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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
三章 テウメッサの狐編

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98 リゼ、作戦会議をする


「い、今からでも腕を探しに……!」

「お待ちください! 自分は大丈夫ですから」

「で、でででも……! わたしのせいでハーヴェイさんの腕が……!」

「平気です! 利き腕ではありませんし、店主さんの作ってくれた剣は非常に軽くて、片腕でも扱えましたから」


 ハーヴェイさんが聖人のような慰めを言ってくれる。


「店主さんが来てくれなければ、自分はあのまま死んでいたはずです。腕一本で済んで、自分は幸運でした」

「ハーヴェイさん……」


 わたしはなんて返したらいいのか分からなかった。


 腕がなくなったら絶対につらい。


 でも、ハーヴェイさんはわたしのせいじゃないって言って無理に笑ってくれる。


 こんなに優しい人が、どうしてこんなにひどい目に遭わなきゃいけないんだろうと思うと、涙が出そうだった。


「痛むところはあるか? 痛むところは今治しておこう」

「……実は、腕と一緒にかじられた脇腹が……」

「見せてみろ。内臓に傷が入っていないといいが」


 ぼーっとしていたら、ハーヴェイさんが脱ぎ出したので、わたしは慌てて奥に引っ込んだ。


 それにしてもディオール様はすごいなぁ。


 魔術だけじゃなくて、錬金術と治療術にも詳しいもんね。


 ……わたしは祖母に教えてもらったことしか知らない。


 わたしはそこで、ふと気になったことがあった。


 祖母は昔、確かにわたしに言っていたのだ。


 失くした腕も、適切な道具を揃えれば生えてくる、って。


 おばあさまの勘違い? でも――


 おばあさまはときどき、夢物語みたいな魔道具の作り方を書き残していた。


 お父様やお母様は『おばあさまは夢見がちだから』といって笑っていたけれど――


 たとえば、魔術で作り上げる人工皮膚。


 製作方法として、魔力紋を本人のものと似せる技術が必要だと書かれていた。


 父母にはできなかったから、荒唐無稽だと思われていたけれど、できるようになった今のわたしには、分かる。


 決して夢物語なんかじゃない。


 実現可能な魔道具なんだ。


 もしかしたら祖母は、腕のことも何か書き残しているかもしれない。


「リゼ」


 祖母の部屋に引っ込みかけたわたしを呼び戻したのは、ディオール様だった。


「事情はフェリルスから聞いた」


 さすがフェリルスさん……!


 わたしが尊敬のまなざしを送ると、フェリルスさんは駄犬全開の顔でディオール様のズボンにスリスリして、よだれまみれにしていた。


「ご主人! ご主人!」


 ……天才だけど、わんちゃんだなぁ……


 ディオール様は慣れているのか、顔色一つ変えなかった。


「匂い消しならアゾット家が得意だ。その昔、病気の原因は匂いだと考えられていた時代があってな。そのときの技術がある」

「じゃあハーヴェイさんも、これで安全に……」

「ああ。しかし、店はダメかもしれん」


 わたしは『あっ』となった。


 そういえば、ソファに座らせたりしてしまった……!


「魔香が私の想像している効果なら、おそらくテウメッサの狐は、死ぬまでこの店に攻めてくるだろう」

「そんなに強いものなのですか……?」

「これまでにも何軒も建物が襲撃されているだろう? おそらくあれも魔香の効果だ。そもそも、おかしいと思わなかったか? 魔獣に建物を襲うメリットなどないだろう?」


 それもそうだとわたしは思った。


 ひとりでいるところを襲うのは、食事なりなんなりの説明がつく。


 でも、建物は食べられない。


「魔香に反応して襲撃していると考えるのが自然だ。今は私とフェリルスがここにいるから安全かもしれないが……離れた瞬間にまた襲撃してくるということもありえる」

「えええええっ!?」


 そ、そんなあ!


 家には大事な魔道具がたくさんある。


 これから納品しないといけないものや、なくなったら困る宝石、魔釜、高温炉……全部消えたらわたしは廃業だ。


「こ、困りますうううう!」


 ディオール様は焦っているわたしを見て、なぜかうっすら笑った。


「な、なんで笑ってるんですかぁ!?」

「いや、君のリアクションはいつ見ても面白いと思ってな」

「面白くないんですよ! わたしは真剣なんです!」

「分かっている。すまなかった」


 ディオール様はごまかすように少し咳払いして、「なら」と言った。


「もう、ここで倒すしかあるまい」


 そしてわたしやハーヴェイさんを見た。


「ちょうどここに、いい撒き餌がある。おびき寄せて、私が仕留めよう」


 ディオール様はテーブルに座って、隣につくようわたしに促した。


「作戦を説明する。その前に、君の名を聞いておこうか」


 向かいに座るハーヴェイさんが、わたしたちのほうに向きなおった。


「ハーヴェイと申します」

「ディオールだ。わけあってリゼとは婚約しているが」


 ぺしっと頭の上に手を置かれた。


「保護者みたいなものだ。この娘は天才的な腕をしているが、それ以外のことが苦手でな」

「な、なるほど……?」


 ハーヴェイさんはわたしに失礼なコメントはできないと思ったのか、返事に困っている様子だった。


「ハーヴェイ、君は? リゼとどういう関係だ?」

「十級検定会場で縁があって……魔剣を作っていただきました」

「それだけか?」

「ええ……まあ……」

「そうですよ! 駆け出しの冒険者さんなんです!」


 わたしが横から口を挟むと、ディオール様はいつもの無表情をわたしに向けた。


「驚いたな。リゼの店は女性しか来ないのかと思っていたが」

「そ、そんなことはないですよ……?」

「内装が女性向けだろう」

「わたしの趣味なので……え、男性は入りにくいですか?」


 そんなことはないよねぇ?


 と思いながら店内を見渡してみる。


 ふつうのお店だ。父母がいたころからずっと変わらず、特に女の子らしくした覚えはない。


 ……違うよね?


 ハーヴェイさんはなんだか焦りのようなものを顔に浮かべ始めた。


「じ、自分のような場違いな男が女性向けのお店にずかずかと立ち入ってしまい、まことに申し訳ない……」

「ええええ、そんなことないですよ!? うち女性専用じゃないですから! 魔剣も盾も男性用の服も全部作ってますし!」

「しかし、店主がこんなに可愛らしいと、君も通いにくかっただろう?」


 ディオール様がどこかとげとげしく言って、わたしの肩を抱いた。


 わたしは頭が疑問符だらけになる。


 ……くっつくような場面、これ?


 ハーヴェイさんは騎士団の関係者でもなければ、ディオール様にハニートラップを仕掛ける女性でもない。


 ディオール様、どうしちゃったんだろ?


 ハーヴェイさんは目を逸らし気味に、声を絞り出す。


「じ、自分は店主さんに会場のことで恩も感じておりましたので、注文をと……! しかしそれも義理ではなく、腕前に確かなものを感じたからでありまして……!」

「ああ、そうだな。リゼの腕は確かだ」

「事実、作っていただいた魔剣の性能はどこの店よりも優れておりました。私は人として店主さんを尊敬しております」


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