第18話『エミル、再会する』
皆様こんにちはです、第18話目更新でございます。
今回はエミルがあるキャラと再会します。
では、本編へどうぞ。
船に揺られ5日間、海賊も海棲魔物にも襲われず船はゆっくりと揺られ、午後にリリアーデ港街に辿り着いていた。
そうして港街へ降り立つとサラとルルは生まれ故郷の港街、しかもルルに至っては母がこの場で海を眺めていた逸話から名付けられた街に立った事で気分が普段より高揚していた。
「うわ〜リリアーデに着いた〜!
ねえルル、宿屋に行ったり色々見て回ろっ‼︎」
「サ、サラ………確かに、周りを見たい気持ちは、分かりますけど………早く、お母様達の所に向かわないと…!」
サラはルルの手を引っ張り周りを見渡しながら店を覗いたり等をして燥ぎ、ルルは気持ちは分かるとしながら何とかしてそれを止め、馬車屋に引っ張り始めていた。
「まぁ故郷に帰ったにはある程度羽目は外すもんだが…何か俺様よりも羽目はを外し過ぎじゃねぇかありゃ?
アレが第1王女ってこの国の未来は大丈夫か?」
「あ、あはは…サラは人柄が良いから多分最低でもロック様並に国を繁栄させると思うよ?
…多分」
「私はノーコメントで」
その様子を見ていたアル達はサラが統治する様になったフィールウッドを想像し、この国の未来が如何なるか行く末が心配になるアルだったが、三者三様の反応を見せた後馬車屋に行こうとする。
すると宿屋の扉が開き、中からロマンとエミルが見知った顔の少女が現れる。
それはロマン達が救った少女、キャシーであった。
「あ、キャシー‼︎」
「あ、ロマン君にエミル様!
お久し振り…って、その包帯姿は如何したんですか⁉︎」
「あ、エミル王女殿下に確かロマン君だったか…派手に怪我して如何したんだい⁉︎」
ロマンはその姿に気付き、キャシーを呼ぶと彼女は他の、あの祝杯の時に居たパーティメンバー4人と共に来ると、アルを含めて全身に包帯が巻かれた姿を見て驚きパーティメンバーと共にその怪我を問い質した。
「あ、あはは、ちょっとレベル350の魔族に1撃でボコボコにされちゃって…あ、でもキャシーにその仲間の方はレベル160オーバーになってるじゃない!
すっごく成長したんだね!」
「レ、レベル350の魔族………ロマン君やエミル様がサラ王女様達とパーティを組んで魔族と戦ったって噂は本当みたいですね…。
ですけど、ご無事で何よりですよ…」
エミルは笑いながらアザフィールの威圧感溢れる姿を想像し、その大剣から放たれた爆震剣でボロボロにさせられた光景を思い出しながらキャシーに説明する。
すると彼女もエミル達が魔族と戦った噂を聞いていたらしく、更にレベル350と言う前代未聞の名あり魔族に戦慄しながらも、それでも無事生きていた事を喜び胸を撫で下ろしていた。
「それで、そちらのパーティメンバーの方達は?
あの祝杯の場に居た方達なのは分かりますが…」
「王女殿下に覚えて頂けているとは誠に恐悦至極でございます。
我々は『正義の鉄剣』と言います。
リーダーは私『ネイル』が勤めております」
茶色の短髪で長身の男、ネイルが自分達のパーティ名を正義の鉄剣と名乗る事にエミルは目に見えて驚き、直ぐに真剣な目になりネイルを見つめ始めた。
「あ、あの、何でしょうか?」
「貴方………ご先祖様に『シリウス』と言う方が居りませんか?
誓いの剣と共に戦った英雄達の中でも特に武勲を挙げた正義の人と呼ばれる…」
「…ああ成る程!
確かに私の先祖は大英雄シリウスであります!
そしてこのパーティ名は代々我が一族がリーダーとなった際に名乗る仕来りとなっております!
