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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
二章 ハルモニアのペプロス編

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72 リゼ、五級魔道具師となる


 ヴィクトワールはパーティ会場で、見知らぬ女の子たちに囲まれていた。


「ねえ、あなたのそれって、例のあれなんでしょう?」

「リヴィエール魔道具店の――」


 そのうちのひとりが、ひそひそとささやく。


「ねえ、ここのドレスってどうなの?」


 ヴィクトワールは無言で、ドレスの低身長化機能をオフにした。


 背がにょっきりと伸びたヴィクトワールを見て、女の子たちが悲鳴に近い歓声を上げる。


「すごい……!」

「本物だわ……!」

「これが『恋が叶うドレス』なのね……!」


 どうやらあの小さな魔道具師のドレスは、かわいいあだ名をつけられているようだ。


「ねえ、おいくらくらいかかるのかしら? わたくしも注文してみたいのだけれど、やっぱりお高いのよね……?」

「わたくし、首が長すぎるのがすごく悩みなの! こんなにくだらない悩みでも、なんとかしてもらえるのかしら……?」

「こないだの王女様がお召しになってたお靴もとってもかわいかったわ……! ドレスは高くて手が出なくても、靴ならなんとかならないかしらね?」


 ヴィクトワールはつい微笑んでしまった。一押しの魔道具店が褒められて、自分のことのように嬉しい。


「問い合わせてみてはいかがでしょうか? わたくしが注文に行った時も、とても親身になって相談を受けてくださいましたわ。マエストロはとてもいい方ね。悩みごとも、真剣に聞いてくださいましたのよ」


 ヴィクトワールが言うと、少女たちはうれしそうに顔を見合わせた。


「お店の連絡先はご存じ?」

「ええ、知っているわ!」

「広告を見たのよ!」


 ポスターが街のあちこちに貼ってあるのだと、彼女たちは教えてくれた。


「ヴィック、その子たちは? 友達?」


 ヴィクトワールの婚約者が来て、そっと彼女を抱き寄せる。


 自然で親密な動作に、少女たちは羨ましそうなため息をもらした。


「少しお話をしていただけなの。リヴィエール魔道具店について聞かれたから」

「ああ。今、女の子たちに大人気なんだそうだね」


 ジャコブはヴィクトワールを甘く見つめて、微笑んだ。


「僕も、ここのドレスは好きだな。君がいつもより笑ってくれるから」

「ジャコブったら」


 女の子のうちのひとり、一番元気そうな子が、率先してヴィクトワールの手を握りしめる。


「わたくし、絶対注文いたします! ありがとう、お幸せに!」


 笑いながら去っていく女の子たちは、とても楽しそうだった。


***


 わたしはお店でにこにこしながら新しく貼りだした賞状を眺めていた。


 五級、骨董アンティーク級魔道具師!


 何と、新しく任命してもらったのです!


 わたしは新開発のドレスたちの中から二つを選んで、改良を重ねた。


 コルセット風の錯視ドレスと、ハイヒールに見える靴だ。


 わたしにしか作れなさそうな魔糸の技術と、わたしにしか読み書きできない暗号で書かれた錯視に用いる魔術式なので、権利申請は却下されちゃったけど……


 この発明が認められて、五級の認定をしてもらったというわけなのだった。


 認定はうれしいけど、本当はみんなに使ってほしかったなぁ。


 そのためにはこの魔糸を誰にでも作れるように改良しないといけない。


 現状だとほぼわたしの時短魔術の技能で作ってるから、技能に頼らず、誰にでも再現可能な技術に落とし込めれば、なんとか……


 わたしは積み上げてある魔獣蜘蛛の糸の麻袋を見た。


 あれを、一定の手順で加工すれば誰にでも再現可能な状態にまで研究を進められれば、いけそう。


 アルベルト王子にも『姿隠しのマントタルンカッペ』の完全版はそろそろ渡せそうだと話したら、すごく喜んでくれた。


「試作品はできたんです。でも、まだ安全性のテストが済んでいなくて」

「安全性――というと?」

「新型の魔糸は、特定の条件下で硬化する性質を持ってるんです。あんまり乱暴に扱うと、ガラス状に硬化した繊維が肌に刺さるかもしれなくて……」


 わたしは適当に置いてあった試作の布を、皮手袋をつけた手で取り上げた。


 ゴツめのガラスカッターで、びりびりっと乱暴に裂く。


 か、硬いなあ! ガラスを切っているみたい。


 ときどき、繊維質からガラス質への変化が急激に起きて、鋭い破片のようなものが飛び出ることもあった。それも数秒すると消えて、しっくりと布の形になじむ。


 摩訶不思議素材……!


「当たり所が悪いと皮膚が切れてしまいますし、目や口に入ればおそらくひどいことになります……試してませんが」

「そんな危険性が……」


 アルベルト王子が落ち込んでしまった。


 うう、役に立たない布を開発してしまって申し訳ない。


「あ、で、でも、九十九パーセントは大丈夫だと思うんです! 厳重にコーティングして、ドレスに一部ちょこっと使う分には、そんなに激しい動きもしないから大丈夫かなって……でも、もしかしたら殿下は、マントをつけたまま、戦ったりもするかもしれないなぁ、って……」


 アルベルト王子はとても驚いた顔をした。


「……気づいていたの?」

「え?」


 なにに? と思いつつ、わたしは一生懸命説明する。


「ほら、殿下は魔獣蜘蛛を自分から狩りにいったりするんですよね? それでなくても、どんな風に劣化するかはこれから地道に研究していくことなので、お渡しするにはまだ早いなぁ、って……」

「ああ……うん、そうだね」


 アルベルト王子は少し考えるそぶりを見せた。


「じゃあ、絶対に乱暴には使わないから、って条件でなら、譲ってもらえるのかな」

「は……はい。気をつけていただけるなら……」

「大丈夫だよ。剣やナイフだって、使いようによっては危ないからね。取り扱いを間違えなければ問題ない」


 それもそっか! とわたしは納得した。


「じゃあ近日中に納品できるようにしておきますね!」

「ありがとう」


 アルベルト王子の見せてくれた笑みは綺麗だった。


「君は私の救い主だ」


 そんな大げさなってちょっと思ったけど、それだけ姿を隠さないといけない事情があるってことだよね。


「わたしも気軽に買い食いできなくなったら悲しいですもん!」

「え?」

「王子様って、顔が割れてるから、隠れて屋台で食べたりとかもできないんですよね?」


 アルベルト王子はふふっと笑った。


「そうだね。憧れていたんだ、そういう、普通のことに」

「分かります! わたしも、自分で好きなだけクッキーを買えるようになったとき、すっごく嬉しかったですもん!」


 王女様だってラクがしたいし、王子様だって買い食いしたいよね。


 いいことをしたなぁ。


 わたしはアルベルト王子を見送ってから、買い出しにいくことにした。


 クッキーを作らないといけないことを思い出したのだ。


 アニエスさんからもらったレシピを試して、うまくできたら、みんなにも食べてもらおう。


 鼻歌まじりに大衆コメディ・オペラ座の前を通り過ぎる。


 ポスターが壁一面に貼ってある区画で、わたしは足を止めた。


 見慣れたリヴィエール魔道具店の意匠が描いてあったのだ。


 これ、アニエスさんが広告打ってくれたのかな?


 ポスターはとてもかわいく仕上げられていた。


 わたしはくすぐったい気持ちで、しばらくそのポスターを見つめたのだった。


『なりたい自分になれる服

 ――ご注文はリヴィエール魔道具店まで――』




二章・終


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◆三章予告◆


テウメッサの狐編


明日18時ごろスタートです

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