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167 学力試験(4/4)

「体調が悪いなら帰りましょうか……?」

「いいや。薔薇に興味がないだけだ」


 あ、聞いてたんですね。


「花などいらない。君を見つめている方がいい」


 誰も聞いてなくても手を抜かないディオール様、さすがだなぁ。


 わたしも見習わなきゃ。


「じゃあ、わたしも……!」


 じーっと見つめ合ったりなどしてみる。


「このまま学園卒業を勝ち取りましょう……!」


 それにしてもディオール様はお肌もきれい。作り物みたいだなぁ。


 そこでふとわたしは、視線を感じた。


 ディオール様が背を向けている方、渡り廊下の奥に、女生徒がふたり立っていて……あれ?


 見覚えのある美少女たちが、わたしとディオール様をすごいぎょっとした顔で見ていた。


 おまけに、ひそひそと何かを噂し合っている。


 片方は吸い込まれそうな真っ黒の髪をした、理知的な女の子。


 もう片方は、春のお花みたいに柔らかなピンクの髪をした、女の子らしい女の子だ。


「ディ、ディオール様! マルグリット様が!」

「殿下がどうした」

「アニエスさんと一緒にこっちを見てます……!」


 ディオール様は面白くもなさそうに一瞬だけわたしと同じ方角をチラリと見ると、すぐにまたわたしに顔を向けた。


 繋いでたお手々も振りほどいて、わたしの腰をぎゅーっと抱き寄せる。


「四年生がようやく終わったのか。少し遅いな」


 そっか、アニエスさんたち、同じ学年なんだ。


 仲良くふたりで下校しようとしていたところに、ばったり出会ったってことなのかな。


「え……えと、いいんですか? これ……」

「いいんじゃないか? 王女殿下経由で、第一王子にも報告が行くかもしれない」


 わたしは急に恥ずかしくなってきた。


 見知らぬ誰かや、アルベルト王子に見られるのには最近慣れてきたけど、アニエスさんたちに見られるのはなんか……なんかダメかもぉ……


 オロオロしていたら、アニエスさんたちがまっすぐこっちに移動を開始した。


「あ、あの、近づいてきてますよ……!」

「知ったことか。君が側にいるときに他のことなど考えたくもない」


 会話を耳にしたふたりが、あんぐり大きく口を開けた。


 ものすごく険悪な顔をしているのがアニエスさんで、興味津々に目をキラキラさせているのがマルグリット様だ。


 会話が聞き取れるくらい近寄ってきても見向きもしないディオール様に、ふたりはまたヒソヒソとやりだした。


「まあ! 聞こえまして、アニエス様? 情熱的ね!」

「ええ、聞こえましたわ、マルグリット様。学園の風紀を堂々と乱しての変態行為、いったいどちらの恥知らずなのでしょうか」


 ふたりともすごく芝居がかった調子で、わざとらしく喋っている。


 大きな声なので、ディオール様にも聞こえていると思う。


「わたくしの記憶違いでなければ、こちらの方、ロスピタリエ公爵閣下だったと思うのですけれど……いかがかしら、アニエス様」

「そうだったのですか? いえ、私はまったく存じ上げない方ですが、大変に名誉のあるお方ではございませんか。そんな方が、王女殿下にご挨拶のひと言もなしに、少女にいかがわしい行為を?」

「どうしましょう、アニエス様。わたくし、きちんとした紳士から無視をされるのは生まれて初めてかもしれないわ」

「隣にいるのは女子生徒かしら? いやしくも学園の講師が、教え子の顔ばかり、じっとり、いやらしーく見つめているなんて、私、信じられません。良識を疑いますわ」


 さすがに無視できなくなってきたのか、ディオール様はいやいや……もう本当にいかにもいやいやって感じで、ふたりを振り返った。


 たぶんこれ、演技じゃないと思う。素で嫌がってると思う。


 わたしはそこでさりげなく、ディオール様の手をふりほどいて、ささっと距離を取った。


 ……くっついたままだと恥ずかしくて。


「マルグリット殿下。ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。リゼを愛でるのに忙しかったもので、周囲が目に入っておりませんでした。いつもなら殿下のように魅力的な方を見落とすはずもないのですが」

「まあ……お上手なのね、公爵閣下ったら」

「直接話しかけては危のうございますわ、マルグリット殿下。心にもない美辞麗句がつらつら出てくる男はきまって大悪人のド変態ですもの。お気をつけになってくださいまし」


 すごい顔でディオール様を貶しているアニエスさんを、こっちもまたすごい顔のディオール様が睨みつける。


「誰のことだ? 言ってみろ、下級貴族」

「あぁら、身分で差別なさるおつもり? お気をつけて、それ、リゼも貶めてるわよ」


 嫌悪感を顔中いっぱいにしたディオール様が、わたしの顔を覗き込む。


「君の交友関係にとやかく言いたくはないが。この娘だけはどうにかならんのか?」

「ダメです! アニエスさんがいないとお店が回らないので……! わたしは生きていけません……!」

「ずるいわ! わたくしもマエストロに言われたい!」


 マルグリット様がかわいらしく口を尖らせて、もどかしそうに両手を組んだ。


「そうだわ、わたくしがお店を買い取ればいいのかしら!? そうすればリゼ様はわたくしがいないと生きていけなくなりますものね!」


 マルグリット様はわたしを正面からぎゅうっと抱きしめた。わぁ。


「公爵閣下もずるいわ! いつもリゼ様をこーんな風になさるんですもの!」


 見ていたアニエスさんも、ニヤ……と笑って、横からわたしを抱きしめる。


「私たちは友達だから許されるわけですが? 殿方がこーんな風にして、こうって、見苦しいにもほどがございませんこと?」


 アニエスさんはわたしの顎をくいっと持ち上げると、ほっぺにちゅーをした。


 男の人っぽい仕草は、馬鹿にしているんだと思う。


「『リゼ……今日も愛らしい』」


 さらには声色まで男の人っぽく低くして、煽り始めた。


「『世界でいちばん美しい私の花……』」


 横でマルグリット様が盛大に噴き出した。


 アニエスさんはしれっとした真顔で、ディオール様のモノマネ(?)を続ける。


「『君への愛でどうにかなりそうな私を許しておくれ……』」


 マルグリット様は肩をふるわせて笑いを堪えている。


 ちょ、ちょっとそれはひどくない?


 わたしはアニエスさんからちょっと離れた。


「あ、あの……! ディオール様はそんなこと言わないですよ……!」

「そうかしら? そっくりだったと思うのだけれど……『そんなに怒らないでくれ、私の可愛いリゼ』」

「い、いけないわ、アニエス様、それ以上は……ふふ、ふふふふふふ」


 笑い死にしそうなマルグリット様、くすりともせず無表情でわたしを見つめるアニエスさん。


 ディオール様はこんなときもずっと無表情だ。


 お……怒ってるのかな? 傷ついてない? 大丈夫?


 ハラハラしていたら、ちょうどわたしの真後ろから、誰かが近づいてくる気配がした。


「こんにちは。皆集まって、どうしたの?」


 ぎょっとして振り返ると、アルベルト王子がきょとんとした顔でそこにいた。


「お兄様! あのね、すごいの! 公爵閣下とリゼ様が、学園で白昼堂々と逢い引きなさっていたのよ!」

「へえ、ちゃんと仲よくやれているんだね。いいことじゃない」


 ほのぼのとした調子で微笑む王子様に、わたしはハッとした。


 そ、それだ! 今日の目的それでした!

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