もしご先祖様であるシリウスがライラ様の子孫と再び縁を結んだと知れば喜ばれるでしょう!」
エミルは前世で共に戦った仲間の中に正義の鉄剣を名乗った者達が居り、そしてネイルにそのリーダーだったシリウスの面影を見出し問い質すと、案の定シリウスの子孫である事が判明しネイルもライラの子孫(但し前世)と再び縁を結べた事を喜び、互いに握手を交わしその手にはシリウスと同じ正義を愛する温かさがあったとエミルは感じていた。
「うわぁ、大英雄シリウス様のご子孫が…」
「何を言っているんだいロマン君、君もあの勇者ロア様のご子孫じゃないか!
お互いに偉大な先祖を持ち、また魔族の侵略を許さない者同士、共に戦おうじゃないか!」
ロマンは大英雄の子孫が目の前に居る事を驚きながら見ていた所、ネイルはロマンも初代勇者ロアの子孫と言う由緒正しい魔族と戦う者同士として共に戦おうと誠意ある笑顔を見せながら握手を求め、ロマンは少し戸惑ったがこのネイルもエミルの様に魔族から地上界の全てを守りたい正義を感じ、直ぐに表情が柔らかくなり握手を交わし合った。
するとエミルはネイルの発言から魔族と戦う意志を感じキャシーに問い掛け始める。
「ねえキャシーちゃん、貴女も魔族と戦う事は承知済みなの?」
「は、はい。
初めは私の鍛え直しと言う事でネイルさんや『ガム』さん、『シャラ』さん、『ムリア』と一緒に健全な心と肉体を得る為に正しい鍛え直しをすると言われて世界樹での瞑想や無理の無いレベリング、魔法の熟練度上げをしていました。
けれど…魔族がネイルさんの暗殺を図って来て…」
キャシーはエミルに魔族と戦う事について聞かれると旅の初めから話し始め、其処では無理無く彼女はレベルアップや魔法の熟練度を上げていた様であった。
しかし、魔族がネイルの暗殺を図ったと聞き、エミルも驚きながら他の人間のパーティメンバーである糸目の槍戦士のガム、もう1人のキャシーより年上の魔法使いシャラ、肥満体型な斧戦士のムリアに視線を送る。
すると彼等も話をし始めた。
「先ず俺達全員でエンシェントドラゴン退治が出来るレベルまでキャシーちゃんに合わせてレベルアップしてたんよ、そしたら」
「夜中に野営をして交代で見張っていた所に魔族が現れてネイルさんの首を狙ったのよ!」
「で、俺等ネイルの兄貴には正義や道徳を教えて貰って、此処まで鍛えて貰った恩があるから俺達兄貴を助ける為に魔族と戦ったんだよ〜。
そうしてたらレベルアップして今や平均レベル160オーバー。
キャシーちゃんやシャラには王女殿下の創った魔法を覚えて貰って魔族を警戒してるんだ〜」
如何やら魔族はシリウスの子孫たるネイルを暗殺を図っていたと知り、更に彼を慕う者達の頑張りがありキャシー含めレベルが最低160になり、エミルが創り上げた3種の魔法をキャシーやシャラに覚えさせて魔族が近付かないか警戒する日々を送っているらしかった。
そしてエミルはキャシーに振り返り、彼女の言葉を待った。
「私も…ネイルさんや皆さんのお陰で本当に大切な仲間って言う物を学び直して、ネイルさんからは正義の在処とかを考えさせて頂いてます。
そしてエミル様やロマン君が魔族と戦っていて、今レベル210を超えて居ますよね?
そんなに魔族に狙われ続けて、理不尽な事が起きない様にしたいって私も考えて魔族と戦う事にしたんです!
だから…これからも、色んな意味でよろしくお願い致します、エミル様、ロマン君!」
キャシーも如何やら決意は固いらしく、あのギャランに怯えていたか弱い少女はもう居らず、此処には魔族と戦う決意をした魔法使いの少女しか居なかった。
それ等を聞きエミルはその選択を考えて選び抜いたならと思い何も言わずにキャシーに握手を求めた。
そしてキャシーも握手をし、此処に500年の時を超えた別パーティ間の絆が蘇った瞬間をロマンやアル、ネイル達は目撃していた。
「おーいロマン君〜、エミル〜、アル〜、馬車の用意が出来たから早く行くよ〜!」
「あ、分かったわサラ!
