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180 魔剣制作


◇◇◇


 魔剣の改造に取り組んでから半日後。


 まだまだ全然力の制御が荒くて、範囲攻撃みたいになっている。


 受けた力を散発的に跳ね返すから、威力が弱まってぜんぜん切れない。


 使い過ぎて毛先がぼーぼーに開いた筆みたいな感じだ。


 ……相手の攻撃がものすごく強ければ、これはこれで使いどころもありそうだけど、今回はとりあえずスルー。


 とはいえ、原型はできたので、あとは時間の許す限り調整するだけ。


 わたしは計算ばっかりしていたせいで、ぐったりしていた。


 頭を酷使しすぎて、ぼわぼわする。


 知恵を絞っても、もう何も出てこない。


「もう無理だぁ……」

「お疲れ様でございます」


 眠気と疲労でぐだぐだのわたしを、クルミさんがしっかりケアしてくれるの、ありがたすぎて涙が出る。


 精神的にはズタボロでも、見た目はまだ人間だ。


「ずいぶん根をつめていらっしゃるのでございますね」

「辛いは辛いんですけど、楽しくてぇ……」


 最近ずっと何に使うのか分からない小難しい魔法学を習っていたので、実際にものが作れるのはすごく楽しい。


 だんだんできあがってきているのが目で見て分かるのって、やり応えがある。


「もうちょっとでできそうなんですよね。もうちょっとで」

「がんばりどころでございますね」

「でも、いつも『もうちょっと』って思ってからが長いんですよね。作業が楽しくてハマると、何でもすぐにできるような気がしちゃうんです」

「焦らないことも肝要かもしれませんわね」


 しっかり休息を取っていかないとだよね。


 長丁場になってもいいように……!


◇◇◇


 わたしはずっと手こずっていた。


「うー……」


 毛先の開きはだいぶマシになってきた。


 でも、一か所にまとまりきらないせいで、ロスが多い。


 制御点はもう限界まで張った。力の流れも、毛束の根元をたわめて自然に凸部を迂回し、180度以上曲がるようになっている。形状は筆の先だ。


「これ以上はちょっと無理だなぁ……」


 わたしはいったん魔剣を置いた。


 力がバラける理由は制御点が足りないせいもあったけど、新たに『向かい風制御するの難しくない?』という問題も持ち上がった。


 押し寄せる大きな風の流れに一本一本の毛が負けてしまって、散らばってしまうのだ。


 風の流れもとい魔力の流れはものすごく不安定なので、通常は大雑把に見積もって計算する。細部は予測を立てるのがえぐい難易度なので、どうしても風に吹かれてからの対応になる。そして、そのころにはもう毛が飛び散っている。


 今は制御するためにキャップのようなものを被せて、無理やり力をまとめているような状態。でも、毛にコシがなさすぎて、内部で毛先がめちゃくちゃに渦巻いてしまって、書き味が悪い。


 これはもしかしたら、何かもうひとつ【魔術式】を加えて、絞る魔法機能がいるのかもしれない。


 強力な風を起こして、強制的に毛を反対方向に吸い込む、排気口のような何か……


 ……


 ……あれ?


 わたしは何か言葉にならない引っかかりを覚えた。でも、それが何なのか言葉にならないせいで、形にならずに消えていく。


 毛先を吸い寄せる排気口を用意することはできる。


 あの【集中】法則を使えばいい。


 強くて安定している魔力を一か所にくっつけておくと、あとは勝手に小さい魔力が集まる。


 ……


 ……【集中】……?


 わたしは慌てて机を漁り、ノートを探し当てた。


 見覚えがある。


 教わった気がする。


 でも、それが何なのか、言葉にならない。


 そのうちに、矢印がいっぱい書いてある変な図が目に入った。


 ディオール様が黒板に描いて、それをわたしは何も分からないのに必死に写して、ハーヴェイさんとアニエスさんが解説してくれた。


 わたしにはもう分かっているはずだと皆が口を揃えて言うのに、何一つ理解できなかった図解。


 なんだかよく分からない楕円形に、たくさん矢印がついた絵図。


 ……あれ、この矢印って、もしかして……


 この立体的な球形に描かれた、矢印一個一個が力の流れ……!?


 毛の流れの行く先を矢印で表現してるのだとしたら……


 ……もしかして、この図、今からわたしがやろうとしてることにかなり近いんじゃ……?


 そしてそしてそして、偉そうなことを言うようだけど――


「この図、ものすごく簡単……?」


 魔剣が操っている毛の流れは、こんなもんじゃ済まないくらい密集している。


 ハーヴェイさんも、そんなようなことを言っていた。


 確かにこの【魔術式】は難しいけど、わたしの作ってるものはそれ以上だ、って。


 分かる、気がする。


 難解な呪文ぐらいにしか思ってなかった猫ちゃんやわんちゃんの記号が、今初めて、わたしの理解できるものになりつつあった。


 そしたら、このわんちゃん記号(∇ΦΦ∇)の生み出す魔力の流れ(キャップ)はもういい。


 これは今の時点で、十分に細かく作ってある。


 必要なのは、磁石みたいにくっつける、この【集中】法則の【魔術式】だ。


 ……でも、惜しい。


「な、何書いてあるかやっぱり分かんないぃぃぃ……!」


 知らない魔術文字に、知らない変数、知らない関数がいっぱい並んでいる。


 わたしの知ってる【魔術式】に類似のものがあるのかどうかさえ判断がつかない。


 あああああ。


「もっとちゃんと授業聞いておけばよかったぁぁぁ……!」


 ディオール様、ごめんなさい。


 もうイヤだとか、難しすぎるなんて言って本当にごめんなさい。


 ものすごく大事なことを教えようとしてくれていたのに、わたしは馬鹿だから、何にも分かっていなかった……!


 失ってから初めて分かるありがたみ。


 ――勉強は、できるときに、しておかないとダメ……!


 ここまで来て詰んでしまった絶望と浅はかだった過去への後悔で、じわじわ泣きそうになっていると――


 急に部屋がノックされた。


「リゼ様、至急のお知らせでございます!」


 ピエールくんだ。何かと思って急いでドアを開けると、顔面蒼白にして立っていた。


「ゴーレム狩りの遠征部隊がたった今戻ったそうなのでございますが、ディオール様とフェリルスが……!」


 わたしは泣いていたのも忘れて、目を見開いた。


「途中で崖から転落して、行方不明だそうでございます!」

物理学の用語を使わずに応力線とフラックスを説明せよ。

なお、説明する人間はアホな学生とする。


百点に近いと思います。褒めて。


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