204 リゼ、自分の祭壇を見せられる
ピエールくんに聞かれて、わたしは事情を説明した。
つい昨日、騎士団の人が持ち込んできたこと。
奥様の形見であること。
「僕以外にもドワーフが……それはお会いしてみたかったですね」
奥様にも色々と、この国に来るまでの紆余曲折があったのかなぁ。
最期に悲しい目に遭っていることを考えると、こっちのドワーフは苦労が多いんだろうなぁ。
「わたし、全然知らなかったです。ドワーフさんがこんなに大変だったなんて……」
「たまたま表に出てきただけでございますよ。大半は静かに、誰にも悟られることなく暮らしております」
ピエールくんがフォローしてくれる。
でも、それもなんだか悲しい、と思ってしまった。
「こちらのオルゴールも、こうして遺品を大切にしてくださる旦那様がいらっしゃることで、少しでも奥様のお慰めになっていればいいのですが」
修理が難しいあのオルゴールを、伝手を辿ってなんとか直そうとしているのは、やっぱり愛なんだろうなぁ。
バリガントさんはきっと、今もずっと奥様のことを大切に思っているんだろうね。
「亡くなってしまった方の気持ちは、今となってはもう分からないことですけど……
わたしは、誰かからこんなに強く思ってもらえるなんて、素敵だなって思います」
わたしが作ったものも、いつかは壊れて捨てられる。
それでも、持っていたときの思い出を、誰かが忘れずにいてくれたら嬉しいな、と思う。
「わたしの魔道具も、最後まで大切にしてくれる誰かの手に渡ってくれたら、こんなに幸せなことはないですねぇ」
奥様もわたしと同じ気持ちなんじゃないかな。
そう思うけど、真相は分からない。
わたしの発言に何を思ったのか、ピエールくんがすすす、と音もなく近づいてきて、内緒話をするように、こそっとわたしの耳に口を寄せた。
「リゼ様。ご主人様はすべて大事に保管しておいでですよ」
ひそひそと耳打ち。
「大事にしているという意味では、ご主人様も負けず劣らずでございます」
それから、腰から下げている輪っかのキーチェーンをじゃらりと取り上げた。
「よろしければ、ご覧になりませんか? ご主人様のコレクションを……」
「そ、そんなのあるんですか?」
「ドワーフ様式のアクセサリーなどもいくつかお持ちでいらっしゃったかと存じます」
「見てみたいです!」
「どうぞこちらへ」
ピエールくんに連れられて、わたしはディオール様のお部屋の隣にある、鍵つきの小部屋に案内された。
「高価な貴重品が多くございますので、普段は立ち入り禁止でございます」
説明をしつつ、ピエールくんは、そっと内側に入れてくれた。
内側は本格的なコレクションルームになっていた。
一面に美術品が並んでいる。
ガラスケース入りの指輪、時計、ベルト類。魔獣素材の刃がついた飾りのナイフ、細工物。額に入れられた名画。輸入品の壺や皿。
ほあ~~~~……すんごい……
きょろきょろしていると、見覚えのある装備が目に入った。
あ、あれは、わたしが作ったやつ!
