182 リゼ、保護ディオール活動をする(1/2)
◇◇◇
ディオール様が行方不明と聞いて、わたしは一気にパニックになった。
「お、おおおお落っこちちゃったんですか!?」
「捜索しているそうですが、見失ってからもう丸二日経過しているそうで」
た、た、大変だぁ……!!!
遭難には気をつけてって言ったのに……!
どうしよう、ディオール様山歩き嫌いって言ってたし、迷子になってるのかも!?
ディオール様は強いから、崖から飛び降りたくらいじゃ死なないはず。
わたしもブーツ履いてたらたぶん死なないと思う。
でも、ディオール様は高貴な猫ちゃんみがあるので、お外に放り出されたら、自力でエサとか取れずに、狭くて暗いところで震えてるイメージしかない。
つやつやの長い毛も、もつれて汚れて、しおしおだ。
はやく保護してあげないと……!
そこでようやく、ディオール様に持たせた魔道具を思い出した。そうだ、場所なら【ギネヴィアの櫛】で確認できるんだ。
場所は……ちゃんと分かる。
お星様からの信号がちゃんとキャッチできていた。
ということは、少なくとも土砂の下に生き埋めってことはなさそう。
「地図! 地図はありますか?」
わたしのお店には、王都の周辺地図しかない。
山ってどこらへん?
ピエールくんがどこからともなく地図を持ってきてくれたので、わたしは大まかな山の形を頭に入れた。
絶対的な位置を取得したので、あとはまっすぐ目指すだけ!
「ピエールくん! お弁当ください! わたしとディオール様の分です!」
「はい……いえ、えぇ……? リゼ様、それは、まさか……?」
わたしは自信満々にうなずいた。
「ディオール様が遭難したら、わたしが助けに行くって決めてたので!」
ピエールくんは真っ青になった。
何をおっしゃるのでございますかおやめください僕がディオール様にお手討ちを食らってしまいます!! とものすごく引き留めようとする。
わたしはのらりくらりと返事をはぐらかし、装備を持ち出して、諸々山歩きに必要なものを揃えた。
ブーツは前に作ったやつ。護符も前に作ったやつ。
ポーション類、長袖長ズボン、虫除けセット。
武器もほしいけど、作りかけのものしかない。
まあいっか。ないよりマシ。
このままでも防具としては優秀です!
「ピエールくん。聞いてください」
わたしはディオール様に持たせた【ギネヴィアの櫛】の対になってる櫛を見せつける。
「今、ディオール様の居場所が正確に分かるのってわたしだけなんです」
この魔道具は性能を思いっきり上げてある。正確な位置を当てられるくらいに。
なので、他の人には任せられない。
それに、わたしは意外と機動力がある。
ブーツで飛べるのもあるけど、防御用の魔道具ならいっぱいあるし、動力になる魔石もその場で作れるのだ。
周囲を探索して、危なくなったら離脱するって作戦なら、捜索が捗ると思う。
「ディオール様、強いのでそのうち勝手に戻ってくると思うんですけど、おなかすいてると思うんです。だからわたしが迎えにいって、帰りにピクニックとかしたら楽しそうじゃないですか?」
「危険な魔獣が徘徊しているのでございます……! ご主人様がご無事でも、入れ違いにリゼ様が行方不明になっては……!」
「大丈夫です! ちゃんと場所は分かるので!」
櫛は安心と信頼のわたし製です!
それに、それに……
「もしもディオール様が戻ってこなかったら? そんなことはないと思うけど……後になって『無理してでも探しにいけばよかった』って後悔しても、もう遅いんですよ?」
わたしの主張に、ピエールくんはぐっと黙り込んだ。
今この瞬間にもおなかをすかせて、助けを待っているのかもしれないと思ったら、じっとしているなんてとても無理だった。
「お弁当ないのは残念ですけど、夕方までには戻ってくるので! では!」
「お待ちください!!」
ピエールくんはもう真っ青通り越して、真っ白だった。
「しょ、承知いたしました。ではひとまず、ランチボックスをご用意いたします。完成するまではまだ動かずにお待ちくださいませ! その間にディオール様も戻ってくるやもしれず……!」
ピエールくんは再三わたしに『勝手に行かないように』と念を押して、厨房にかけていった。
……お弁当は大事だもんね。しょうがない。
ちょっと待とう。
そうこうしているうちに、わたしのところにハーヴェイさんが顔を出した。
わたしが魔剣をいじるかたわら、性能テストに協力してもらっているのだ。
重装備のわたしを見て驚いているハーヴェイさんに、手短にあったことを説明。
「……というわけで、これから捜索します!」
ハーヴェイさんは顔を引きつらせている。
「素人が飛び出ても危険なのでは……?」
「でも、ゴーレムはもう狩ったって言ってましたし。わたしもブーツがあるので、ちょっとした魔獣に追いかけられたくらいじゃ負けませんよぉ!」
なにしろリオネルさんが保証してくれた。昆虫とか相手でも全然平気って言ってたし、わたしの素早さに追いつける魔獣なんていないはず。
「場所さえ分かれば、あとはぴょんぴょーんってするだけです!」
ハーヴェイさんはぐっと何か覚悟を決めた顔つきになった。
「承知いたしました。ここでおひとりで行かせては、公爵閣下に顔向けができません。自分もお供いたします」
「いいですねぇ! ハーヴェイさんも一緒に山の上でお弁当食べましょう!」
ピエールくんに事情を説明して、お弁当ちょっと増やしてもらって、いざ出発!
「とにかくお願いいたします。どうかお願いいたします。リゼ様をどうぞよろしくお願いいたします」
なんか変な風にカクカクしているピエールくんに何度も念を押され、ハーヴェイさんも何か重々しく返事をしていた。
「自分だけ生き残っても、おそらく公爵閣下からご容赦いただけませんでしょう。必ずや命に換えてでもお守りいたします」
「べ、別に危ないことはしないですよぉ……ちょっと行って、捜索するだけです」
わたしはこれでも結界術の先生から卒業レベルって太鼓判ももらったんですからね。
魔術はまだまだでも、魔道具だったら自信ある。
むしろわたしがハーヴェイさんを守っちゃうかも?
暗くなる前に捜索を終えたかったので、わたしはさっさと出発することにした。