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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【六章進行中】  作者: くまだ乙夜
六章 女神のオルゴール編

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203 ピエールのプロフィール


 次の日、わたしは学園への登校をキャンセルして、お店に向かった。


 昨日のオルゴールをバリガントさんの旅行かばんに詰め、まっすぐお屋敷にとんぼ返りする。


 わたしがピエールくんを探しに、お屋敷をあちこち歩き回ると、書斎の机にちょうどピエールくんがいた。使いかけのインクを補充したり、何かの手紙や書類を分類したりしている最中だったようだ。


 従者の服を着たピエールくんが、絵画にある天使の男の子みたいな愛くるしい笑顔で、わたしを振り返った。


「リゼ様。ディオール様はお出かけ中でございますよ」

「実はピエールくんに見てもらいたいものがあってですね……」


 わたしはさっそく持参してきたオルゴールを取り出した。


 現物を見るなり、ピエールくんが歓声を上げる。


「わあ、とても綺麗ですね! 色彩豊かで、宝石のようでございます」


 わたしも釣られて箱を眺めてみる。色はついてない。


 鉄のモザイク……渋い趣味の装飾だ。シェルモザイクやタイルのモザイクならよく見かけるけど、鉄はかなり珍しい。


「色がついて見えるんですか?」

「はい、非常に美しいものでございますね」


 わたしはつい首を傾げてしまった。


「……これ、わたしには、普通の鉄に見えるんですよ」


 ピエールくんは息を呑んだ。


「そういうことでしたか。ドワーフ様式ということでございますね」


 一発で言い当てたピエールくんに、わたしはおおっとなった。


「そうなんです! クルミさんから、ピエールくんがドワーフ様式に詳しいって聞いて。色まで分かるなんて、すごい目利きなんですねぇ!」


 わたしも職業柄、色については詳しいつもりだったけど、色彩豊か、とまでは感じない。


 ピエールくんはちょっとバツが悪そうに声をひそめた。


「僕は遠いルーツにドワーフが入っておりますので」


 びっくりしたわたしに、ピエールくんが『しー』と動作で静かにするよう伝えてきた。


「内緒にしておいてくださいませ。出身が違うと、おかしな方に絡まれることもございますので」


 それはそう。


 勢いよく頷くと、ピエールくんは自分の目を指さした。


「ドワーフの身体的特性といたしまして、人よりも目や耳がいいのでございます」

「色が付いて見えるのも、そのおかげってことですか?」

「はい。熱源知覚というのでしょうか? 元来、ドワーフは日も射さぬ地下の坑道で暮らしておりますので、冷たく暗い世界に閉ざされております。そのため、人間には真っ暗闇にしか見えない状態でも、わずかな熱や、光源の青い色がはっきり見えるのでございます」


 へぇぇ~~~……それは知らなかった。


 熱が見えるってどういう感じなんだろう?


「熱って何色ですか?」

「赤や橙の……火やランプの色でございますね。明るい場所ではそうでもないのですが、暗闇ですと、体温のある動物や人などは、赤く燃えているように見えます」

「赤く……」

「皮膚の下の血の巡りなんかも、よく目を凝らすと見えることもございますよ」


 わたしはその昔見せてもらった人体解剖図から、血管の配置を思い返して、ほあーっとなった。


 あれが皮膚を透かして、赤く見えるのかぁ……


 ちょっと聞いただけでは想像もつかない。


「カラスの羽も、僕にはあざやかな七色に見えるのですが、人には真っ黒だと感じるようでございますね」


 は~~~~~……


 でも確かに、カラスの羽って、光に当たるとちょっとだけ虹色に偏光して見える。


 あの色がもっとくっきり見えるってことなのかなぁ。


 わたしは手元のフタに視線を戻した。


 この激シブの鉄色の金属も、ドワーフさんには綺麗な七色に見えてるってことなんだね。


「道理で、この箱、一見地味なのに、すっごく手が込んでるとは思ったんですよね」

「ドワーフならではのデザインでございますね。人の作品に、このような輝きの金属製品はあまりみられませんので、なんとなく感じるところがございます」

「なぁぁるほどぉ……!」

「たまにございますよ、市場などでも、骨董品に交ざっております」


 それでディオール様にも目利きを頼まれたんだなぁ。なるほどぉ……


 わたしは感心しっぱなしだった。


「知らなかったです……! 擬ドワーフ様式ならいくつか見ましたけど、本物は初めて見ました」

「めったに出回ることはございません。ドワーフは人と交易するのを極度に嫌っておりますから……ただ、まれに発掘されることもあるようでございます。ドワーフが放棄して、廃墟になった坑道がいくつかあると噂されております」

「発掘して持ってくる人がいるんですねぇ」

「もしくは、別の大陸から持ち込むこともあるようでございますね」


 ニコニコしながら情報を教えてくれていたピエールくんが、最後にぽつりと付け加える。


「――僕も、生まれは海の向こうでございます」


 ピエールくんが明かしてくれた過去に、わたしはこの日一番ぐらいに驚いた。


「えぇ!? すごいですね……! すごく遠いって聞きましたよ!?」

「ええ、運悪く人間に捕まりまして、遠路はるばる」

「連れてこられちゃったんですか?」

「はい。ディオール様に助けていただきました」


 そんなドラマが……!


「ピエールくんも苦労してたんですねぇぇぇ……」

「それほどでも……ほんの一年ばかり旅して、強制労働させられただけでございます。禍福はあざなえる縄のごとしと申しましょうか」


 あざ……? と首を傾げていたら、ピエールくんは「お気になさらず」と気遣わししげに声をかけてくれた。たぶん、通じてないのが通じたんだろうなぁ。


「でも、見た目だと全然分からないですね! ドワーフさんも人間と同じなんですねぇ」

「ドワーフ族は小柄である以外、見た目はまったくヒューマンと変わりません。ただ、坑道暮らしのものは髪も手足も真っ白でございます。外にいると日焼けするのですが。僕の髪も、ずいぶん日に焼けてしまいました」


 桃色がかった髪の毛を引っ張るピエールくん。


 髪の色って日焼けとかで変わるものなんだ……


 世の中には知らないことがいっぱいだ。


 わたしも洞窟で暮らしてたら白髪になるのかな?


「こちらの箱はどこから手に入れたものなのでございますか?」


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