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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【六章進行中】  作者: くまだ乙夜
六章 女神のオルゴール編

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214 オルゴール修復中(1/2)


◇◇◇


 わたしはその日の時間いっぱい使って、サンプルを完成させてから、お屋敷に帰宅した。


 実寸大の復元予想図はもう描けている。あとはそこに当てはめるピースを揃えるだけなのだ。


 丸い魔法陣のような図形。


 何なのかは分からないけど、補完はうまくいったと思う。


 わたしは念のためディナーは避けて、翌日のディオール様がお屋敷からいなくなる午前中まで待った。


 そして日中に、通りすがりのピエールくんを捕まえた。


「協力してほしいことがあるんですけど、いつごろ暇ですか?」

「もちろんただいまより伺いますよ!」


 ピエールくんの笑みにつられて、わたしもほわーとする。


 や、やさしい……ピエールくんに頼んでよかったなぁ。


 お願いしたことなんでも快く引き受けてくれるから、つい嬉しくなっちゃう。


 さっそくわたしのお部屋に来てもらったピエールくんに、お店から持ち帰ってきた小道具一式を見せた。


「これは、ひとまずわたしが、鉄の構造式から予想した復元予想図です。箱と見比べて、どうですか? 似てますか?」


 テーブルに置いた画用紙と、こわれかけのフタ。


 両方を見比べて、ピエールくんはにこにこしながら頷いてくれた。


「はい。ほとんど合っているかと存じます」


 そうだと思ってたけど、わたしはひとまずほっとした。


「ただこれ、わたしの目では、色の濃淡や明度、彩度、素材の質感なんかが全然見分けつきません。なので、予想図にも原色を使いました。手伝ってほしいのは、ここからなんです」


 わたしは分厚い封筒の束を取り出した。


 この中に、色を変えた鉄のサンプルがたくさん入っている。


 どれも見た目は鉄にしか見えない、地味な鉄片のフルセットだ。


 別の地金を混ぜたものや、青焼き(ブルースチール)の加熱時間を変えて被膜の色を変色させたもの、不純物を含んだ酸化鉄や鉄の亜種など、いろいろなものを集めた。


 それらをさらに、目視で限りなくオリジナルの色に近づけて、合計六十色用意した。


「この復元予想図をもとに、箱から剥がれ落ちてるタイル部分にですね、一番近い色のパーツを選んでほしいんですけど……どうでしょうか?」


 頼んでおいてなんだけど、けっこうな重労働だ。


 わたしは慣れてるけど、たとえ色がついてたとしても、こまかいものを見る習慣がない人に、こんな小さい破片の色まで見分けられるものなのかなぁ……?


「ひとまずお借りしても?」


 ルーペをピエールくんに手渡して、わたしは固唾を呑んで、見守ることに。


 ピエールくんはずらりとグラデーション状に並べられた鉄片をピンセットでつまんで、ルーペで観察し始めた。


 ピエールくんはしばらく眺めて、わたしを振り返った。


「できそうな気がいたします。選別したパーツはどちらに置きましょうか?」

「あ、じゃ、じゃあ、こっちの粘土板に!」


 平らに盛った粘土の上に、糸で切り目を入れ、正方形のマス目を刻んだ土台を用意してある。


 あらかじめ欠けているタイルには連番を振っておき、対応する番号のマス目にパーツを置いていくと、魔法陣が完成する、という寸法だ。


「これより色が濃い、とか、もっと赤寄り、とか、感想もあったらお願いします!」

「では……」


 ピエールくんはルーペとピンセットを持ち変えつつ、ひょいひょいと気軽に土台へと鉄片を載せていく。


 わたしはピエールくんから聞いた素材の性質や、色の情報をひたすら書き込んでいった。


 ……全部終わったのは、お昼を過ぎてからだった。


「これで最後でしょうか?」

「お疲れ様ですぅぅぅぅ!」


 伸びをしているピエールくんと、すぐそばに立っていたわたしに、音もなくそっと紅茶を出してくれたのはクルミさんだ。


「お疲れ様でございます」


 お茶を差し出されたのが意外だったのか、ピエールくんは手で制止するそぶりを見せた。


「いえいえ、僕の分は結構ですよ」

「そう言わずに! 一服していってください!」

「リゼ様もそう仰せでございますので」


 ピエールくんは「では」と言って、カップに口をつけた。


 クルミさんにもお茶をおすすめして、ひと息入れてもらうことにする。


 本当は使用人は一緒にお茶をしたりとかしないって最初は言われてたけど、ふたりとも慣れたのか、今は進んで付き合ってくれるようになった。


「ところでリゼ様、近頃あまり食堂の方にいらっしゃらないようでございますが……」


 ピエールくんにそう突っ込まれて、わたしはちょっとぎくりとした。


「何か不手際がございましたでしょうか? お好きな食べ物が出てこないとお嘆きでしたら、何でもリクエストしてくださいませ。特別なメニューを作らせますので」

「いえ、お屋敷のごはんはとってもおいしいですよ!? ちゃんとお部屋でも食べてます!」


 ピエールくんはわたしがお世辞を言っているとでも思っているのか、ちょっと疑わしそうだ。


「黒ビール煮込みをお出ししてからぱったりお越しにならなくなったので、やはりお口に合わなかったのかと案じておりましたが」

「また食べたいです! おいしかったです! 毎日あれでもいいくらいです!!」


 そこまで言い切ると、さすがにピエールくんもほっとしてくれたようだった。


「……では、何か、別の原因が……?」


 わたしは、しまった、と思った。


 ディオール様と何かあったんじゃないかって問い詰められたら、隠しきれる気がしない。


「ピエール。リゼ様がお困りになっていますわ」


 割って入ってくれたのはクルミさんだった。


「殿方には言えない悩みなど数え切れないほどありますのよ。最近寒くなってまいりましたでしょう? 冷えは大敵ですもの」

「そうでしたね。体調のことは、クルミにご相談いただければと思います」

「いえ……」


 ピエールくんは話題を変えて、オルゴールの修理についていくつか雑談をしたあと、お茶を飲み干してから帰っていった。


 クルミさんが残ったカップを無言で片づけてくれる。


 ……クルミさんにかばってもらっちゃった。


 事情はまだ話せていないけど、クルミさんも詮索はしてこない。


 無理に聞かずにおいてくれるのだ。


 こういう何気ないやさしさに触れると、涙が出そうになる。


 わたしはまだ何も言い出す勇気が出ないまま、カップを片づけてもらったあと、仕事を再開した。


 ……鉄片の情報はだいぶ集まった。


 材質は確定した。構造式と、目視の質感とが一致するのなら確実だ。


 色のニュアンスも大まかには拾えたので、これをもとに、もっと細かいカラーグラデーションを用意すればなんとかなりそうだ。


 わたしは作業を継続するために、午後はお店に向かうことにした。


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