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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【七章進行中】  作者: くまだ乙夜
七章 復讐の天秤編

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254 リゼ、馬鹿を転がす

◇◇◇


 ディオール様が作ってくれた銀液で無事、ガラスに反射面を塗装したあと。


 わたしは木枠を削り出して、額縁を作った。


 ルキア様のモチーフとしてよく使われる太陽光の幾何学パターンに、屈折率が高くて虹色の分散が強いジルコンなどの石をいっぱいくっつけた、キラキラ、ギラギラの仕様だ。宝石本体の色も七色から選んで、カラフルにした。


 最初に図案を提出したとき、ルキアの神官様は、引いていた。


「いやぁ……もう少し、なんというか……うちは歴史のある神殿なので……」


 でも、これが一番喜んでもらえるはずだって言って説得したら、最終的にディオール様が助けてくれた。


「ルキアが満足するまで、王子が何十枚でも奉納する予定だから、一枚ぐらい変わったものがあってもいいだろう」


 鏡なんてなんぼあってもいいですからね、といったようなことを、商売人の顔で言う大神官様の鶴の一声で、わたしの夢いっぱいキラキラギラギラな部屋の主鏡は承認されたのだった。


 額縁づくりは別に難しくもなんともない。


 木枠を寸法に合わせて切り出して、石膏でモールディング。


 ジルコンはディオール様がカラー別にキロ単位で持ってきてくれた。


 透明度が高いものを選りすぐり、カッティングして、埋め込みの金銀細工にはめ込んでいく。


 そこからさらにチェーンを垂らして、小さな鏡をくっつける。そうして、風にゆらゆら揺れるサンキャッチャーをくっつけた。


 最後に銀メッキで塗装。


 風が吹くたび、太陽光が窓辺から差し込み、ギラギラと乱反射する……


 賑やかで楽しい鏡のフレーム、出来上がり!


「……目が潰れそうだ」


 と、ディオール様がぽつりともらしてたけど、それがいいんですよ、とわたしは返しておいた。


 キラキラしたものが嫌いな人なんていません!


 わたしはルキア様に負けないくらい光る物が好きだった。


 完成と同時に、わたしも奉納の儀式をすることになり、日程もさっそく週末に決まった。


 すでに各地の神殿で祝別の儀式が始まっていて、通算で数十回くらいはやっているそうなんだけど、効果はまだあがっていないらしい。


 ルキア様、気に入ってくれるかな?


 この鏡で、ちょっとでもお祈りが通じるといいなぁ。


◇◇◇


 光の女主神・ルキア。


 この世界に最初に生まれた神様で、全世界の始まりにして終わりと言われている。


 世界はルキア様とともに生まれ、ルキア様が消えることで崩壊するのだとも。


 ルキア様がいるから、世界に有と無が生まれたのだ。


 ――王都の一番大きな教会、ルキア様の大聖堂では、連日のように『光』の奇跡を願う儀式が執り行われている。


 今日行われるのは、新たな鏡の間をルキア様に捧げる儀式だ。


 ここで、わたしの鏡が奉納される。


 わたしも鏡の奉納をした職人として、儀式に出ろと言われ、巫女さんのお洋服を渡された。


 深紫のシルクでできているトーガだ。大きな一枚布を身体にぐるぐると巻きつけてドレスアップする。


「ルキア様は美しい色の布も深く愛していらっしゃるのです」


 着付けをしてくれた人の巻き方もすごかった。スリットが大きく入るように調整してくれたせいか――


「うわぁ、大人っぽい……!」


 紫の色合いといい、開放的なデザインといい、大人のお姉さんという感じだ。


 おまけに渡されたアクセサリーも、キラキラのジャラジャラ。


 すごいゴージャス・セクシー!


