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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【七章進行中】  作者: くまだ乙夜
六章 女神のオルゴール編

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223 リゼ、王城にお呼ばれされる(2/3)


「修理中のオルゴールも見てもらっていいですか?」


 わたしはいそいそと、持ち込んだ旅行かばんから、壊れかけのオルゴールを出した。


「魔道具化されてるオルゴールなんですけど、マルグリット様のコレクションにもありますか?」

「いいえ。わたくしが持っているのは、機械のものばかりよ。借りるわね」


 薄手の布手袋を嵌めてもらって、マルグリット様に触れてもらう。


「……可愛らしいオルゴールね。これなら、同じタイプのものをたくさん持っているわ」

「機械は、どこでも売ってるやつです」

「魔道具には全然見えないわよね」

「おねーさま、どういう魔道具なんですの?」

「それがですね、よく分からなくて……たぶん、音の周波数? がいっぱい格納されてるっぽいのは、確認したんですけど」


 アニエスさんも横から眺めつつ、顎に手を置く。


「ピンで鳴らした音を元に、和音でも鳴らしているのかしら?」


 マルグリット様もアニエスさんにつられて、むう、とした。


「ありそうね。元の音から周波数をいじって音を生み出せば、和音としても綺麗に調和するでしょうし、ピンを三本弾くより、綺麗な音になるかもしれないわ」

「なるほど……周波数……もしも直接いじれるのだとするなら、オクターブ上や下の音を出すのも難しくはなさそうですわね」

「そうね。高いラや低いラなどもすべて一本の櫛歯でまとめられるなら、コンパクトに収まるかもしれないわ」

「ラって何ですか?」


 楽器をやったことがないわたしが素直にそう聞くと、アニエスさんがすかさず「基準音よ」と言った。


「音楽では、基準となる音はラ、周波数440と決まっているの」

「そうなの! 一本の弦の長さをちょうど二分の一にすると、周波数が倍の880になって、次のラになるのよ。この、ラからラのことを、一オクターブ、と呼ぶわ。オルゴールも、最初のドの櫛歯の長さが半分になると、次のドになるのだけど……この櫛歯の長さを、物理的に半分にするのではなく、周波数だけを半減させて、音を作っているのではないかと思ったの」


 おっと、話が難しくなってきた。


 まるで理解できそうになかったので、わたしは素直に泣きつくことにした。


「音楽、何にも分からなくて、途方に暮れてたんですよぉ……助けてください! ドってなんですか? 弦の長さが半分って?」

「わかった、分かったわ。順番に説明するわね」


 ここぞとばかりに大量の質問をぶつけるわたしに、アニエスさんとマルグリット様は、丁寧に教えてくれた。


 ――数時間後、ちょっと休憩で紅茶を挟むころには、わたしにもオルゴールのことがぼんやり分かるようになっていた。


「――五音階、っていうんですか?」

「そうよ。このオルゴールは、それだと思うわ」


 マルグリット様が、手袋を嵌めた手で、小さなピンセットを使い、壊れたオルゴールの櫛歯をピン、と弾く。


「この二か所の櫛歯の間の音が飛んでいるの。オクターブが五個だけのペンタトニック・スケールは、竪琴なんかの調律方法ね。わたくしもハープをすることがあるけれど、それよりもっと古いものだと思うわ」


 と、マルグリット様は、天井に描いてあるフレスコ画を指さした。音楽の神様が竪琴を持っている絵だ。


「あれ、ああいう竪琴よ。弦の数がとても少ないわよね? 古代の竪琴はああだったのよ。今のハープは何オクターブも演奏できるように、弦の数も何倍もあるのよ」


 素朴な竪琴の絵を見ながら、マルグリット様が、ふと何かを思いついたように言う。


「もしかしたら、お探しの原曲は、古代の歌かもしれないわね。まだ神様が身近にいらした頃の……」

「ねえリゼ、これ、楽譜に書き起こしてみてはどう?」


 とは、アニエスさん。


「櫛歯の音階は並び順から明白よね。なら、残っているピンの部分だけでも楽譜にしたら、似たような原曲が見つかるかもしれないじゃない?」

「なるほど……!」


 それはありそうだ。


「いいわね! せっかくだから、やってみましょう!」


 乗り気のマルグリット様が筆記用具を持ってきて、アニエスさんと並んで、楽しそうにドラムをいじり回し始めた。


「……すべて全音よね?」

「リズムも一定だと思いますわ」

「長さも、一分もなさそうね」


 なんて言って、五線が引かれた紙に、手分けして黒い丸をどんどんつけていく。


「ひしゃげているところも、元の長さから配置を計算できそうですね」


 といって、アニエスさんがしきりにドラムの長さを測っている横で、マルグリット様も唸る。


「ピンがこそげ落ちてしまっている部分も、少し松脂が残っているわね。痕を辿れば、かなり復元できそうよ」


 わたしとディディエールさんがぽかーんと眺めている間に、すぐ完成した。


「できたわね! ねえ、演奏してみましょうよ!」


 ご機嫌なマルグリット様に連れられて、王宮内を大移動。


 何分も歩いた先に、楽器がたくさんの音楽室があった。


 楽器は、アニエスさんがクラブサン、マルグリット様がハープを選択。


「ゆっくりめの拍なら弾けそうです」

「このくらい?」


 マルグリット様がぽろろん……とハープをつま弾き始めて、アニエスさんが伴奏を載せる。


 ぽろん……ぽろろん……と、きれいなメロディが流れ出す。


 メロディは途中が飛んでいるからか、なんとなく間抜けで間延びした感じで終わった。


「ものたりないわ~~~~!!」

「綺麗ですけど、間が飛び飛びで、曲としてはちょっと格好がつきませんわね」

「勝手に間を付け足してしまいたくなるわ!」


 思い出の曲だそうなので、それはちょっと。


 自分ならこうする、といったアイデアがふたりの間で出始めたところで、横で聞いていたディディエールさんがぽつりとわたしに話しかけてくる。


「おねーさま、抜けている音が【魔術式】に載っていたりしませんの?」

「……!!」


 あるかもしれない。


「いいところに気づきましたね……!」


 もしもそうだとしたら、オルゴールの曲を完全に再現して、レプリカが作れるかもしれない。


 わたしはずっと持ち歩いてた【魔術式】の書き写しをざっと眺めて、それらしい箱に目星をつけようとした。一応。


「あのう……マルグリット様、アニエスさん……」


 わたしはふたりに、本日二度目の泣きつき。


「音の、周波数? って、いくつだか分かりますか……?」

「いくつかしら……? 基準音以外は分からないわ」


 悩むアニエスさんに、マルグリット様が待ったをかける。


「ハープの調律をするときは、弦の長さを半分にしたら一オクターブ下で、三分の一にすると三倍音になるわ。そして、基準の弦の三倍の長さをとって、それを二分の一にすると、ミよ。ミの三倍音の半分が、シ。あと二回繰り返すの」


 アニエスさんは少し考えて、手を打った。


「なるほど、十二音階になるわね。ちょっとペンを貸してちょうだい」

「……???」


 ……こうして、わたしにはさっぱり何も分からないまま、音楽の周波数のメモ書きがわたしに手渡された。


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