205 リゼ、魔道具を観察する
「そうでした。こちらに……」
ピエールくんはアクセサリーを三つほど出してくれた。
最初に見せてもらったのは、不思議な幾何学模様の指輪だった。
ドーム型の半球形のカボッションカットの宝石に、流れるような美しい銀のフレームがついている。
かなりが厚みがあって、立体的で、彫刻に近い。
「特徴的ですねぇ」
「ドワーフ様式にもいくつか特徴がございまして、こちらは暗闇の中でも楽しめるよう、触り心地のいいデザインになっております」
触って楽しむんだ!
手袋を借りて、つるつるの表面を撫で回し、銀細工の滑らかな感触を確かめた。
「こちら、魔道具になっておりまして、この宝石を二回叩くと、光と熱を発します。僕らは光に頼らなくとも暮らしていけるのですが、かといって暗闇を好むわけではありません。保温、防寒、そして調理に、常に火を用いております。手作業をするときも明かりをつけますので、坑道生活に不可欠な魔道具と言えるでしょう」
ピエールくんが中央の大きな石をコンコンと叩くと、ぱあっと明るい光が前面に投影された。
周囲の空気もじんわりと暖かくなる。
寒い季節によさそう。
ひととおり仕組みを確かめて、わたしは満足した。
次にピエールくんが出してきてくれたのは、大きめのペンダントだった。
「こちらは護符でございます。ドワーフ様式の魔道具は性能が非常に高いことで有名でございまして」
首から提げるタイプの護符だ。すごく大きな魔石がついてたみたいだけど、ほとんど溶けてなくなっている。
中身の【魔術式】を覗いてみる。
ドワーフの言語で記述されているようで、解読はできない。
不思議な文字が書かれていて、ところどころが抜けている。
わたしが使っている【重ね文字】に似ているなぁ。どこかに階層分け用の識別子があって、紐解いたら文字が重なっていそう。
どこかは分からないけど……
「これって、ドワーフの言葉ですか?」
ピエールくんに確認してみる。
「はい。およそ三色の色で書かれておりますね」
「! 文字が重なってますか?」
「重なっているといえばそうでしょうか……熱源反応の赤い色と、光の青い色と、通常の色と、三種類重なっております」
なぁーーーるほどぉ……
ドワーフにしか読めない【重ね文字】というやつだぁ……
「何が書いてあるのか、読めますか?」
「いえ、僕は魔道具には疎いので、お役に立てそうにありません」
特殊な視力がないと読めないっていうのなら、わたしには手も足も出ないなぁ。
とはいえ、なんとなく文字の形は覚えた。
次は見分けられる。
ほどほどのところで諦めて、ピエールくんに最後のひとつを見せてもらうことにした。
最後のひとつは、イヤリングだった。
先に見せてもらったふたつと違って、小型で、耳たぶに吸い付く不思議な材質で出来ている。ちょっと見たことないタイプの素材だ。魔獣の素材かなぁ。
「こちらは音を調整するための魔道具でございます」
「調整?」
「僕らは振動を音として拾えるので、坑道を掘削しているときも、非常に遠くの落石を聞きつけることができるのですが、この魔道具を使用することにより、岩をコツコツと叩いて、遠くの仲間と会話することも可能なのでございます」
「へ、へぇぇぇ~~~……!」
ドワーフの耳ってそんなにいいんだ……
わんちゃんみたいだなぁ。
「フェリルスさんとどっちが耳がいいんですか?」
「聞こえる範囲が違うかと存じます。あれは人の声より少し高い音まできこえるようですが、僕らは低い音を聞き分けております」
なんかもう、へぇ、しか出てこない。
「同じヒト型でも、全然身体のつくりが違うんですねぇ……!」
ピエールくんがそんな体質だったなんて、全然気づかなかった。
「目も耳もいいなら、芸術に向いてますよねぇ……いいなぁ」
「向いているとしても、芸を磨き上げるには努力が必要でございます。リゼ様には誰よりも優れた努力の素質があったのではないでしょうか」
ピエールくんに褒めそやされて、わたしはいい気になってしまった。
半分くらいはお店で強制されてやってたことだけど、がんばったことには変わりない。
みっつの魔道具をひととおり観察したあと、わたしたちはお部屋を出ることにした。
ピエールくんが鍵をかけながら、わたしに小声で言う。
「本来であればご主人様が直接ご案内してさしあげたかったでしょうから、今日のことは秘密にしておいてくださいませ。もしもご覧になる機会があれば、まるで初めてみたかのように驚いてさしあげてくださいませ」
「わ、分かりました……!」
知らないふりは、たぶん、できると思う。
お部屋に入っている間中ずっと驚きっぱなしで、今もまだ驚きの余韻が抜けてない。
もっかい見ても新鮮に「うわぁ……!」って思えるはずだから、きっと大丈夫。
わたしの魔道具がいっぱい置いてあったことを思い出してしまい、じわじわと恥ずかしさがぶり返してきたので、わたしは頭を振って、考えごとを追い払ったのだった。
◇◇◇
ピエールくんにドワーフ様式の魔道具を見せてもらったおかげで、デザインの目処はついた。
さっそく自分のお部屋に戻り、オルゴールの鉄片を並べ直す。
綺麗な色がついているというからには、この鉄片はひとつひとつに異なる処理がしてあったのだと思う。
そう思って眺めてみると、青い色は鉄を焼き切って出しているのだろうし、黄色みがかっているのは何かの合金……わたしの勘だと、銅との合金、三〇%から六〇%くらいで作っていると推測できる。
マス目を紙に引き、一個一個をルーペで見ながら、色の情報を書き写していく。
肉眼で一個ずつ確認していって、大まかな色の図面を完成させた。
……うーん。
不思議な幾何学模様だなぁ。さっきピエールくんに見せてもらった魔道具も、不思議な幾何学模様だったんだけど。
図柄は繰り返しのパターンでできている。欠けている部分もパターン通りだとするなら、鉄片さえ揃えられれば埋められそう。
ただ、鉄片をどうやって着色するかが問題だ。
目測で何パターンか色の濃度を変えたフレークを作ってみて、ピエールくんに一番近い色を選んでもらうのがいいかな?
誤差はどのくらいまで大丈夫なんだろう。
他にもっといい手はないかなぁ……
――考えていたらあっという間に日が暮れてしまった。