それじゃあネイルさん達、キャシーちゃんをよろしくお願いします。
キャシーちゃんも、無茶はしても無理はせずに逃げる時は逃げてね。
今攻めて来てる魔族は500年前の時よりもずっと強いから!」
其処にサラから馬車の用意が出来た事を聞き、エミル達は直ぐに向かう為にネイル達にキャシーを任せ、更にキャシーに自身の信条である無茶はしても無理はしない様にと告げ、ネイル達にも聴こえる様に逃げる時は逃げる様に言い聞かせてその場を後にしようとした。
「あ、エミル様少し待って下さい!」
「キャシーちゃん、何かあるの?」
「はい、実は…」
するとキャシーはエミルに何か伝えたい事があるらしく、彼女から盗聴防止結界を使い耳打ちでエミルに何かを伝えていた。
それ等を聞きエミルは………夜通し念話傍受魔法を使っていた結果分かっていた事をキャシーの口からも聞き、間違い無しだとして頷き始めた。
「…やっぱりね、分かったわ。
この事はこれからロックヴィレッジに私達は向かうから、賢王ロック様達にも警鐘を鳴らす様に進言するわ。
ありがとう、キャシーちゃん!」
「はい、エミル様達もお気を付けて!」
そうしてキャシーからの秘密の会話を受け取り、ロック達に警鐘を鳴らす様に進言するとしながら馬車まで走り出し、キャシー達に一旦別れを告げてエミル達はサラとルルが用意した馬車に乗り込んだ。
「なぁエミルさんよ、あのキャシーって嬢ちゃんから何を言われたんだ?
態々外部に漏らさない様に結界を張ってまでして」
「それは私が直々にロック様達に進言するから、皆は何かあった程度に考えておいて。
この事は万が一に備えて内密で伝えなきゃ行けない情報だから」
「…うん、キャシーやエミルがそう判断するって事は余り深く聞いて外部漏れを誘発する訳には行かないね。
じゃあキャシーから聞いた事はエミルの中に秘めておいて良いよ」
アルはエミルとキャシーが何の会話をしたのか気になり問い詰めると、外部に漏れるのを極力避けたいエミルはそれを口外する事無く、
ロマンもエミル達がそう判断したならそれが正しいとしてそれ以上聞く事は無かった。
「ねぇねぇ、キャシーってさっきエミルと仲良しな魔法使いの女の子だよね?
あの子やロマン君って如何言う関係なの?」
「あ〜、キャシーちゃんはベヘルット元侯爵家の跡取り息子のギャランにロマン君共々不当な扱いを受けてたんだけど、リリアーデの宿屋でギルドナイトに通報して助けた子なの」
するとサラはキャシーがどんな子なのかをエミル達に聞き始めると、エミルはギャランの話やベヘルット元侯爵家の話を出した上でギルドナイトに通報し助けた子と説明し、ロマンもギャランの名を久々に聞き目を瞑り無表情になっていた。
最早温厚な彼の中ですらギャランの扱いは無関心になり、今何をしているのかも興味が無くキャシーが受けていた事の報いを受け今に至るとすら思っていた。
「ベヘルット元侯爵家…あぁ、ルルの『本業』が唸ったあの貴族崩れの馬鹿野郎の家か。
息子の悪行を金で握り潰してた穀潰し共の末路は爵位剥奪、冒険者ギルドから永久追放だっけか?
はっ、当然の報いだな」
「ルルの『本業』…そう言えば私とロマン君、全くそれについて聞いていなかったね。
ねえルル、もし良かったら『本業』について聞かせてくれないかな?」
「うん、僕も聞きたいな」
その会話を聞いていたアルはルルが『本業』を発揮し爵位剥奪された貴族崩れの一家を思い出し当然の報いだと口にしながら森の中に入り始めた為ランタンの準備を始めていた。
するとエミルとロマンは今更ながらルルがどんな『本業』をしているのかを聞いていない事を思い出し、それについて話を振る。
するとルルは震え始め………笑い声を出し始めていた。
「ふ、ふふふ………やっと、やっと…聞いて、くれたわね………良いわ、教えてあげるわ!
ある時は弱気なダークエルフの女シーフ!
またある時は道端で裏情報を聞く謎の人物!
