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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
六章 女神のオルゴール編

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193 テセウスの船


◇◇◇


「フェリルスさん、魔獣ってなんですか?」


 と、わたしは白い精霊さんに質問してみたことがある。


「ふつうの狼さんと、魔獣の狼さんの違いってなんでしょうか」


 フェリルスさんも魔獣だったけど、精霊さんに昇格したのだと、いつかの機会に言っていた。


 何でも知ってるフェリルスさんは、とっても元気よくお返事をしてくれる。


「そうだな、魔力が糧となるのが魔獣と言えるだろうっ!」

「かて……」

「食べ物のことだっ! 俺たち魔獣は魔力を食べる! しかぁぁぁしっ! 狼は食わんっ!! 魔力を食らうのは、身体の構成要素に魔力の占める割合が多いからだなっ! 魔力をすべて抜いたら死んでしまう、魔力頼りの存在が魔獣なのだっ!」


 うまく想像できないわたしに、フェリルスさんが追加で説明してくれる。


「人間は水と食料なしには生きられないが、魔力は食わん! 魔力を全身から抜いたって死ぬわけじゃあないっ! ゆえにお前たちは魔獣と根本的に違う生物と言えるだろうっ! ヒトとは魔力の恩恵にあずかれない脆弱な存在だが、俺はお前たちのことが大好きだっっっ!!」


 フェリルスさんが熱く語ってくれるので、わたしもなんだか釣られて感動してしまった。


「わたしもフェリルスさんが大好きです!!」

「よせよせ! 照れるじゃないか!」


 ――わたしは、先日ゲットした【魔獣素材】を前に、そんな会話を思い出していた。


 ディアーヌ様もヘカトンケイルの腕を外側からよく眺めて、難しそうな顔をしている。


「すごい魔力だわね。クリーチャーを作るのに最適」


 魔獣をめちゃくちゃにくっつけて作る、合成魔獣のことをそう呼ぶ。


 有名どころはキマイラだ。


 ライオンの頭にヤギの胴体、ドラゴンの尻尾を持っている。


 これも、魔力でべったりくっつけて作るのだ。


「魔力が糊みたいになって、くっつくってことですよね?」

「そうよ、魔力はどんな物質にも変化できる万能の未確定物質だから」


 よく分かる。だから、腕も、大雑把にざくーっと切ってぺたーってすれば、簡単にくっつくはずなんだよね。


「問題は本人の腕として扱えるかどうかね」


「皮膚のときと変わらない、と思います」


「そうね。理論的には説得力を感じたわ。あなたは皮膚もくっつけているのだし、同じ手順でできるというのも信じましょう」


【セルキーの皮膚】という魔道具がある。


 シルクに代表される動物性繊維の糸は、人の身体に近い。その糸と魔力を丹念に混ぜて織り込むと、怪我した部分にぴったり張り付く人工の皮膚になる。


 そのままだと変な風にくっついちゃうので、なじませるには【魔力紋】をよく読んで、当人のパターンと正確に一致させないといけない。


 うまく行けば自然に変化し、当人の皮膚と同じになる。


 どこが継ぎ目かも分からないくらいきれいに馴染むのだ。


 これは移植を手伝ってくれたディアーヌ様が一番驚いていた。


 ――くっつくまではまだしも、縫合範囲を超えた真皮の傷までなめらかに癒やすっていうのは……どういう作用機序なのかしら……? これが【魔力紋】の作用だというの……? 魔力を丁寧に流してあげれば、それに引っ張られて、肉体も……


 ディアーヌ様はしきりに難しいことを言いながら首を傾げていたけれど、わたしには何も分からなかった。


 そう、わたしは魔道具は作れても、人体のことはよく分かっていないのだ。


 なので先に、ディアーヌ様とよく話し合って、考えられるリスクを潰しておこう、となった。


 【ヘカトンケイルの腕】は平らな皮膚と少し勝手が違う。


 ディアーヌ様は「でも」と、浮かない顔で続ける。


「魔獣素材を接ぐとなるとね……人間をクリーチャー化する人体実験……に、限りなく近いのよね……というより、それそのものよね」


 すごく困った顔で、うなりつつ続ける。


「医者として、人体実験をしていいのか、ということなのよ」


 そ、それはそう。


 お医者さんの倫理感だとちょっとっていうのは分かる。


「……やっぱり危ないんでしょうか?」

「リスクは未知数ね」


 ディアーヌ様はわたしを連れて、お屋敷のお庭に連れていってくれた。


 薔薇園の植木を見せてくれる。


 綺麗なピンク色の薔薇が一面に咲く木の一角に、赤い薔薇がぽつんとついている。


「挿し木というの。違う薔薇の枝を接ぐと、こんな風に、もとの薔薇を咲かせるわ。同じではないけど、生体についても少し似たところがあるわね――ピンク色の木に赤い薔薇を接いでもピンクの花は咲かないように、腕に足を貼って、うまくくっつけられても、腕に変化したりはしないわ。接ぎ木は赤い薔薇の設計図しか持っていないの。でも、手首に他者の手首を持ってくれば、手首の設計図が手に入る。だから、とにかく異種族であろうと腕が必要、というのは理に適っているの。そこまではいいのよ。そこまでは」


 うーん。


 難しすぎて、腕に赤い薔薇が咲いている脳内イメージがわいてきた。


「でもそれは適合することが大前提。皮膚で成功させたあなたならもしかしてとは思うけれど……しくじったときにどうなるか……悪い想像がいくつも思い浮かぶのよ」


 それも分かるんだけど……


 わたしの直感だと、いける気がするんだよねぇ。


「でも、この腕、ほとんど魔力ですよね」

「ええ」

「魔力って空気みたいなものなので、抜いちゃえばしおしおのぺちゃんこになりますよね」

「……そうね……それはそうよ」

「で、この腕、限界まで魔力を抜いたら、中身が溶けて消えてしまう気がするんです」


 うーん、とディアーヌ様。


「……確かに。高位魔獣であればあるほど、膨大な魔力で肉体が補われているわ。テセウスの船ではないけれど、肉体をどこまで失っても生物と言えるのかしらね」

「魔力を本人に馴染ませる過程を、わたしがすることになります。えと……つまり、魔力紋を一致させます」


 ディアーヌ様はとっくに知っているだろうけど、ひとまずわたしなりに説明してみる。


「魔力紋っていうのは……本人の魔力のパターンがスタンプみたいな紋様として残るものなのでぇ……実際は、魔力の流れとか、構造みたいなのを見るんです。そこがちゃんと一致すれば、紋様がぴったり合うんです。はんこの本体をそっくりに作れば、押されたスタンプが一致するというか。もちろん、スタンプだけを真似して残すことで、贋作を作ることもできるんですけどぉ……」


 この説明で伝わるかなぁ……


 わたしの説明は分かりにくいことで有名だ。


「魔力を綺麗に一致させたら、【セルキーの皮膚】は、人間の方に引っ張られて、皮膚に変化します。腕もきっと、同じではないでしょうか? すでに活動停止して、魔力の流れも止まった腕ではなく、生きて魔力をぐるぐる巡らせられる人間の方に合わせて、魔力が変化するんじゃないでしょうか……」


 ディアーヌ様は「そうなのよ!」と、勢いよくはっきり言った。


「理論としてはそうだと、わたくしも読み取れたわ」


 あ、ちゃんと伝わってた。


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