 昔の皇帝みたいだ。


「控えおろう!」


 杖をシャン、とついて、偉そうに言ったら、隣にいたディオール様がすごく冷たい目を向けてきた。


「巫女だろう?」

「そうでした」


 今日のわたしはルキアに仕える巫女さんの役どころだ。


「昔の暴君みたいな格好だったので、つい」


 ディオール様は隣でいつものお洋服を着ている。


 ……どっちかというと、これ、ディオール様に着せたかったなあ。


 月桂冠とか被せたらすごく似合いそうだ。


「まるで暴君らしくはないが……まあ、モデルの効果か」

「わたしに威厳がもっとあれば~……」

「服に着られている感じも可愛いといえば可愛いが」


 面白がっているのか、少し笑い気味の感想に、わたしはむーっとなった。


 そりゃあ、大人の魅力が足りないなぁとは、自分でも思うよ。


 でも、笑うことないよねぇ。


 服に着られない、ちゃんとした大人みたいになるにはどうすればいいんだろう。


「わたしには何色の服がいいと思いますか?」

「……急になんだ?」

「大人っぽい色の服を着たくなりました! 紫がダメなら、何色がいいですか? 何色の大人を目指せばいいと思いますか!?」

「色で精神性を判断しようとするのがまず大人ではない」

「それはヒュブリスですね。何したらいいのか分からないくらい手のつけようがない人は、形から入るしかないんですよ……!」


 思わずわたしが握りこぶしに力を入れると、ディオール様はかみ殺しきれなかったみたいに、ちょっとだけ笑い声を漏らした。


 また笑ってるぅ……


 わたしはますますムキになって、「じゃあ!」と、声を大きくした。


「ディオール様は、何色が好きなんですか?」


 目を丸くするディオール様の瞳は、氷みたいな薄い青色だ。


 きれいな色で、わたしも好き。


 でも、わたしに似合うかと言われると、ちょっと分からない。


「目とか髪とか、魔力のオーラとかの色に合わせてお洋服を選んでるのは見かけますけど、寒色が好きなんですか? わたしもそういう色の服を着たらもっと……」


 ……もっと、何だろう?


 思ったことをそのまま喋っていたせいで、わたしはそこで詰まってしまった。


 もっと……大人の女の人みたいに扱ってもらえる?


 ……でも、そんなことを聞いてしまったら、まるでわたしが不満を持ってるみたいだ。


 ディオール様に不満なんか全然ないのに。


 あれ?


 結局わたしは、何が聞きたいんだろう?


 混乱してきたわたしがすっかり黙ってしまったあと、ディオール様はわたしを気にかけてか、わたしの頬に手を添えた。


「……明るめのブラウン」


 それはわたしの瞳の色だ。


 まっすぐ見つめるディオール様が、少し微笑んでさらに付け加える。


「好きな色だ」


 ……え? 


 そ、そんな地味な色が……?


 嘘だよね、見たことないもん。そんな色の服着てるところ。


「……しかし、形から入るというのなら、もっといい方法もありそうだが」

「たとえば!?」


 食いついたわたしに、ディオール様が優しく言い聞かせてくれる。


「結婚さえしてしまえば、世間からは一人前と見なされる」


 結婚、かぁ……


 自分には関係のない、はるか遠い出来事のように感じてしまって、わたしはテンションが下がった。


「……今のわたしが、こーしゃくふじんです! って名乗っても、全然一人前として扱ってもらえる気はしないんですよねぇ……」

「世間のやつらなど気にしなければいい。私が君を下にもおかない貴婦人として扱う。それでは不満か?」

「不満ではないんですけど、そうじゃないんですぅぅ……」


 それじゃ逆になってしまう。


「結婚をちゃんとするために大人になりたいんですよ。美味しいご飯を作りたいから料理修業するのであって、料理人になるために料理をするわけじゃないんです。だから、つまり……えーと……」


 言っていて自分でもよく分からなくなってきた。


「大人になりたいんです!」


 言っているわたしもよく分からないんだから、ディオール様はもっと分からなかったんだと思う。


 ディオール様は何とも言えない顔でわたしとしばらく見つめ合ったあと、首を傾げながら、わたしの頬から手を離した。


「君は年相応に大人だと思うが」

「そうですか!?」

「ただ、考える力はいまひとつだな……」


 ひどいや。


 そんなことない、と言えるものなら言いたかった。でも言える材料がない。


「だが、それも個性だ。私が考えるから、君はそのままでいい」

「馬鹿でいいってことはないと思いますけど……」

「構わない。君も馬鹿だが、私も別の意味で馬鹿なんだ。だから、そうだな」


 ディオール様はわたしに何かを言って聞かせるとき、まっすぐに目を見つめてくる。わたしは少し落ち着かなくなるくらいの近しい距離で、くすりともせず大真面目に。


「大人になりたいなら、馬鹿の転がし方を覚えるといい」


 ディオール様はそう言って、わたしの手を取った。


「爪でも磨かせて、『ありがとう』と言ってやれば、馬鹿は満足するんだ」


 わたしの指先に軽くキスするディオール様は、ものすごく綺麗なお顔をしていて……


 そのときちょうど、神官様に呼ばれた。


「祭壇の中央にお席をご用意しております。そちらでしばらく祈祷をご鑑賞ください」

「行こうか」


 手を引くディオール様に、わたしは放心状態で、操られたみたいに頷いた。


 それからのことは、あまりよく覚えていない。


 気づいたらいつの間にか祈祷が始まっていて――


 あのトーチに火がつけば女神様のご意志とされる、と説明を受けた、巨大なかがり火の装置に、赤々とした炎が勢いよく燃えさかっていた。

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