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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【六章進行中】  作者: くまだ乙夜
六章 女神のオルゴール編

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213 リゼ、オルゴールの職人技を解説する



 翌日、わたしは朝早くにお店へ行った。


 今回を逃したら次はいつディオール様に会えるかも分からないのに、会わずに済ませたかったのだ。


 どんな顔をして会ったらいいのか、分からなかったから。


 お店について早々、クローズドの看板をかける。


 でも、アトリエにこもったところで、仕事なんか手につかなかった。


 ……今日の予約は、常連の冒険者さんの防具のメンテナンスと、伯爵夫人の冬物のコートの生地選びと……あと何だっけ?


 ご予約のお客様のご用事だけなんとかこなしつつ、ぼやぼやしているうちに、気づいたらもう夜だった。


 ……そろそろ帰らないとなぁ。


 でも、ディナーでまた顔を合わせたらどうしよう。


 わたしはクルミさんに無理を言って、お部屋でごはんを食べさせてもらうことにした。


「まあ、リゼ様、お加減が悪いのですか? お医者様をお呼びしましょうか」

「いえ、大丈夫です……お仕事がちょっとうまく行かなくてぇ……」

「いかがなさいましたか。オルゴールの修復でございますか?」

「いいえ……その……何でもないです!」


 クルミさんに相談するのも後ろめたい。


 クルミさんはずっとディオール様との仲を応援してくれていた。雇用主に対する義理立てもあるんだろうけど、わたしの本心を知らなかったのだと思う。


 わたしが曖昧な態度を取り続けていたのは、ディオール様のことを都合よく利用しようとしていたからだったなんて知れたら、どう思われるだろう。


 昨日あったことを正直に打ち明けたら、軽蔑されてしまうかもしれない。


 優しいクルミさんに嫌われるかもしれないと思うのは、耐えられない。


 ――わたしはひとりで秘密を抱え込むことになった。


◇◇◇


 次の日も、朝早くからお店に直行した。


 作業に集中していると気が紛れる。仕事をするのが落ち着く。


 黙々と、鉄のフレークを作って過ごした。


 少しずつ色を変えたサンプルを作り、ピエールくんに一番近い色を選んでもらうのだ。そろそろサンプルが揃ってきたから、明日あたりに一度見せに行こうかなぁ。


 鉄のフレークをピンセットで仮に並べて、フタの鉄と見比べてみる。


 それにしてもこれ、何の図形なんだろう。


 ぱっと見は幾何学模様……に見える。


 魔法陣かな?


 円の中にたくさんの線が引かれていて、全体が調和しているので、知っている中では魔法陣が一番近い。


 ……でも、こんな魔法陣見たことないんだよなぁ。


 これがドワーフ族のアートスタイルなのかな? 不思議な図柄だ。


 ……悩んでいたら、放課後の時間になって、アニエスさんがアルバイトに来てくれた。


「あら? 制服じゃないのね。今日は学園に行っていないの?」

「ちょっとやりたいことがあってですね」

「オルゴールの修理?」


 横からアニエスさんがひょいっと覗き込んでくる。


 ここのところ、ずっとかかりっきりなのはアニエスさんも知っているのだ。


 鉄を切り出す作業を見ながら、アニエスさんはもの珍しそうに口を開く。


「それにしても、オルゴールにも魔道具ってあるのね」

「いーえー、魔道具じゃないですよぉ。これはふつうのオルゴールです」

「そうなの? あなたが修理しているから、てっきりそうなのかと思っていたわ」

「わたしが直してるのは箱だけなんですよ~……っと」


 フレークを選別する手を止めずに、うわのそらで返事をする。


「オルゴールって、けっこう職人技でできてまして……最終的には、耳で聞きながら、ピンの位置を変えたり、櫛歯の裏側にくっつけてある鉛を削ったりして調整するんです」


 斜めに切りそろえた櫛歯の裏に、これまた斜めに切りそろえた鉛がくっつけてあって、音が高いときは鉛を足して、低いときは削って……と、細かくウェイトを調整するのだ。


「この鉛が絶妙なんですよねぇ……耳で音を聞きながら調整するのにちょうどいい硬さなんです。でも、【魔術式】の調整ってわりと大変なので、その場で音を聞きながら載せるのは、すごく難しいと思いますよぉ」


