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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
三章 テウメッサの狐編

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76 リゼ、狐の魔獣と遭遇する


「触り比べて、どうですか?」

「……熱い……」

「あ、感じますか? よかった。じゃあたぶん、魔力なしなんかじゃないと思いますよ。よかったですね」


 男の人は呆然と呟く。


「なぜ私は、欠陥品の魔石を……?」

「わ、分かんないですけど、検品漏れとかあったのかなぁ……?」


 わたしもうっかりなので、そういうことはときどきやらかす。


 今まで不良品の魔石のせいで冷たいごはん食べさせられてたんならこの人すごい可哀想……


 わたしはもう他人事に感じられなくなって、つい言ってしまう。


「よかったら、その魔石あげますんで……元気出してください」

「よろしいのですか!?」


 わたしはうなずいた。自分用のお守りにと思ったけど、わたしは別に十級検定初挑戦だし、失敗してもいいからなあ。


「わたし用なんで、デザインも女の子向けだと思いますけど、性能には問題ないと思いますんで」

「これは……非常にいい魔石なのではありませんか? なんとなくですが、分かります」

「そこまで分かるなら、きっと合格しますよ! がんばってください!」


 わたしは試験の開始を告げる監督官に名前を呼ばれて、その人から離れきゃいけなくなった。


「わたし、魔道具師なんです。それも昨日ちょちょっと手早く作ったものですから、気にしないでください」


 そしてわたしは、青空の下で、魔力測定を行うことになった。


 魔力測定。


 広いグラウンドで、撃てるだけの大きな魔法を打ち上げるという、単純なもの。


 そこで打ち上がるマジック・ショーはちょっとした見物で、それを目当てに観客がやってくることも。


「リゼエェェェーッ! やれーーーーっ!」


 大きな声で応援してくれているのはフェリルスさん。わたしも両手を振って応えておいた。


 隣にはぶすっとした顔のディオール様もいる。


 よーし、いいとこ見せちゃお。


 わたしは大きな炎の塊をイメージして、大空に向かって撃ち出した!


 パーンッ!


 色鮮やかな花火が上がって、大空いっぱいに炸裂する。


 パパパパーンッ!


 おまけに五連続で咲かせると、歓声をもらった。


 へへへ、どーだ!


 炎の色分けと燃焼時間の時差に凝ってみました!


「リゼーーーーッ! いいぞーーーーーッ!」


 えへへ、フェリルスさん見てるぅー?


 もっかい両手を振って合図してたら、試験監督の人に『早く退場しなさい』って怒られちゃった。


「魔力値八十五、初挑戦ならば十分にすばらしいですが、技巧に凝らなければもっと伸びたのでは?」

「あ、わたし、魔道具師なので! 魔術師検定はついでです!」


 試験官は笑ってわたしを祝福してくれた。


 出ようとしたところで待ち構えていた人たちに囲まれる。


「君なかなか見どころあるねぇ、うちの騎士団入らない?」

「いやー、わたし、魔道具師なんですよ」

「兼業しようよ! うちに来たらレア素材もいっぱいあるよー」

「それは悩ましいですねぇ」


 その横を、さっきの男の人がすっと通り過ぎる。


「おい、あいつ、例の『魔力なし』じゃん」

「また来たのか、凝りないなぁ」

「試験代だってただじゃないだろうに」


 騎士団の人たちが悪口を言うので、わたしはムッとした。


「あの人、魔力なしじゃないと思いますけどぉ……」


 わたしが反論すると、その人たちはどっと笑った。


「あいつ、毎年来て、ひとっつの火花も上げられないんだぜ」

「筆記は満点なのに実技ゼロな」

「ガキんちょに混ざってあれって恥ずかしくないんかねぇ」

「お、撃つぞ撃つぞ。どれどれ」


 ――その瞬間、あたりが真っ白になった。


 すさまじい熱量が吹き寄せてくる。


 ――その日あがった大花火は、王都の外からでも観測できたのだそう。


 試験監督が飛んできて、大声で宣告する。


「魔力値二百……伝説級の魔術師レベルです……!」


 男の人はとってもクールに、


「ありがとうございます」


 と、一礼して、そのまますたすたとこちらに戻ってきた。


 わたしはぴょんぴょん飛び跳ねて、その人にあいさつ。


 わたしに気づいたその人は、寄り道してくれた。


「見てましたよ! すっごいですね!」

「ありがとうございます! 自分……これで冒険者になれそうです!」


 騎士団の人たちはぽかーんとしていた。「うそだろ」「なんだ今の」「これが魔力なし?」「さ、誘う?」「いやでも……」ひそひそ会話してるのが聞こえるけど、冒険者志望の男の人は全然聞こえてないみたいに涼しい顔をしていた。


「自分は、ギデオン家に仕えるハーヴェイであります。家臣の身でありますゆえ、お渡しできる身銭も少なく、心苦しいのですが、いずれいくばくかのお礼を差し上げたく存じます。ぜひあなた様のお名前を」

「魔道具師リゼです! リヴィエール魔道具店、コメディ・オペラ座の裏通り!」


 わたしはにこにこしながら答える。いやー、いいことしたあとは気持ちがいいなぁ。


「お礼はいいんで、もし気に入ったら今度デザインのお直しにでも来てください! 装備のご相談も承りますよ!」

「騎士の名に誓って、必ずや」

「お待ちしてます!」


 そろそろわたしも帰ろうかなぁと思ったときに、事件は起きた。


 会場に、巨大な影が差したのだ。


 見上げた先に、巨大な動物の口が見えた。


 大きく開けた口。真っ赤な口腔の粘膜と、舌と、鋭い歯。


 あ――食べられる。


 現実味なしでそう思ったときには、大きな獣はわたしのすぐ目の前まで迫っていた。


 横合いから突き飛ばされて、地面に倒れ込む。


 痛い……と悲鳴を上げる間もなく、胴体を抱きかかえられて、建物の奥に引っ込む。


 大きな獣が小さな建物の入り口に阻まれて、巨大な口を悔しそうにバクバクさせる。


「ご無事ですか」

「は――はい」


 ハーヴェイさんが助けてくれたみたいだった。


 獣が前足を突っ込んで来て、鋭い爪が天井や地面を深くえぐる。


 わたしは悲鳴をあげながら両手両足でカサカサと後退した。


 獣の信じられない膂力で、ガンガン建物が削られていく。


 ときどき、中を確かめるように、鼻先や、裏返って白目が多くなった瞳などが入り口に現れた。


「き――狐だ――」


 隣にいた騎士団の関係者が悲鳴を上げる。


「狐の魔獣……」

「『テウメッサの狐』だ!」


 え? それって、最近王都に出没するって話題の……?


 ガラガラッと、建物の天井が降ってくる。


 と、倒壊しそう!


「おのれ――」


 ハーヴェイさんは、建物の外に飛び出した。


***


 ディオールは観客席で騎士団の関係者につかみかかっていた。


「おい、このバリアを外せ!」

「で――できません! 観客席にまで被害が――」

「私が退治してやる、早くしろ!」

「ど、どちらさまで……?」


 埒があかないと判断し、ディオールはフェリルスに号令を下す。


「フェリルス、行け!」

「おうっ!」


 フェリルスならば匂いをかぎわけて、最短距離で会場内に到達するだろう。


 ディオールも後を追って走り出した。


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