこの印を使う訳だな。
さて、と!」
【ザンッ、ボォ!】
ゴッフは手紙数枚の内容をじっくりと見入り、それ等を捲りながら熟読が完了した結果、ゴッフは何と自らのミスリルアックス(ライラの魔法祝印付き)を徐に持つと、火の絶技を使いながら手紙を全て燃やしながら斬り、番兵を驚かせた。
「な、何をしてるんですか親父様⁉︎」
「なぁに、ただ昔話とムカつく黒歴史を延々と書き連ねただけのただの手紙だ。
だから斬って燃やした、それだけだ。
分かったらさっさと部屋前の警備に戻りやがれ、てめぇのこのサボりの時間分を賃金からしょっ引いて孤児院に寄付してやるぞ‼︎」
「は、はい、すみません親父様‼︎」
それをゴッフはつまらない手紙を送って来たのだと番兵に叫ぶと、現在部屋前の警備から抜けているこの兵の時間をサボり認定し賃金からその分を差し引き孤児院に寄付すると脅し文句を叫ぶと、番兵は急ぎ自身の仕事へと戻るのだった。
そうして玉座に1人残されたゴッフは空の月を見ながら先程の手紙の『内容』を思い出していた。
「(…ああ、お前等の警告はしっかり伝わったぜ。
後は『その時』が来たら身体を動かせる様にしとくぜロック、リリアナ、そして…エミル、いやライラよ…)」
ゴッフは手紙から伝わった『警告』を身に染みさせ、更にその手紙の中にライラがエミルとして転生した事も伝わり、存命しているロック達や死に別れ、セレスティア王国の勅令やら新魔法開発で顔が転写されたエミルの表情を思い浮かべながら玉座で瞑想を開始するのだった。
ゴッフが書簡を読み、瞑想を始めた同時刻。
セレスティア王国の貿易商人の自宅にて、銀髪の少女が横に居る長身の執事に見守られながら貿易の書類にサインをし、それ等を纏めながらの作業を繰り返していた。
「『エリス』お嬢様、『ザイド』氏からミスリル鉱石の発注、更に『ラーガ』氏から人員の融通をせよと言う要請書が届いておりますが如何致しましょうか?」
「あら『ティン』に『ティア』、何時もご苦労様ね。
ザイドには発注された分を送り、ラーガには自分の信用に足る部下達で何とかなさい、私やザイドに頼るなと書簡でも送って遇らいなさい。
どうせ何時もの馬鹿の浅知恵での人員搾取だから私達4人の誰かを回す必要は無いわ」
「畏まりました、ザイド氏には適切に、ラーガ氏には適当な対応を致します」
エリスと呼ばれた少女はティンとティアと言う双子の兄妹にザイドと言う『貿易仲間』にはミスリル鉱石を送るサインをしながら書類を手渡し、ラーガには完全に呆れた様子を見せつつ人員配置の申請書類を破り捨て、ゴミ箱に捨てると2人にそれぞれの対応を命じ下がらせる。
「ふむ、ラーガも4国会議の日が近い為からか確実性を求め我々にも声掛けをし始めてる様だ。
ですがお嬢様、ラーガ如きに力添えする事は無き様に。
奴めの腹の底はお嬢様の落命をあわよくば狙っていると」
「分かってるわ『アズ』。
私達は私達のやる事をするだけ、其処にラーガの意志など介入させる余地は無いさ」
するとアズと呼ばれる執事がラーガの腹積りを読み、決して力添えしない様にとエリスに進言すると、エリスもそれは分かっているらしくやるべき事をするのみと言いながら書類に更なるサインを進め始める。
そして、ランタンに照らされる部屋で映る2人の影は禍々しいオーラを帯びており、彼女達が何者であるかを知る者は未だ存在しなかった。
アレスターの遺した論文を夜通しで隅から隅まで見続けていたエミル達は、朝になり朝食を摂った後にロック達に不思議な泉を見せて貰うべく宮殿まで歩いていた。
「ふぁ〜…眠い〜…」
「だが、ルルとエミルのお陰で本の半分は閲覧完了出来たぜ。
残る半分を見終われば何かヒントがある筈だぜ?」
サラは大きな欠伸を掻きながら歩き、ロマンやアルも眠気に襲われながらも集中して熟読していたルルにエミルのお陰で半分程は閲覧終了し、残りは論文と少しの日記となっていた。