しかしてその実態は…闇夜を駆け巡り、不正や搾取を行う者を成敗し、奪われたお金や物を元の持ち主に戻す正義の義賊、『月下の華』のルルよ‼︎」
するとルルは待っていましたかの様に自身の本業………様々な不正や搾取により富を得た者からそれ等を奪い去り、元の持ち主達に返還する義賊だと話す。
それをエミルもロマンも噂で聞いた事がある月夜に舞うその少女の姿から月下の華と言われている義賊の事を思い出し、ルルを見ながら2人は興味津々になっていた。
「月下の華って、あの4国家を股に掛けて小さな悪徳商売から不当な統治に至るまであらゆる悪逆を裁いて来たあの義賊⁉︎
私、レオナお姉様達と一緒に月下の華が題材になった本を沢山読んでこんな格好良く弱きを助け悪を挫く者になりたいって何時も目を輝かせて読んでいたわ‼︎」
「僕も、300年前にヒノモトで不当な税金を得たり裏で悪さしていた悪代官や行商人を成敗した話の本を見ていつかこんな風に悪者をやっつけたいって子供の頃に読んでいたよ‼︎
その本人が目の前に居るなんて…凄い…‼︎」
2人は幼い頃に読んだ月下の華を題材にした本の話をし、ロマンは言葉通りに、エミルは現代にこの様な人が居るならと童心に帰りレオナ達と共にこの様な人物になり人々を導いて行きたいと考え本当に憧れの的であった。
それを聞きルルは満足気に過去の善行を思い返し、救った人達の笑顔を今でも忘れず月下の華としての活動を続けそれに誇りを持っていたのだった。
「いやぁ、初めはお母様みたいに誰かを助けたいって思いから始まった義賊行為にルルもノリノリになって、でも天狗にならず困った人達の為にを心情に動いたから今があるんだよね〜」
「ええ、勿論よ」
ルルが初めは小さな夢から始まった行動が今や人々の憧れとなり、しかし本人はただ困った人達の為にと活動をし今に至る為これが当たり前だとも感じ、悪人から力の無い弱き人を救う事がある意味生き甲斐になっていた。
そして、だからこそ魔族の地上界侵略はルルにとっては許せない物であり、何よりエミルが作った安寧の世を破壊する蹂躙者に対して怒りを抱いてるのだった。
「…そういや、この森は確か最北の世界樹の森じゃなかったか?
何時の間にか入っちまったが、此処は魔物共のテリトリーに」
「あ、それなら大丈夫だよ。
4年前から私が此処で修行した影響で私の気配を感じると魔物の方から逃げる様になったから」
その談笑の中でアルは最北の世界樹のテリトリー内に入り込んでしまった事を悟り、ミスリルアックスに手を掛け警戒を始める。
しかしエミルが此処で4年間も修行していた為魔物達はエミルの存在を恐れ逃げ出す様になっていると話しながら手綱を握っていた。
その証拠に木影に居る魔物は震え上がり、馬は意気揚々と蹄で道を踏み締めていた。
「…そっか、エミルが初めにレベル163だったのは此処で…やっぱり凄いね、エミルは」
「それ程でも無いわ。
さ、このまま世界樹を横切って真っ直ぐ行けばロックヴィレッジには夜に辿り着くわ。
それまでゆっくり休んでて良いわよ皆」
ロマンはエミルのレベル163の秘密を改めて知り彼女を凄いと口にしたが、当の本人は前世の半分を漸く越した程度に過ぎなかった為かそれ程でもと言い、更に目を瞑りあの時の自分はアザフィールやシエルの存在を知らなかった為井の中の蛙であった事を痛感し、大体8割方の力を取り戻した今でも4人組が頭にチラ付き、それ等を超える為には如何すれば良いかと思考するのであった。
それから数時間が経過し、最北の世界樹を真っ直ぐ突っ切った結果最短ルートでロックヴィレッジの目の前まで辿り着き、村の門の前で番兵をしているエルフが馬車のランタンに気付きエミル達を呼び止める。
「待て、お前達こんな夜中に一体何用があって」
「あ、やっほ〜皆!