 わたしには無理。音楽の素養がないからだ。


 機械技師兼音楽家兼魔道具師、となると、ほとんど存在しないんじゃないかなぁ。


 例外として、教会の音楽時計の技師さんがいる。


 鐘が鳴るたびにからくりが動いて、メロディと人形が動くあれだ。


 あれをぎゅっとコンパクトにしたのがオルゴール、とも言える。


「なるほど。音波は制御が難しいものね」


 アニエスさんが感心したように唸る。


「そうなんですか?」

「ええ。音と光はとにかく難しいわ。あれが扱えるのはよっぽどの魔術師だけよ」

「光なら、ルキア様の魔法でだいたい何とかなりませんか?」


 ルキア様の魔法って全然難しくないんだよねぇ。


 ちょっとした奇跡でも借りやすく整備されてる。


 皆が光関係の魔術で苦労しているのを見るたびに、ルキア様の魔法を借りればいいのになぁってずっと思ってた。


「……あなたの魔法はちょっと分からないわ。特許のことを書き取っても、正直何を言ってるのか分からないこともあるもの」

「そ、そうだったんですか!? 分かりやすいつもりだったんですけど……すみません……」

「いえ、いい意味でよ。天才の考えは凡人には理解しがたいってこと」


 ディオール様にも『知ってる魔法と違う』って言われたし、みんなが知らないなら、これもおばあさまのオリジナルなんだろうなぁ。


 引き継いだ【魔術式】がとてつもなく大きな遺産になってるってことだよね。


 感謝しないとなぁ。


「音が難しい理由だけど、これは簡単。形が波だからよ」


 アニエスさんはティーカップにスプーンを入れて、水面に波紋を立てた。


「水にものを落とすと、波が広がるでしょう? こんな感じの波が一定の周期で繰り返されているの。まっすぐ飛ばす、まっすぐ落ちる、単純な魔術に比べて、波は格段に難しいわ」

「へぇ~~~~……」


 全然ピンと来ない。波? 音の波って何? 目に見えない波ってこと?


 わたしは過去に作ったものを思い浮かべてみたけど、視覚的にイメージしづらくて、やっぱり要領を得なかった。


 そもそも光って波だったっけ?


 まっすぐ進むような……


「音波はね、がんばって計算をしたとしても、理論値だけでは扱いきれないのも厄介ね。結果が環境に左右されやすいのよ。ちょっと風が強くてもダメだし、遮蔽物があってもダメ。頭がどうかしてるレベルの魔術師か、音楽の神様の寵愛を受けた人くらいしかできないんじゃないかしら」


 というより、音も波だったっけ?


 おばあさまが自宅の警備に組み込んでる【エコーの声】の魔道具は、半径数十メートルくらいを守っていて、普段と違うものに触れると、反射して、音が鳴る。もっと遠くまで飛ばすこともできるけど、精度が極端に落ちる。


 あれが波ってこと?


 ……よく分からないけど、どっちも神様が力を貸してくれるので、難しくはないんじゃないかなぁ。


 ただ、環境に左右されるのはそうかも。


「光って、まっすぐ飛ぶものだと思ってたんですが」

「波とも言えるし、直線とも言えるわね。粒子……コーパスクルとしての性質も持っているの。魔力みたいなものよ。あれも、複数の状態を持ち合わせるでしょう?」


 アニエスさんの言うことがいよいよ分からなくなってきた。


 顔に出てたのだと思う。アニエスさんは「何でもないわ」と言った。


「とにかく、音も光も波なのよ」

「そうなんですねぇ……」


 イメージが湧かないのでぼんやりと相づちを打つ。


「音の波は大きくて、十メートルを超すこともあるわ。でも、光の周波数はすごく高いの。直線として近似してもいいくらいの幅しかないから、結果的にまっすぐ飛んでいるといえば飛んでいるわね」


 周波数ってなんだろ……?


 ……よく分からなくなったわたしが、相づちも忘れてぽかーんとしているのに気づいたのか、アニエスさんは少し考えるそぶりをみせた。


「そうね……もっと詳しく知りたかったら、あなたの婚約者に聞いてはどう? 私の知識はせいぜい学園で習った程度のものだけれど、あの男なら波動の魔術にも詳しいはずよ」


 ディオール様とはつい先日、気まずい思いをしたばかりで、合わせる顔もない。


 でも、そんなことはアニエスさんに関係ないよね。


「今度会えたら聞いてみます」


 わたしはできる限り明るく言って、話を切り上げた。


 それから、いかにもこれから作業に集中するのだというように、手元の鉄片に視線を戻したのだった。



次回更新は来年です。

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― 新着の感想 ―
楽しく読ませていただいています。 次回は、来年ですか? 待ち遠しいですね。 でも、来月には新しい年になっている訳ですから そんなに遠い未来ではないですね。 楽しみの先送りですね。 良いお年をお迎…
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