「じゃあ私は日記の方を当たらせて貰うわ。
恐らく論文なんて誰でも分かり易い物に自分が掴んだ物を載せるなんてリスキーな事は先生はしない筈だから」
「分かり、ました…。
…じゃあ、私達は論文の方を、読み続け…ますね…」
そうしてエミルはもう論文にはアレスターが掴んだ何かは無いと当たりを付け日記に手を出すと全員に話すと、ルルも論文を読み続けてそれが終われば彼女を手伝える為ルルはフードを被りながら気合いを入れながら歩いていた。
そうしてエミル達が宮殿に辿り着くとロックが近衛兵達を下げ、その場には誓いの翼と賢王、そして予言者のみになった。
「うむ、早め早めに来て貰えて何よりだ。
では早速その泉へと案内しよう。
リリアナ、封印解除を」
「ええ」
するとロックは玉座から立つと全員を見渡しながら行動が早い事を褒めつつリリアナに案内をする為の封印解除を頼むと彼女は玉座に手を翳し、魔法陣が浮かぶと解除魔法が発動し、玉座が前に動き始める。
それに驚きエミル達は駆け寄ると、元々玉座があった場所の下に石造りの階段があり、エミルは何処か門の遺跡群を思い起こす作りと模様にこの先に何かあると確信する。
「では行こうか」
「うん、分かったよお父様!」
その光景を見てすっかり眠気が吹き飛んだ5人はロックとリリアナの案内の下に石造の階段を降り始める。
するとリリアナは階段方面から再び封印魔法を発動し、玉座を元の位置に戻し辺りは真っ暗になる…筈だった。
「な、何だ、壁の間にある木が青く光って光源になってやがる⁉︎
こりゃぁ、いよいよ何かありそうだぜお前等!」
「うん…!」
「では進もうか」
アルは突如壁や天井にある木が青く輝いた事を驚き、この先に何かあると全員で確信しながらロックが最前列に立ちながら一段、一段と階段を降りて行きゆっくりと進み始める。
すると光源も次第に強くなって行き、階段を降りると人工的な洞窟に突き当たりエミル達は更に進む。
そうして10分程歩いた先に、青く輝く綺麗な泉が目に映りエミル達はそれに目を奪われていた。
「どうかね、これがリリアナが予知した君達やサラ、ルルが探している『神秘の泉』であろうか?」
ロックはこの泉こそがリリアナが予知した『エミルやサラ達が探し出そうとする神秘なる泉』と話し、それに目を奪われながらもエミルは早速やるべき事をしようと前にで始める。
「…えっと、先ずは調べてみないと分からないですが…少し失礼します。
魔法元素の流れを、辿って………」
エミルは泉に手を翳し、魔法元素の流れを読み解く為に意識を集中し始める。
この魔法元素の流れを読む力はエミル…ライラに備わっていた才能であり、これがあった為に魔血晶解析や念話傍受魔法開発が可能となる類稀な才覚であった。
その才能を以てこの泉の魔法元素の流動を探ると………確かに、門に『繋がっていた』。
それも縛られし門に似た魔法元素の効力まで読み取ってしまっていた。
「…これ、この泉自体が縛られし門と似た作用で門を縛ってる!
皆、間違い無いよ、これが楔の泉‼︎
魔王を魔界に縛る聖なる泉よ‼︎」
「マジかよ、手掛かりが見つかればと思ってたらいきなり当たりを引いたか‼︎
俺様達は如何やらツイてるらしいな!」
エミルはこの泉の存在に興奮気味に話し、これこそが楔の泉の1つであると確信し、誓いの翼達は喜び合いサラがハイタッチを促し全員でタッチを行なっていた。
「楔の泉…ふむ、詳しく話を聞かせて貰えないかね、エミル王女殿下」
「我々も何か力になれると思います」
「はい、実は…」
ロック達は楔の泉の名を聞き、エミル達から詳しい話を聞くべく彼女達に問い掛け始める。
そうしてエミル達は自分達がアザフィールやシエル達4人組の魔族に敗北した際にシエルが漏らした楔の泉、地上界の者の限界レベルについて詳しく話すと、ロック達は互いに見合いながら再びエミル達に視線を戻す。
「この泉はそんな重要な物だったのか…!
