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184 リゼ、『真理』に触れる


「ご主人!!」

「……また出てきたのか」


 地面が揺れている。


 一定のリズムで、少しずつ揺れが激しくなり、次第に地鳴りも聞こえてきた。


 遠くに見えるのは、二足歩行の大きな岩人形だ。


 土砂がひっくり返って荒れた地面をものともせず、大きな足跡を刻みながら、重い足取りで近づいてくる。


「あ、あれって……もしかして、ゴーレムですか!?」

「何度も狩っているんだが、なぜか復活するんだ」


 おとぎ話でよく聞く魔獣だ。古い神殿なんかによく出没するので、神様が仮初めの『真理』を与えて作ったものというのが通説だった。


「知ってます! あれ、『真理』を破壊しないとダメって」

「破壊している。当然だろう。しかし時間が経つとこうして元通りになる」


 ディオール様は多少のうんざり感がにじんだ動作で、突進してこようとするゴーレムに呪文を放つ。


「【貫け】」


細長い何かが頭のてっぺんから地面に向かって、まっすぐ串刺しにした。ゴーレムの胴体までも貫通する針で、何度もグサグサさされて、ついに割れてしまう。


 土が崩れて、刻印入りの魔石がポロリと落ちる。


 その魔石をフェリルスさんがすかさずキャッチ!


 大喜びでディオール様のところに持ってきた。


「コアだ。この印が『真理』」


 興味ありまくりのわたしに、ディオール様がひょいっと手渡してきた。


「こういう魔道具まがいのものは君が得意だろう。何か分かるか?」

「さ、触っても大丈夫ですか? ゴーレムいきなり復活したりとか……」

「知らん。初めて見る種類だからな。突然岩同士が集まってくる可能性も」

「か、かかかかえしますぅぅ!!」

「遠慮するな。本来なら王都周辺ではお目にかかれない代物だぞ。よく観察しろ」


 手放したがるわたしに、ディオール様がぎゅうぎゅうと手のひらに押しつけてくる。


「後先考えず危険区域に入り込んだ罰だ。脅威をその身でよく味わえ」


 あっ、結構怒っている感じですね。


 わたしは神妙に両手で受け取り、こわごわと魔石を掲げた。


「まだまだ出てくるぞ。君にも手伝ってもらう。ゴーレムを相手取るときは、とにかく攻撃を正面から受けないように――」


 ハーヴェイさんに指南するディオール様の声を遠くに聞きつつ、わたしは手のひらで魔石をコロコロ転がして、どうしようかと考える。


 ゴーレムのコアは魔石に刻印された魔術文字の方なので、割ってしまえば消えるはず。復活するとしたら、どういう【魔術式】が書かれているだろう?


 中身を覗いてみたけれど、ゴーレム本体を動かすための制御文っぽいものがみっちり描かれていて、どこが復活に関係するのか分からなかった。やっていることが高度すぎて、わたしの手には負えない。


 とりあえずわたしは、魔石を溶かしてみることにした。


 割っても復活するなら、跡形もなく溶かしてしまえばいいのでは?


 魔石は魔力を固めて作ることもできる。


 ――でも、逆に魔力を溶かしてしまうこともできるのだ。


 粗悪な魔石は不安定なので、置いておくとだんだん溶けていく。安定している魔石も、魔力を溶かして動力源にしていると、だんだん溶けていく。


 この魔石は混ざり物が多くて、粗悪なつくりだ。


 魔石を魔力に還元する操作――【魔力化(マジカライズ)】をかけると、いきなりボロッと崩れた。


 乾燥した土のようなものがあたりにバラ撒かれる。


 純粋な魔力で出来ていたわけじゃないから、中に入っていた不純物が出てきたのだろう。


 なんだ、あっけなかったなぁ。これでおしまい――


 ――と思いきや、いきなり魔力が集まって、元通りの丸くて赤い玉になってしまった。


 えぇ……


 困ってディオール様たちを振り返ると、わたしが集中していたせいか、いつの間にか蠢くゴーレムの群れは消えていた。


 地面にたくさん魔石を並べて得意そうなフェリルスさんを、ディオール様たちがこぞってよしよしと撫でてあげている。


「ディオール様。これ、変ですね」

「そうだろう。割っても割っても復活するコアなど聞いたことがない。中に何か書いていないか? 【魔術式】なら君の得意分野だろう」

「それごと溶かし尽くしても復活しました」

「……? 溶かし尽くす、とは」

「魔石を作るときと逆の手順です!」

「なるほど。まるで分からん」


 すぱっと一刀両断されて、わたしはへたりとした。


 分からないかぁ……


「どんな魔道具だって、【魔術式】を壊したらおしまいです。でも、復活しました。わたしの手に負えるものじゃないかも?」

「……フェリルス。どうだ?」


 困ったときのフェリルスさん。精霊って便利だなぁ。


 フェリルスさんはお鼻でフスフスとよーく匂いを嗅いで、ぺっとツバを吐き出した。汚い。


「ご主人! これは魔石じゃあない! もっと泥臭い匂いがする! 微細で複雑な成分が入り交じったものだ! 生き物が腐ったような、ツンとして少し甘い……俺の嫌いな匂いだな! こういう匂いがする肉は食べられたもんじゃあない!」


 ――その精霊の言う通りよ。


 急に聞こえる不思議な声。


 ――素直で強くていい精霊ね。わたくしの声が届きやすいわ。


 ――警告してあげる。魔道具師の娘。


 ――それは【ティアマトの血】。


 ――遺骸で捏ねた泥に惹かれて、哀れな魔獣がやってくるわよ。


 またなんか言ってるぅ……


 あなたは誰なんですか?


 聞いてみても、答えはなかった。


 とりあえず今聞いた話を伝えようとした、そのとき。


 急にわたしの足元がぱっくり割れた。


 一瞬だけ落下したあと、氷の塊の上に叩きつけられる。


 氷が自動的ににゅっと伸びて、わたしは地割れの外にぺっと吐き出された。


 痛いのとわけが分からないのとで涙目になりつつ辺りを見渡したら、わたしのすぐ隣に地割れがあって、その内側が凍っていた。


 つまり……いきなり地面に亀裂が入ったのかな?


 それで、わたしが落っこちた。


 でも、途中でディオール様が氷の踏み場を作ってくれて、助かった?


「ディオール様……っ」


 ばっと振り返っても、こっちの方なんて見てもいない。


 フェリルスさんが集めてきたゴーレムのコアに、ハーヴェイさんとフェリルスさんも、みんな注目している。


 たくさん転がっていたはずの赤い玉(ゴーレムの『真理』)は、合体して大きな玉になっていた。


 しかもそこから、骨のようなものが生えてきている。


 人間の骨格、にしては大きすぎて、肩が不自然だ。


 骨でできた、中途半端なヒト型の上半身が、地面を這いずり回っている。


 怖すぎる!!


 ディオール様がただごとじゃない空気を察したのか、先制攻撃で雹みたいなのをいっぱい降らせて、骨を粉々に砕いてしまった。


 コアのひび割れが即座に塞がり、また骨が再生する。


 ……ホラーだなぁ。


「ゴーレムは単体ならそう脅威でもない。しかし、厄介な点がひとつだけある」


 こんなときまで指南口調のディオール様が、遠くを指さした。


「使役できるんだ」


 はるか先に、人影のようなものが見えた。


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