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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
六章 女神のオルゴール編

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195 運命の三姉妹


 ……わたしはしばらく、ものすごく簡単に書かれた本ばっかり読まされてすごした。


 簡単にっていくら言われても加減できない(天才すぎてバカの気持ちが分からない)ディオール様に代わって、ハーヴェイさんとフェリルスさんががんばってくれた。特にフェリルスさんは、最高の先生だった。一生ついていきます。


 腕の構造を覚えるといっても、わたしは人体の構造は最初から知ってる。


 医学は全然分からないなりに、なんとかぼんやり、絶対にしちゃいけないこと……たとえば、傷口と血には直接触れちゃいけないとか……だけは覚えた。


 それにしても、無機物の魔道具は色々作ったけど、生き物の素材は初めてだ。


 【セルキーの皮膚】や【オーディンの目】も無機物系。


 神様にも身体があったのかなと思うと、ちょっと面白い。


 効果を象徴する名前で、実際は無関係なんだろうけどね。


 でも、【ヘカトンケイルの腕】や【ティアマトの血】は、生き物の身体の一部だ。


 高位の魔獣をぺてんにかけてはならない。


 じゃあ、高位のヘカトンケイルを素材として利用するのは罪深いこと?


 神々の怒りに触れてしまう?


 わたしは、触れない、と思う。


 魔獣に腕を取られる人がいれば、人が取り返すことだってある。


 それよりもあの、何度も復活させるポーション。


 あれの方がよほど生命に対する冒涜だ。


 倒してあげた方がきっとよかった。わたしはそう思う。


 神話によって違うけれど、人間の寿命はあらかじめ三人の姉妹によって決められている。


 死んだものを生き返らせるなんて、傲慢なことだ。


 そんなことを考えていたら、突然、女の人の囁き声がした。


 ――大切な人の命が目の前で失われても?


 そりゃあ、知ってる人が目の前で倒れたら迷っちゃうよ。


 できる限り助けてあげたい。


 でも、どんなに大事な人だって、死者の魂は還してあげないといけない。


 自然の摂理に逆らったらいけない、と、思う。


 わたしがそんなことを考えていたら、女の人は冷ややかに笑った。


 ――あなたにはまだ大切な人がいないものね。


 そんなことないです。


 大切な人はたくさんいる。ディオール様もピエールくんもクルミさんもフェリルスさんも、みんな大事な家族だ。


 出会ったみんなが大事な人たちです!


 それでも、神様が決めた寿命は変えたらいけないんだと思う。


 わたしが考えを変えなかったからか、女の人はそれっきり話しかけてこなかった。


 このひと本当に誰なんだろう……


 まあいいや。


 とにかく今は、がんばって治療のおべんきょうをしないとね。


◇◇◇


 【ヘカトンケイルの腕】の接着は、大成功した。


 連日連夜ハーヴェイさんの【魔力紋】を測り直し、腕の魔力紋を測り直し、ハーヴェイさんの……と、ほんのわずかな違いも見逃さないくらい徹底的に調べてから挑んだのがよかったのかもしれない。


 ディアーヌ様の腕もよかった。的確に処置をしてくれた。


 止血と縫合が済んでみたら、かなりしっかりとくっついているのが分かった。


 ハーヴェイさんが腕に違和感はないか尋ねられて、うーん、と唸る。


「なにかこう……ぴたっとはまった感覚であります」


 そう言って、手のひらをぐっと握り込んだ。


 びっくり顔のディアーヌ様、それ以上にどわーっとしたわたし。


「も、もう動かせるの!?」

「ええええええ!?」


 今くっつけたばっかりだよ!


 ぐっぐっと拳を握っては開き、指を一本ずつ立てる。


「……違和感は少し……しかし、問題なく動きます」


 えぇ……


 ディアーヌ様も絶句していた。


 腕の曲げ伸ばしを始めてしまったのに泡を食って、止めに入る。


「しばらくは無理をしないで! 何があるか分からないから、ゆっくり経過を見るのよ……と言いたかったのだけれど、指が動くなら問題ないのかしらね……?」


 指が動くなら、完全にくっついたはず。


 わたしは何か熱く込み上げるものがあって、少し涙が出た。


 よ、よかったぁ……!


 腕がなくなってしまって、不便なことはたくさんあったはず。冒険者なんて死と隣り合わせの職業で、計り知れないほどの不安があったはずなのだ。


 それなのにハーヴェイさんは一度も愚痴をこぼしたりしなかった。


 つらかったに決まっているのに……


 これでようやく不自由から解放してあげられるのだと思うと、わたしも救われた気分になった。


「よかったですねぇ、ハーヴェイさん!」

「ありがとうございます。何から何までお世話になり……」

「まだまだお世話はされるつもりですよぉ! わたしが!」


 お世話をしてくれる人は多ければ多いほどいい。


 みんなに支えてもらわなければわたしはすぐに野垂れ死ぬに決まっているのだ。


「とにかく、できるだけ動かさないでね。魔力が巡ると定着が早まるから、魔術の訓練でもするといいわ」


 くだらない話を聞き流して、ディアーヌ様は注意事項を教えてくれた。


「じゃあ一緒に訓練しましょう! サッカーは無理ですけど、手先の訓練とかだったらわたしが教えてあげられると思います!」


 そんな話をテスト勉強期間にしていた。


 今度こそ……! と意気込んだけど、ハーヴェイさんは生真面目な顔で「いえ」と言った。


「お気持ちはとてもありがたいのですが、公爵閣下にご指導いただければと思う次第であります」


 ……やっぱりディオール様の方がいいかぁ。


 悲しんでいたら、ハーヴェイさんが少し慌てた。


「では、監督をお願いするのはいかがでしょうか。店主さんの指導を、監督していただくのであります」

「でぃ、ディオール様はぁ……さ……最近、ようやく解放されたのでぇ……」


 医学の猛特訓中もつらかったなぁぁぁぁ……


 しばらく授業は受けたくないなぁぁぁ……


 やってもらってる立場で言えないけどねぇぇぇぇ……


「しかし、得意分野で、立派に指導をする姿を見れば、目を細めて喜ぶのではないでしょうか」


 ディオール様はわたしがたまに見せる学習成果にとても弱い。


 成長したわたしに感動してくれるかも!


 でも……


「考えておきますぅぅぅ……」


 わたしはとりあえず、先送りにしたのだった。



ちょっと私事でペース遅れます

週に五回は投稿するつもりです(できれば)

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