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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【七章進行中】  作者: くまだ乙夜
六章 女神のオルゴール編

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220 リゼ、氷の公爵と相対す(2/3)


「今さっき、好き勝手していいって言いましたよね」

「言いはしたが……」

「ディオール様だって、いつもわたしにこういうことするじゃないですか」

「そっ、れは、」


 ディオール様は痛いところをつかれたのか、声が裏返った。


「……事情がある。これにはない」

「あります!」

「ない!」

「ありますぅぅぅ! なので、わたしがしてもいいはずです!」


 ディオール様はいつもわたしを厳しく詰めてくる割に、反対に詰められると結構弱い。


 困惑しきっているディオール様を見上げて、わたしはちょっといい気分だった。


「わたしも別にむやみにはしません。ディオール様は特別です!」


 寂しい思いはもうさせない。


 強い使命感がわたしにはあった。


「わたしにとってはフェリルスさんと同じぐらい大事な家族ですので! 仲間はずれにしたりしないでちゃんと入れてあげるって決めたんです!」


 わたしはフェリルスさんが散歩からてこでもおうちに帰りたくないときみたいに、ぎゅううううっと抱きついていった。


「……つまり、なにか。私は、君らのお仲間か」

「はい!!!」


 力強く言うと、ディオール様はしまいに笑い始めた。


「……しょうがないな、君は」


 ディオール様は降参したのか、言葉から急に険が抜けた。


 お? と思って見上げたディオール様は、もう怒ってないみたいだった。


 それどころか、ちょっと笑っている。


「君が何を吹き込まれたのかは知らんが、私で遊んでやろうと思っていたやつらがいることは理解した。誰だ? 全員の名を挙げろ」

「そ、それは秘密です!」


 このままだとみんなが怒られてしまう。


 わたしは責任の所在をはっきりさせておくことにした。


「わたしがしたいと思ったからしてるんです! 皆は関係ありません。悪いのはわたしなので、怒りたかったらおこ……られるのは、やっぱり嫌なんですけど……」


 だんだん勢いがしぼんでいったわたしは、打つ手なしだと思われたらしい。


「……そうか。もう勝手にしてくれ」


 ディオール様は完全に匙を投げたのか、だらりと手を下げた。


 脇腹にわたしの腕が挟まっていて収まりが悪かったのか、軽くわたしの背中に手を回す。


 はからずもわたしは、抱きしめ合うことになった。


 きゅーっとされるとあったかくて気持ちいい。


 ……けど……な、なんか、思ってたのと違うなぁ。


 とはいえわたしも、自分からしたことなので、今更やっぱりちょっと恥ずかしいですとも言い出せず、しばらくくっついていたのだった。


「……あの、それでですね、実は、こないだ見せたオルゴールのことで、ご相談が」


 気まずさに耐え切れなくなってきたわたしが、さりげなく離れつつ本題を切り出すと、ディオール様はきれいな形の目を丸くした。


◇◇◇


 わたしはこれまでにあったことを説明した。


「それで、ディオール様なら、音楽の【魔術式】にも詳しいんじゃないかって」

「いや。考えてみたこともなかった」


 詳しくなかった。


「音の知識はないな。とりあえず、ぱっと思いついた方法では数秒蓄音できればいい方か」


 詰んじゃったかな、と思っていたら、ディオール様がまだ可能性のありそうなことを言い出した。


「できることはできるんですか?」

「まあな。どれ、少し歌ってみろ」


 急な無茶ぶり。


「え、ええっと……捏ーねー捏ーねー、子ーねーこー……」


 ミールークーをーのーむーよー

 みゃーあーみゃーあーしーてーはー

 おーふーとーんーこーねーるー

 捏ーねー捏ーねー、子ーねーこー

 ミールークーをーのーむーよー


 わたしのきらきら光るお星様のような歌声を捉えて、ディオール様が何かの魔術を使った。


『捏ーねー捏ーねー、子ーねーこー』


「おおおお! 歌ってます!」

「……ダメだな、三秒持てばいい方だ。何十秒もある記録などできそうにもない」

「そんなに難しいんですか?」

「私の波動系の魔術はほとんど水流操作由来なんだ。期待されても困る」

「やっぱり得意分野ってあるものなんですねぇ」


 ディオール様は肯定するように少し肩をすくめてみせた。


「音単体に絞れば、もっと効率よく操作する方法は存在するだろうが、直接的に波動そのものを生み出して操作するとなると、人類には荷が重い」

「そうなんですか?」

「計算量が多すぎる」

「演算用の魔術を使っても?」

「波動の魔術、というのは、つまり、制御をしようと思ったら、空間に対して積分を使う形になるが。億単位と億単位の掛け合わせだ。完璧な制御は高位の不死者、精霊でなければ不可能だろう」

「……?」


 ディオール様は少し首を振った。


「いや、まあ、忘れてくれ」

「覚えていたくても難しいですねぇ!」

「必要ない。つまりだ、精霊だって数時間と持たないだろう」


 じゃあ、フェリルスさんにも難しいのかぁ……


 ……と考えかけて、わたしは間違いにすぐ気づいた。


「……フェリルスさんだと数時間も持つんですか!? 今計算回数が億単位と億単位のさらに掛け合わせって言いましたよね!? 数時間もそんな計算続きますか!?」

「そりゃあ高位の精霊だからな」

「て……てんしゃい……?」

「そうだ」

「天才なのに……本人の趣味は走り込みなんですか……!?」

「そうなんだよ」


 フェリルスさんすごい……!


「わたしも走り続ければいつかはフェリルスさんのように……」

「なっているだろう。今の君も既に人外だ。【透明化】など、魔道具でも可能だなんて思わない」


 そこはわたしにもよく分からない部分だった。


「何より恐ろしいのは、あれだけの魔道具を生み出せる腕がありながら、仕組みの説明ができない君だ。本当にどうなってるんだ……?」

「神様のご寵愛、ですかねぇ……」

「ルキアの魔法にしても、未知の体系を用いている感はある」

「難しく考えすぎなんだと思いますよぉ……」


 わたしが知っている魔道具づくりのコツはたったひとつだ。


「一生懸命いいものを作ったら、神様が祝福してくれるんですよ」

「君が言うなら、きっとそうなんだろう」


 ディオール様も思考を放棄したみたいにそう結論づけて、「それで」と言った。


「音楽の魔術だったか」

「あ、はい!」

「そちらはまったく手伝えない」

「ですよね」

「しかし、数式に規則性を見つけるだけなら、この式の中でもいくつか分かることがある」


 と、ディオール様は、わたしが持ってきた【魔術式】のメモ書きを指指した。


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