表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
五章 真理のゴーレム編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

175/209

168 リゼ、思いとどまる


「とってもなかよしです! ね! ディオール様!」


 おててつないで仲良しアピールをすると、ディオール様も握り返してくれた。


「そう、ならよかった。公爵も、彼女にちゃんとした学園生活を送らせてあげているみたいだね」

「ご命令ですので」


 王子様は、つれないディオール様には頓着しなかった。


 今度はわたしに目を向ける。


「テストはどうだった?」

「あのですね! 実は、結界術の先生から、今すぐ卒業できるって言われたんです!」

「それは何より。さすがだね。先生の教え方がいいのかな?」

「そうなんです!!」


 わたしはディオール様の腕にぴとっとくっついた。


「すごく分かりやすいですし、やさしいですし……やさしいですし……?」

「なんでちょっと疑問を持ってるの?」

「とにかく、なかよしなんですよ! そしたらですね、学園よりも、おうちの方がなかよくなれるかな? って思い始めたんです! ね、ディオール様!」


 ディオール様がわたしの肩をぎゅっと抱き寄せる。


「家庭でも濃密に交流はしていますが」

「え、それって私が聞いてもいい話なのかな……?」


 なぜかちょっと気まずそうな王子様に、わたしはここぞとばかりにたたみかける。


「なのでもう、わたし、卒業してもいいかなって思うんです! ディオール様も、そろそろ疲れてきてるみたいですし……」


 王子様は驚いたように、表情を消した。


「そっか……やっぱり勉強は苦手?」

「いらないと思うって、みんなに言われてるんですよぉ……」

「うーん……そうかもね。君の技は特に秀でているし」


 悩むそぶりを見せる王子様。


「でも、学園のいいところって、勉強ができるところだけでもないから。マルゴも君と一緒に学園に通えて、喜んでいるんだよ」

「リゼ様、おやめになってしまうの!? 嫌よ、嘘だとおっしゃって!」


 マルグリット様にそう言われるとわたしは弱い。


 興奮気味に頬をピンクにしたマルグリット様から、うるうるのおめめで見つめられて困っているわたしの横で、王子様がディオール様に笑いかける。


「公爵も、リゼルイーズ嬢に同年代の子と交流させてあげたいとは思わない? 君と結婚してしまったら、外出もひとりではできなくなってしまうだろうし」

「結婚したからといって縛り付けるつもりはありませんが」

「世間はなかなかそうもいかないよ。公爵夫人ともなるとね。それに、私は君にも学園生活を楽しんでほしいと思っているんだ」


 にこにこ話しかけている王子様に、愛想笑いも見せないディオール様。


 こうして見ると、ちょっと異様な気もする。


「父上の側近の中で、一番私と年が近いのは君だけど……聞けば、君は学園も外国でスキップしてきて、ほとんど学友もいないというじゃない?」

「あいにく遊んでいるほど暇でもありませんので」

「だからだよ。息抜きも必要だと思って。私も、学園にずっといられるほど暇というわけではないけど、それでも同年代の友達が持てるこの環境は、かけがえのないものだと思っているんだよ。それに、先生役の任務を外れたら、君にはまた違うことをしてもらうつもりだけど、そっちの方がいい?」


 そういえばディオール様、学園で適当にやってる方が気楽だって言ってたなぁ。


 今も十分忙しそうなのに、これより辛いお仕事が待っているのかぁ……


 かわいそうに……


「リゼルイーズ嬢も、公爵にはもう少し遊ばせてあげたいと思わない? 彼には学友が必要だよ。私と仲良くしてくれたら、それが一番なんだけどね。ただ、上下関係があると友人とは呼べなくなってしまうから。彼にはあまり拒否権もないからね」


 わたしもお姉様にさんざん無茶を言われて辛かったけど、ディオール様も王様たちから無理難題を押しつけられて困ったりしてるのかなぁ。


 そしたら王子様のことも『嫌い』ってなっちゃうのも、しょうがないのかも。


「マルゴや公爵のためにも、学園に残ってくれるよね?」


 王子様ににこにこと聞かれて、わたしはつい、うなずいてしまった。


「そうですね……もうちょっと、考えようと思います」

「そうそう。焦って決める必要はないんだよ」


 わたしの返事に一番喜んだのは、マルグリット様だった。


「よかったぁ……! わたくし、まだリゼ様とご一緒できるのね!」

「え、えへへ……」

「学園でもっといい男を見つけて、こんな男捨ててしまえばいいわ」

「ディオール様よりもって、難しくないですか……?」

「いくらでもいるわよ? 常に不機嫌な男なんて最悪だわ。今は飛び抜けた美形だから多少の横暴は許せても、十年、二十年も一緒にいると魂を削られるわよ。そういう離婚事例をいくつも見てきたわ」

「あら、いっそわたくしの専属になってしまえばよろしいのよ。殿方なんていなくても幸せにしてさしあげるわ」

「ディオール様も、見た目ほどそんなに怒ってるわけでは……」


 不穏なことを言うアニエスさんとマルグリット様とキャッキャしているうちに、王子様は『試験に遅れるから』といって、去ってしまった。


 ――うまいこと言いくるめられたと気づいたのは、もうちょっと後のことだった。


◇◇◇


 テストが終わりました! めでたいね!