リリアナと初めてこの泉を見た際に『真に信じ得る者以外に神秘なる泉の存在を明かす事勿れ。
誤った者に知られれば地上界の未来は消え去るだろう』と不気味な予知をしたものでね。
我々はゴッフと共にサラ達が十分成長し切るまでこれの存在を明かさないとした。
そしてサラは仲間達を連れ平均レベル210を超えた、話すなら今だろうと考えた所で再び予知があったのだ」
ロックは目の前にある楔の泉がその様な物であると知り、リリアナと共に初めて見つけた際の不気味な予知により今までサラやルル達には存在を少し珍しい泉程度にしか教えず、ゴッフと共に胸に仕舞い込んでいたのだ。
そんな内にサラ達がアザフィールに負けたとは言えレベル210になった事で真にその存在を明かそうとした際に再びリリアナが予知を見たと話していた。
「それにしても私達地上界の者の限界レベルが私達が漸く到達した250で打ち止めだったなんて知らなかったわ…」
「それをアレスター先生が何か掴んでいたから、あの方は間違い無い天才でしたよ、ロック様」
その話で盛り上がる中でリリアナは自分達誓いの剣が血の滲む想いと悲劇等の積み重ねで漸く到達したレベル250が限界レベルだったと知りこれ以上強くなれず、また今回の敵は自分達を上回る存在すら確認された為愕然とする中でエミルは、アレスターは真に天才だったと話しながら彼の死が如何に魔族側に有益だったかを彼等に想像させる。
「あの、僕達はこの後もアレスターさんが遺した物を読み解いて何を掴んでいたのか僕等は絶対に知ります!
そして、限界を超えてみせます‼︎
次こそは皆を守り切れる様にする為にも‼︎」
「…勇者ロマン、君は若い頃のロアにそっくりだ。
勇気があり、そして他者の為に戦う…正に彼の子孫だよ。
君や、エミル王女殿下にサラ、ルル、そしてアル…誓いの翼に未来を託しても大丈夫だと、この短い会話の中で見出したよ。
頑張りたまえよ、若者達」
その想像をしてる間にロマンがロックやリリアナにアレスターの遺物を読み解き次は………つまりアザフィールやシエルが相手だったとしてもエミルやサラ達を守り切れる様にする為にと少し引き腰ながらも言い切り、2人に自分達を守り抜いたロアの面影を見出し、彼の血脈と意志がしっかりと継げられている事を見た誓いの剣の2人は次代に未来を託し、自分達は支援に回ろうと此処で決意をするのだった。
「…ふう、じゃあこの場所の楔の泉の処置についてはリリアナ様の封印があるから大丈夫として、先代勇者一行から未来を託されたからには急いでアレスター先生の遺物を読み解きましょうか!
躓いて恥を見せない為にもね!」
「うん、そうだね〜‼︎」
「…はい…!」
そうしてエミルは堅苦しい空気を消す様にアレスターの遺物解読を進める様に話しつつ、封印魔法が得意なリリアナがこの場を守っている為フィールウッドの楔の泉は彼女達に任せ、他は何とか探し当てて結界を張り守るなりの処置を考えつつ今度はリリアナ先導の下で地上に出て宿屋に戻り始めるのであった。
「クックックッ、フィールウッドに潜入して居たらこんな棚から牡丹餅…だっけか、ヒノモト特有の諺は?
兎も角苦労もせずにロックとリリアナが何かを隠している場面を目撃しちまうとは!
