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8 両親と姉の誤算


 しかし、玄関にすら通してもらえない。


「公爵さまはお二人とお会いにならないそうです」


 従者風の少年が門の内側からそっけなく告げる。


「横暴だ!」

「娘を返してくれ」


 門にすがりつけば、すぐそばに控えている大型犬が歯をむきだしてグルルル……とうなり始めた。


「リゼ様のご容態に、公爵さまはひどくお悲しみでございます。殺人の容疑で訴えられてもおかしくない、と」


 穏やかでない物言いに、二人はギクリとしながらも憤る。


「魔力ヤケなんてよくあることだろう!?」

「職人病なのだから、あのくらいでとやかく言われる筋合いは……」

「苦情は裁判所を通してお願いします」


 少年はにっこりとほほ笑み、犬はバウバウ! と激しく吠える。


 彼らは犬の激しい吠え声に気圧されて、手ぶらで戻ることになった。


***


 アルテミシアは王子との婚約を終え、幸せいっぱいだった。


 アルテミシアは学園での成績もトップで、淑女教育関連の授業でも最優以外は取ったことがない。


 この学園で、一番淑女らしく、教養があり、美しいのは誰かと聞けば、人は必ずアルテミシアと答えるだろう。


 ……嫉妬にまみれた女たちを除いて。


 彼女たちは、王子を巡る争いに敗れたことを根に持っているらしい。


 今日も王子の腕を取り、さりげなく自身の隠れた大きな胸を押しつければ、周囲から嫉妬とも羨望ともつかないため息が聞こえてくる。


 ――自分自身のことも客観的に顧みられないなんて、愚かな人たち。


 アルテミシアは苦笑するしかない。


 アルテミシア以上にふさわしい女なんていないというのに。


「……アルテ? どうしたの、ぼーっとして」


 何でもない、と甘く微笑めば、王子からそれ以上に甘く、恋に溶けきっている笑みが返ってくる。


「今後は結婚に向けて、魔道具を作ってもらう機会もぐっと増えると思う」

「結婚に魔道具が必要なのですか?」

「もちろん。式には諸外国の重鎮も呼ぶからね。君の魔道具を見せつけるいい機会だ」


 彼は脇に下げていた短剣を鞘から抜き放った。


 鷹の意匠が空を舞い、弾丸のように飛んで、消える。


 アルベルトはうっとりした笑みを浮かべる。


「ああ……すばらしい。これを戦争に応用すれば、わが国の敵はいなくなる。他国もそのことを察して、わが国との付き合い方を改めることだろう。世界が君の技術の前にひれ伏すのさ」


 魔術や戦争にうといアルテミシアは、何のことかよく分からず、あいまいにうなずいた。


 そもそも魔道具は彼女の作品ではないので、褒められてもあまり嬉しくない。


 それよりもっと、この手入れの行き届いた髪や、完璧なプロポーションの方に目を向けてほしかった。


「次に君にお願いしたいのは『オーロラドレス』だ。着用者の意思を反映して、思い通りに色が変わる魔織製のドレスだよ。おとぎ話にしか登場しない代物だけれども……この短剣飾りシャッペを作る技術があるのならば、決して不可能ではないはずだ」


 アルテミシアは、安易にうなずいた。

 魔術に疎いので、それがどれほど難しい品なのか、考えつかなかったのだ。


「分かりました。早めに作ってお持ちいたします」

「ありがとう。君こそわが国の守護女神だ」


 王子からの絶賛を心地よく聞く。


 ――その後、実家に戻り、アルテミシアは蒼白になった。


 リゼがロスピタリエ公爵邸に連れ去られている、というではないか。


「お父様、お母様、わたくし、王子からの依頼で早急に作らなければならないものが」

「あぁん?」


 彼らはパーティで『魔道具師なんかいくらでも代わりがいる』と言われたことを忘れていなかった。


「自分で作りな、馬鹿娘が!」

「そうだぞ、店が大変だってときにお前は家事の一つも手伝わないで遊び歩きやがって!」

「パーティだって遊びじゃないのよ!? わたくしが社交に力を入れたからこうして王子の婚約者にも選ばれたんじゃない! 遊んで暮らしていたように言われるなんて心外だわ! 今度の魔道具も王子からのご要望なのよ、どうしても必要なの!」

「知るか! どうしても欲しけりゃ自分で作りな!」


 未加工の素材が入った箱の山を指さす母親。


 アルテミシアはカッとなった。


「……分かったわよ! やればいいんでしょう!?」


 アルテミシアは社交が忙しすぎて力を入れていないだけで、魔道具づくりが苦手というわけではない。


 あのグズのバカ妹にもできるのだから、少し取り組めばアルテミシアにだって簡単にできるはずだ。


 アルテミシアはまず、小さめの魔織を作って、色を変える術式を組み込み、様子を見てみようと思った。


 しかし――


「なにこれ……魔糸が全然言うことを聞かない……」


 色を変える魔術の術式は、家に置いてある資料を探したら簡単に見つかった。単色に変化するものは、そう難しくないようだ。


 小さな術式なので、魔力に刻み込みつつ、ベースとなる絹糸に絡ませれば、すぐにうまく行くだろう……そんな風に楽観視していた。


 ところが、肝心の魔糸が反応しない。


 なんの色にも変わらないのだ。


「どうして……? 何が悪いの……?」


 必死に資料を漁り、原因を探し回った結果、絹や綿は魔力を通さない魔法的な絶縁体素材で、魔糸を練り込むときに付与する術式には、特別な展開をしなければならないことが判明した。


 その特別な術式の展開は――


「秘匿技術……!? どの国も非公開にしている、ですって……!? たかが色を変えるだけの技術がどうして……!?」


 アルテミシアはあずかり知らぬことではあったが――


 着用者の思いのままに色を変えるマントは、


小人のマントタルンカッペ

あるいは

『光学迷彩』


 ――と呼ばれ、次世代の戦争の勝敗を分ける重要な技術と見なされていたのであった。


 アルテミシアはそこで諦めなかった。


「秘匿技術がなんだっていうのよ、わたくしはやるといったらやる女なの、行動あるのみだわ。……魔糸に含まれる魔力が足りないのかしら? なら、綿や絹を入れずに、魔力だけで糸を紡げれば、あるいは……」


 しかし、魔力だけで紡ぐ純度百パーセントの魔糸の作成も、前例のない幻の技術であることを、アルテミシアはまだ知らなかった。


 アルテミシアは何度も魔糸を作成しようとして失敗し、何日も無駄にした。

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