お父様に会いに来ちゃった!」
「って、サラ王女殿下⁉︎
と言う事は貴女方が誓いの翼⁉︎
で、では中へどうぞ‼︎
ロック様やリリアナ様はまだ起床中であらせられます‼︎」
門番は槍を持ちながら夜中に王村に来たエミル達を不審がっていたが、馬車の中のサラを見た途端畏まり、エミル達が誓いの翼と知るや否やロックやリリアナはまだ起きていると説明し正に顔パスで王村ロックヴィレッジに入れた。
それから馬車を預けると慌てた様子で近衛兵達がエミル達を村の中央にある巨大な木で作られた宮殿に案内される。
「賢王ロック様、及びリリアナ様‼︎
サラ王女殿下と誓いの翼御一行がお見えになりました‼︎」
「そうか、リリアナの予知通りだな。
では兵達よ下がって良いぞ、これよりは娘とその友人であり魔王討伐を志す客人達との話し合いになるのだからな、出来れば我々のみで話がしたい」
『はっ‼︎』
近衛兵達は跪き、エミル達も同様にしながらロック達の反応を見ると、如何やらリリアナが誓いの翼が来る事を予知していたらしく、愛しの娘とその友人であり魔族と戦う有志達との話し合いになるとして兵達全員を下がらせ残ったのはエミルの記憶にある姿から皺が少し増えたり髭を貯えた親友のリリアナと友人のロック、そして自分達だけとなり盗聴防止結界を発動させると………サラは勢い良く立ち上がりロックに抱き着いた。
「お父様久し振り〜‼︎
元気だった?
ちゃんとご飯食べてた?」
「ははは、こらサラ。
それはこちらの台詞だぞ?
全く、レベル350の魔族と遭遇し重傷を負ったと聞いた時は寿命が縮む思いをしたが…元気そうで何よりだ。
本当に良く無事だったなサラ、ルル、そして客人達よ」
サラはロックに甘える様に話し掛けると、そのロックはアザフィール達の事も耳にしておりサラやルル、そしてエミル達が無事だった事を喜び全員に立ち上がる様に合図を送るとエミル達は立ち上がり、ルルもリリアナの前にフードを取りながら話し掛け始めた。
「お母様、お久し振りてす。
…そしてごめんなさい、魔族に完敗しました」
「良いのよルル、生きているなら敗北を糧にして立ち上がる事が出来るのだから。
だから気にせず、貴女は貴女らしく生きなさい。
私の娘として、義賊月下の華として、そして誓いの翼として」
ルルはサラと対照的に母リリアナにいの一番に謝罪し、頭を下げていた。
が、リリアナは500年前の戦いの経験から生きていればそれを糧にし立ち上がれる事を知る為責める事無く、自分らしく生きる様に言い付けながら頭を撫でていた。
そして伝説の英雄2人の視線はエミル達の方に向いた。
「そして我々2人は聞いておるぞ、誓いの翼の鍛治師アル、勇者ロマン、そして魔法使いエミル…。
まるで我々誓いの剣がもう1つ生まれた様な組み合わせだ。
ゴッフの弟子にロアの子孫、それにライラの子孫まで…」
「本当に、天の巡り合わせとはこの世に有るものですね…」
その視線は今はこの場に居ないゴッフや今は亡きロア、そしてライラに想いを馳せた物であり、それ等を見聞きしロマンやアルは自然と頭を下げてその視線に応える。
対するエミルは一度頭を下げた後、誓いの翼のリーダーとして、かつての友だった者として目を開き2人の目を見ながら話を始める。
「ロック様、リリアナ様、我々が此処に来た理由はリリアナ様の予知で大体はお分かりでしょうが敢えて言わせて頂きます。
敵は強大過ぎ、とても今現在の我々では勝ち目はありません。
其処で私達セレスティア王家の専属講師であらせられた第1王子アレスター殿下の遺した書物全ての閲覧の許可をお願い申し上げます。
其処に目の前の敵を超える為の鍵が眠っている筈です。
そして貴方方が見つけた世にも珍しい泉についてお話し頂き、ご案内頂けたら幸いと存じ上げます!」
エミルは王族として他国の王や英雄に対し物怖じせずに現状の説明をすると同時に自身達の目的であるアレスターの遺した書物全ての閲覧、更にはロックとリリアナが見つけた珍しい泉を見せる様にと話し、その姿にロマン達はエミルは現実的で且つ王女としての素質が高いと思いながら視線を送っていた。
最もこれはエミルがライラだったからこそ物怖じせずに昔の感覚に王族の文言を付け加えた物であり、自身的には凄い事をしてる気など毛頭無かった。
「うむ、セレスティア王国第2王女エミル殿下よ、其方の言う通りリリアナの予知で大体の目的は把握している。
近衛兵達には送られて来たアレスターの書物を纏めさせてある、直ぐに閲覧可能だ。
そしてその泉については明日になってから案内したい、それで良いか?」
「はい、夜中の突然の訪問でありそうなると踏んでおりましたので大丈夫です。
そして………賢王ロック陛下と予言者リリアナ様のお耳に入れたい事が内密であります。
なので心苦しいのですが、サラ王女殿下達を先に書物か宿に案内させて貰えないでしょうか?」
ロックはリリアナの予知で既にアレスターの書物全てを纏めてあると話し、更に泉に関しては明日改めて案内するとエミルに話し、当の本人もそれに納得していた。
更に此処でキャシーに言われた事………そして『自身』の事を伝える為にロマンやサラ達を書物、或いは宿に案内させる様に頼むとロックとリリアナは互いに見合い、それに頷き始めた。
「うむ、如何してもと言う内密の話であるならサラ達も下がらせよう。
サラ、悪いがルルや仲間達を連れて外の兵に宿に案内してくれないか?