 採点も終わり、わたしは赤点を免れた。


 うん。うーん……


 わたしの十級試験の結果からいって、二割くらいできたらいいかな、と自己採点していたけど、四、五割に伸びた。


 決して褒められた成績じゃないのは分かっている。


 でも、わたしの基準で言うと倍以上伸びたのだ。


 すごくうれしい。


 でも、褒められたものじゃないのは本当に分かっていたので、黙っていることにした。


 やっぱり実技が大きかったよね!


 結界術の先生が追加で技術点をくれていたので、大きく点が伸びた。


「ディディエールさんはどうでした? 満点取れました?」

「満点ではありませんでしたけど、それなりに」


 答案を横から覗き込むと、どれも八割くらいできていた。


「す、すごい! すごいすごいです! ディオール様もきっと喜びますね!」

「おにーさまに褒めていただけるかしら……」

「もちろんですよ! きっと将来はすごい魔術師になれるって言うはずです!」


 わたしもこんな点数がよかった。


 次がんばろう……


◇◇◇


 わたしは大喜びでテストの結果をディオール様のところに持っていった。


「見てください! わたし頑張りました!!」


 赤点というほどでもないけど、成績がいいとはとても褒められない点数を見ても、ディオール様は全然怒らなかった。むしろ、答案を一通り眺めて、わたしに笑顔を見せてくれた。


「格段に点が伸びたな。特に魔術文字と魔法陣関係は素晴らしい」


 実は【魔術式】で使う文字も、魔法学のものとはちょっと違うらしい。


 魔術文字による【魔術式】の基本作図も、図形だと思ったら割といけた。


「魔術言語も、『これはペンです』の段階で怪しかったとはとても思えない出来だ」

「ディオール様にみっちり教えてもらったおかげです!」

「書き写させただけだが……」

「覚えられたら何でもそれが学習です!」

「そうか……そうだな」


 ディオール様は考えるのを放棄した顔で、はかなく微笑んだ。


 だいぶ疲れてるなぁ。


 わたしはディオール様になんでも頼り過ぎなんだよねぇ。


 そろそろこのへんで、お礼のひとつもしたいところ。


「テストも終わったので、ひと息入れませんか? 瑞雲帝国の本格料理を出してくれる、ヤサイロウってお店があるそうなんですけど」

「行きたいのか?」

「はい! 今回はわたしがご馳走しますよ!」


 お値段については分からないけど、アニエスさんが支払いの方法を教えてくれた。


 何でも、小切手を持っていって、数字を書いてサインをしたら大丈夫らしい。


 今は経営も順調で、資金も潤沢。


『結婚式の料理を一括払いしても破産しないから大丈夫よ』


 ――って言ってくれたので、思い切ってみることにしたのだ。


「満月全席って言って……生のお魚とか、テンプラとか、燕の巣とか……なんかいろいろ珍しいものを食べさせてくれるそうなんですよ! おもしろそうだと思いませんか!?」

「サシミか」

「知ってるんですか? おいしいらしいですよ! アヒルの薄皮焼きとかは、キャメリアの人たちにも好評って言ってました!」

「まあ、君が行きたいなら」

「行きたいです! わーい! じゃあ予約しますねえ!」


 ご飯を奢ってあげる約束、記念すべき第一回目!


「おいしいものいっぱい食べて、疲れを癒やしましょう!」


 ディオール様は苦笑しながら頷いてくれた。


「そうだな。今回落とした【魔術式】の計算問題は……また今度でいいか」


 わたしはあえて、何も聞こえなかったふりをした。


 今はお祝いに集中していきたい。


 この喜びを分かち合ってディオール様と仲良くしたい……!


 余計な雑念を入れるのはお祝いに失礼だからね!


 何も聞こえなかった。そういうことにしておきます。


 生のおさかなってどんな味なんだろう? 楽しみだなぁ!


 わたしはまだ見ぬおいしいお料理に思いを馳せたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク&いいね&★ポイント評価応援も
☆☆☆☆☆をクリックで★★★★★に
ご変更いただけますと励みになります!
▼▼▼書籍二巻が出ます 詳細は画像をクリック!!▼▼▼
i726133/
i726133/
▼▼▼コミカライズ4巻が出ます 詳細は↓をクリック!!▼▼▼
i726133/
i726133/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