222 リゼ、王城にお呼ばれされる(1/3)
わたしは再び学園にやってきた。
お昼時、王族専用の個室でおいしいおひるごはん(子羊のパイ!)をいただきつつ、みんなに、今作っている魔道具のお話をする。
「まあ、オルゴール?」
一番に反応したのはマルグリット様だった。
「わたくし、オルゴール大好きよ! いくつか持っているわ」
魔道具のオルゴールにもとても興味があるそうで、修理中の魔道具を見てみたい、ついでにマルグリット様の持っているオルゴールも見せてくれる、というので、週末にマルグリット様のお部屋へお呼ばれすることになった。
そして、ちょっとおめかししたわたしとアニエスさんとディディエールさんが、集結することになったのである。
マルグリット様のお部屋、久しぶりに行くとなると、ちょっと緊張するなぁ。
「ねえ、リゼ、平服で大丈夫って言われたけれど、本当に大丈夫なのかしら……?」
わたしはすかさず手で『まる』を作った。
「ばっちりです! 手袋と扇子もあるから、言うことなしですね!」
「本当にいいのね? 頼りにしているわよ」
「任せてください! とっても似合ってて綺麗ですよぉ!」
わたしは満面の笑みで応えておいた。
日々ドレスを作っているので、そこは自信ある。
アニエスさんは襟がキュッとしまった露出度ゼロの長いワンピースを着ていた。縦のプリーツがいくつか入っている以外は飾り気もないけど、I字にすとーんと落ちる、だぼだぼのシルエットがちょっと面白い。スタイルがいいので、学園の制服みたいに、シンプルにウエストをきゅっと絞ったワンピースを着たら似合うと思うけど、ちょっと夜のお姉さんっぽくなりすぎるから、お昼はこのくらいゆるい方がお友達との遊びには向いているのかも。
ディディエールさんは綺麗な紺色のドレスを着ていた。生地の中に、髪の毛と似た色の白い糸でたくさんの刺繍がほどこしてある。光を反射する素材じゃないけど、昼のさんさんとした日光の下で見ると、まるで夜空にお星様がキラキラしているかのよう。とても上品で華やかだ。おかげで、ディディエールさんの可愛いお顔がすごくよく引き立って見える。
トータル、とっても可愛いのでふたりとも優勝です!
「実は、貴族の人たちもあんまりルールを守らなかったりするのでぇ……『ほんとーにそのドレスで大丈夫ですか!?』って何度も念を押して作ったりすることもあったりするんですよねぇぇぇ……」
「大丈夫なの?」
「分かりません……リピートしてくれてるんですけど、怖くて聞けてないです……」
「あらまぁ……」
なんて言ってるうちに、侍女さんの先導でお部屋に通される。
何気なくドアに手をかけようとしたわたしは、そばの侍女さんの眼光が鋭いことに気がついた。
……あ、これ、トラップ?
以前、マルグリット様のサロンで、こんな場面に遭遇した。
たぶん、何か、決まり事がある。
「アニエスさん! お願いします!」
背中に隠れると、アニエスさんは少し噴き出しつつ、ドアの前に立った。
すかさずそばにいた侍女さんがドアを開けてくれる。
なーるほどぉ……自分で開けちゃいけないやつだ?
アニエスさんは入り口でお辞儀して、マルグリット様のそばに無言で傅いて待機。
続くディディエールさんも同じようにしていたので、わたしも見様見真似で並んで傅いた。
マルグリット様がパチリと扇子を閉じた。
「皆様の細やかなお心遣いに感謝いたします。少し外してくださる?」
にこやかにすぐそばの侍女さんに告げると、その人を筆頭に、お付きの侍女様方が一斉にぞろぞろと続きのお部屋に移動していった。
……すごいなぁ、五人もいるんだ。
全員いなくなったのを確認してから、マルグリット様は、ほーっとため息をついた。
学園で見せる、かわいい笑顔で言う。
「皆様ようこそいらっしゃいました! お楽になさって! もう誰も近寄らないように命じましたから、いつも通りで大丈夫よ」
マルグリット様に言ってもらえて、ようやくわたしも安心できた。
「うふふ、でも、マナー通りにしてくださってありがとう! わたくしの侍女はちょっぴり心配性なの。ちゃんとしている方々だって思ってもらえたら、わたくしも少し助かるわ!」
さっきの侍女さんたち、お顔が怖かったもんなぁ……
王城暮らしは大変だなぁ。
「せっかくだから、王室で保管しているオルゴールを用意してみたの。お聴きになりませんこと?」
と、マルグリット様は、テーブルにずらりと並べた機械を指し示した。
ひゃあ~~~すっごい! コレクションが充実してる!
「オルゴールってこんなに大きなものもあるんですねぇ!」
大きなテーブルを丸ごと占領する巨大なオルゴールを指さすと、マルグリット様はそのネジを、なんと、ご自分の手で、ぐるぐる回し始めた。
「わ、わ、わたしが回しますよ!?」
「いいのよ。それより聴いてちょうだい」
鉄が震える澄んだ音がいくつもキラキラと鳴り響き、何十ものメロディを同時に奏で始める。
す、すごい……!
櫛歯がいったい何本あるのか、ピアノくらいたくさんある。
有名な聖歌をたっぷり数分ほども奏でて、オルゴールは止まった。
「きれいな曲でしたぁ……!」
「和音も鳴るのね……ちょっとした楽器じゃない」
「すごいのですわぁ……」
ドラムには小さなピンがびっしりついている。
「一曲につき千五百本以上のピンがついているのですって」
「せんごひゃく!!」
「和音の構成が仮に三音づつとすると、百小節近くあるということ?」
「そうなの! しかもこのオルゴール、八曲も入っているのよ」
「はっきょく……!!!」
「オーケストラみたいですわぁ」
マルグリット様がオルゴールのギアを入れてドラムの位置をずらし、ピンが当たる場所を変える。
すると、本当に違う曲が流れ始めた。
「すっごおおおいいいい……!」
澄み切った金音がいくつも重なり合って、キラキラとしたメロディが紡がれる。
「芸術品……!」
一般家庭にある小さなオルゴールとは、もう規模も出来もまるで違っている。
「ちょ、ちょっと、ちょっとだけ、機械を見てもいいですか!?」
「ええ、どうぞ。お好きなだけ。そのたびにお呼びしたのだもの!」
ドラムを弾く櫛歯は一本がさらに三本ほどに切り分けられていて、しかも、小さなピンをうまく弾けるよう先をピンセットのように尖らせ、絶妙なS字カーブをつけていた。
ギアは、軸の位置をズラして、違う曲に変えるんだなぁ……
ギアの観察をしているわたしをよそに、マルグリット様たちが別のオルゴールを手回しして鳴らしている。
「これはちょっと、音が変ですわぁ」
「クラブサンでいうところのバンパーが甘いの。前の音が消えずに残ってしまうから、和音が壊れてしまうのよね」
「なるほど。オルゴールが単旋律で、ゆっくりした曲調のものになるのは、音が残るからなのですね」
「そうね、ゆったりしたテンポで、古代の曲なんかが相性いいわね。最近の流行りの歌なんかには向かないのだけど、バラッドなんかは本当に綺麗なのよ……」
ギアをガッチャンガッチャン変更して動きを確認するのに忙しかったわたしも、マルグリット様たちの会話に、ちょっとハッとした。
やっぱりマルグリット様たち、お嬢様だから楽器の素養がある!
気になることを聞いてみるチャンスだ。




