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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【七章進行中】  作者: くまだ乙夜
六章 女神のオルゴール編

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229 リゼ、恋心が芽生える


◇◇◇


 オルゴール、喜んでもらえてよかったなぁ。


 綺麗な歌だったから、わたしもまた聞きたい。


 次にまた会えたら、頼んでみよう。


 ――わたしは一仕事終えた達成感で、ちょっと舞い上がっていた。


 本当はディオール様にもオルゴールを聴いてほしかったな、と思っていたのもあって、無性に会いたさが増していた。


 勝手に見せたらいけないものだったし、持っていかなくて正解だったけど、うまくできたものを見てもらいたかった気持ちが、まだ消化しきれていないのだ。


「お話をしにきました!」


 そう。お話です。


 仲良しをするにはお話が大事なのです!


 ピエールくんがそっと「今晩はこれにて退散いたしますね」と言い残して消えていく。


 わたしとふたりで取り残されたディオール様は、嫌そうにベッドから起き上がった。


「寝るところだったんだが」


 というより、もう寝てた。


 髪の毛がめちゃくちゃだ。


 お顔も眠そうで、まぶたがむくんでいる。


 うたた寝中にハッと飛び起きて、目がしょぼしょぼしてるフェリルスさんみたい。


 ディオール様もかわいいし、寝癖のフェリルスさんを思い出したらそっちもかわいいしで、二倍のかわいいだ。


 ディオール様のこと、ずっと怖い人だと思ってたけど、最近は全然そう思わない。


 廊下でばったり出くわしたりすると、まず、あ、かわいいな、と思ってしまう。


 かわいい男の人が歩いているな、と思うと、ディオール様なのだ。


「急ぎの話か?」

「そういうわけでもないんですが……」


 ベッドサイドに腰かけ直したディオール様のすぐ横に立つと、わたしはいよいよ髪の毛の乱れが気になって仕方なくなった。


 ……直してあげたい。


 ダメかなぁ。


「……何をニヤニヤしてる?」

「え!? ニヤニヤしてますか!?」


 慌てて顔を引き締めようとしたけど、無駄だった。


 なぜだか顔が勝手にふやーっと溶けてしまうのだ。


 髪の毛ぐちゃぐちゃのディオール様かわいい。


「あの……触ってもいいですか?」


 寝癖、と、乱れた髪の毛を指さすと、ディオール様は無表情に自分で髪の毛をかき上げた。


 手ぐしで乱暴に整えたあとにも、ちょっとだけ寝癖が残っている。


 サラサラの髪質だから痕が残りやすいのかな?


 わたしはつい手を伸ばして、片膝をベッドに勝手に乗り上げた。


 ちょいちょいと仕上げをしてあげて、これでよし。


「ディオール様は髪の毛、サラサラですねぇ」

「……やめてくれ」


 一気に嫌そうな顔をするディオール様。


 軽く押しのけられてしまった。


「あ……す、すみません……! 失礼でしたよね……」


 そうだよ、何で勝手に触っちゃったんだろ?


 ダメだって分かってたのに、触りたいって思ったらついやってしまった。


 ……あれ?


 でも、ディオール様だってよく勝手に触ってくるし……


 いやいや、触ってくるからって、わたしもしていいってことはないよね。


 本当に、なんで触りたいなんて思っちゃったんだろう?


 ……???


 自分で自分のことが分からなくなって、頭に疑問符を大量に浮かべているわたしに、ディオール様が言う。


「そういうわけじゃないが……ろくな思い出がないんだ」


 ディオール様は何を思いだしたのか、本当に嫌そうだった。


「髪に塗っている美容液は何かとこれまで何度質問攻めにされたか」

「あー……」

「家業だから嫌だとも言えない」

「お疲れ様です……!!」


 かわいそうなディオール様。


 そんなディオール様もかわいい。


「まあいい。何の用だ?」

「用っていうほどのことはないんですけど……」

「ならまた明日にしてくれ」


 眠そうにあくびをかみ殺しているディオール様もかわいい、なんて思っているうちに、わたしはとっとと追い出されそうになっていた。


「あ、明日、また来ます!」

「ああ。帰ったら呼ぶから、そのときに」


 やったぁ!


「いきなりですみません。でも、お顔が見られてうれしかったです!」


 ドアの外、ばいばいするタイミングでそう言うと、ディオール様が少し目をぱちりとさせた。


 目が覚めた、といわんばかりの顔だ。


「……ああ」


 ディオール様は呆れたみたいに、少し笑っていた。


「私もだ」


 小さなわたしに寄り添うように背をかがめ、こめかみに、ちゅっとしていった。


「また明日な」


 そんな風に言い残して、ディオール様がさっさとわたしを締め出し、ドアを閉じる。


 えへへ……


 また明日、だって。


 約束したってことは、特に用事もなく押しかけてきていいってことだよね?


 言われたからには絶対に来よう。


 それで、オルゴールのことも聞いてもらうんだ。


 綺麗な歌を歌うドワーフさんがいたこと。その人のことを何よりも愛してた騎士さんがいたこと。


 それで、それで……


 ディオール様と一緒に歌を聴きたかったこと。


 でも、そんなこと言われても困っちゃうかな。


 知らない人たちの思い出の曲を聴かされても……ってなっちゃうよねぇ。


 わたしも、どうしてディオール様にそんなの聞かせようとしてるんだろう?


 自分でもちょっとよく分からない。


 きれいだったから?


 たぶんそう。いい歌だった。


 でも、それだけでもない、ような気がする。


 歌に揺さぶられて味わった孤独感や、人恋しいと思った気持ち、そんなのを、みんなまとめて共有して、分かち合いたいと思う、この気持ち。


 これって一体何なんだろう……?


 ……まぁ、いいか。


 わたしはそれ以上深く考えなかった。


 うきうきしながら、自分のお部屋に戻ったのだった。



六章終了

次回七章・復讐の天秤


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― 新着の感想 ―
すごく可愛らしいお話でほっこりしました。 ほっこりした最後に次章の不穏なタイトル! リゼの平穏が続きますように。
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