兎に角これを急いで魔族側に報告しなくては‼︎」
しかしそんな場面を影から何の苦労もせずに目撃していたエルフの男が居り、それ等を見届けた後影からそそくさと立ち去り魔族達にそれを報告しに行こうとしていた。
【ビュンッ、ズシャッ‼︎】
「えっ…あ"………」
しかし、その後の行動を起こそうとした瞬間矢がエルフの男の頭を貫き、男は脳症を垂れ流しながら倒れ死に絶える。
その矢を射った者はサラの父、賢王ロックであった。
更に木の上から1人のエルフの少女が降り立ち、その同族の男の服を弄りある刺繍を見つける。
その刺繍は魔族信奉者の国、グランヴァニアの国旗を象った刺繍でありつまりこのエルフの男は魔族側の味方であったのだ。
「ふん、能天気だけどそれが良き姉上と違い私は貴様達スパイや怪しき者の動きは把握している………父上、矢張りグランヴァニアのエルフでした」
「そうか………魔族だけでも面倒なのにやれやれ、地上界の中にも獅子身中の虫が居るとはな…内偵ご苦労だった『リン』。
引き続き内偵調査を頼むぞ」
その木の上から現れたのはサラの妹であり、フィールウッド国の諜報員としてその身を捧げている少女、第2王女のリンである。
彼女はこの男を前々からマークしており、そして確信を得た為ロックとリリアナ、近衛兵にしか分からない合図を送りロックはそれを受け男を射殺したのだ。
更にロックは他にもマークしている者を内偵する様に命じる。
「はっ!」
【ビュンッ‼︎】
その命を受けたリンは早速次なる行動へと移り、木から木へ飛び移りながら気配を完全に殺しロックとリリアナ位しかその気配を察知出来ぬ様になる。
そうしてロックは近衛兵達にサラやエミル達にこの現場を見られぬ様に後始末を任せ、獅子身中の虫たるグランヴァニアに頭を痛めながらエミルから受け取った『警告』を気にしながら4国会議に向け、リリアナと共に出立の準備を進めるのだった。
一方その頃エミル達は宿屋で論文や日記を熟読し、エミルは外の様子を透視で把握しつつも余計な事で全員を混乱させたく無いとして次の日記に手を付け始めていた。
それも『魔力の流れを感知する様にしながら』。
「うーん、中々見つからないね〜」
「アレスターの坊主は隠し事も得意だったからな。
簡単に見つけられちまう様なもんじゃねぇさ」
一方サラもアルもアレスターの丁寧な論文を見つめながらヒントを残すにしても敵がもしも見て把握出来る様にはしていないとして更に本の頁をロマン達と共に捲り集中をしていた。
そうしてエミルも2冊目の日記もハズレとして丁寧に置きながら次の日記を手に取り、同じ作業を開始し始める。
「………あっ‼︎
コレよ、コレがアレスター先生が遺したヒントよ‼︎」
『えっ⁉︎』
するとエミルは漸くアレスターが書き起こしたヒントを見つけた事を口にし、ロマン達も齧り付く様に見ると、それは一見して只のカルロ達生徒の成長を見守る日記であった。
しかしエミルが間違える訳が無いとして全員で早く種明かしをする様にと視線を送っていた。
「良い?
この日記は本当にただ見るだけなら普通の日記なの。
でも、指に魔力を集中して文字をなぞって行くと………」
【キィィィィィン‼︎
ブォォォォン‼︎】
「げっ、日記の全部の文字が浮かんで球体を作りやがった⁉︎」
エミルは早速アレスターが施した物を説明しながら魔力を集中した指で文字をなぞると、日記の文字が全て浮かび上がり球体を形作り、その中に文字が舞うと言う幻想的な光景を作り上げていた。
更にその球体の中心には形がバラバラな文字があり、それがまるで金庫の鍵の様な物であるとロマンは思いながら、サラとフードを取ったルルはこの光景を見てあるエピソードを思い出す。
「そうだ、アレスターってこんな風に文字を書いた本に細工をして魔力を流さないと正しい文章が出ない様にしてた事があったわ!」
「そしてこの中心部は正に鍵。
形がバラバラになった文字を正しい形に戻す事で本当の内容が出る仕組みになってた筈!」
「そう言う事、私やお兄様達も同じ事をされながら講師を受ける事があったからこの仕掛けが分かるの」
如何やらアレスターにも悪戯心が何かか、本に魔法の細工をして本来の内容を隠して正確な文を出すには文字の球体の中心部にある形が崩れた文字を正しい形にしない限りその正しい内容が閲覧出来ない様に鍵掛けをするエピソードがあったらしく、エミルもアルク達を始めとしてこれをよくやられながら講師を受けていた為本を読む際は文字を魔力集中した指でなぞりながら熟読したのだ。
「さてと、正しい文字の形は………」