アレスターの遺した書物は其処に全て纏めてある」
「うん、分かったよお父様!
じゃあエミル、先に行ってるね!」
「ええ、ごめんなさい皆。
話す時が来たら話すから」
エミルの話を聞き、ロックはサラに外で待機している兵に案内を頼ませる様に言い付けるとサラは元気一杯な返事をし、エミルに先に行く事を伝えるとエミルも話す時が来たらと言い、その背中を見送った。
そしてその場には賢王と予言者と………大魔法使いの転生体が残る事になった。
「…ふう、久し振りだねロック、リリアナ。
私からしたら14年、2人からしたら500年振りだね」
「…そうだな、『ライラ』。
実に500年、転生魔法でこの時代にまた舞い戻るとお前が死んだ直後にリリアナから聞いていたが…予知や誓いの翼の名、更にこうして話してみなければ実感が湧かなかった。
だが………ああ、此処に居るんだな、我等が友よ」
「ああライラ、本当にまた会えるなんて…」
エミルは早速『ライラ』としてロックやリリアナに話し掛け、エミルとしては14年だが当人達には実に500年振りの再会に涙を流し、ロックとリリアナは椅子から立ち上がりエミルに抱き付き始めた。
その温もりを感じたエミルは500前と何ら変わらない2人の温かさに触れ、改めて1人で突っ走り勝手に死に彼等の心に疵を残してしまったと自覚する。
「ロック、リリアナ、本当にごめんなさい。
勝手に縛られし門を使った挙句に…。
私はつい最近、レベル350や450の魔族に負けてからその事に気付いて…その所為で皆を」
「いいえ、あれは私が魔界が2度目の侵略をしようとしてるって予知を貴女に伝えてしまったから…だから、貴女の所為じゃ」
「リリアナ、少しストップを。
そうだぞライラ、お前は本当に何時も何時も無茶ばかりをして私達に心労を掛けて、挙句の果てに死に別れだ。
ロアも悔しくて涙して、死に際にはこんな言葉を遺したぞ」
エミルは早速自身が気付いた過ちの謝罪をし、それを聞いたリリアナは自身が魔界の2度目の侵略を予知した為、ライラがあの様な行動を取ってしまい今の様になったと、責任は自身にもあると発言しようとする。
その途中ロックは昔の様に小言を言い始め、更にロアも遺言があるとしてそれを聞く様に促しエミルは2人の目を見ながらそれを待っていた。
そしてその口から語られた言葉は…。
「…魔王を斃さずにこっちに来たら全力で拳骨してやる、だそうだ
本当に何処までもあのお人好しらしい、無茶をする度に飛んだ重い拳骨が飛ぶだろうなぁ…」
「………そう、だね。
ロアは優しくて、でも怒ると怖くて私に拳骨を何時も何時も浴びせてたよね。
…全く、死に際でも勝手な死に別れに対して何も言わずに魔王を斃さなかったら、なんて…これじゃあ、絶対魔王を倒さなきゃいけなくなるわよ…」
ロアの勝手な死に別れによる恨み節では無く、かつて旅をしていた時の様な言葉で魔王討伐をしなかったら拳骨と言う、誓いの剣の日常になっていた物を本気で浴びせると言う何処までも他者を、それこそ魔族や倒すべき魔王すら恨み切れなかったロアらしい遺言をエミルは聞かされた。
それを聞いてしまった為、エミルは絶対に魔王を倒さねばならないと思いながら笑みを浮かべながら涙を流し、また1つこの使命を達成しなければならない重みが増えるのだった。
「…ふう、さて、昔話は此処までにしようか。
お前が今の仲間達、サラ達を先に行かせて私達に話があると言う事は、我々に関係して且つ外部漏れを心配しての事だろう?
