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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【七章進行中】  作者: くまだ乙夜
七章 復讐の天秤編

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252 リゼ、公爵さまに護衛される


 ガラスはローラーをかけて、固まった状態で置いてあった。


 表面はザラザラしていて粗く、曇っている。


 裏側は焼いた石膏を貼り付けて、テーブルに固定してあった。ガラスが動かないように、だと思う。


 伝わっている製法によると、ここから板ガラス同士を擦り合わせて粗摺りをし、最後にファイリングやコンパウンダーで細かく磨き上げていく。


 本来であれば手分けして取りかかる作業だから、何日かかかりそうだ。わたしは気長に取り組むことにした。


 まず、ガラスで作ったヘラに、水と粗い砂を練り合わせた研磨剤を少し取り、曇りガラスの上に置く。


 あとは平らになるまでひたすらザリザリザリザリ。


 ザリザリザリザリ。


 ……


 …


 こういうの、いつもなら途中で短縮魔法(ショートカット)を組むところなんだけど……


 ないものはしょうがないので、地道な作業だ。


 何日かかるのかなぁと思いながら、わたしはひたすらガラスを磨いていった。


◇◇◇


 砂をだんだん細かくしていって、ガラスの厚みがそろってきたところで、わたしはいよいよ真っ黒に焼いたガラスの粉末に研磨剤を変えた。


 仕上がりは逐一親方にチェックしてもらう。


「……どうですか?」

「もう少しだな。かすかに傾斜が残ってる。まあ、裏面を削れば綺麗になるだろう。右端から三分の二のところあたりまで、三角のゆるやかな斜面を削る感じで」

「こうですか?」

「ああ。均しの基本は出来てる。全体的には悪くない」


 オーケーが出たので、粗摺りは終了。


 仕上げ磨きは別名『腐った石』とも言われる珪藻のロットン石と、古くから宝石の磨き砂として有名なエメリー粉で二重に磨き上げた。


 最後にベンガラ。


 これは研磨剤じゃなくて、綺麗な赤色をした石、ヘマタイトから採れる赤い染料だ。これでガラスを磨くとピッカピカになる。


 わたしはこの作業が一番好きだ。


 赤茶の水で曇っていたガラスの表面が、一気に澄み渡っていくあの感動……


 ディオール様に、バケツに水を呼び出してもらって、擦り上げた表面を洗い流すと……


 水滴を載せた板ガラスが、キラリと白い光を弾いた。ぴかぴかの表面に、白い日光が反射する。


 うーん、歪みなし、気泡なしのいいガラスだなぁ。


 これは完成に期待が持てそう。


 八人がかりでひっくり返してもらって、さらに反対側も磨き上げること数日。


 最後に赤い染料を濯ぎ終えると、透き通ったガラスの裏側が鮮明に映った。


 透明度、申し分なし!


 フェルトのローラーで残留物などを全部取り除く。


 きれいな一枚ガラスの完成!!


 親方に仕上がりをチェックしてもらっていたら、職人さんたちがみんな集まって見物していた。


「とうとうやったのか……」

「大変だったろう」

「この面積だもんなぁ」

「いやぁ、出来も悪くないよ」

「ワレカケ出てないのはすごい。何かやってた?」

「魔道具師です!」

「あー今魔道具作れなくなっちゃってるもんねえ」

「そうなんですよぉ……復活祈願でこのお仕事にかけているんです!」

「分かる~! 俺もさぁ……」


 職人さんが弾んだ声を上げた瞬間、隅っこで座って見てたディオール様が、組んだ長い脚を下ろして、立ち上がった。


 近寄ってきて、無言で睨むディオール様に威圧され、職人さんは引きつり笑いを浮かべながら、ささーっと散っていった。


 ……ああ~……秘密の製法を聞き出すチャンスがぁ~……


 逃げられて悲しい思いをしているわたしに、ディオール様が冷たく言う。


「できたのか?」

「は、はい」


 ディオール様は短く呪文を唱えて、魔術を使った。


 軽々とガラスを持ち上げ、光の反射具合を確かめるように、斜めにしてみせる。


 ものすごい……すごく澄んでる!


 光がきれいに入って、きれいに抜けていく。


 裏を透かして見たとき、景色が少しも歪まないのは、ガラスの品質が高くて、磨き方もきちんとしているときだけなのだ。


「は!?」

「魔法!? え!? 魔法!?」

「今魔法も止まってんじゃないの!?」


 退散しかけていた職人さんたちも動揺している。


 これまでずっと職人さんたちが八人がかりで移動してくれていたのに、軽々と持ち上げられたら、そりゃびっくりだよねぇ。


 今のところ、魔術の復旧に成功している人はディオール様以外いないみたいだ。


 親方も動揺しつつ、オーケーを出してくれた。


「いい腕してるよお嬢ちゃん」

「いやぁ、ガラスが綺麗だったので!」


 普通、大きい鏡ってどうしても波紋みたいなのとか残っちゃうんだけど、これは本当に均質でいいガラスだった。


「やっぱり王立のガラス工場ともなると、作ってるものも違いますねえ! 最高級品って感じです!」

「そりゃあまあ……投入してる素材の質が違うもんよ」


 親方はそう言って、いろいろと裏話を教えてくれた。


 質がいいのも納得のこだわり工法だ。


 勉強になるなる。


 せっかくだし、うちにも一枚買おうかな? なんて思ってしまう。


 わたしはひとしきり親方のガラス談義を拝聴したあと、次の工程に移ってもらうことにした。


「お次は銀引きだな」

「あれ? アマルガムじゃないんですか?」

「そいつは八十年前の工法だ。今はもっといいもんがあるんだよ」


 水銀は健康被害があるのだというようなお話をしつつ、親方はちょっと困った様子だった。


「しかしなあ……いつも仕入れてる銀液は、このご時世で材料の生産が止まっててなあ」

「何が足りないんだ?」


 と、ディオール様がすかさず横やりを入れる。


「書き出してくれ。集めてくる」

「いや、うちもあちこち当たってるけど、どこも魔法が止まってて……」

「私が使える」


 親方の話を途中で遮って、ぴしゃりと言う。


「どんな材料でも集められる。問題ない」


 え? なんで? って顔をしてる親方さんに、わたしはそっと付け加えてあげることにした。


「ディオール様、錬金術のアカデミーにおつとめなんです」

「ははぁ……」


 ディオール様、説明が足りないんだよねぇ。


 いつものことだけど、ちょっと先回りできたわたしは、かなり得意げだった、と思う。


 今の、すごくディオール様と仲良しっぽくなかった?


 デキる女の人の感じが出てたのでは……!?


 わたしが嬉しくなってチラッと振り返っても、ディオール様はよく分かってない様子だったけど、わたしがあんまりヘラヘラしていたせいか、軽く目を細めて微笑み返してくれた。


 えへへへ……


 ――というわけで、板ガラスの洗浄・乾燥と、材料集めのミッションが挟まることになり、ガラス工場からはいったん帰ることになったのだった。


前回もですけど、今回も、ディオールがなんか出しゃばっているのは、リゼのことを「お嬢ちゃん」呼ばわりされたりしたのが気に入らなかったのだと思われます。

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