251 リゼ、監視される
◇◇◇
そして一週間後、わたしは、王立のガラス工場・王都支部まで行くことに。
ガラスは魔獣の影響なんかもあって移動中の破損率が高く、酷いときは六割くらいが割れてしまう。そのため、移動したあとに、無事なガラスだけを磨く場所が出来たのだ、ということだった。
郊外のガラス工場は、わたしが思っていたのより十倍ぐらい大きかった。
働いている人の数もすごい、十人以上いる。
しかも、ものすごい数の鏡が並んでいて圧巻だった。
「これもみんな奉納する予定なんだよ」
とは王子様の談。
小さい鏡はだいたいみんな持ってるけど、暖炉の上に飾る大きな鏡や、全身が映るドレッサー、三面鏡なんかは、ちょっとした贅沢品だ。
それを全部奉納するとなると、いったいいくらになるんだろうか。
つい計算してしまうのは、わたしが職人だからなんだろうなぁ……
「ルキア神殿の改装も込みで、美しい鏡の間を作るって話になってる」
といって、設計図を見せてくれる。
大きな広間の壁と天井全面に、たくさんの鏡を並べる予定みたいだ。
「君には、この中央の祭壇に置く鏡を作ってもらう」
過去に作った鏡のデザイン図も添えられている。
光を司るルキアらしい、伝統的な模様のパターンでできたフレームに収められている。
「ルキア様キラキラしたものが大好きですし、喜んでくれそうですね」
「うん。八十年前の伝承でも、これが決め手で停止が解けたって書いてあるから、きっと気に入ってくれるはず」
よさそう。
わたしはなんとなく昔のことを思い出してしまった。
職人に限らず、王国民は神殿に納める税金として、毎年何かしらの品物を作って神様に奉納する決まりになっている。
ふつうの人はだいたい紡いだ糸とか、ビール、チーズなんかを納めているものなんだけど、職人は自分が作っているものを持っていく。
わたしはお父様やお母様、お姉様の分まで奉納物を作っていたから、毎年、お祭りの日付近は本当に大変だったんだよねぇ……
で、毎年ルキア様にも奉納をしていたんだけど、ルキア様は最高神なので、司る範囲がとっても広くて、受け取ってくれる貢ぎ物の範囲も広かったんだよ。
だからわたしは、毎年好きな物を作って遊んでいた。
「そういえば、むかーし、自動でゆっくり回るサンキャッチャーを、ファイヤが強い石の削りかすと、シャンデリア用のガラスの破片をモザイクにして作って新年の奉納にしたら、すっごい喜んでくれたことがあるんですよねぇ」
「へえ……そういうのがいいんだ」
「すーごくキラキラに作れたんですよぉ! そしたら祝福の光をいっぱいもらいました」
「君の寵愛はもしかしてそれが由来か……?」
横で聞いていたディオール様が真面目にぼそりと呟く。
「そうかもしれません! 完全にわたしの趣味で、ちっちゃい女の子が喜ぶやつを作って持ってってたんですけど、明らかに他の人よりもウケてましたもん」
神様の祝福は分かりやすい。
うれしいときはキラキラさせてくれるし、怒っているときは黒い汚れみたいなのをつけてくる。
新年の奉納は教会へのお布施というか、毎年の税金みたいなものなので、みんなが持ってくるものなんだけど、待機列の中ではわたしが一番だった。
花火のようなキラキラをまき散らして祝福してもらえたので、神官さんにも褒められたくらいだ。
「光りものが好きだというのが通説だったが、本当に物理的に光るものがよかったのか……」
「そんなわけはないよ」
なぜか呆れた調子で突っ込む王子様。
「王家でも毎年高価な鏡を奉納してるけど、特別喜ばれていた形跡はないからね。リゼルイーズ嬢の手作りだから嬉しいんじゃないかな」
「わたしと趣味が近かったんだと思います!」
「ルキアの趣味は女児相当なのか……」
「来年の奉納物は考え直さないといけないかもね」
そんな話をしながら、わたしが最後に案内してもらったのは、小さな作業場だった。
「私は他にすることがあるから、悪いけれどここでこの計画から外れるね。あとのことは公爵に頼んであるから」
「心得ております」
王子様は最後に、わたしとまっすぐ目を合わせて、激励してくれた。
「人類は明かりがないと生きられない。頼んだよ、リゼルイーズ嬢」
そうして、何メートルもある大きなガラス板が、わたしに託された。
◇◇◇
わたしに割り当てられたお部屋は、いつも板ガラスの擦り上げに使っている場所だということだった。
ガラスをみんなで手分けして研磨しては、出てきた削りカスをばしゃばしゃ洗い流す、石づくりの少し寒い部屋だ。
ガラスを運んできてくれた職人さんたちが、わたしを見つけてどよめき出した。
「お嬢ちゃん、ひとりでこのガラス磨くんだってな」
「平気か? 使い方分かる?」
「えっと、この分野では素人でして……」
なんて話をしていたら、急にわたしの前にディオール様が立った。
……お?
「彼女はこう見えて王家から信任された国家の主席魔道具師だ。無礼を働けば処罰が下るから、気をつけろ」
「は、ははぁ……」
「分かりやした」
職人さんたちは気まずそうにお互い顔を見合わせると、少し後ろに後ずさった。
「じゃ、じゃあ、俺たち隣とかで作業してますんで」
「なんかあったら声かけてくださいや」
職人さんたちがじゃっかん卑屈な態度でぺこりとして、下がっていく。
あ、ああ~……!
「ガラス磨きの方法教えてほしかったぁ……」
「? なら呼び戻せばいい」
「いえ、基本は知ってるので……」
「じゃあ教わる必要はないだろうが」
「そうじゃないんですぅぅぅ……」
よその職人さんって、それぞれ独自の技術を隠し持ってたりするから、わたしみたいなのが相手だと油断してペラペラ教えてくれたりするんだよねぇぇぇ……
でも、脅しが入っちゃったし、もう無理かな……
わたしはちらりとディオール様を見上げる。
今日のディオール様も彫像みたいに美人さんだった。
でも、怖いお顔で全部台無し! 台無しです!
「しかし、王立の工場にしてはずいぶん治安が悪そうだ」
「? そうですか? 皆さん丁寧だなって思いましたけど……」
「立派な職人を囲んで、過剰にものを知らない子ども扱いをするのは丁寧とは言わんだろう」
それの何が悪いのか分からなかったので、わたしは変な顔になってしまった。
いやぁ……全然マシでは? と、思ってしまうのだ。
「職人の工房って、出来が悪かったらぶん殴られつつものを教わるものなのでぇ……」
「それは君の店だけだ。しっかりしろ、まだ洗脳が解けてないのか」
そうは言っても、仕事を教えようとしてくれる時点で、親切さで言ったらわたしが知ってるよそのギルドさんの中でも上位に入る。
一生懸命説明したけど、ディオール様は貴族だから想像しにくいみたいで、カルチャーショックを受けていた。
「こういうのはどこでも『盗め』と言われて、雑用をしながら自分で覚えるものなんですよ」
「徒弟制度全般そうなのか……問題だらけだな」
深刻そうな顔つきで、ディオール様が言う。
「やはり、私がつきっきりで護衛するしかあるまい」
「!」
そっか、一緒に見ててくれるんだ。
嬉しいな、いいとこ見せられるようにがんばっちゃお。
「じゃーまず、粗摺りからしていきますねぇ!」




