表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【七章進行中】  作者: くまだ乙夜
七章 復讐の天秤編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

260/267

253 リゼ、公爵さまに爪を再生してもらう


 ディオール様は『この材料ならだいたい揃う』と言って、その日のうちにご実家に行くと言い出した。


「わたしも行っていいですか?」

「特に何も面白いものはないが」


 一緒にいられるだけでももう面白いので大丈夫です!


 って言おうとしたけど、なんだか恥ずかしくなってしまって、わたしはあいまいにニヤニヤするだけで終わった。


「じゃあ、このまま行くか」


 公爵家の馬車が回ってきて、工場の入り口につけた。タラップを下ろすのも省略して、ディオール様がわたしを車体に引っ張り上げたとき、手の皮を見て、ぎょっとした。


 あ、しまった。


 ベンガラで指先真っ赤になってたんだった。


「怪我してるのか?」

「いえ、これは、赤い染料でぇ……」


 革手袋してたら基本は染みないんだけど、今日は仕上げでガラス板をじゃぶじゃぶ洗ったし、縫い目から洗浄した水が染みこんで、中までびしょびしょになっちゃったんだよね。


「貸しなさい」


 隣の座席に座らされ、手のひらを取られる。


「べ、ベンガラって、言うんですけど、あの……」


 大したことないですよ、と言おうと思ったのに、ディオール様があんまり真剣な顔で見つめているせいで、わたしは何も言えなくなってしまった。


 ……じわじわと恥ずかしさが込み上げてくる。


 最近、ひたすら磨き砂で摺る作業をしているから、手が荒れ気味なんだよねぇ。


 すごく小さな擦り傷なんかは、直接指の腹に砂を取って磨いた方が、力加減がうまく行くので、びみょ~~~~な細部だと、ついついやっちゃいがち。


 爪も指紋も削れてしまって、まだらに赤く染まった指を見られるのは、なんだかとっても恥ずかしかった。


「……手入れが甘いな。メイドは何をしている」

「あー……手先は、クリームが残ってたりすると、金属とかシルクは変質しちゃうのでぇ……何もつけないようにしてもらってるんです」

「それでこれなのか……」


 角質が荒れてザラザラの指先を不満そうに、労るような加減で撫で撫でしてくれる。


 ……わたしは恥ずかしい上に、くすぐったくなってきて、うつむいてしまう。


「ついでに治療するか」


 ディオール様は気乗りしなさそうにつぶやいた。


「綺麗に治るはずだ。薬なら、実家に行けば何でもある……何でもな」

「なんでちょっと嫌そうなんですか?」

「ほぼ何でも揃うからな。美容で使っていいのがどのあたりまでだったか、思い出すのに苦労するんだ」

「び、美容と治療って違うんですか?」

「ああ。あと、人体実験との境もどこだったか……」

「ち、治療と間違えて人体実験することなんてあるんですか!?」

「ある。自家用だと曖昧だったりするんだよ」

「やめましょうよそういうの……!!」


 お医者さんなのに用法用量が適当なの、絶対よくない。


「まあ……大丈夫だろう。慣れている」

「ほ、本当なんですよね……?」


 不安でドキドキしているわたしの手を、ディオール様はとってもきれいな笑みを浮かべて、ぎゅっと握った。


「失敗してもフォローは手厚い」

「失敗しないで……!!」


 ディオール様のいつになくいい笑顔を見ているうちに、なんとなくわたしにも分かってきた。


「……からかってませんか?」

「気のせいだ」

「ほんとぉ……?」

「ああ」

「信じてますよ……?」


 不安が高じて、ぎゅっと手を握り返すわたし。


 すると、ディオール様は少し目を丸くした。


「もちろん、と言いたいところだが」


 ディオール様が少し困ったように笑う。


「そう可愛い反応をされると、迷う」

「安全第一でお願いしますねぇ……!」


 ディオール様はいい人なのに……


 ときどきすごい意地悪するの、本当になんで?


 わたしを怯えさせて喜んでるときない……?


