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「――できた! ハーヴェイさん!」
そばでもどかしそうに見ていたハーヴェイさんに柄を渡す。
「攻撃一点特化の魔剣です! 使い方はいつもどおり! 勝手に調整入ります!」
「承知しました」
ずっと呪文を唱えていてお喋りする余裕がないのか、ディオール様がフェリルスさんに向かって、びっと手振りで指示した。
「分かったぞご主人っ! 俺は足止めをするっ!」
それからフェリルスさんは、先ほどディオール様がやったのと同じ動作で、びっと手振りでハーヴェイさんに指示をした。
「ハーヴェイッ!! 俺があいつの足元で邪魔をするっ! お前は全力で吹き飛ばせ!」
わたしは後方で見てるだけ。
ディオール様、近づきすぎですよ!
心配だけど、声をかけて集中を殺いでもマズい。
きっとわたしに言われなくても分かってる。
――最初にすごい速さでぶっ込んでいったのはフェリルスさんだった。
スネを囓ろうとするけど、ヘカトンケイルもいい加減に懲りたのか、片足で蹴り飛ばしてしまう。
でもその一瞬で、ハーヴェイさんが懐に入り込んだ。
ヘカトンケイルの長い腕がハーヴェイさんに何発も打ち込む。怯んだすきに、別の腕で胴体を掴み上げた。
「【貫け】!」
ディオール様が腕に釘のようなものを何本も何本も打ち込み、その腕を封じる――はずが、その場で傷が塞がってしまった。
ヘカトンケイルはこの場で脅威なのはディオール様だけだと見抜いたようだ。
ハーヴェイさんを遠くに投げ飛ばして、ディオール様の結界を壊しにかかる。
「ディオール様、これ!!」
手持ちの護符をめいっぱい投げつけると、そのうちの一個が奇跡的に手に収まった。
壊れた結界の割れ目を護符がなんとか塞ぎきる。
地面に転がっている護符は自分で拾ってもらおう!
それよりもハーヴェイさん!
倒れているところに寄っていき、ポーションを頭の傷にかけたら、すぐに目が開いた。
「……ヘカトンケイルは」
「ディオール様を狙ってます!」
「非常にまずいですな。すぐに加勢を」
「それでですね、大事なこと言い忘れてたんですけど、この剣、相手の攻撃を反射して、攻撃に使えます!」
「今までとは使い勝手が違うということでありますか」
「そうです!! 向こうの攻撃に合わせて斬りつけたら、綺麗に跳ね返って向こうにダメージがいきます!」
立ち上がって剣を拾うハーヴェイさんに、もう一個伝え忘れていた重要事項を言う。
「ヘカトンケイルの攻撃に合わせて、首を斬ってください! 血が大量に出ると、回復が間に合わなくなるそうです!」
「やってみましょう」
ヘカトンケイルはこっちに背を向けている。でも、腕はこちら側にも牽制的に振り上げられているから、死角というわけでもない。
ディオール様は防戦一方で、じりじり後退している。手持ちの護符もそろそろなくなりそう。
ハーヴェイさんも後ろから迫っているけれど、踏み込む隙がないみたいだ。
フェリルスさんは姿が見えない。ゴーレムもいない。
……勝機があるとしたら、わたしがハーヴェイさんのお古の魔剣で囮になるパターン? 攻撃が通らなくても、あの魔剣なら防御性能は激高い。
わたしはそろりそろりと、剣が置かれている方へと、忍び歩きを開始した。
誰もわたしに注意を向けていないのを確認し、一気にダッシュ!
剣を拾い上げ、握り締める。
羽根より軽い剣を構えて、とにかく突っ込んだ。
「リゼ!? 馬鹿――」
わたしの攻撃は全然ヘカトンケイルにダメージを与えられなかった。なんかちょっとぶつかったかな、ぐらい。
小うるさそうに、大きな腕がわたしに向かって振るわれた。
受けた衝撃はすごかった。肘までビリビリ痺れるような手応えで、わたしは軽く後ろに吹き飛ばされてしまった。
砂利にざりざり擦られながら、かなり後ろまで転がっていったみたいだ。
目が回っている間に、いくつか怒声が聞こえてきた。
寝てる場合じゃないので、気力を振り絞って起き上がり、くらくらする頭で目をすがめたら、ちょうど首を斬られたヘカトンケイルが倒れ伏すところだった。
倒した!
ヘカトンケイルを討伐したのだ。
……ヘカトンケイルを倒したのなら、とにかくすぐにやらないといけないことがある。
わたしは目まいを振り切って、現場にかけよった。
◇◇◇
現場はすごいことになっていた。
ハーヴェイさん、血まみれで立ち尽くしてる。
ディオール様、血まみれで、激しく息切れ。ぜん息みたいになっててその場にへたり込んでいる。
おまけに辺り一帯が水と氷でびっしゃびしゃの水浸し。凍えるような冬の気温になっていた。
「リゼ! 君は、本当に、何をやって……」
お説教は出鼻で止まった。
激しくむせてる。
ゲホゲホやってるディオール様が心配ではあったけど、それよりとにかくやらないといけないことがあった。
「腕を回収します!」
これはわたしにしかできない。
倒れているヘカトンケイルの腕のうち、無傷なやつを選んで、ひっつかむ。
肩の骨格のうち、構造上、明らかに負担が大きい部分を探した。
腕が密集している関係で、肩の取り回しに無理が生じているのだ。その部分はたいてい、膨大な魔力で補われている。
骨格に詳しいわたしは、自信満々に見極めた。
ここだー!
物質化した魔力と、ヘカトンケイル自身の筋力が複雑に絡まる組織に、魔力を溶かす技をかける。
入り組んではいるけど、わたしになら溶かせる!
かなりの時間をかけて魔力を拡散させ――
腕はとうとう、根元が緩んで、するりと取れた。
「ヘカトンケイルの腕、取ったどーーーーー!」
一連の戦闘で、雄々しい気分が高まっていたわたしが、高々と掲げて宣言すると。
ものすごく得意げなわたしの顔を見て、ハーヴェイさんが、耐えきれなかったように、笑ってくれた。
◇◇◇
そんなわけで、みんなして下山。
フェリルスさんもハーヴェイさんもボロボロで、特にディオール様がぐったりしていたけど、わたしだけは元気だった。
「護衛はわたしに任せてください!」
魔剣を振り回しているわたしを見ても、ディオール様はもうお説教する元気もないみたいで、好きなようにさせてくれた。
わたしがあたりを警戒しながら進んでいったから、魔獣も出てこられなかったのか、無事に帰りついたことで、今回のゴーレム狩りは作戦完了。
翌朝には全員分の治療も済んで、遭難したディオール様の救出作戦も、完全に完了したのだった。




