231 リゼ、栗のパンを作り損ねる
◇◇◇
「リゼ! リゼ! 今日はお前の店で、昼に栗のパンを焼こう! ご主人も好きなやつだ!」
「いいですねぇ!」
と、約束したものの、その日はなんだか混雑していた。
開店する前からお店の前に武器を持った人がたくさん並んでいたくらいだ。
強い魔獣が出たりすると、一時的に賑わうこともあるけど、そんなニュースは聞いてない。
「何かあったんですか?」
冒険者のお客様に聞くと、声をひそめて教えてくれた。
「処刑だよ」
不穏なワードに驚くわたしに、別の人もこっそり事情を教えてくれる。
「何でも王室御用達の武器屋を襲ったとかで、サントラール騎士団の連中が大量に捕まったんだと」
「……!」
レギン親方の武器屋のことだ。
アルベルト王子が全員捕まえる、とは言ってたけど、その相手が意外すぎた。
「さ、サントラールの人たちが、捕まったんですか……?」
なんでサントラールの人たちが?
は、犯人???
わたしにはウラカ様のイメージしかないから、全然意味が分からない。
でも、その人たちは確かだといって、頷いた。
「魔術師を中心にかなりの精鋭が吊るされたらしくてな。今、上層部も対応でてんやわんやだとかでうまく機能してない」
「で、魔獣が狩られずに放置されてるってんで、こっちに依頼がドカドカ回ってきてるんだ」
た、大変なことになってるぅ……
冒険者さんたちもそれぞれ心配なのか、口々に立ち話を始めた。
「報酬すげーけど、ぶっちゃけどう思うよ?」
「国債払いって、大丈夫なのかねぇ」
「まあ、ちょっと額面割ったとしてもおいしいと思うぜ俺は」
「そうかなぁ……」
国債で払う……ってことは、王家が依頼を回してるってことなのかなぁ。
アルベルト王子、最近姿を見かけていないけど、そんなことやってたんだ……
「あ、あの、どうして? サントラールの人が、武器屋を襲ったっていうのは、なんでかとか、知ってますか?」
「さあ? それはこれから裁判で追及するんじゃないの?」
「それもどこまで本当だか……」
「証拠を管理する魔術師協会がサントラールとズブズブで真犯人を隠してるって王家が騒いでるらしいけど、言いがかりなんじゃないのかねえ」
「王家ならやりかねないな」
わぁ、ここでも王家の評判は悪いんだなぁ。
「詳細はわかんないけど、俺たちにはラッキータイムなんだよね。いつも美味しい場所の素材を独占してるサントラールが消えたから、そっちにも出入りできてるし」
「未登録のレア武器のレートもかなり下がってきてるって聞くよ」
「おー、怪しい武器持ってる奴増えたよなぁ」
「やめとけよ、登録してない武器防具なんて。手を出して見つかると一発で冒険者証取り消しらしいぞ」
「それがさぁ、ちょっと面白いんだけど」
冒険者さんがさらに声をひそめた。
「ヤミ武器を流通させるのにサントラールが一枚噛んでるって話、知ってる?」
「何それ?」
「摘発されても、謎の圧力がかかって取り消しにならないんだって」
「……それ本当?」
「本当、本当。なんでかって未登録の素材を売ってるのがサントラールだからって話」
「ええ……」
「摘発したら自分たちの悪事がバレちゃうから、もみ消すんだと」
「腐ってんじゃん!」
わたしはだんだん不安になってきた。
それが本当だったら、王様たちに隠してこっそり強力な武器防具の元となるものを流通させているってことになる。
ウラカ様もそういうのよくないって、こないだ言ってた。
王様たち、わたしがテウメッサの狐を倒したときも素材はどこかってすごく神経質に聞いてきてたし、ヤミ武器とかヤミ素材なんて絶対許せないんじゃないかなぁ……
「ま、あくまで噂な。やめとけよ、せっかくサントラールが退いたんなら、正々堂々獲りにいこうぜ」
「そうだな」
サントラールのよくない噂話はそこで終わりだった。
よかった。違法な所持品の自慢が始まって、わたしも危ない橋を渡らされるのかと思っちゃった。
すぐにでも武器を強化してほしい、というお客様が多かったので、その日は魔術式の付与で対応した。
破壊力を増す魔術式は使えないけど、重量を軽減したり、防御用の結界を応用して耐久力を上げたりするのなんかはむしろ得意。
レアを狙ってる冒険者さんの武器はある程度容量を取ってるものも多いので、それで何とかなった。
お客様がたくさん来たせいで、お店で買ってきたパンをいっぱい与えられたっきり放置されていたフェリルスさんが、やれやれと立ち上がる。
「リゼ! 早く帰ろう!」
「フェリルスさん! すみません、今日はパンが焼けなくって……」
「なぁぁに、気にするなっ! 俺はいつでも構わんっ! また明日にしようじゃないかっ!」
「はい!」
栗のパンは腹持ちがよくて美味しいと力説するフェリルスさんと一緒に、その日は家路についたのだった。