公爵様の叙爵式に必要だとかいう儀礼用の装備一式なんかは、ひいひい言いながら作ったのだ。
眺めていたら昔の記憶が蘇ってきて、ちょっとほろ苦い気持ちになった。
公爵のクラウンを被せた、魔術師の杖と氷の紋章旗。王家への帰順を表わす緋色のマント。金モールの縫い付けと刺繍をがんばった青紫の魔術師のローブ。薄い青の瞳と同じ色の、鶏卵くらいあるブルートパーズをセットした魔術師用の儀仗。富と権威を誇示するための稀少なサファイアの指輪、エメラルドの指輪。ダイヤモンドの包みボタン。魔石入りの魔法の懐中時計。
その他、紳士服や、馬に被せるマントや、乗馬用の鞍なんかはよそに注文かけて、こちらで同じ模様の刺繍とフリンジをつけた。
よく作ったなぁ……と自分でも思ってしまう。
というより、よくうちみたいな小さい魔道具店に頼もうと思ったよね。
商人さんに仲介してもらって、老舗に頼むこともできたはずなんだけど。
隣のショーケースには、ひと区画まるまる使って、懐中時計が大小たくさん並んでいる。
貴族の人は懐中時計をアクセサリーだと思っているので、すごくたくさん注文をくれる。魔石入りのは質がまちまちで値段もピンキリ、総機械製のはちょっとお高い。吊り下げ式のチェーンベルトなどの付属品もいっぱいだ。
それ以外にも細々とした日用品が置いてある。
指先が汚れてしまった、もとは真っ白なヤギ革の手袋、皮がめくれてしまった、先の尖った靴、泥汚れで真っ黒な魔術師のローブ、折れた魔杖、破けてしまった血染めのシャツ……
痛々しいやつからは目を逸らしつつ、その他の日用品を手に取る。欠けてしまったペン先、汚れが取れなくなったインク壺、作らせてはみたけどインテリアに馴染まなかったのだろう小さな女神像、ローテーブルとシルバーポット。ところどころスパンコールがハゲ落ちたクッション。
壊れたものも全部取ってあるぐらいの勢いだ。
なんだかもう、うれしいやら気恥ずかしいやら。
あーっ、そうだったなぁ、こういうの作ったなぁ……なつかし……ってなるときの、あのちょっと恥ずかしい感じ。
お洋服はともかく、テーブルとかの、普段あんまり作らないものは、不出来な部分もあって、うわーってなる。
「リゼ様の彫刻などもお好きだとおっしゃってました」
「わ、わぁ……」
「初めの方は荒いですが、最近は力が抜けた分少し手抜きをするようにどうのこうのと寸評をなさっていることもございました」
「……っ」
恥ずかしい……!
やっぱり見る人が見たら分かっちゃうよねぇ。
「えー……失敗したとこは……失敗したなぁ……? って、自分でも思うんですよね……」
「何をおっしゃいます。本当に気に入っているのであれば、品物にできた傷もまた愛しいと感じるのが趣味人というもの。ご主人様はリゼ様のたいへん熱心なファンでいらっしゃるのでございます」
「そ、そう、なのかも、しれないですね……?」
最近、そんな話を聞かされたばかりだ。
でも、こうやって丁寧にしまってある品物をずらりと並べられると、改めて羞恥心が込み上げる。
「いかがでございますか、ご主人の愛蔵品の数々をご覧になって」
「だ、大事にしてもらえてるんだなって……」
「愛でございます。オルゴールを修理するのが愛だとすれば、こちらも愛だとはお思いになりませんか」
そうかな……そうかも……
わたしのことは、動きが変な珍獣と思われてたんじゃなかったっけ?
もうちょっとくらいは好意を持ってもらえてたのかもしれない。
「面白いものを作る珍獣、くらいには思われてたってことですね」
「……といいますより、ご主人様は、お金を払う以外に好意の伝え方を知らないのでございます」
「お、お金は大事ですよぉ! たくさん買ってくれるのは、つまり気に入ったってことですし!」
「いかにもその通りでございますね」
わたしは自作の魔道具で作られた一大コーナーをちらりと見て、目を逸らした。
う、うれしいけど、なんかこれ、恥ずかしいなぁ……
ディオール様にはいろいろと意地悪なことを言われたけど、これはそんなのが吹き飛ぶぐらい、なんというか……重かった。
ほとんどは恋人のふりだったけど、何度も可愛いって言ってもらったのより、ずっとずっと心に響いてしまって、どうしようもなくなった。
恥ずかしい、うれしい、でもやっぱり恥ずかしい。
ピエールくんはわたしの顔がよっぽど面白かったのか、くすくす笑っている。
「照れていらっしゃるのでございますね」
そうです……
うろたえているわたしに、ピエールくんが笑いをこらえつつ言う。
「申し訳ございません、あまりにもリゼ様がお可愛らしく……僕には、どなたかがお顔を赤くなさっていると、それはもうよく見えてしまうのでございます」
「ど、ドワーフだから!?」
「さようでございます」
い、いたたまれない……!
わたしはこの話題から逃れたくて、「そ、それで」と、裏返った声で言う。
「ドワーフ様式の骨董品って、どれですか?」




