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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
二章 ハルモニアのペプロス編

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45 リゼ、洗濯ボールを布教する


「そだ、これとかどうですか? 防水手袋」


 わたしは水を完全に弾く素材の手袋を取り出した。


「これ、水や洗剤を全部弾くので、激しい水仕事に最適……なんですけど、従来品のゴム引き布に比べて薄さ十分の一、お値段も百枚単位で銅貨数枚くらいまでコストを落としたので、気楽に使い捨てられるんです!」

「まあ……!」

「なので、あんまり触りたくないものを掃除するときに使えるんですよ。病気の予防にもいいらしくて、病院とか清掃業の人にも大好評です! クルミさんも、おひとつどうですか?」


 クルミさんは自分の指先を見た。


 指先はきれいにケアされているみたいだけど、やっぱりガサガサしていて、爪がなくなっている指もあった。


 メイドさんが扱うような、洗濯用洗剤や床掃除用の一部の薬剤って強いから、長く触れてると爪が剥離することって、やっぱりあるんだよね。


 わたしもときどきなってたから分かる。爪が取れるとものがうまくつまめないし、水が染みるしで大変なんだ。魔道具師は手作業が命だから、手が荒れると細工もしづらくって。


「これがあれば、お洗濯のときにも手が荒れないのでしょうか……」

「クルミさんもお洗濯ってするんですか?」

「リゼ様の、あまり人目に晒せない、ごくプライベートな洗濯物はわたくしがさせていただいております。主にリネン類でございますね」


 そっかぁ、シーツを手でごしごし洗うの大変だもんね。


 わたしは仲間意識がうずいて、洗濯用の魔道具一式を全部持ってきた。


「これ、【全自動洗濯】の用具一式です!」

「ぜ……全自動……でございますか?」

「そうです!」


 これはわたし自身も使っていて便利だったものランキング上位に入る発明品だ。


「これが【自動ブラシ】! 洗濯板と連動していて、板の上にある洗濯物の汚れを自動でこすり落として停止します! 洗濯板は汚れを検知して勝手にローリングするので、適当に置いておけば勝手に洗い終わりますよ!」

「なんと……」

「こっちは【洗濯ボール】! 適当な桶の中に水とボールと洗濯物を放り込んでおくと、勝手に洗ったあと、汚水をスライム素材のボールが全部吸い込んで、水気をカラカラになるまで切ってくれます! ボールはあとで水を捨てられる場所に持ってってくれれば排水して縮みますんで、洗濯物と一緒に干してもらえれば!」

「そのように便利なお品物が……?」

「あげるので、使ってみてください!」


 クルミさんは力強い拍手で讃えてくれた。


「なんと便利な……わたくしは今家事の女神様を目の当たりにしております……!」

「へへへへ……! ただ、大雑把なので、やっぱり人間の手仕事で一個ずつしてくれるのには全然敵わないんですけどね! レースや絹製品とかでない限り、十分かなと!」

「すばらしい……! すばらしいですわ、リゼ様……! これは世のため人のために、広く普及すべきでございます……!」

「あー、こういうのは便利だからみんなで使ってほしいですね! お金はあんまりいらないので!」


 いやぁ、生活小物は楽しいね!


 わたしはその日、クルミさんと生活小物の魔道具談義で盛り上がった。


***


 わたしは何日かかけてアルバイト募集のポスターを完成させ、とりあえず十部ほど時短魔術で【複製】した。


 ポスターを貼りだしてもらうにはお金がかかる。


 次の入金があるまでいったん置いておくことにして、わたしはマルグリット様や、その他、人材を紹介してもらえそうな貴族のお客様が来るのをお店で待つことにした。


 マルグリット様ご依頼のドレスの製作。


 アルベルト王子が見たがっていた新しい魔糸の開発。


 クルミさんに使ってもらえる生活小物の追加。


 やりたいことはいっぱいあるんだけど、全然時間が足りないや。


 ……だから、書類を貯め込んだとしても仕方ないよね!


 だって忙しいし!


 あー忙しい忙しい!


 ……それにしても、世の中っていつの間にか書類ばっかりになってきてるよね。


 しがない魔道具師のわたしでも、お店と取引したら契約書、商品を開発したら権利書、そして貴族のお客様にはお手紙と、書類ばっかり書いてるもんね。


 弁護士さんとかに頼んだらいいってディオール様は言ってたけど……


 やっぱり庶民にはハードルが高いよね。


 書類を書くお仕事の人、もっと増えてほしい。


 そしたらわたしも書類を見なくて済むのに……!


 くだらないことを考えていたら、お客様が来た。


「こんにちは。今週のお菓子を届けにきたわ」


 魔法学園の制服を着た黒髪の美少女は、さらりと髪を揺らして微笑んだ。


 アニエスさんに少し待ってもらって、わたしはお茶を淹れた。


「そうだ、こないだアニエスさんにいただいたクッキー、王子殿下も褒めてましたよ!」

「王子殿下……?」

「アルベルト王子殿下です。あれ? アニエスさんも魔法学園の人ですよね」

「殿下もリゼさんのお店に通っているの?」

「はい! わたしの姉、殿下の婚約者だったので!」


 アニエスさんが、びびーん! と衝撃を受けたような顔つきになった。


「あ、ああ、あああ……! 知っているわ、アルテミシアさんね……!? なるほど、こちらのお店が、あの大騒動の……!」


 アニエスさんがちょっと好奇心の見え隠れするまなざしでわたしを見つめている。


「やっぱり大騒動になってましたか……」

「それはそうよ、王子が半分庶民の子と婚約したのも前代未聞なら、火だるま舞踏会もとんでもない大騒ぎになったんだから! わたくしも見に行きたかったわ……!」

「アニエスさんは参加しなかったんですね」

「招待してもらえなかったのよ。わたくしはしょせん男爵の娘だものね」

「あ、貴族の方だったんですね」

「一応はね」


 確かにアニエスさん、いつも馬車に乗ってるし、お作法も上流階級っぽいし、貴族のお嬢さんって感じ。


「アルテミシアさんはお元気? 学園もお辞めになったそうだけれど」

「え、えっと……たぶん、元気だと思います」

「ご実家にお戻りになったのではなかったの?」


 監獄にいます……って、言っちゃっていいのかなぁ。


 やめとこう。


 前に口外無用って言われてた気がする。


「姉とわたしは、そんなに仲良くないので……今どうしてるのかもよく知らないんです」

「そうなの……まあ、確かにアルテミシアさんとあなたでは、雰囲気が全然違うものね」

「姉って、どういう人だったんですか?」

「そうねえ……ずいぶん裏表の激しい方に見えたけど」


 あ、姉のソトヅラのよさにちゃんと気づいてたんだ。


 アニエスさんってすごいなぁ。


 アルベルト王子だって気づいてなかったのに。


「私の婚約破棄事件もそれなりにゴシップだったとは思うけれど、さすがに第一王子とアルテミシアさんのペアには敵わないわね」


 アニエスさんは笑いをこらえきれないという感じで、口元に手を当てている。


「あのふたりのおかげで私はさほど噂にもならなかったのよ。感謝しなくちゃ」

「……アニエスさんは、何があったんですか?」


 アニエスさん、前にもお菓子屋さんの息子さんと何かあったって言ってたから、わたしも微妙に気になってたんだよね。


 気に病んでる様子もないから、たぶん聞いても大丈夫なはず。

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