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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
二章 ハルモニアのペプロス編

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41 リゼ、クッキーにハマる


 開発するのは大変だけど、一度【複製】の魔術を身に着ければ量産が簡単なのが魔道具のいいところ。


 わたしが式典で身に着けていた、宣伝用の『妖精の羽』は、マルグリット様が勧めてくださったことも手伝って、上流階級のお嬢様方を中心に百枚売れた。


 結果、わたしはちょっと絶句するような大金を手に入れた。


 す……すごい……!


 こんなにあったら……ステーキ何回食べられるんだろう!?


 百回ではきかないと思う。


 大金持ちに、なってしまった……!!


「こんなにあるなら……お茶菓子を毎日買ってもいいよね!」


 わたしはウキウキでパティスリーに行って、悩みに悩んだ末、とってもおいしい焼き菓子をゲットした。


 先日いただいたチョコレートボンボンもおいしかったけど、あれはお高いので、もっと稼いだら買ってもいいことにする!


 今はこのクッキーでも十分!


 んー、この薄くてパリッとした香ばしい生地!


 これなら日持ちするし、おいしいし、おいしいし、最高!


 そう思って買ってきたのに、気づいたら一日でなくなってしまった。


 だ……だめだ!


 おいしすぎるお茶菓子はダメだ! だって食べちゃうから!!


 そう思って買ってきた、もう少しグレードの低そうな、ふすま入り庶民向けクッキーも、その次の日にすぐなくなった。


 だ、だって、すごい、食べたことないくらいおいしいんだよ! なにこれ!? クッキーって誰が作っても一緒じゃないの!?


 こんなのはおかしいと思って、自分で作ってみたクッキーも、やっぱり次の日にはなくなった。


 自作のクッキーもそれなりにおいしかったけど、やっぱりお店のに比べると味が落ちるんだよねえ。もっさりしてるっていうか……何が違うんだろ。


 毎日交互にクッキーを買っては自分で焼いてを繰り返し、味の研究をした。


「最近のリゼは走行距離の伸びが著しいな! ワオォォーンッ!」


 魔狼のフェリルスさんが、朝晩の散歩のときにわたしを褒めてくれた。


「一枚で百メートルって決めているので!」

「なんの話だ!? ハッ、もしやお前、俺に隠れてうまいものを食っているんじゃないだろうな!?」

「あっ、あれは、お客様用の大事なもので……!」

「何をそんなにうろたえている!? 嘘をついているときの人間の匂いがするぞ!?」


 ああっ、フェリルスさんの鼻は誤魔化せない。


 フェリルスさんがわたしにどーんとタックルをかまし、芝生の上に転がしてくる。


「さあ言え! 何を食べていた!?」

「な、ななな何も……っ!」


 フェリルスさんはスンスンと真っ黒なお鼻を動かして、ぴくっとまぶたをひくつかせた。


「この匂いは……さては、クッキーか!?」

「バレたぁぁぁ!」

「やはりそうか! おかしいと思っていたのだ! 最近のリゼは妙~~~にいい匂いがするからな! 魔狼の鼻は誤魔化せんのだ!!」


 フェリルスさんは何でも匂いで当てちゃうからすごい。


「いいかリゼ、このことをシェフにバラされてデザートを減らされたくなかったら、俺にも買ってこい!! いいな!?」

「分かりましたぁ……!」


 うう、フェリルスさん、すっごく食べるからなぁ。


 キロ単位で買っていかないとダメなんだろうなぁと、わたしは観念しながら思った。


 そんなこんなで平和に過ぎていった毎日。


 締め切りは突然やってきた。


 その男性は、すごく整ったイケメン顔を、不機嫌そうな目つきで台無しにしていた。


 魔力でほのかに紫色にそまった黒髪に、薄青の氷みたいな瞳をしたこの人が、氷の公爵さまこと、ディオール様。


「で、特許の申請はできたのか?」


 ディオール様に言われて、わたしはビクッとした。


「……その様子だとまだそうだな」


 ディオール様が淡々とわたしを責める。


「なぜだ? 最初に言ってから十分な猶予期間をやっただろう」

「や、やろうとは思ったんですけど……」

「なら、今すぐにやれ」

「え、い、今すぐですか?」

「そうだ。最優先だ」


 わたしは作業中の机を未練がましく見る。


「で、でも今日は、開発中の道具がいいところまでできていて……続きがしたいなって」

「ダメだ。書類の方がはるかに大切だ」

「こ、この魔道具もそろそろ締め切りが迫ってて」

「今日は諦めろ」


 ディオール様はわたしを冷たく見下ろした。


「この書類がなんのためにあるのか、説明しただろう?」

「はい……わたしが発明者ですって、みんなにお知らせする書類ですよね?」


 ディオール様は一瞬眉をひそめたけれど、最終的にはうなずいた。


「……ものすごく簡単に言うとそうだ。これまでは専売特許権の管理は各ギルドに任せていたが、国が王立協会に委託して一元管理することにより、魔道具師の地位向上を目指す」

「ほー……?」


 国が管理すると地位が上がるのかぁ。


 よく分かんないなぁ。


 わたしが呆けていたら、ディオール様はただでさえ怖いお顔をさらに怖くした。


「そもそも君は特許がなんなのか分かってないのか?」

「そういうのは全部両親がやっていたので……何も分かんないです」

「何もか。どこから説明すればいいのか……いいか、そもそも発明・商標・意匠は個人の財産で……」


 わたしはペラペラしゃべるディオール様の説明が、さやわかに吹き抜ける秋風のように、さーっと耳に入って、さーっと抜けていった。


 魔道具の管理って難しいんだなぁ。


 わたしが何にも分かってない様子なのを途中で察したのか、ディオール様はおしゃべりをやめた。


 ディオール様は少し考えると、また口を開いた。


「……まあいい。今私が言ったことは忘れろ。とにかく、本当に大事な書類なんだ。これがなければ、リゼがこないだ作ったあの服、ほら……なんだったか? トンボの羽」

「ちょうちょです」

「蝶の羽も、他人が勝手にコピーして作って儲け放題だ」

「はぁ……」


 でも、似たような商品が出てくるのはよくあることだよねえ、と思っていると、ディオール様はわたしの困惑を見抜いたように、「だが」と言った。


「リゼが権利者として書類を作って提出すれば、他人がコピーして売るときに、儲けの何%かを君に還元させることができる」

「えっ、そうなんですか!?」

「そのレベルから知らなかったのか……?」

「知らなかったです! ってことは、つまり、つまりですよ……わたしが発明したやつも……これまで全部……何%かがもらえてたって……こと!?」

「そうだよ、いいところに気づいたな」


 ディオール様がヤケクソみたいに褒めてくれた。


「じゃあ……じゃあ、うちの店って、実はすごく儲かってたのでは……!?」

「君は知らなかったかもしれないが、実はそうなんだ。若いうちに気づけてよかったな」

「だ、騙されてたぁ……!!」


 そうと知ってたら、両親にももっとお肉をいっぱい出すように強く言えてたのに!!


 悔しい……!


 ディオール様は呆れた目つきでわたしを見ている。


「この書類の重要性が分かったろう? 分かったら、今すぐやるんだ」


 大事なのは分かったけど、やっぱりやだなぁ……と思っていたら、ディオール様がすべてを見透かしたようにため息をついた。


「……分かった。今回は私が手伝おう」

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