158 リゼ、宿題を解く(1/2)
◇◇◇
わたしはお店でもひたすら勉強していた。
うちのお店は基本がオーダーメイド形式だから、単価が高めでお客様も少なめ。だから展示品の冷やかしが来ないと本当に暇なんだよねぇ。
今日はハーヴェイさんがお店番を手伝いにきてくれているのに、必要ないくらい暇。予約のお客様も途絶えて、完全に無人になってしまった。
ハーヴェイさんにクッキーをおすすめしたら、気を利かせて紅茶を淹れてくれたので、一緒に休憩することに。
向かいに腰かけたハーヴェイさんが、わたしのテキストに視線を走らせた。
「学園のテストでありますか」
「はい。想像以上に出来ないってディオール様に嘆かれてしまったのでぇ……」
ハーヴェイさんはわたしのノートもさっと確認し、首をひねる。
「全問正解しているようですが」
「書き写すのは……得意なので……!」
「丸写し……でしたか……」
ハーヴェイさんはあまり余計なことを言わない。
困ったようにしつつ、使ってない教科書を借りてもいいかと尋ねてきた。
わたしはどうぞどうぞと差し出して、また問題に戻る。
「……内容はほぼ十級の範囲でありますな」
「え? そうなんですか?」
ハーヴェイさんはまたしても困っていた。
ハーヴェイさんとわたしは、魔術師検定仲間なのだ。この間十級を取ったから、次は一緒に九級を受ける約束になっている。
「わたし、十級は取れたんですけど、ほぼ実技って言われちゃいました」
「なるほど……」
ハーヴェイさん、ずっと困ってる。
たぶん、わたしがあんまりにもアレなせいで、何を言っても失礼に当たっちゃうと思ってるんだろうなぁ。
会話がしづらい人間で申し訳ない……
「学園のテストには、実技はないのでしょうか」
「……!」
わたしが慌てて試験範囲を確認すると、確かに実技があった。
火や水の玉を生み出して、上下左右に飛ばす、とある。
それだけ!?
わたしはぱたん、と教科書を閉じた。
「勝ちました。わたしのテストはこれで合格です」
「そうでしょう。先日拝見した実力からいえば、落第はありえないかと」
「ディオール様からも、実技は卒業レベルって褒めてもらったんですよ」
「同感であります。あれだけできれば、筆記試験もどうということはないはずですが」
ハーヴェイさんもおなじこと言うんだなぁ。
「なんかどうも、わたしが知ってる読み書きの言葉とはぶんぽーが違う? とかで、うまく読めないんですよねぇ……」
しみじみと苦悩を吐き出すと、ハーヴェイさんは本当に困ったようにしつつ、遠慮がちに、
「……店主さんは、魔術言語の理解なしで、どうやって魔術を……?」
と、聞いてきた。
実はわたしも、それはよく分かってなかったんだよねぇ。
「今日ディオール様に教えてもらったんですけど、力の強い神様は、どんな呪文でも願いを聞き届けてくれるんだそうです」
「そうですな。女神ルキアの【祝福魔法】が典型であります」
ルキア様から力を借りて魔法を使っているので、【ともし火】も、バフの一種と言える。
でも、通常はバフというと、精霊や神様のご加護で、本人の能力を高めるような用途が多い。
「でも、わたし、思ったんですけど……どんな呪文でもいいなら、わたしが使ってる魔道具作成用の【魔術式】でも、祈りが届くときは届くんじゃないかなぁ? って……」
どんな言葉でも発動する魔法なんてのがあるくらいだし、神様にとっては人間の言語なんて、どれも一緒なんじゃないかって思うんだよね。
「わたし、魔術を使うってときに、詠唱ももちろんがんばるんですけど……唱えてると、どうしても図形が思い浮かんじゃうんです。実際に【魔術式】を描く手順が脳裏をちらついて離れなくて、ガタガタになることが多くて……でも、どうにか発動しちゃうんですよ。それってつまり、お祈りは言葉でなくてもちゃんと通じてるってことなのかも?」
魔法学の講義は難しい。
でも、わたしには言葉で言い表せなくても、【魔術式】にはできそうだなって思う呪文がたくさんある。
詠唱は、覚えられるほど頭よくない。いつも途中で間違える。
でも、図形だったらかなりの程度頭に残る。
普段使っている魔術式であれば、もっといろんなことがやれる。
「わたしの魔術式は、神様にだけ通じる暗号なのかもしれません」
なんだか壮大な話になってしまった。
「魔道具の神がかり的な威力を考えたら、何かしらの秘密はあって当然ではありますな。しかし……」
ハーヴェイさんは何か気になることでもあったのか、急に教科書をペラペラめくり始めた。
「図形が得意、とおっしゃいましたか」
「はい」
「では、こちらの魔法陣はいかがでしょうか。およそこの通りに描けば発動するはずですが」
「あ、そういうのは得意ですね」
ノートに小さく丸と、諸々の図形を書き込む。
魔法陣は小さくて甲高い、『ピーン』って音を出して、消滅した。
「魔術言語は全然分からないですけど、こういうのだったらすごく得意です」
姉のテキストも、魔法陣関係のやつは全部わたしがやらされてた!
嫌なこと思い出しちゃったなぁとうなだれているわたしをよそに、ハーヴェイさんがしきりに何か考えている。
「図形……図形ですか。なるほど……分かった気がします。美術には抜群の才能をお持ちなのをあわせて考えると、店主さんは、思考が視覚情報に極端に偏っているのかもしれませんな」
ほとんど独り言のように、ハーヴェイさんが続ける。
「詠唱や、授業の口頭説明がまるで頭に入らないのは、聴覚の認知が弱いからでしょう。だとすると、学園方式の授業を受けさせるのはまるで逆効果……」
ハーヴェイさんはそこで、わたしを見た。
「店主さんには、学園の授業は必要ないのではないか、と思います」
わたしはぱあっと気分が上がった。
「やっぱり!? そう思いますか!?」
実はわたしもずっとそう思ってた!!
「実技だけで卒業できます。ですので、あまりご無理をなさらぬよう」
「ありがとうございます!!!」
ハーヴェイさん、話が分かるぅ!
「じゃあもうテスト勉強おしまい!! 実技で取ります!!」
「それがよろしいかと」
わたしはテキストを完全に投げだした。
あー、すっきり爽快。
「しかし、そうなると九級も考え物ですな。そちらは筆記もある程度できなければいけませんので」
「そうですねぇ……」
わたしには、みんなの役に立つ魔道具を広めるって野望もある。
それには一般用の魔術文字を読み書きできるようにならきゃいけない。
昨日は好きな食べ物をお寄せくださりありがとうございます。
(私も好き…)と思いながら読ませていただきました。
また引き続き、好きな食べ物か好きな動物でも書いていっていただければと思います。




