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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
三章 テウメッサの狐編

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81 魔狼、毛を分け与える


「初心者用ならまずこのカタログがおすすめなんですが、ハーヴェイさんは剣術とかやってらっしゃいました?」

「一応、騎士の家系に生まれまして」

「そうじゃないかと思ってました! こないだの立ち回りもとても初心者には見えなかったですもんね! ね、フェリルスさん!」


 フェリルスさんも訳知り顔でうなずいている。


「こいつはやるやつだ! 俺の目は誤魔化せん!」

「いえ、そんな……」


 うりうり、と肉球つきのおててでハーヴェイさんをつつくフェリルスさんに、まんざらでもなさそうなハーヴェイさん。


 ハーヴェイさん、前に家臣だって言ってたけど――


 服の感じからいうと、割といいとこに雇われてるよね。


 となると、ご主人様も護衛にいい装備を持たせようとするかもしれない。


「あれあれ~? じゃあ魔剣も、ワンランク上いっちゃいますか~?」


 わたしは派手で高級な機能をつけたカタログを持ってきた。


「うちの魔道具は防御オンリーなので、攻撃機能はつけないんですけど、剣の柄に純度の高い魔石を仕込んだりは可能なんで、魔法が使いやすいと思いますよぉ!」

「ああ……あの、強力な」


 彼はこの間あげたお守りを取り出した。


 じぶん用と思って作ったから、見た目がだいぶファンシー。


 大人の男の人には恥ずかしいかもしれない。


「デザインもお直ししましょうか?」


 わたしは奥から魔石のサンプルとカタログも持ってきた。


「男の人に人気があるのは、こういう感じのですねぇ」


 ハーヴェイさんは、たくさんカタログを見せられて、少し目を回したようだった。


「……も、申し訳ない……自分にはどれも同じに見えるものですから……」

「あはは……」

「いただいたものでも十分だと思っておりまして」


 魔道具師としてはちょっと悲しいけど、必要じゃないならまあいっか。


「じゃあ、もしも気になったのがあったら教えてくださいね」

「はい。……こっちの、魔剣のカタログはもう少し見せていただいても?」

「どうぞどうぞぉ! 何時間でも見てってください!」


 わたしはしばらく魔剣を眺めるハーヴェイさんの真剣な表情を眺めてにまにましていた。


 いやー、本気で選んでくれてるなぁ。


 うれしくなっちゃう。


 わたしはふと、気になっていたことを思い出した。


「そういえば、冒険者になるつもりだっておっしゃってましたけど、もうギルドに登録行きました?」

「はい。無事に登録証もいただきまして、晴れてかけだしの冒険者となることができました」


 照れくさそうにカードを見せてくれるハーヴェイさん。


「手始めに、近所の草原で薬草を採る仕事を引き受けております。これがなかなかの報酬でして」

「薬草採りがですか?」

「なんでも、テウメッサの狐の出没以降、引き受ける人が少なくなっているそうで」

「そ、それってハーヴェイさんも危ないんじゃ……?」

「自分は脚力に自信がありますので、遭遇しても逃げ切れるかと」


 そういえばすごく足速かったなぁ。狐の攻撃全部避けてたもんね。


「せっかくの稼ぎ時ですし、チャレンジしたいと思っております。自分は身寄りも少なく、魔力なしの厄介者でしたので、万が一のときにも迷惑をかける相手が少ないのです」

「そ、そんな悲しいこと言わないでくださいよぉ……」


 テウメッサの狐、もうしばらく狩られなさそうだよね……ディオール様のお話だと。


 心配だなぁ……


 この人だけじゃなくて、街のみんなにも自衛できる手段があればいいのにな。


 そこで突然、フェリルスさんが床から跳ね起きた。


「そうだ。お前、俺の毛を持っていけ! 狐は狼が大嫌いだからな! 俺の匂いが少しでもするなら逃げていくはずだ!」


 フェリルスさんがふんぞり返って、もっふもふの胸毛を誇示する。


「リゼ、この腹毛をちょっと切って、お守りでも作ってやれ!」

「いいですけど……フェリルスさんはいいんですか? おなかの毛、なくなっちゃいますよ?」

「構わん! こないだリゼを助けてもらった礼も済んでないしな! ほれ!」


 と、フェリルスさんはおへそを天井に向けてぐでーっと仰向けになった。


「それじゃあ……」


 わたしはハサミを片手に、フェリルスさんの毛を一束つかんだ。


 このくらいあったらしっぽ型のチャームができるかな?


 ザクッと切って、短い毛を梳いて払い落とし、根元を縛って膠で固定。


 金属製の留め具にくくりつけて、吊り下げられるようにした。


「……」


 できたけど、なんだか物足りない。


 わたしは思いつきで、結界用の魔術式も乗せてみた。


 さすがは魔狼の毛、大きな結界も軽く入っちゃう……!


 これでひとまず安心かなぁ。


 そういえばわたし、魔狼の毛の成分分析ってまだしてないや。


 魔獣蜘蛛の糸があんなにすごいんだから、魔狼の毛もすごい秘密があったりして?


 でも、下手に有用ってことが分かったら、フェリルスさん毛を刈られて丸裸にされちゃうかもしれないし……


 丸刈りのフェリルスさんがしっぽを足の間に挟んでいるところを想像して、わたしは悲しくなった。


 そっとしといてあげよう。毛を大切に……!


 できたチャームはロウ紙にくるんで、木箱に入れてあげた。


「完全に固まるまで一日かかるので、今日はあんまり動かさないでくださいね」

「これはまた……ご丁寧に」

「フェリルスさんはすごい精霊なので、きっと狐も避けてくれると思いますけど……長持ちはしないと思います」


 採れたて新鮮な毛ならともかく、長く使ってたら匂いも風化しそうだしねぇ。


 その頃には退治されてるといいけど。


 ハーヴェイさんは戸惑ったように、財布に手を伸ばした。


「おいくらでしょうか」

「おいくらですか? フェリルスさん」

「人間の財貨になど興味ない! 骨付きチキンを所望する!」

「だそうです」


 ハーヴェイさんは重要な使命を受けたみたいに、重々しくうなずいた。


「必ずや」


 そして、わたしにカタログを返しながら、まっすぐわたしの目を見た。


「資金を貯めて、注文しにまいります。先立つ資金のない身ですので、本日は見るだけでお許しください」

「全然気にしないでください!」


 ハーヴェイさんはとても丁寧にお礼を言って、お店を出た。


「なかなか礼儀の分かっているやつだったな!」


 フェリルスさんが気分よさそうに言うので、わたしもうなずいた。


「すごく腰の低い人でしたね」


 ……剣は必需品だから、分割の後払いとかもできますよ! って言うこともできたけど、遠慮して一番高いグレードのやつ注文してくれそうな人だったなぁ。


 資金を貯めて、自分が決めたものを買ってもらった方がいいよね。


「うちの魔道具、やっぱりちょっと高めなのかなぁ……」


 結界用の護符とかも揃えてはいるけど、かけだしの冒険者さんには手が出にくい金額なのかもしれない。


 テウメッサの狐が出るこのご時世、身を守るために誰にでも気軽に魔道具を使ってほしいけど、それにはもっと廉価で、普及しやすい装備が必要なのかもね。


「人間の金銭価値は分からんが、革製品に魔力を足したものが人間にはちょうどいいと俺の故郷でもよく言われていたぞ! 軽くて丈夫で扱いやすい!」


 バウバウ吠えるフェリルスさんをなでなでしながら、革製品で使えそうな防具を思い浮かべてみた。

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この2人と1匹、微笑ましいなぁ
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