そんなアレスターの講師を受けていたエミルは中心部の文字を弄り始め形を整え始める。
そして、あれよあれよと正しい文字の形に整えて行き最後に文字を弄ると以下の文字が浮かんでいた。
『Open the magic books.』、魔導書よ開けであった。
【キィィィィィン‼︎
シュバババ‼︎】
すると文字の球体が崩れ、中の文字達が正しい内容で本に収まって行き、最後の文字まで日記の中に吸い込まれるとエミルは盗聴防止結界を発動させながら音読を開始し始めた。
「…日記の正しき内容を読む人へ、この日記を正しく読んでいると言う事は私は何らかの理由で死んでしまったと言う事でしょう。
なので、此処に私が掴み掛けたある物を書き記します」
「けっ、あの坊主若い癖に自分が死んだ時すら想定しやがってよ」
エミルが内容を口にして行くと如何やらこの日記は自身が死んだ際を想定し書いた物だと分かり、アルも150しか生きていない坊主が死んだ時の事を考えるとはと考え、ロマンは先見の明が凄い人物だと思いながらその朗読を耳にしていた。
「私は70年前、父さんである賢王ロック様と共に魔物狩りに出た事があった。
其処で私は順当にレベルアップをしましたが、父さんはレベルアップしませんでした。
初めはレベル250まで上がり過ぎた為に熟練度元素を尋常ならざる量を吸収しなければレベルが上がらないのではと考えました。
しかし、その考えは何度か狩りに出た際に違うと結論付ける事がありました」
日記には70年前のロックとの魔物狩りを何度かした経験が書かれ、其処で自身は順当なレベルアップをしてたがロックは全くレベルアップしない事を不思議がり、そしてその何回か狩りを繰り返して行った事で熟練度元素が異常なまでに必要だと言う考えを否定するに至っている。
その理由を知るべく更に内容を読み進める。
「私は魔力の流れを読む力が他の魔法使いよりも高かった、この事で父さんが本来得るべき熟練度元素が全く吸収されず霧散すると言う事に気付けました。
一体何故?
私はこの謎を解明すべく自らを実験台として様々な修行法を試しました。
そして、ある修行をした事で私の身体の中に体内魔力や様々な物を覆う枷があり、レベルアップする毎に枷も強固になる事に気付けました」
其処にはロックが熟練度元素を全く吸収出来ずそれが霧散する現象をその目で見た事が綴られ、更にある修行を試した結果自らの中に枷が見つかり、レベルアップすればする程枷が強固になると書かれ、これが限界レベルの事だとエミル達は悟り互いを見合いながらエミルは更に朗読を続ける。
「そのある修行とは、高濃度魔法元素が放出される土地、つまり世界樹周辺にある魔法元素かほぼ感知出来なくなる絶縁地帯と呼ばれる場所で魔法元素を感知し、己の体内魔力と魔法元素の流れと体内魔力を覆う枷をイメージし、それに触れると言う瞑想に近い修行法です。
これをする事で自らの枷に触れる感覚が分かる筈です」
そしてその修行法は何と世界樹周辺にある絶縁地帯で瞑想とも取れる物を行い、其処でほぼ無い魔法元素を感知し、体内魔力や魔法元素の流れ等をイメージする事で枷に触れられると言ったある意味簡単な内容とも取れる物だった。
「何だ簡単じゃねぇか、だったらさっさとその修行をして限界レベルを」
「待って、まだ続きがあるわ。
但し、あくまでレベル40時点での私では触れる事が精一杯で枷を壊すなど出来ませんでした。
その為もっとレベルを上げてからこの修行法を試しました。
レベル120になった今の私ならこの枷を壊せる…そう思い触れました。
すると…私の意識は何処とも分からぬ場所に持って行かれてしまいました」
アルは簡単だと話したその修行法の続きをエミルが読むとレベル120、つまり今の生前のアレスターがこの修行法を試した瞬間、自らの意識が何処とも分からぬ場所に持って行かれたと言う不気味な内容が書かれており、更にその続きがあった。
「更に私に誰とも知れない声が何かを問い掛けて来ました。
その時の内容は覚えていないが、返答は『今の私には出し兼ねる、また次にこの場に立たせて貰った際に答えを出させて欲しい』と答えたのは覚えています。
そしてその声もなら次まで待つとも言ってました。
故に私はこの時に何かを答えていたら変わっていたのか、それとも…。
兎に角この修行法は私が最も背筋が凍った修行法です、これを読んだ方達はやるならば相応の覚悟を以て行って下さい。
限界の壁を超えられる可能性もあればもしかしたら死の可能性もあると」