無茶は良くやる癖に妙に慎重なライラらしい所だ………それで、用件とは?」
「ええ、実は………」
そして昔話を終えた3人はエミルがサラ達を先に行かせた理由をロックが推察しながら話し、彼女の本題に入ろうと言う姿勢をリリアナと共に見せる。
そしてエミルはキャシーからも言われた本題を話し始めるとロックやリリアナはそれらを聞き驚愕するも直ぐに表情を元に戻し、エミルの話を終えた所でリリアナが話し始める。
「…分かったわ、この事は私達が責任を持ってゴッフに書簡で伝えるわ。
それも、私達流の書簡でね」
「ありがとうリリアナ、これで私も自分の事に集中出来るわ。
…じゃあ、『気を付けて』ね」
リリアナは誓いの剣流の書簡、これを見て意味を伝えられた者で無い限り真意が分からない暗号化された書簡をゴッフに送ると話し、それを聞いたエミルは漸く自身の事に集中出来ると思い一呼吸を入れる。
そして『気を付けて』と忠告し、盗聴防止結界を解除してその場を去り始めて行く。
「さて、我々も4国会議の為の書簡をゴッフの奴に送り届けてやろうか、リリアナ?」
「そうね、ロック」
そして残った賢王と予言者も職人王に対し4国会議の書簡を送ると話しながら自室に戻って行き、誓いの剣流書簡を久々に送ろうと張り切り始めていた。
こうしてキャシーも気付いた事をエミルが伝えた事で目の前の事態の対処の為に静かに、しかし着実にそれを果たす為に様々な者達は動き出すのであった。
此処までの閲覧ありがとうございました。
エミルの再会はキャシーとの再会やかつての仲間だったロック達との再会のダブルネーミングだったりしました。
さて、今回は正義の鉄剣と月下の華、ネイル、再会後のキャシー、ロックヴィレッジについて書きます。
正義の鉄剣:500年前の世界でライラやロア達誓いの剣と共に戦った英雄シリウスがリーダーを務め、その一族が冒険者パーティのリーダーを務める際に名乗る由緒正しきパーティ名。
現リーダーは無論シリウスの子孫のネイルであり、キャシーを引き取ったパーティである。
月下の華:ルルの本業であり300年以上活動を続ける義賊。
悪徳な税や悪事を暴き、弱き民を助けている。
その活躍はこの世界の書籍になり、ベヘルット元侯爵家が手早く爵位剥奪になったのも月下の華としてのルルが介入した為である。
ネイル:正義の鉄剣のリーダーの長身の男。
弱きを助け、悪を挫き正義を成すを信条とする正義感が強い者。
心が弱っていたキャシーを癒しつつ周りと共に強く鍛え上げもした。
主武器は剣だが槍も使える前線に立つタイプのリーダー。
レベルは破格の190である。
キャシー(再会後):ネイル達に引き取られた後、健全なる心と肉体を得る為に彼女に合わせた修行やネイルを狙った魔族を撃破しレベル160オーバーとなったギャラン一行の荷物持ちの面影が消えた少女。
本来の持ち前の明るさが戻り、現在はネイル達と共に旅を続けている。
更にエミルが流布した魔法は取得しており、魔族に襲われた事から盗聴防止結界と念話傍受魔法を欠かさず使う様になった。
ロックヴィレッジ:賢王ロックが治める村であり、リリアナも居を構える王村である。
名の由来は無論ロックから来ており、主要なエルフやダークエルフの兵はこの周囲に集結している。
次回もよろしくお願い致します。




