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176 リゼ、魔剣製作現場を見学する(2/3)

「やめとけ。刃物慣れしてねえとちょっと手を滑らしただけで指がすぱっと落ちるぞ。【祝福魔法】の防刃能力も、よっぽどの寵愛でなきゃ貫通する」

「やめておきます!」


 すごーく見てみたいけど、安全が確認できるまで保留にしとこう。


「そっちの兄さんは構わんぞ。見たとこだいぶ使えるだろう」


 見るからにそわそわしていたハーヴェイさんは、見透かされて恥ずかしかったのか、ちょっと赤面した。かわいい。


 恐る恐るといった風に借り受けて、柄を握る。


 剣の腹にそっと触れてみたりして、具合を確かめてから、まっすぐ正面に構えた。


「わー! 似合いますよ!」

「これがあの、伝説のドラゴンの魔剣……」


 うれしそう。すごくかわいい。


「見た目よりはずいぶん軽いようですが」

「飛行する魔獣はたいていそうだ。なんだお前さん、レアものは初めてか? ならここをよく見ろ。これはな、若いドラゴンの……」


 なにやらアツいトークが始まってしまった。


 わたしもドラゴンの素材には興味があるけど、技能が足りないかな、と感じる。


 それより今気になるのは――


 わたしは魔獣素材の魔剣に触れないよう気をつけながら、鉄や鋼の武器防具の方へぐるりと回ってみた。


 どれも綺麗な製鉄による魔剣だ。


 素材を分析するときは、【構造式】を見る。軽く観察してみると、中身も完璧な鋼鉄の構造をしていた。


 これは、わたしの作る魔剣とは違って、熟練の職人による鍛造の工程を経ている。


 鉄はただ熱して固めただけでは脆くて硬い素材になってしまうので、人の手を入れて、性質を変えてあげる必要がある。


 内側は粘り気のある性質に。


 外側は硬くて切れ味のいい性質に。


 これがいい剣の秘密だと、いつかお祖母様に教わった。


 ただ、わたしがお祖母様から魔剣の作り方を教わったときには、もう重労働ができる年じゃなくなっていたので、代わりに魔法炉で高温処理をして、型に流し込む工程を見せてもらったのだ。内部の気泡を減らして、密度を高めて、魔法でゆっくり冷やす。


 剣としてはノーマルな出来だと思う。


 それでも魔剣として価値がつくのは、多少の無茶をしても強引にカバーできる【魔術式】のおかげだ。お祖母様が築き上げたものをわたしが習い覚えた。


 そこで使われている特殊な暗号に長く慣れ親しんでいたせいで、わたしはよその魔道具の仕組みがまったく読めない。


 レギン親方の【魔術式】は、いったいどんな内容になっているんだろう?


 見てもきっと分からないけど、興味はものすごくある。


 ドキドキワクワクしながら開けてみる。


 読めそうにもないけど、絵として見たときに、素直に、きれいだな、と思った。式全体をうまく組み合わせることで、魔術式が書けるスペースの限界まで使って、魔法の効果を付与してある。


 眺めているうちに、ふと数式が目についた。


 ……ちょっとだけ見覚えがある。ここ二日間、嫌というほど見せられた数式のうちの……よく覚えてないけど、どれかに似ている。


 わたしは魔術式を眺めつつ、剣を手に取り、少し傾けてみた。


 高度な魔道具は、動かすと、外部の状況を察知して、リアルタイムに揺れ動く。


 ……わたしが剣を傾けたときに変化する数値は、きっと角度に当たる部分だ。


 しばらく剣を縦にしたり横にしたりして遊んでいるうちに、ぼんやりと仕組みが分かってくる。わたしが作ってるものと、ちょっとだけ共通点がある。


 でも、決定的に違うのは、動かしたときの手応えだ。


 この剣は、向かい来る衝撃を【反転】させて、攻撃する方向に力の流れを持っていく。


 これが切れ味の鋭さに繋がるのだと思う。


 なんでもサクサクと紙みたいに切れる魔剣だ。


 わたしが作っている剣はその逆。


 敵の攻撃から受ける衝撃を左右に受け流すことで、剣の耐久性を上げ、防御力を上げている。


 ちょうど盾のような手応えになると思う。


 殴りつける盾、といったら近いかもしれない。


 ただ、先端が切れ味の鋭い刃なので、刃つきの盾だ。


 この結界的な挙動の【魔術式】は、間接的に剣の耐久性や手応えにも影響していて、衝撃を散らすことで剣にかかる負担、つまり折れ曲がりやクラックなどの発生要因を取り除いている。


 この【魔術式】の真価はそこだ。ターゲットが攻撃を跳ね返す力……応力も流してしまうから、敵の防御力もほとんどゼロに下げられる。岩や木などの硬いものを切ったときにこそ力を発揮する。


 結果として、【重量軽減】で上乗せした力がさらに威力を発揮するのだろう。


 手応えが滑らかで引っかからないのは、力の流れの操作箇所が多いおかげだ。


 剣が加速したとき、回転したときに【魔術式】が起動する反応速度も、式の書き込みが多いうちの方が断然早い。


 同じ【重量軽減】の魔剣でも、こんなに違いがあるものなんだなぁ。


 せっかくなので、試し斬りもしてみようかな?


 魔剣本体に、魔法の小さな火を作って刃先に当ててみると、ブワッと逆に噴射してきて、手が焦げそうになった。あちち。


 こうして、手向かう力も相手に返してしまうからよく切れるのだ。


 ただこれ、返す方向が難しいなぁ。


 制御点が少ないから、どうしても斬りたい方向とズレる感じがある。光の玉を飛ばして、逆方向に噴射するきれいなパーティクルの流れを見ていても、斬っている部分にちゃんと力が加わっていない。


 そして、制御点の多さではうちの魔剣が上だ。


 ……


 一通りテストしたおかげで、仕組みの解明が済んで、わたしは満足した。


 うーん。


 確かに親方の魔剣は切れ味が鋭い、いい魔剣だ。


 でも、これだったら総合的にうちの魔剣の方が推せる。


 何より【魔術式】の動きが軽くて、予測が早いので、ほとんどストレスがない。


 制御点が多いから、衝突判定を散らす方向もかなり細かく制御できる。


 細かく制御……


 ……


 だったら、左右に散らす防御用の制御点をぜーんぶ攻撃に回せば……


 ……あれ? 破壊力一点集中のキレキレな魔剣ができるのでは?


 やれるかな? やれるかも?


「どうだね、何か面白い物は見つかったかね?」



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― 新着の感想 ―
やはり天才は興味によって作られるのですね…。 それ斬妖剣(ブラストソード)!と叫んでしまいました。心の中で(・∀・) 剣の鞘の予備をハーヴェイさんが持ち歩く日も近い…
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