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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
一章 ギュゲースの指輪編

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37 リゼ、前向きー!と感心する


 わたしはディオール様のエスコートにおそるおそる続くことにした。


 後ろからマルグリット様がしずしずとついてきて、スカートを床から持ち上げ、引きずらないようにさばいてくれる。


 そっか、トレーンが長いドレスって、留め具でまとめたりしないで、正式な形で着るときは、裾を処理してくれる使用人が必要なんだ。


 自分で着たことないから知らなかった。


 そうと知ってたら裾も自動で浮くように調整したのになぁ。


 今度からそうしよう。


 新しいドレスのアイデアを心の中でメモりつつ、わたしは国王陛下の御前に立った。


 膝をついて座るディオール様を横目にチラチラ見ながら、わたしもすっと座る。


「よそ見はせず、陛下の足元を見て、少し頭を下げて」


 不慣れできょろきょろしがちなわたしに、マルグリット様がそっとささやいてくれた。


「そう、大変よろしくてよ」


 わたしが落ち着いたのを見計らい、陛下がわたしの肩に豪華な刺繍をした外套をかけてくれた。


「首席魔道具師に、余の親愛の証として、このローブを進呈する。そなたの発明品は本当にすばらしかった」


 ピンク色の、とても凝っていてかわいいローブなので、わたしは嬉しくなった。


 マルグリット様が後ろからくいくいとドレスを引いてくる。「ありがとう、と」


「あ――ありがとうございます」


 王様の側近が、わたし作の指輪を、小さな箱から取り出して、差し出してくる。


「この指輪は神話にちなみ、『ギュゲースの指輪』と名づけられました」


 解説役の人がそう声を張り上げる。


「使えばたちまち姿がかき消える、姿隠しの指輪でございます。開発者のリゼルイーズ嬢に実演していただきましょう!」


 わたしは指輪の中身をちらっと確認した。


 魔法を通さない絶縁体の布でくるんでおいたけど、変な魔術で上書きされてないかな?


 おお、無事だ。


 よーし!


 カチッとスイッチ代わりの宝石を押し込むと、わたしの身体がみるみるうちに透明になっていった。


 会場がどよどよする。


 わたしは数歩歩いて、もう一回指輪のスイッチを押した。


 くるくる回って、しばらく待つ。


 拍手喝さいを浴びて、わたしはちょっと得意になって、羽根をぱたぱたさせた。


「何あれかわいい」

「きれいねー」


 近くの人の会話に、わたしはにっこり。


 そうでしょう、そうでしょう。


 いっぱい注文が来るといいな。


 わたしが嬉しさを噛み締めているのをあざ笑うかのように――


 ――突然、会場にぶわっと煙が吹き込んできた。


 換気で煙を晴らそうと魔術師たちが詠唱を始めたところで、バタバタと倒れていく。


「催眠魔法の眠り雲だ! 吸い込むな、外に出ろ!」


 誰かの叫び声で入り口に人が殺到するも、そちらからも悲鳴が聞こえてくる。『開かない』『どうして』


 ディオール様は大きな魔法で壁に穴を開け――ようとして、周囲の人に取り押さえられていた。そりゃこんな柱と壁のすべてが美術品みたいな建造物に傷をつけさせるわけにはいかないよね。


 わたしも壁やドアを壊す勇気はない。


 窓を開けようと動いていた衛兵たちもバタバタとドミノ倒しのように倒れていく。


 そこに、歌うような呪文の詠唱が聞こえてきた。


旋回ドレーエン転がるロレン深みの快楽グルックリヒ・トラウム……」


 姉だー!!!??


 わたしはいきなり背後から肩をつかまれて、うなじの毛が逆立った。


「見ぃつけた」


 怖い怖い怖い怖い!


 固まっているわたしに、姉が媚びた甘い声でささやきかける。


「ねえ、リゼ、消えてちょうだい?」


 わたしはとっさに手元の指輪を作動させた――けれど、反応がなかった。


 これ、たぶん、姉の魔術で上書きされて壊れちゃったね。


「あなたがいなくなれば、わたくしが首席魔道具師になれるわ」


 姉が夢見がちなことを言い出した。


「あなたがいた記憶をなくして、すべてわたくしがしたことにするの。ここにいる人たちの記憶をまとめて改ざんすればいいだけだわ」

「ま、ま、待ってください!」


 空気を吸い込むとヤバいと分かっていても、わたしはツッコミを止められなかった。


「お姉様には作れる技術がないですよね?」

「それはこれから勉強すればいいことだわ。わたくしはお前などよりも優秀だから、すぐに追いつける」

「ま、前向きー!」


 やっぱりお姉様はどこまでもポジティブだった。


「見なさい、この強力な眠りの魔法! わたくしにかかればこんなものよ! わたくしに不可能なんてないわ!」


 あーうん、けっこう厳重な警備だったのに、全員まとめて眠らせちゃってるもんね。


 これは本当にすごいと思う。


 でも――


 姉は、後ろからディオール様が迫っていることには気づかなかった。


 わたしだけが、自作の『姿隠しのマント』の位置をなんとなく感知して、ディオール様の動きを知っていた。


「【黙れ】」


 ディオール様が短い詠唱で、姉の魔術を妨害する魔法をかける。


 霧は一瞬で薄れていき、姉がものすごい形相でディオール様がいるあたりを振り返る。


 ディオール様の魔術はあっけないくらい短かった。


「【落ちろ】」


 姉は地べたに這いつくばらされる。


 ほんの数秒で、姉は気を失った。


 ――ほどなくして姉の魔術のブースターの位置もディオール様が突き止めて壊し、しばらくの休憩を挟んだのちに、全員の目が覚めたことも確認された。


 ――姉は即日、監獄に送られたという結末だけ、あとになってディオール様から聞かされたのだった。


***


 アルテミシアが目を覚ましたとき、そこはすでに牢の中だった。


「なに、ここ……!? どうしてわたくしが牢に!?」


 地下ではない。窓の景色から、それが分かる。


 王都のやや外れにひっそりと建つ、バルビル塔の監獄だ。


 高貴な人間ばかりが囚われるといううわさの塔だが、こうして入ってみるとじめじめしていて、嫌な臭気が漂っており、お世辞にも居心地のいい場所とは言えない。


 寝台にある毛布も汚れている。


 こんなところにいたら三日と経たずに病気になりそうだ。


「どうして!? なぜわたくしが監獄に送られねばならないの!?」


 鉄格子にすがりつき、喚き、喚き続けて半日後。


 アルベルト王子が監獄に顔を出した。


「殿下!? よかった、わたくし気がついたらここにおりましたの、ひとりでとても心細うございました……」


 王子はアルテミシアにべた惚れだ。


 だから、しなを作って涙を流せば、すぐにほだされるだろう。


 アルテミシアは自分の可愛さに絶大な自信を持っていた。


「もうやめてくれ」


 ところが、アルベルトはアルテミシアから顔を背けた。


「私は君が好きだったんだ。その思い出まで汚さないでくれ」

「思い出って何よ、わたくしはまだここにいて生きているわ! まるで死人みたいに言わないで……」


 言いながら、アルテミシアはどんどん顔色を失くしていった。


「……わ、わたくしは、殺されるの……?」


 アルベルトは何も言わない。


 いつもなら、アルテミシアの機嫌を甘くうかがって、気持ちを安らげるための言葉をたくさん言ってくれるところなのに。

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