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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
六章 女神のオルゴール編

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199 リゼ、パレードを見学する(2/3)


「そうよ。ぺてんの戒めは、ルキア様の神官が勝手に言い出しただけ」


 ウラカ様ははっきり言い切った。


 創世神話への批判になってしまうので、普通の人はここまで言わない。


 ウラカ様は怖いとも思っていないのか、何でもないようにあとを続ける。


「だって、脳筋だらけで育ちも悪くて、魔獣を虐めて遊ぶような騎士たちの教育に便利ですものね。騎士団でもそのくだりは何度も教えるそうよ。わたくしもパパと一緒に、うんざりするほどお祈りしたわ」


 自分とこの騎士さんたちをボロクソに言うウラカ様。


 なんか嫌な思い出でもあるのかなぁ……


「このパレードも、効果を求めてやっているわけじゃないの。気晴らしよ。皆様、テウメッサの狐以来不安な毎日をお過ごしですから、『原因は取り除きましたからもう安心です』ってやるのよ。王都の人たちだって、【祝別】が何かとかはよく分かってないと思うわ」


「お祈りすると、一時的に神様が力を貸してくださるのではございませんの?」


「それは【祝福魔法(バフ)】よ。祝別はただのお清め。気休めよ」


 そんなものなのかぁ……


 いろいろあるんだなぁ。


 へぇ~~~、と三人(とマルグリット様)で感心したあと、ふいにアニエスさんが首を傾げた。


「そういえば……どうして【研磨(バフ)】なのかしらね?」


「さあ? それはリゼ様が詳しいのではなくて?」


 みんなの話にずっとついていけなかったけど、【祝福魔法】のことならちょっとワカル。


「はい! その昔、すごい鍛冶の神様がいて、人が高位の魔獣……ドラゴンの鱗とかを加工するのに、工具の魔法を借りていたのが発祥です。ダイヤをカットするにはダイヤの工具がいるように、強い素材には強い工具がいるんです。だから、【研磨バフ】なんですよ。それで、いつの間にか、ご加護全部がそう言われるようになったそうです」


 楽しくなってしまって一気に喋る。


「【生活魔法(コモンマジック)】も実はご加護の一種なんですが、魔術言語と違って、ローカルの呪文も多くて、もう誰から力を借りてるのかもよく分からないので、一律で生活魔法って言われてるみたいです。お祖母様は【マクロ】って呼んでました!」


 わたしは魔道具のことになるとどうしても喋りすぎてしまう。


 やってしまったと、一瞬思ったけれど――


「へえ、面白いのね。そういえば、ドラゴンの鱗なんて、小さい部品を削り出すのはすごく難しそう」

「鱗を魔剣で叩き割るのならともかく、小さなアクセサリーにするには、その何倍も鋭い刃で正確に切り抜かないといけないものね」


 でも、アニエスさんたちはちゃんと話に乗ってくれた。


 う、うれしい。


「祝福魔法も色々なのねぇ……」


 ウラカ様が感心してくれたので、わたしはとても満足した。


 いやぁ、聞いてくれるお友達がいるっていいね。


「たくさんの神様から、いろんな種類のご加護を借りられるのですわね? でしたら、怒って、全部停止しちゃうネメシス様って、実はすごい神様なんですの?」


 鋭い疑問……!


 ディディエールさんの問いに、ウラカ様は肩をすくめた。


「どうかしら? 知りませんけど、このくらいで本当に神の怒りに触れるわけがないから、気にしなくていいわよ。武器も防具も、どんどん使って身を守るべきだわ。うちの騎士団員たちは誰も魔獣の生命を冒涜なんてしてないもの。やらなければやられるだけ、生きるための行動よ。そうでなければ、どうして毎日あんなにも多くの犠牲者が出るっていうのかしら」


