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5 公爵こっわ!!!


「君は私の恩人だ。ならば、恩返しはしなければならないな……」

「いえ、そんな、わっ、わたしとしては、愛用してもらっていただけでとっても嬉しいですので……」

「リゼ。君、いつもは何を食べている?」


 え? と、わたしは聞き返してしまった。


「毎朝食べるものは何だ?」

「え、えっと……黒いパン……です」


 そんなこと聞いてどうするんだろうと思っているわたしに、魔術師がたたみかける。


「朝起きるのは何時?」

「日の出の前に……」

「夜寝るのは?」

「日付が変わったら寝るようにしています」


 彼は呆れたような冷たい目つきでわたしを見ている。


「……私はときどき仕事で、違法奴隷を保護することがあるんだが」

「は、はい」

「君はその奴隷たちにそっくりだ。なぜなんだ? リヴィエール魔道具店といえば一点ものの高級ジュエリー魔道具も取り扱う人気店だろう。リゼ、なぜ君は限界まで魔術を使わされている?」


 魔術師の声のトーンがどんどん鋭くなっていく。


 わ、わたし、怒られてるの? 怖い……


 殴られたらどうしよう?


 わたしがぎゅっと目をつぶって、肩をすぼめていたら、彼は少し言葉の調子を優しくしてくれた。


「正直に答えてくれ。私は君の家族を疑っている」

「家族が何か……?」

「今日は君の姉の婚約パーティだろう? 姉を王子に嫁がせられるほど裕福な魔道具店が、一方で妹に満足な食事も与えないのか?」

「魔法学園は、とにかくお金がかかりますから……うちみたいな小規模のお店だと、みんなで働かないとやっていけないんです」

「馬鹿を言うな。純魔石を年に一万個も売っていて、小規模だと?」

「お……お金のことは、よく分かりません。でも、わたしも、父母も、ずっと働いています。怠けてなんていないけど、お金はないんです」


 魔術師が何に怒っているのかが分からないので、わたしはすがるように、やみくもに弁明する。


「だから、両親も、姉に希望を見出してるんです。姉が玉の輿に乗れば、働きづめの生活からも解放されるかも、って……だから……役割分担なんです。わたしは魔道具を作って、姉が社交界に売り込む。これは、そういうお店のシステムなんです。今日、やっと姉が婚約して、これから暮らし向きがよくなるところだったんです」


 魔術師はくっきりと深いしわを眉間に寄せて、重々しく首を振った。


「君は騙されている」

「え……?」

「言っても分からんか。分からんだろうな。洗脳された人間には何を言っても無駄だ」


 魔術師はどこか小馬鹿にするように、フーッとため息をついた。


 わたしは悲しくなる。


 どうしてこの人はずっと怒っていて、わたしの言うことを否定するんだろう。


 彼はむっつりと不機嫌な顔で、言う。


「君は今日からうちが預かる。もう家に帰らなくていい」

「え……?」

「私はロスピタリエ公爵のディオールだ」

「こっ……!?」


 にわとりみたいな声が出た。


 うちの店の常連だ。


 錬金術の名家のご子息で、まれに見る天才魔術師。まだ十代なのにもかかわらず、戦争で大きな功績を立てたので、国王から直々にロスピタリエ公爵に叙せられた。この国で知らない者はいないほどの有名人だ。


 彼が公爵になってからは、いろんなものの注文をうちの魔道具店で受けて、作った。馬具から魔術用の儀式用品まで、ほとんどうちの作品だったはず。


「あ……あなたが、ロスピタリエ公爵……」

「そうだ。そして君も今日からロスピタリエ公爵家の一員になる」

「えっ……ええっ……!?」

「これは命令だ。違反すると――」

「い、違反、すると……?」

「死刑になる」


 怖すぎ!!!???


 母親の怒声が蘇る。


 ――いいかい、この若さで、魔術の腕だけで公爵位を賜る、というのがどれほど異例なことか、よく考えて作るんだよ。もしも紋章旗の様式などが間違っていて『新参者はこれだから』とロスピタリエ公爵が後ろ指さされるようなことになったら、全部うちの店の責任なんだよ、肝に銘じときな!


 わたしは震えあがった。


 こ、公爵さまってそんなにすごい人なの?


 なんで公爵さまがわたしを家に?


 失敗作の文句を言われるの?


「ご……ごめんなさい……」


 わたしはパニックを起こしかけていた。


「許してください、ごめんなさい……」

「謝罪は求めていない。どうした?」

「……なさい、ごめんなさい……」

「……リゼ?」


 公爵さまがわたしに向かって手を伸ばす。


 また殴られるのかと思って、わたしは反射的にビクついた。


 怖い、もういや、おうちに帰りたい!


「リゼ、リゼ!? おい……」


 公爵さまの声が遠くなっていく。


 わたしはパニックを起こして、もう一度気を失った。


***


 ロスピタリエ公爵邸では、その日、ちょっとした騒ぎが持ち上がった。


「たたた、大変だ! 大変だ、みんな!」


 従者風の服を身にまとった少年が、だだっ広い使用人用のフロアを駆け回る。


「ディオール様が女の子を連れてきた!」


 使用人たちが、次々に作業部屋から顔を出す。


 まさか。旦那様が? 女の子を?


 ざわざわとする公爵邸。


 ロスピタリエ公爵邸の主人は、圧倒的な功績で異例の出世を遂げた『時の人』で、まだ若く、妻子がいない。


 そんな人物が社交界でモテないはずがなく、毎月、山のように招待状やら贈り物やらが適齢期のご令嬢がいる貴族のご家庭から送られてくる。


 その一切を切り捨ててきた、『あの』ご主人が、女の子を連れてきた。


「女の子、なんか気を失ってた」

「うっそ、事後!?」

「気になる!」


 全体にうわさが広まり、あらぬ尾ひれがつくのに、そう時間はかからなかった。


***


 どこからともなく漂ういい匂いで、わたしは目が覚めた。


 とたんに、おなかがぎゅるぎゅると鳴る。


 この匂いは……バター!


 飢えているせいか、わたしは食べ物の匂いに敏感だった。


 がばっと跳ね起きたら、隣にスープ鍋を持った男の子がいた。


 きれいに整った童顔いっぱいにニコニコしていて、全然怖そうな感じはしない。


「奥様、おはようございます」


 男の子はサイドテーブルの天板を引き出して、わたしの前にスープ鍋を置いてくれた。


「卵とささみのスープでございます。パンにおつけになるのはジャムになさいますか、それともバターになさいますか」


 それって、わたしに聞いてるの?


 わたしが戸惑っていると、男の子は「では、」と言いながら、パンを取った。


「ご希望がなければ、僕にお任せくださいませ」


 男の子はナイフで白いパンをすらりと切り分ける。


 ふわっふわの白いパン……!


 温かい器の中で半分溶けているバターをすくって、パンにぬりぬり。


 う、うわあ、いい匂い……!


 香ばしくなるよう暖炉であぶって、軽い焼き目をつけてから、わたしにくれた。


「こ、こここ、これ、どうして」

「ディオール様からのご命令でございます。『しっかり食べるように』との仰せでした。なお、違反した場合は――」

「い、違反した場合は!?」

「死罪にすると」


 公爵こっわ!!!!


 わたしはガタガタと震えながら、置かれたパンにごくりと唾を呑んだ。


 ああ。あああ……すごくいい匂いがする。香ばしい焼きたてパンの香りにとろけたバターの甘い香り……


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