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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
三章 テウメッサの狐編

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82 リゼ、魔法の革靴を開発する


「盾……は、普通の人は持ち歩かないし、鎧……も、日常的には着ない……兜……そう、兜があると生存率がすごく上がるって言うけど、街中で生活してるときにはちょっとねえ……革の帽子とか? あとは……革靴もありかなぁ」


 革靴で思い出したのは、一歩で七里を歩けるっていう、『七里の長靴セブンリーグブーツ』のおとぎ話だった。


 普通の人は魔獣と戦う必要なんて全然ない。振り切って逃げるが勝ちだよね。


 どこにでもある革素材の靴に、誰にでも書ける古代魔術文字で記した魔術式を載せて、誰にでも作れるようにしたら、テウメッサの狐の被害も減るかもしれない。


 ううん、みんなが今履いてる靴にもあとから乗せられるくらい簡単な魔術式で書けたら、あとはそれを書き込む作業をみんなで手分けしてするだけでいいんだ。


 わたしは古代魔術文字が分からないけど、誰か分かる人に手伝ってもらえないかなぁ。


「……よーし」


 ブーツのオリジナルを作る。


 お勉強をする。


 手伝ってくれる人を探す。


 やることって、こうやって増えてくんだよねぇ。


「それにしてもあいつ、何か変なにおいがしなかったか?」


 フェリルスさんがそう言って、ハーヴェイさんがいたあたりの空気をフンフンフンフンと嗅ぎまわり始めた。


「何も感じませんでしたが」

「そうなのか? あれはたぶん、人間が好んで使う香りづけの水だと思ったが」

「香水でしょうか?」

「それそれ」


 どうかなー。香水の匂いはしなかったと思うけどな。


「フェリルスさんは鼻がいいから、わたしが気づかなかった匂いも気づいたのかもしれませんね」

「ま、そうだな! 人間どもとは違うのだ、人間どもとは! アッゥォーン♪」


 それにしてもハーヴェイさん、それと分からぬように香水をつけるなんて……


 ……すごくおしゃれさんなんだなぁ!


 お姉様が昔『香水は脱いだときに分かるくらいがちょうどいいのよ』って言ってた気がする!


 魔石のデザインにも無頓着だったから、見た目に興味ないのかと思ってたけど、わたしに遠慮してただけだったのかな?


 今度来たらもうちょっと強くすすめてみようっと。


***


 ハーヴェイが、今は使われていない古い物置小屋で、採ってきた薬草を乾燥させていると、急に人の気配がした。


 ギデオン家の当主、マクシミリアンだ。


 ハーヴェイは慌てて室内を隠すようにして、戸口の前に出て、敬礼した。


「そこで何をしていた?」

「倉庫内の整理を……」

「ふん、まあいい。それより見ろ、空きの国王文官職を買えたんだ! これで俺も晴れて宮廷人の仲間入りだ!」

「おめでとうございます」


 ギデオン家は伯爵家で、立派な貴族だ。


 しかし、貴族の中にも格付けは存在する。


 王が住まう宮殿に、職や、友好関係の伝手を得て、自由に出入りできる立場の人間は『宮廷人』と呼ばれ、貴族の中でも最高峰の貴人として、羨望のまなざしで見られるものなのだ。


「まったく、テウメッサの狐さまさまだな!」


 マクシミリアンは酔った赤ら顔で大笑いしている。


「狐のおかげで、あっちこっちに職位の空きが出ていたんだ! 相場よりだいぶ安くで買えた!」

「何よりでございます」


 マクシミリアンは底意地の悪い笑みでハーヴェイを見た。


「お前もひとつ買っちゃどうだ? ああ! 血を分けた弟とはいえ、お前は魔力なしのろくでなし! 国王文官など夢のまた夢か! あっはっはっはっは!」


 ハーヴェイはギデオン家の前当主がメイドに手をつけて生まれた子だと言われている。


 庶子のハーヴェイは生まれながらにして疎まれ、魔力なしだと分かってからはさらに過酷ないじめを受けてきた。


 マクシミリアンが気まぐれになぶるおもちゃ――それがハーヴェイだ。


 おかしいと進言する者もいたが、前当主が死に、マクシミリアンが後を継ぐと、全員ぱったり口をつぐんだ。


 だからハーヴェイは、家から逃れる方法をずっと求めていた。


 ギデオン家は騎士の家系なので、騎士団に入ることを考えたが、入団テストに魔術が必須だったため、ハーヴェイはクリアできなかった。


 修道院にしても同様で、魔力なしならば寄進をと言われたが、まとまった金額を用意することは難しかったのだ。


「それにしても、おかしいと思わないか? テウメッサの狐が出て以来、国王の文官ばかりがやたらと襲撃されておっ死ぬ。新聞に出ている死亡者の覧は、一面が王宮勤めの役人で埋まってるじゃないか?」


 ハーヴェイはありありと思い出していた。


 ひとりでうろうろしている人間だけを狙うとされていたテウメッサの狐が、十級検定の試験場に突如として現れた日のことを。


 ――テウメッサの狐は、狙う人間を選んでいる……?


「サントラール騎士団の連中は、これも天罰だと囁き合っているそうだぞ! やつら、不遇だからなぁ! 王を恨んでいるんだろうよ! あははははは!」


 それでは騎士団の試験場が襲われたのも天罰なのだろうかと益体もないことを考えていると、マクシミリアンはさらに笑い声を高めて、ハーヴェイに詰め寄った。


「お前、性懲りもなく魔術師の試験を受けにいったそうじゃないか? テウメッサの狐に襲われたのもきっと魔力無しを罰しようとする天の思し召しだ! おのれの罪深さを反省したら、今後はこの屋敷から一歩も外を歩かないことだな! あはははは……!」


 ハーヴェイは解せぬ気持ちでマクシミリアンの背を見送った。


 魔力なし、役立たずは出て行けと苛め抜きながら、ハーヴェイが冒険者になろうとすると途端に『お前はこの屋敷から出るな』と縛りつけようとする。


 なぜこんなことをするのか、と考えかけて、やめた。


 ハーヴェイは秘密裡に冒険者になった。


 資金を稼ぐ算段もできた。


 冒険者には訳ありの者も多い。そっと行方をくらませるには絶好の職だ。


 ハーヴェイは倉庫に鍵をかけて、足早にその場をあとにした。


***


 わたしは革のブーツを前に、唸っていた。


 うううん、難しいなあ。


 うちで扱う魔道具用の皮革は、魔力でなめしたものをよそから買いつけている。


 一からなめすには、大きな土地に専用の施設が必要だからねぇ。


 ここに、脚力増強の祝福バフ系魔術式を乗せてぇ……っと。


 総容量に乗せられるだけの魔術式を載せてみたものの、あんまり出力があがらなかった。


 そりゃそうだ。


 威力を上げるなら、魔石なり、生体から魔力を組み上げる魔術式なりが必要。そしてどっちも高い外部ユニットで、大きさもそこそこある。


 ユニット部で圧迫されて、魔術式の格納スペースがあんまり取れないんだよなぁ。


 いや、やろうと思えばもっとできるんだよ。


 でもリミッターの部分がちょっと多くなりすぎて。


 天井が低いときはそれより高い位置に飛ばない、着地点が2メートル以上落下するようなら飛ばない。足場が悪すぎるときも飛ばない。


 ブーツの脚力増強系につける一般的なリミッターを全部乗せると、テウメッサの狐を振りきれるほどの速度なんてとてもじゃないけど出ないんだ。


 どうしたらいいんだろう?

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