201 リゼ、オルゴールの修理を頼まれる(1/2)
パレードからしばらくしたあと。
わたしは学園が終わってすぐに、お店に移動した。
最近留守がちにしていたからか、午後だけ開店するわたしに合わせて、三人くらいのお客様が待っていてくれた。順番に採寸をしたり、完成品を渡したりしてあっという間に時間が過ぎる。
夕方頃にようやく一段落。
ひと息入れていたら、ご予約なしのお客様がふらりと現れた。
平民風の服は着てるけど、体つきが筋肉質で強そう。
武装はしてないけど、たぶん騎士さんか冒険者さんだ。
わたしのことを知っているみたいで、「あなたがあの」と、感心したように唸った。
「『ギュゲースの指輪師』どのは少女だと聞いていたが、本当なのだな」
カッコいい名前で呼んでもらって、わたしはちょっと気が引き締まった。
評判を聞いて来てくれたってことだよね。
「リゼです。リゼルイーズ・リヴィエール」
「バリガントと申します。エスト騎士団所属です」
やっぱり騎士さんだったかぁ。
「魔道具の注文ではないのだが、あなたなら直せるのではないかと紹介していただいた。こちらを見ていただけないだろうか」
バリガントさんが大事そうに持ってきた旅行かばんのフタを開けると、壊れた金属製の箱が出てきた。
一見地味な、長方形の箱だ。
落としちゃったのかな?
フタは蝶番が取れていて、中身は潰れていた。
中には……音を鳴らすための、櫛状に切れ目が入った薄い金属の板と、鉛のつぶつぶが付いたドラムが入っている。
「オルゴールですか!」
「壊れてしまったので、修理をお願いしたい」
「あー……これは、うちよりも専門の職人さんにお願いした方がいいと思いますよ」
わたしは機械の修理はできるけど、音の調律まではできない。
「オルゴールは人間の耳で聞きながら音を正しく直す過程がいるので、わたしじゃ音程を揃えられないんですよ。専門のオルゴール職人さんとか、教会の音楽時計を作ってる機械技師さんとかにお願いした方がいいですよぉ」
「しかし、そのオルゴール職人にも無理だと言われてね」
わたしは壊れたフタの外装をひっくり返してみて、唸ってしまった。
綺麗な鉄片のモザイクだ。一ミリ四方くらいの菱形が、隙間なく並べられている。
見た目は地味だけど、よく見るとすごく手がかかっている。
でもそれも、ところどころ抜け落ちてしまっていた。
「綺麗ですねぇ……力作だぁ……」
剥がれ落ちた部分には木材の地が見えていて、透明な松脂っぽい接着剤の残滓がこびりついている。
「うーん……鉄のタイルを並べるだけなら、たぶん、わたしにもお手伝いできると思います。でも、機械の部分は……」
強めの衝撃がかかったのか、パーツが飛んでいる。
ドラムはひしゃげて、櫛歯やピンもぐちゃぐちゃに折れて、潰れていた。
「新しく買い直した方が早いと思いますよぉ」
「そうもいかない。思い入れのある品でね」
「これって何の曲が入ってたんですか? それさえ分かれば、あとは専門の人が何とかしてくれるはずですけど」
「それも分からないんだ」
「制作者さんに問い合わせました?」
「おそらく非常に古いものだと思う。妻が修繕して、よく音を鳴らしていた」
「なるほどぉ……」
わたしは切れてしまったゼンマイの取っ手をちょいちょいつつきながら、あれ、と思った。
オルゴールは最近の発明だ。
機械のつくりも、よく見かけるタイプで、昔のもの、という感じはしない。
「じゃあ、奥様に、楽譜に書き起こしてもらいましょう」
バリガントさんは顔を曇らせた。
「……ないと困るものなのか? 妻のように、修繕をしてもらえればそれでいいんだが」
「そうですねぇ……」
わたしはオルゴールの中身がよく見えるよう、斜めに持って、パーツを指さす。
「オルゴールは、この金属の細い板を、ピンで弾いて音を出してるんですよ。ほら、こんな感じに」
わたしは薄い金属の板を、爪の先でコンコンと打った。
「この板の長さとか大きさ、ピンの位置を変えるとメロディができます。で、このピンが重要なんですよ。ここが潰れてると、直しようがないですねぇ……残ってる部分はなんとかなるかもしれませんが、完璧に、とはいかないです」
わたしは箱をカウンターに置いた。
「とにかく、奥様に楽譜を書いてもらえたら、修理できると思います!」
というより、奥様に直してもらえばいいのでは?
「妻は……今はもう……」
バリガントさんは気が重い様子で、ぽつりぽつりと話してくれる。
「昔、物取りにあってね。オルゴールだけでなく、その場にあった魔道具のほとんどが壊すか、盗まれるかしてしまって。妻もそのときに……」
ありゃあ……
途中で、何となくそうじゃないかな、と思っていた。
だって、奥様に直してもらえないから来てるんだもんね。
「そんな顔をしないでくれ、犯人はあらかた捕まえた。このオルゴールを破壊したやつがひとりだけ捕まっていないが、いずれ必ず探し出して捕まえる」
わたしはオルゴールのパーツの潰れ具合をよく確かめてみる。
これは新しく作り直して、ピンだけそっくりの位置に置き直した方が絶対に早い。
でも、そういう事情なら、できる限り現物を保存して作り直した方がいいよね。
よそで断られてしまったというのも少し分かる。手がかかりすぎる上に、パーツのひしゃげ具合によっては、金属疲労を起こしていて、ネジを巻いて力を入れた途端に、もっと壊れてしまう可能性がある。
「パーツがどこまで使えるか、によるのですが、ダメそうな部分は新品に入れ替えます。それでもよければ、できる限り元に戻せるようにがんばりますけど……メロディも、できる範囲で修復しますが……どうしても、音の欠けは出てしまうと思います」
バリガントさんはうなずいた。
「機械の部分が難しいのは分かった。そちらはいったん保留にする。箱の化粧板を直してもらうことはできるだろうか。せめて、妻が大事にしていたこの箱は綺麗にしてやりたいんだ」
「分かりました! 絶対に直しましょう!」
箱は問題ないはず。鉄を貼り合わせるだけだ。
継ぎ目のないセッティングにちょっと神経を使うだろうけどね。