其処に更にアレスターの体験談として意識を持って行かれた場で謎の声に問い掛けられたと書かれ、一気にホラー色が増す修行法となり始めていた。
そして文の中でアレスターは返答出来なかったと書き、もしも答えたら何が待ち受けていたのかも分からず終いであり、アルも固唾を呑む内容に不気味な物を感じていた。
同時に確証は無いが可能性があるとされており、エミルはそれだけ確認出来ただけでも御の字としていた。
「次が最後の頁ね…そしてこれを開く貴方達へ。
もしも開いてるのがアルク様達セレスティア王族の誰か、或いは全員か姉さん達だったのなら………本当にこの方法での修行は今までの自身を超える為でもオススメはしません。
しかしこれを読んでいると言う事は決意は固いと言う事でしょう。
なら私はこれ以上小言は言いません、ただ無事に修行を終える事を祈ります。
セレスティア王家専属講師、アレスターより…先生…」
そして最後にはアルクやカルロ、サラ達が読んでいる事を前提にして最後までこの修行をオススメはせず、しかし決意が固いならと死した身でありながら無事を祈ると締め括られ、アレスターの人想いにエミルやサラ、ルルは涙が流れ、ロマンは名前だけ知っていたが実際に偉大な魔法使いだったのだと思い知り、アルも流石に何も言えなくなっていた。
「…ねえエミル、私この修行をやるべかかなと思うの。
限界レベルを超える云々関係なく、アレスターが見つけた方法が正しかったんだって私、証明したくなったよ、この文を見て」
「エミル、私もこれがアレスターの掴み掛けた物なら…!」
するとサラ、ルルが真っ先にエミルに意見を出し、アレスターの見出した修行法が正しくあった事を証明したいと口にして彼女の同意を得ようとしていた。
「エミル、僕からもお願い。
この文を見て、アレスターさんの偉大さや優しさ、僕はそれを受け継ぎたいって思えたから…」
「…俺様は限界突破してあの手の4人組に一泡吹かせてやりてぇ。
だから枷を壊す修行に賛成だぜ」
次にロマンとアルがそれぞれの理由でこの修行法をすると進言し、残るはエミルの意見で完璧に決まる所になっていた。
そのリーダーのエミルは…早速パーティメンバーの命懸けになるあも知れない修行が頭の中で迷いを生みそうになる………だが、このメンバーなら突破して魔族達に一泡吹かせられる。
何より、弱さを曝け出した後の為かエミルがそれを考えると迷いは消え皆の目を見て発言する。
「皆…早速命懸けになるけど後からやっぱ無しは言って良いわよ、誰も責めたりしないから…って言っても皆の決意はオリハルコンみたいに固くなっちゃったみたいだからね。
ええ良いわ、この方法で限界レベル、突破してやりましょう‼︎」
『OK‼︎』
こうしてエミル達は世界樹の絶縁地帯で魔法元素を感知し、其処から様々なイメージをしながら自らの中の枷に触れると言うアレスター曰く危険が付き纏う修行をする事になった。
その時の誓いの翼の面々の表情は決死の覚悟が決まった物となっており、それぞれ瞳の奥に決意を燃やしていたのであった。
此処までの閲覧ありがとうございました。
エミル達は遂に限界突破の鍵を見つけました、これからそれをする修行回になります。
エリス達と言う無関係そうな者が出た理由は後程分かりますので今回は設定公開しません。
そしてまったりと言いながらグランヴァニアのスパイが動いてたりしました、はい。
では今回は楔の泉、アレスターの癖、リンの設定を書きます。
楔の泉:魔族の眼にはただの泉にしか映らない魔法元素の流れが澄み、縛られし門と似た効力を持つ泉。
その効果は魔王の地上界侵入防止であり、シエル曰く天界が設置したとの事だが何故こんなものが地上界にあるのかは現時点では不明である。
アレスターの癖:アレスターは日記や書籍に特殊な魔法を加えて本来の文を偽りの文に変える癖がある。
これは本当の内容を理解出来るか否か、その痕跡を見つけられるかと言う彼の遊び心から始まり次第に生徒の指導にも使われる様になった。
この為エミルやサラはこの癖を知っていた。
リン:フィールウッド国の第2王女でサラの妹、アレスターの姉。
年齢は370と初代勇者ロアの顔を知らない世代である。
彼女はフィールウッドの内偵をしており、国内にスパイが紛れ込んでいないかを調査する事を使命としている。
因みにアレスターの事を良く出来た弟として見ていた。
そしてリリアナの娘であり義賊のルルには尊敬の念を抱いている為、本業モードの彼女の様に影から影へ行く様に心掛けている。
次回もよろしくお願い致します。




