202 リゼ、オルゴールの修理を頼まれる(2/2)
「妻はドワーフをルーツに持っていて、魔道具づくりが趣味だったんだ」
「ドワーフ……!」
ヒューマンの種族以外にも、ヒト型の種族は存在する。
ただし、この大陸にはヒューマン以外がほとんどいないか、いても人間のふりをして暮らしている。
よその大陸にはわんさかいると言われているけど、交流はほぼないに等しい。
ドワーフは地下の坑道で暮らしていて、地上のよそ者を好まないのだ。
「妻が生前に使っていた道具箱も見ていただけないだろうか。私にはよく分からないから、とりあえず持ってきた。役に立つものがあればいいのだが」
バリガントさんは大きめの旅行かばんから、大小様々な箱を取り出した。
どれも頑丈な金属で出来ていて、表面には華麗でダイナミックな彫刻や、水晶の原石などをあしらった先端装飾などがつけられていた。
「うわぁ、きれいな彫刻!」
「妻の作品なんだ。ドワーフ様式の魔道具が得意だった」
「!」
へえ、これがドワーフ様式……
あんまりこの国には出てこないので、とても貴重な品だ。
うちの国で見かけるのは、ドワーフの様式を人間が真似したもので、擬ドワーフ様式と呼ばれている。
カッコいいなぁぁぁ……!!
「珍しいですねぇ! わたしもドワーフ様式の本物は初めて見ます!」
「ああ。だから狙われたんだが……」
ドワーフは人間に狙われやすい。
地下を掘って暮らしているので、宝石をたくさん持っていると思われているのだ。
美術、芸術、工芸の技術もずば抜けているから、人間の作るものには興味がないらしく、交易などをせず、人間を徹底的に避けて、地下にこもっているという話だった。
「他にもまだ色々とあるんだ。もしも修理が完了したら、君に譲ってさしあげよう。私には使い方も分からないものだから」
「いえ、奥様の形見は受け取れませんよ!?」
「妻も、使ってくれる人間の手に渡った方が嬉しいだろう」
それはバリガントさんの考え方次第だけど……
わたしは形見は手元に置いておいてほしいと思うけどなぁ……
まあ、またあとでよく聞いてみよう。
「ひとまず、箱を直すだけだったら割とすぐに済むと思うので、しばらくお借りしててもいいですか?」
「頼みます」
バリガントさんはわたしにお礼を言って、帰っていった。
手元に残された箱を開けてみる。
鉄の化粧板の下は、無垢の木材でできている。
綺麗な木目だ。
おそらく杉の一種かな。正確な種類までは分からないけど、似たものは手に入る。
鉄は寸法を測って同じ厚さに延べつつ貼り合わせるだけ。
手も空いてるし、すぐ取りかかろう。
◇◇◇
わたしはまず、鉄を薄く伸ばしてくるくると巻き取った、板金素材を用意した。
糸巻きの糸を延べ板に変えたような材料だ。
細部の厚みを軽めのトンカチで慎重に叩いて揃えつつ、カットする部分を決めていく。
厚みを揃える作業は、複製で一気にするというわけにもいかない。一枚一枚微調整がいるからだ。切り抜きも、ぴったりでないとダメ。
ひととおりフレークを用意し、仮に並べてみたところで、違和感に気づいた。
なんかこれ、変だな……なんだろう……
このまま並べれば、おそらくぴったりハマる。でも、何か馴染まない感じがする。
鉄の材質が、これだけ真新しいからかな?
ほかのはちょっとずつ変色してるのに、ピカピカすぎるかもしれない。
うーん……加工したほうがいいのかなぁ……
少し錆びさせるか、黒く着色するか……うーん……
でも、加工して作った古美仕上げでも、なんか合わない気がする。
よく分からなかったので、わたしは一度そこで作業を止めた。
なーんか違う気がするんだよなぁ……
斜めにしたり裏返したり、ためつすがめつ眺めてみたけど、結局分からなかった。
もう少し考えよう。
その日は結局答えが出なくて、わたしはすごすごと帰宅したのだった。
食事とお風呂を終えて、完璧メイドのクルミさんに髪とお肌のお世話をしてもらう。
何でも聞いてくれるクルミさんに、わたしは今日あったことを報告した。
「ドワーフ様式でございますか」
「そうなんです! わたしも初めて見たので、これでいいのか分からないんですよねぇ……調べた方がいいのかもしれないです」
「それなら、ピエールが詳しかったかと。ご主人様に請われて、骨董品の目利きをした、というような話を耳にしたことがございます」
「目利きができるんですか!?」
珍しいものなのに、すごいなぁ。
技術力が段違いだから、見慣れれば簡単な目星はつきそうだけど、まず本物を見て勉強しないとだよね。
「ええ。一度見せてみてはいかがでしょうか」
「そうします!」
さっそく明日、お店から持ってきて聞いてみよう。