 き、気のせい? 気のせいだよね……?


 ――わたしは道中、得体の知れない治療に怯えることになったのだった。


◇◇◇


 怯えていた治療は、特に何も怖いことなんてなかった。


 それどころか、ついでとばかり、丁寧にネイルのケアをしてもらった。


 赤く染まった指先はスクラブの入ったあわあわで洗ってもらって、オイルと交互に洗浄を繰り返したら、だんだん色が薄くなっていって、やがてきれいさっぱり取れてしまった。


 最初はおててを握られてちょっと恥ずかしいな……と思っていたわたしも、効果てきめんの薬品が次々に出てくるので、それどころじゃなくなった。


「ベンガラってこんなにきれいに取れるんですね……!?」

「正体が酸化鉄だと分かっていればどうにでもなる。粒子をしっかり落として、酸化部分を還元すればいい」

「……?」

「いや、忘れてくれ」


 ディオール様は軽く水で流してから、荒れた皮膚も治してくれた。


 爪の生え際の分厚い角質は切除して、呪文で再生。


 欠けてしまった爪も、何かのオイルをつけて、治療呪文をかけてもらったら、にょっきり新しい爪が生えてきて、きれいに治ってしまった。


「爪って再生するんですねぇ……!」

「そういう治療だからな」


 長い爪、新鮮だぁ……


 邪魔になるから、いつもギリギリまでカットしちゃうんだよね。


「なんだか貴族のお姫様みたいですね!」

「そんなに気に入ったのか」


 ディオール様は少し笑ってから、慣れた手つきでやすりがけして、爪の先を四角くしてくれた。


 最後の仕上げにと、小箱に入った白い粉を出してきて、セーム革につけて、磨いてくれる。


 わたしの爪、つやっつや……!


 光を丸く弾いて、曲面ごと輝いている。


 こんな色艶、初めて見た。


「す、すごい、鏡面仕上げになってます……! わたしの爪、すごく高級そう……!」

「家具みたいに言うんじゃない」

「いーえー、高級家具のつやつやですよこれは! シェラックニスみたい……」

「なんだそれは」

「お高い家具にちょっとずつポンポンってしてつけるんです! そうするとすごく綺麗なツヤが出るんですよ。ただ、体温で溶けちゃうので、日常の家具には向いてないんです。高級家具にだけ許された輝きなんですよ……!」

「独特な褒め言葉でよく分からんが、喜んでくれたようで何よりだ」


 わー、すごいなぁ、きれいだなぁ……


「わたし、いろんなものを磨いてきましたけど、自分の爪を……なんて、考えてみたこともありませんでした」


 だって、爪が長いと邪魔だし。


 手袋ごしだとうまく細工できないようなときは、指先を徹底的に脱脂して、素手で行くこともある。当然、手の皮膚なんて荒れ放題だ。


 再生なんて荒技だけど、こんなに綺麗にしてもらったのは初めて。


「気に入ったのならメイドにやらせるといい。道具を渡すように言っておく」

「い……いいんですか?」

「そのためのメイドだ」


 そして、そんな有能メイドのクルミさんをつけてくれているのはディオール様だ。


 何でもないことみたいに言っているけど……


 わたしは本当に、大切にしてもらっているんだなぁ。


「さて、私は銀液を作ってくる。君は?」

「おそばで見てます!」

「構わんが、飽きても構えないからな」

「大丈夫です! 飽きないので!」

「そうか? まあ、爪磨きでそれだけ喜べれば、退屈しないか」


 もちろんそれもある。


 けど、一緒にいたいだけだったりするんだよねぇ。


 そう思いつつ、なんとなく言いそびれてしまったのだった。


◇◇◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク&いいね&★ポイント評価応援も
☆☆☆☆☆をクリックで★★★★★に
ご変更いただけますと励みになります!
▼▼▼書籍三巻が出ます 詳細は画像をクリック!!▼▼▼
i726133/
i726133/
▼▼▼コミカライズ4巻が出ます 詳細は↓をクリック!!▼▼▼
i726133/
i726133/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