164 学力試験(1/4)
当たらないなら、当たるようになるまで投げたらいいだけなんじゃ……?
わたしはそうやって魔道具を作ってきた。
とにかくひたすら作っていれば、そのうち勝手にうまくなるんだよね。
「ある程度当たるようになるまでひたすら投げるのが確実だが」
わたしもそう思います。
「もう少しスマートに、弾道計算用の魔術を併用する手もある」
それは難しそうだなぁ。
と、ひとごとのように思っていたら、ディオール様がわたしを見た。
「魔道具はこっちだ。リゼ、君のコントロールがいいのも、感覚派だからなのもあるが、弾道計算用の【魔術式】を使いこなしているからだろう」
「……?」
心当たりがなかったので、とりあえず首を捻っておきました。
「……まさか、弾道計算をしていないのか?」
一気に青ざめるディオール様。
「ええーっとぉ……わたしがいつも使ってるアレが弾道計算なのだとしたら……たぶんそうです」
「君はいつも何を使っているんだ?」
「そんなに難しくは……【マーカー】をつけて、その座標を取得して、まっすぐどーん! です」
「……」
お? ディオール様が困っている。めずらし……!
「マーカーというのは?」
「マーカーは……マーカーです。位置が分かるようにつけた目印……」
何も伝わっていないことは、雰囲気で分かった。
わたしは一生懸命、次の言葉を考えた。
「あらかじめちょっと変わった色を相手につけておくんです。そしたらそこの位置情報を取得して……どーんです」
「色をつける、と、位置情報を取得する、のふたつに繋がりがないんだが」
「えっ……色がついてたら、ルキア様が、その色までの距離を教えてくれますよね?」
「いや、知らん。聞いたことがない」
「じゃあ、弾道は計算してないと思います!」
わたしはそうまとめて、話を切り上げた。
「わたしに分かるのは、ルキア様からふんわりした位置情報が返ってくるってことだけです。直接魔法を当てるだけなら、これで十分だと思います。ただ、魔道具だと、もう少し細かく作ります。座標を取得することが多いですね」
「座標にしろ、その壊れた性能はなんなんだ……? 違う魔法としか思えんのだが……」
急にテンションが下がってしまったディオール様からそう褒められて、今度はわたしのテンションが上がってきた。
「あれあれ? そうすると、ここではわたしが先生になれちゃうのでは?」
だってわたしの特技だし!
ずっと詰め込み教育を受けていたわたしは、鬱屈していた分、調子に乗り始めていた。
「待ちなさい。教練過程にも順番がある。そうだな、君の技術は素晴らしいから、最後に実演してもらおうか」
「はーい!」
いっぱい褒められるので楽しくなってきた。
やー、授業もずっとこうだったらいいのになぁ!
「とにかく、ひとつずつ対処法を覚えていこう。最後の弾道計算は、極めれば精密狙撃ができる……が、戦闘ではまず役に立たないから、参考程度でいい。テウメッサの狐と戦ったときのことを覚えているか? 少し知恵の回る魔獣から魔術阻害をバラ撒かれたら、繊細な魔術などまず保持できない。だからああいう、素早くて攻撃を当てるのが難しい高位魔獣は、最初から広範囲の魔法で押さえつけるのが手っ取り早いんだ。さて、前置きが長くなったが、訓練に入ろう――」
そして手取り足取りの訓練が始まった。
しばらく見学していて、ふと気づく。
指導がすごく丁寧だ。
そんなの言わなくても分かるよね? ってところから説明してくれる。
「構えは人によるから、剣術のものでも弓術のものでも何でもいいが、要は体幹を安定させて、ブレないようにする。精密になればなるほど、自分の呼吸すらも邪魔になる――」
呼吸かぁ……
全然意識したことはなかったけど、言われてみればそうかもしれない。
ディオール様の説明は分かりやすいなぁ。
わたしがディオール様からテキストを習ってるときは、とにかく内容が分からなかったから、厳しすぎるって思ってた。
でも、こうして見ると違うよね。
単にわたしの出来が悪すぎただけ。
ディオール様は最初からずっと親切だったんだと思う。
なかなか教わったとおりにできないディディエールさんにも、根気強く付き合ってあげている。
こういうの、見学してなかったら気づけなかったかもしれないから、ここに残ってて正解だったかも。
……でも。
もうちょっとだけ、もうちょっとだけでいいんだけど……
もう少し、仲良くするって本当の目標を思い出してくれたらいいんだけどなぁ。
――それから数日は座学と実技を交互にやって、とうとう試験の日を迎えた。
◇◇◇
わたしは一年生のクラスで、静かに座って待っていた。
魔法学園のテスト期間初日は、筆記試験だ。
あれから一生懸命やって、書写の回数もいっぱいこなした。
一時限目の魔法学のテストは、その範囲内から出題される。
配られた答案用紙をチェックしてちょっと怯む……相変わらず難しい。
けど、今回はひと味ちがった。
単語が分かる!
これだけで、単純な単語の問題は解ける。
それに、文法が分からなくても、長文問題もうっすら意味が分かるような気がする!
苦戦しつつなんとか最後の問題まで埋めた。
いつも空欄ばっかりだったから、新記録だ。
――後に続く歴史やら数学やらは、見なかったことにしてやり過ごした。
そっちまで手が回らなかったんだよねぇ……
また次回。
二日目は魔法陣の作図や生活魔法が中心だったので、気楽だった。
ここはまあまあだ。赤点にはならないと思う。
そして三日目――
実技のテスト!
わたしはこれにかけていたので、ワクワクしながら順番を待っていた。
前の順番だった人は魔術が空振りに終わって、肩を落としながら場所を譲ってくれた。
失敗した男の子を、ふたりの男の子が囲む。
「なに失敗してんだよ」
「あれ外すか、普通?」
「いや、なんかおかしくて……」
会話をすれ違いざまに聞きつつ、わたしは満を持して測定位置に立った。
この種目はとっても簡単。
何らかの魔法を、上下左右中央の輪っかにくぐらせるだけ。
加点対象は
・真ん中に近い位置を通過させる
・軌道の美しさ
・魔法が安定している
・十分な速度がある
などなどらしい。
いけます。満点!
わたしにとっては散歩みたいなもの――
と思っていたら、最初の魔力を集めるところで失敗した。
あ……あれ? 魔力が集まらない。
もっかい集中させてみたけど、全然ダメだった。
かき消される感触からいって、【魔術阻害】が展開されているようだ。
これは、まずいかも……?




