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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
五章 真理のゴーレム編

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166 学力試験(3/4)


 とはいえ、学園の呼び出しって、そんなに怖いイメージもない。


 王様とかなら怖いけど。


 大真面目に変なこと言っちゃって、ディオール様もだんだん壊れてきている気がするなぁ……


 今度アルベルト王子に会ったら、お休みくださいってお願いしとこ。


 ――そんな話をしているうちに、学園についたのだった。


 呼び出しをかけた先生は、結界が専門の、その道の権威だということだった。


「実は昨日、十時頃から結界が故障していたようでね。魔術の試し撃ち場で、一部の魔法が効かなくなっていたんだ」


 わたしは頭がよさそうに見えるよう、精一杯キリッと顔を取り繕っている。


 余計なことを喋るなと言われている手前、何も答えられない。


「そんな中でも成績を残した人間が三人だけいた。ひとりは君だよ、リヴィエールさん」

「残りふたりは?」


 むしろふたりもいたのが意外だとでもいうように、ディオール様が突っ込んだ。


「どちらもたぐいまれな魔力と技量の持ち主だったからね。壊れた結界の破れを力で無理やりこじ開け、もうひとりは破れに直接魔術を発動して、強引にシュートしたようだ。しかし、分からないのがリヴィエールさんだよ」


 わたしはキリッとした顔を継続中。


「あなたの魔力値は残りふたりと比べてはるかに低い。いったいどうやって発動させたのか、ぜひ教えてほしいと思ってね」


 これは難問。


 困っていたら、ディオール様が代わりにいろいろ喋ってくれた。


「なるほど、仕組みは何も分からない、というわけだね」


 先生はすぐに納得してくれたみたいだ。


「リヴィエールさんにはもう私から教えられることはなさそうだから、むしろ教えを乞いたいところなんだが、それも難しいようだね」

「らくだを針の穴に通す方が簡単かと」


 さすがディオール様、貶し言葉にも知性がある。


 わたしももう慣れました。


 結界の先生はとても残念そうにしつつ、最後にわたしへと視線を向けた。


「では、卒業したくなったら私のところに来てください。いつでも推薦しましょう」

「ほ、本当ですか!? じゃあ今す――ぐっ」


 とにかく今すぐ卒業したいです! と言いたかったけれど、途中でディオール様に遮られてしまった。


「そのときはぜひよろしくお願いします」


 口を塞がれた状態のまま、無理やり退室させられる。


 ある程度廊下を行ったところで、わたしは解放された。


 ぷはっと息継ぎをしてから、興奮気味にディオール様にまくしたてる。


「ディオール様! わたしもう卒業していいそうです!!」

「まだだ。まだ早い」

「でも、ディオール様も疲れましたよね? もうよくないですか? ふたりで学園抜け出しませんか!?」

「しかし仕事なんだ」

「こんなに顔色悪いのにですか!?」


 ほっぺに手を伸ばすと、ひやりとした肌に触れた。


 こんなに冷たくなってるのは絶対に疲れのせい!


「前からおかしいな、変だなって思ってたんですけど……」


 背伸びして見上げた先のディオール様は、精気がなさすぎて、石膏の彫刻みたいだった。


 こんなんじゃそのうち倒れちゃうよ!


「そもそもわたしとディオール様が仲良くするのに、学園である必要ってないですよね?」

「それはそうだが」

「じゃあもういいですよね? おうちとかでゆっくり仲良くすればいいと思います! もう、一緒に学園やめましょう!?」

「それもそうだな……」


 わたしに洗脳されてか、ディオール様がだんだん濁った目になってきた。


「そもそも、なぜ学園じゃなきゃいけないんだ……?」

「学園のディオール様、やさしさが足りないので、仲よくなれてないと思います! 帰りましょう!? こんなのなくても、わたしたちもっと仲良くなれるはずです……!」


 もう一押しでいけそうだったので、わたしは必死だった。


 学園、本当にもう嫌。


「君もやつれてきたな」


 ディオール様が疲れのあまりか、ため息交じりにわたしに囁きかけつつ、わたしの頬に手を伸ばす。


「せっかく毛艶をよくしたのに」

「そうです! ほっぺもガサガサしてきました!」


 うりうり、と手のひらに頬を擦りつける。


「アルベルト殿下に見せつけてやりましょうよ! わたしたちこんなになかよしなんですよって! ディオール様いつもやってますよね? 学園でもひと目を憚らずいちゃついて殿下を怖がらせましょうよ!」


 ディオール様は完全に心ここにあらずといった顔で、わたしのほっぺをもにもにしていたけれど、わたしの力強い調子にのまれてか、うなずいた。


「よし……やるか……」


 このときのわたしとディオール様は、完全におかしくなっていた。


 特にディオール様の様子がおかしかったと、後になって思う。


◇◇◇


 お昼どきが近づいてきた魔法学園。


 午前中の口述試験も、ぼちぼち終わる気配が出てきた。


 帰宅する人たちと入れ替わりに、午後の口述試験を受ける人たちが歩いてくる。


「日程表によれば、アルベルトの試験は向こうの校舎だ」


 職権濫用して先回りしたわたしとディオール様は、渡り廊下付近のベンチに陣取っていた。


 わたしはディオール様と仲良く並んで座って、おてて繋いでぴったり寄り添っていた。


 ディオール様はもとからわたしに対する距離が近いので、わたしが積極的にぴったりくっついていくと、もうなんかすごい距離感になる。


 さっきからイチャイチャイチャイチャ、おでことか、こめかみにちゅーばっかりされていた。


 通りすがりの人たちが、ただならぬ雰囲気を察してか、怪訝そうに見てくる。


 けど、わたしはもう慣れました。


「お庭の薔薇きれいですね、ディオール様」

「そうだな。花が咲いているな」

「大きくて花びらが巻き巻きでカッコいいですね」

「ああ。大きいな」

「ディオール様のおうちにもありますよね」

「あったか。そうか……」


 さっきからオウム返ししかしない。


 もう何にも聞いてないですよね。


「だ……大丈夫ですか……?」


 けっこう本気で心配になってきた。


 こんなにポンコツなディオール様、初めて。


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