 沈んだ口調のウラカ様が黙ってしまったので、わたしたちは気まずくなって、つい目配せしあってしまった。


 騎士団の人たちが置かれてる状況が大変なのは分かる。


 わたしはわざと明るい声を出すことにした。


「……ウラカ様って、アニエスさん側の人だったんですか?」

「? なによそれ」

「すごく……その……いろいろ知ってて、知的な感じでした……!」

「主催よ、わたくし? 裏事情込みで知っているわよ」

「ウラカ様はわたし側のぽんこつ民だと思ってました……」

「失礼ね!」


 ウラカ様はまあまあ本気で怒ってしまった。


「わたくしはアカデミーの学生よ? 落ちこぼれの学園生程度と一緒にしないでいただけます?」


 アニエスさんが目を丸くする。


「まあ、アカデミーにいるの? 難関なのに、勉学家なのね。魔法学をおやりになっているの?」

「いいえ。錬金術のアカデミー会員になろうとしていたのよ。……ついこの間まではね」


 アニエスさんは微妙な顔つきになった。


「……あの男と同じ研究をしようと思っていた……とか……?」


 わたしの脳内に、天才魔術師のディオール様がぽこんと浮かぶ。そういえば、ディオール様はアカデミーで研究員をしているって言ってたっけ。


 ウラカ様はものすごく眉間にしわを寄せ、目を剥いた。


「誰かしら? 知らないわ。わたくしは錬金術が好きなのよ。将来は服用したら造血ができるポーションを開発して騎士団員たちの生存率向上に貢献する予定なの。男に血迷ってる暇なんてないわ」

「そ、そう……なんか、ごめんなさいね……」


 アニエスさんが謝った。


 す、すごい。だいたいいつも『正論ですが?』みたいな顔して何でも言いたい放題のアニエスさんが謝っちゃった。


 すごいなぁ……あのアニエスさんを謝らせるなんて……


 ウラカ様ってやっぱりこう、なんというか、騎士団をまとめる姉貴分、みたいな空気があるなぁ。


 ……いつもそばには怖そうな風体のいかつい騎士さんたちがひとりはいるし、そこだけ空気が違うよね。


 ウラカ様ご自身は話しやすくて素敵な人だけど、男性にとってみれば、この怖そうな騎士さんたちに恐れをなして、なかなか声がかけられない、ってことないかなぁ……?


 パーティー会場で、『あ、あの子かわいい』って目で追ってたら、隣の眼光鋭い騎士さんに睨まれて退散した……みたいなこと、たくさんありそう。


 その点ディオール様は、騎士さんなんか何人来ても怖くない、どころか、騎士さんの方が怖がってた可能性がある。


 微妙な沈黙の中、わたしはしみじみと悲しい気持ちで口を開く。


「高貴でかしこい人に囲まれて、わたしはいまとてもさびしいです……」


 一緒にするなって言われちゃった……


「お、おねーさま、おねーさまには庶民のわたくしが」

「ディディエールさん……!」


 ひし、と抱き合ったものの、すぐに考え直した。


「そういえば、ディディエールさんも伯爵様くらい偉いって先生が言ってましたよね」

「あ、あれは、慣習的にということですわぁ。本来なら爵位のない、庶民と同じなのですわ」

「そんな難しい言葉わたしの辞書にはないんですよぉ……!」


 貴族の身分制度、本当に意味が分からない。


 もっと簡単になってほしい。


「落ち着きなさい、リゼ。ここではあなたが一番高貴な人の血を引いているのよ、本来ならね」

「おねーさまはとっても賢いっておにーさまもおっしゃってましたわ!」

「ディオール様……」


 でもたぶんそれ、一部分だけ切り取ってますよね。


 賢い(はずなのに何もかもダメ)ぐらいの意味ですよね、わかります。


 期待値が高すぎるんだよねぇ。


 自分ができるから、相手もできて当然って思っちゃうのかなぁ。ディオール様にはアホの気持ちが少しも分かってない。そしてわたしも、ディオール様が何を考えてるのか全然わからない。


 わたしがもうちょっとデキる大人の女の人になったら、ディオール様とももっと仲良くなれるのかなぁ。


「かしこくなりたい……どうすればなれるんでしょうか……」

「そうね……まずは、その頭の悪そうな発言をやめるところからかしらね……」


 ウラカ様にばっさり切られて、わたしは本当に沈むしかないのだった。

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