86 リゼ、騎士団で模擬戦をする
そしてできるだけ護符を持ち歩こう……!
護符ならいくらでも作れるんだから、絶対そっちの方が早い。
やがてお肉が焼き上がり、ローストビーフが配られた。
「んん……っ! やわらかジューシー!」
じっくり丁寧に焼き上げたお肉は、信じられないぐらいおいしかった。
わたしの好きな『ピンク色のとこ』がいっぱいある……!
絶妙な火加減で焼き上げたお肉、おいしいです!!
――わたしはローストビーフを食べつつ、手持ちの護符をちょっといじってみた。
出力を……どのくらいにしたらいいんだろう?
テウメッサの狐っておっきかったなぁ……
とりあえずドーム型全方位で最強に設定しておこう。
いきなり襲われても一度は身を守れる。
動力源は魔石から取るようにして、魔石は後から継ぎ足せるようにしておこう。
あとは逃げる!
わたしは攻撃魔法ほとんど知らないからねぇ。
逃げるのが一番だよ。
これに『七里の長靴』を組み合わせればいい感じ?
最強の結界に最強のジャンプ!
素人が考えた最強の戦闘スタイルができたよ!!
これでよし!
……でもやっぱり心配だなぁ。
いきなりだとパニックになっちゃって、発動できないとかない?
「フェリルスさん、ちょっと魔道具のテストに付き合ってもらえませんか?」
ローストビーフに直接かじりつこうとして止められているフェリルスさんに声をかけると、ぎろりと睨まれた。
「あとにしろ!! 俺は肉で忙しい!!」
ひい……肉食動物……
わたしはすごすごと自分のテーブルに戻った。
「それは何だ?」
「結界用の護符を、わたし用にちょっといじったんですけど、よく考えたらわたし、結界のテストってやったことないんですよねえ」
鎖のペンダントのスイッチを押せば、魔力の壁ができあがる。
結界が張られていることは分かるけれど、試したことはない。
「新作の護符の耐久度テストって、どこでやったらいいんでしょうか」
すでに販売実績のある形式の護符はともかく、わたしの作った新作だと、安全性のテストを人にさせるわけにもいかない。
なんかあったときに死んじゃうのその人だもん。わたしが自分で使う分にはその場でなんとかできるかもしれないけどさ。
「騎士団の連中なら喜んでテスターになるだろう。紹介してやろうか?」
「いいんですか!?」
「ああ。存分にテストするといい」
やったぁ! と、そのときはわたしも喜んだ。
***
騎士団の人たちは大きくて強そうで、見た目が怖かった。
当たり前なんだけど、わたしは騎士団の運動場に来るまで、そのことが頭から抜け落ちていた。
「リゼちゃんひっさしぶりー! 相変わらずちっちゃくてかわいいねぇ!」
軽薄に声をかけてきたのはリオネルさんといって、ディオール様のお友達。
わたしにとってはあんまりよく知らない人。
長年の親友みたいな距離感で詰め寄られて、ちょっと後ずさってしまった。
ディオール様が怖い顔で睨み返しているのも見えていないように、リオネルさんはわたしに向かってだけ話しかける。
「リゼちゃん魔道具師志望なんだって? 今日はどんなの作ってきたのかな? お兄さんに見せてくれる?」
すごくちっちゃい子に話しかけるようなノリで言われてしまって、わたしは恥ずかしくなった。
「あ、あの、わたし、成人してるので……」
「えぇ? うっそだぁ! リゼちゃん俺の姪っ子くらいじゃん!」
「え、えと、あの、ま、魔法学園なら三年生くらいです……」
「マジで!? 日曜学校いってんじゃねぇの!?」
リオネルさんがディオール様とわたしを交互に見る。
「でもやっぱ犯罪じゃねえ? 二十代のおっさんは」
「私は十代だが?」
「うっそだぁ! それでそんなに偉そうなの!? お前ほんといい根性してんなぁ!?」
リオネルさんは指折り数えて、難しい顔になる。
「あれ? 魔法学園って卒業けっこう遅いよね? え? お前戦争参加してたときもう学生じゃなかったじゃん」
「飛び級だ」
リオネルさんは一気に悲しそうな顔になった。
「お前らさあ、ふたりとも魔法学園いきなよぉ……天才だかなんだかしんないけどさあ、魔術の前にもっと人として大事なもの学んでこないとダメじゃねぇ?」
「余計なお世話だおっさん」
「おっさんじゃねーわ! お前らがガキすぎな。学園でネクタイとか交換して喜んでるような年じゃん……俺悲しくなっちゃったよぉ……」
ウソ泣きしているリオネルさんを無視して、ディオール様がわたしに問うような視線を投げる。
「行きたいか? 魔法学園」
「嫌です!!!!」
「ならいいか」
「よくねえよ!? 行った方がいいって! 好きな子と一緒の学園生活ぜってー楽しいから!」
別に好きな子とかでもないからなぁ。
ただの偽装婚約だし。
と思ってディオール様をチラリと見上げたら、ディオール様は顎に手を当てて、何か考えている風だった。
「まあ、破局すると悲惨だけどな! あっはっはっは!」
大笑いするリオネルさん。
ディオール様は視線を泳がせていた。
「まあいいや。そんで、何のテストすんの?」
「今日はジャンプ力強化のブーツと、結界の護符を試してみたいんです」
「なるほどね。そんじゃー鬼ごっこだ!」
ルールは……
1 お互いに結界のみ攻撃可。
2 結界を割られたら脱落。
3 わたしが敷地内を十分逃げ切れたら勝ち。
ということで、騎士団の入団一年目の新人さん三人と鬼ごっこすることになった。
フェリルスさんとも鬼ごっこはしてたから、これはあんまり負ける気がしないかも?
わたしは開幕から、ブーツの力でぴょーんと跳ねて、高い木の上に登った。
フェリルスさんは木登りできないから、これで勝てたんだよねぇ。えっへっへ。
どれ、三人は何をしているかな?
木の上から見下ろそうとして――目の前に大きな影が落ちた。
風の魔術で一瞬にして飛び上がってきたのだ。
間髪入れずに男の子の攻撃がわたしの結界を襲う。
衝撃に備えようと身を固くして――何も起きずに、こわごわ目を開く。
男の子は切りつけても切りつけても跳ね返す結界に驚いているようだった。
け、結界の出力最大にしてあってよかった! びくともしない!
何度めか、強めの魔術の押し合いに競り負けた男の子がぐらりとよろめく。
わたしはここだと思って、自分の結界をオフ。
男の子の結界にブーツのかかとを当てた。
最大出力で百メートル超は飛べるブーツのあおりをまともに食らい、男の子が吹っ飛ぶ。
「うおっとぉ! 一名脱落」
リオネルさんが何かのクッション的な魔術で受け止めてくれて、男の子はふわりと着地した。
「お前ら、相手はちっちゃい女の子だぞ! 三分以内にのせ!」
リオネルさんがはっぱをかけ、残り二人組が同時に飛びかかってくる。




