78 ポテトでミートでチーズなグラタン(4コンボ)!!
わたしも内心でこっそり不思議がっていたら、もう一人の、年配の男性が口を開いた。
「教会に行くと、魔道具師は必ずこう言われるんですよ。『高位の魔獣・精霊をぺてんにかける者には天罰が下る』――この『ぺてん』というのが、現在では『魔道具で罠にかけたりすること』なのだと解釈されているのだそうです。だからわたしたち魔道具師は、強力すぎる罠や魔道具は作らないように注意しているんですよ」
そうだったのかぁ。
わたしも魔道具師だけど、知らなかった。
「今は違いますが、違反者が片っ端から処刑された時代もありました。なので、当時の記憶がある老人ほど、教会を恐れて、罠には手を出さない」
うわ、そうだったんだ。
わたしがおばあさまから攻撃用の魔道具を全然教わらなかったのも、そのせいなのかなぁ。
「『正々堂々とした戦いでなければ魔獣を討ち取ってはいけない』とされているからこそ、騎士団で、騎士と魔術師が活躍しているんですよ」
ユーダリル親方さんは大きくうなずいた。
「俺はごめんです。罠を魔獣狩りに使おうなんて、神々への冒涜だよ」
アルベルト第一王子は駄々っ子をあやすように、優しい声を出した。
「神官たちも今回の討伐には賛成しているよ。騎士団の精鋭も次々とやられている現状だと、そろそろ、罠を用いても神々はお許しになる段階だと思うけれどね」
「それでネメシスの怒りを買うのは俺ですよ」
うーん……
神様のお怒りは怖いけど、テウメッサの狐のせいでお外歩けない人がいっぱいいるのも困るよねぇ。
「神官たちも賛成しているのだから、神の怒りには触れまいて」
魔道具師協会の協会長が口を開いた。
えーと、なんだっけ。
魔剣職人のおじさんだっけ。
「人間が力を合わせて魔獣を討ち取ることは、神々にも認められている」
「しかし……」
「神々の数だけ神話がある。どの教典にも違反しないで生きるなんてことは不可能だ。襲撃によって家族を亡くし、悲しんでいる国民がいる以上、我々にも手を貸す義務がある」
「私としても、苦しむ国民は見捨てておけない。力を貸してほしい」
「……」
ユーダリルさんは黙ってしまった。
その他に誰もしゃべらず、反対意見もなくなったので、会議は王子の主導で進んでいくことになった。
王子と協会長の会話で、会議が進む。
まず、テウメッサの狐の行動パターンから分析が始まった。
テウメッサの狐は夜行性で、夕方から朝方にかけて行動する。
出現するときは必ず一人の人間を狙う。
ときどき建物を襲って、壊滅させることもある。
一度襲った人間には執着し、何度も襲うことから、騎士団が被害者を餌にあぶり出そうとしても、現れたことはない。
その他、騎士団が仕掛ける罠には一度もかかったことがない。
「騎士団がまとまって行動していると姿を見せなくなるということは、おそらく何らかの方法で人間の動きを察知しているはずだ」
「視覚、嗅覚、聴覚、魔力探知……どれかは不明だけど、まず欺かなければ、おそらく姿を拝むことができない」
そこでまたアルベルト王子がわたしに微笑みかけた。
「【見えない罠】なら、すぐ作れるのではない?」
わたしは話を振られて、ちょっとびっくりした。
「え……ええ、はい、作ることは、できます。でも、それでお役に立てるかどうか……?」
わたしはユーダリルさんの顔色をチラチラうかがいながら、反論する。
「わたしは罠を作ったことがないですし……専門家の、ユーダリルさんの方が、ずっといい罠をお作りになるのでは……?」
ユーダリルさんにひと睨みされて、わたしは縮こまった。
「そうだね。やはり専門家に話を伺いたいんだけど……ユーダリル親方はどのように分析されていますか?」
彼は不機嫌そうに視線を逸らしたまま。
ふ、不敬なのでは……? 見ててハラハラする。
アルベルト王子は少し攻め口を変えることにしたのか、苦笑交じりに話しかけ始めた。
「……魔道具を作っても、討伐するのは騎士で、名誉もそっち。製作者には何の利益もないどころか、神の怒りは買い、教会からも睨まれる……割に合わなさすぎる。ユーダリルさんが考えているのは、こんなところ?」
ユーダリルさんはちょっとだけ視線を動かして、アルベルト王子を見た。
「……ああ、そうだ。悪いかよ。俺の一族は王家なんかとは無縁で、魔獣がわんさか出る荒れた山奥で暮らしてきたんだ。酷い魔獣の被害があっても、王家はいつも知らんぷりだったじゃないか。それが、何だ? 王都がちょっと荒らされた途端に手のひら返してきやがって……」
「きれいごとは言わない。王家には、魔獣に対する力がほとんどないんだ」
アルベルト王子がサラッととんでもないことを言った。
え、そうだったの……?
それからディオール様のことを思い出す。
ディオール様、テウメッサの狐にも勝ててたと思うけどなぁ。
うちの国は騎士団がいっぱいあって、魔獣の討伐も積極的にしてる。
あれって、対抗する力のうちには入らないのかなぁ?
わたしの疑問を置いてきぼりに、アルベルト王子が自分の話を展開する。
「力がないからこそ、魔道具師である君たちに期待しているんだ。魔道具は誰にでも手軽に扱える。無力な民を守る武器になるはずなんだ」
アルベルト王子は頼み込むような姿勢を見せた。
「この件がうまく行ったら、今後も魔道具を積極的に魔獣狩りに役立てていきたいと思っているんだ。金銭的な報酬ももちろん考えている。魔道具師が低く見られていた時代はもう終わらせたいんだよ」
アルベルト王子の説得のおかげか、ユーダリルさんはやれやれといったように向き直った。
「……狐は用心深くて、罠にかかりにくい。期待しない方がいい」
「しかし、騎士団の追い込み猟にもかからないんだ。ダメで元々さ」
「それなら……」
ユーダリルさんがぽつぽつと罠に関するアドバイスをしてくれるようになり、有用そうな罠のアイデアが出そろった。
革細工が得意な魔道具師さんたちと協力して作ってくれることが決まる。
わたしはぼーっと話を聞いてただけなので、参加しそこねたけど、ともかく罠が作られることになってよかったなぁと思ったのだった。
***
「――ってことがあったんですけど」
と、わたしは夕食のときに、その日魔道具師協会で話し合ったことをディオール様に語ってきかせた。
「王家には魔獣と戦う力がないって本当なんですか?」
ディオール様はアッシェ・パルマンティエっていう、絶品ポテトミートグラタンを無感動に消費しながら(おいしいのに!)、わたしに呆れたような視線を送ってよこした。
「そんなわけないだろう。魔獣との戦闘はほとんど騎士団任せだが、腐っても王家だ。全力で当たれば倒せない魔獣などいない」
わたしはぼんやりと、王様と大法官が大喧嘩中って話を思い出した。
だから王様が『真面目にやれ』って怒られてるのかな。




